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『アポストル 復讐の掟』感想(ネタバレ)…Netflixとカルトと時々処刑

アポストル 復讐の掟

カルトは怖い!…Netflix映画『アポストル 復讐の掟』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Apostle
製作国:アメリカ・イギリス(2018年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:ギャレス・エヴァンス

アポストル 復讐の掟

あぽすとる ふくしゅうのおきて
アポストル 復讐の掟

『アポストル 復讐の掟』あらすじ

1905年。誘拐された妹を救うため、孤島へ単身で忍び込んだ男が、島を牛耳る狂信的カルト教団と対峙する。しかし、カルト教団のリーダーたちの残虐非道ぶりを上回る、想像を絶する存在が男を待っていた。この最悪の環境で生き残ることはできるのか。

『アポストル 復讐の掟』感想(ネタバレなし)

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カルトの勧誘に気を付けて…

大学生だった頃、カルトの勧誘には気をつけなさいと注意されたものですが、そのときは「カルトなんて本当にあるの?」と半信半疑だったものです。でも、日本には意外に身近なところにカルトがうようよしています。知らないうちに組織化し、勢力を拡大しているカルトの影響力は侮れません。家から出て独立したばかりの学生なんてカルトの恰好の標的なのでした。

一方、日本から太平洋を越えた先にある大国アメリカでは、「QAnon」と呼ばれる陰謀論的価値観を信仰する謎の集団によって現大統領が救世主扱いされて、強力な支持団体になっているなど、もはや国を挙げてカルトを推しているようにすら見えなくもない状況。

まあ、何をもって「カルト」と呼ぶかという問題はありますが、とりあえずカルトに油断するなということですかね。

「そんなこと知っているよ!だって映画で観たもん!」という素晴らしい映画脳をお持ちの私のような純真な皆さん、今回の紹介する映画もぴったりなカルトを題材にした映画です。その名も『アポストル 復讐の掟』。Netflixで独占配信している本作は「恐怖! カルトに潜入した男が見た異常な世界!!」みたいなキャッチコピーがつきそうな映画です。

舞台はウェールズで、ここが重要なポイント。同じような地域であるスコットランドを舞台にした、宗教映画の『ウィッカーマン』と同じカテゴリでしょうか。舞台設定だけでなんとなく何が待ち受けているか察知した人もいるかもしれません。

もうひとつ忘れてはならないポイントが、監督が“ギャレス・エヴァンス”だということです。この監督を有名にさせたのはもちろん『ザ・レイド』。ジャカルタの高層ビルにSWATが突入したら、そこは麻薬王が支配する場所で、次から次へと殺人スキルが一級品の強敵が襲ってくる…地獄に来ちゃった系アクションでした。私はこの作品の初見時、「なんかTVゲームみたいなノリで映画を作る監督だな」と思ったものです。ストーリーテリングは最小限に抑え、ステージ風にひたすら敵や障害を突破していくスタイルがまさにゲームチック。

そして、そんな“ギャレス・エヴァンス”監督が孤島に巣くうカルト集団を描く今作はやっぱりゲーム風。最近も流行りのサイコ・スリラー系のゲームを思わせます。カルトが支配する島に潜入したらそこにいたのは全員シラットの使い手だった…みたいなことはありませんが(それも見たいけど)、二転三転するような予期せぬ展開と、勢いまかせな残酷描写で楽しませてくれます

“ギャレス・エヴァンス”監督はウェールズ出身。『ザ・レイド』ではインドネシアという異国を舞台に思い切って挑戦してみたという感じでしたが、本作では自分のホームに帰ってきて、今まで培ってきた経験をNetflixという強力なバックアップのもと進化させています。やはりこの監督、独特の才能を持っているなと思いました。

主演は実写版『美女と野獣』でビーストを演じて話題になった“ダン・スティーヴンス”です。今作ではイケメン・フェイスも台無しのかなり酷い目に遭い続ける役ですが、いつか野獣になるんじゃとヒヤヒヤしながら見てました。本作では狂気に染まった“ダン・スティーヴンス”が見れます。

2時間超えの作品なので時間があるときに、ゆっくりどうぞ。カルトに勧誘されたら、逆にこの映画を勧めておいてください。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『アポストル 復讐の掟』感想(ネタバレあり)

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子羊をぶん投げよう

『アポストル 復讐の掟』の時代設定は1905年。この頃のイギリスといえば、「パクス・ブリタニカ」と呼ばれるイギリス帝国の最盛期も終わり、第1次世界大戦に突入する前…つまり、イギリスの社会が大きな変化の前兆を感じ取っていた時期でした。

そんな確実に変わりつつあるイギリスから隔絶するように、「エリスデン」という島で独立したコミュニティを築き、そこを支配していた集団。指導者であるマルコムを中心に、クインとフランクの3人でそのコミュニティは統治され、女神を信仰とする独自の教典が住人にとっては絶対的な存在。世間から見れば「カルト」です。

その島に誘拐されたという妹を救うために、密かに入居者の信徒のふりをして入り込んだのが本作の主人公であるトーマス・リチャードソン。“ギャレス・エヴァンス”監督らしく本作のストーリーは最小限です。「妹を助け出す」それだけ。実にわかりやすいですね。

で、この島のいかにもカルト的なおぞましい体験を目撃し、体感するわけですが、こういうジャンルは胸糞悪いだけで終わるケースも多いなか、本作はしっかり絵的に楽しませてくれます。この映像部分でどれだけハシャげるかは人それぞれですけど、好きな人は大好きな部類ですね。

まず序盤、島に渡るための船に乗るのですが、持ち込める荷物に厳しい制限があるなか、船は嵐に襲われます。その船上で荷物の子羊が飛び出すハプニング。すると信徒のひとりが子羊をポイっと船外へ投げ捨てて「受け入れるかは女神が決める」と発言。この“子羊ボーリング事件”(勝手に命名)にあっけにとられるトーマス。観客である私はといえば「なんか序盤からぶっとんでていい感じ!」とワクワクしていたのでした。ちなみに本作は結構動物が酷い目に遭うシーンが多めです。

無論、残酷な目に遭うのは動物だけじゃなく、人間も容赦なし。拷問、監禁、串刺しは日常レベル。目を見張るのが後半に登場する処刑器具。トーマスと意気投合していたジェレミーという若い青年が捕まり、処刑されるシーン。台に寝かされるように固定され、髪を剃り、その頭上に穴あけドリルが迫るという、どうしてこんな方法にしたんだよ!と言いたくなる処刑方法。レバーを回すたびに、ザクっ、ザクっ、ザクっと頭にドリルが深く突き刺さっていく描写は本当に悪趣味。つづくトーマスの処刑シーンでは、同じく寝かされる体勢にはなりますが今度はワイヤーで手を引っ張られ、ミンチにされそうになるという、これまたもっと普通の殺し方じゃだめなのかと文句を言いたいほど凶悪。いずれも手の込んだDIY精神が光りますね。たぶんこの島では他に考えることなかったんだろうな…。

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戦闘は素人のはずです

“ギャレス・エヴァンス”監督作品と言えば、格闘シーンに期待する人も多いでしょうが、今作もシラットの使い手がいないわりには、やたら白熱したアクションバトルが連発します。

まず、妊娠した娘フィオンを恫喝して殺してしまったクインvsジェレミーとのバトル。本作でもやはり監督らしく刃物での切り付け合い戦闘が開始されるのですが、カメラワークのせいか、戦いに関しては別にエキスパートじゃない二人なのに、すごく魅せてくれます。

トーマスのミンチ処刑シーンでは、トーマスが血まみれ男とバトル。このへんは相手が相手だけに完全にモンスターを倒すノリです。どっちがミンチになるか合戦を制したのは、指がなくなってもガッツはなくならないトーマスでした。

ラストは、マルコムを裏切り自分が支配者になろうとするクインvsトーマス。初撃でナイフを決めるトーマスですが、このクインはなかなか化け物級の体力の持ち主。さすがラスボス。最終的にはジェニファーとアンドレアの連携プレイでクインの胴体を真っ二つにするかのような致命傷を与え、勝利。ここで今まで散々見せてきた処刑に匹敵する凶悪な殺し方で倒してみせるあたりはわかってますね。

全体を通してアクションを見ていると、一瞬で形勢逆転してしまう緊張感と、刃物を使ったテンポの良いスピーディな展開を連続させるのが上手いんですね。『ザ・レイド』のときは、あくまでインドネシアの特殊な設定ゆえに独自性が光っているのだとばかり思っていましたけど、やっぱり監督の持ち味だったんですね。

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カルトにも救いはある

ここまで聞くと、『ザ・レイド』のバージョン違いのような普通の“ギャレス・エヴァンス”監督作ですが、本作には観た人なら驚愕のもう一つの要素が。

中盤、地下へ侵入したトーマスに追っ手が迫るなか、とっさに地下水路のような汚物に満たされた空間を隠れて進んでいると、ドロドロの水路からザバァと謎の人間らしき存在が出現。当然のバイオハザード的展開にトーマスも観客もびっくりするなか、逃げこんだ先の洞窟の岩壁に不気味な絵。そして、場面が変わり、植物と癒着したような謎の女性らしき人が映ります。これが崇拝の対象である女神の正体なのでした。

ウェールズのカルトと聞いたとき、妖精かな?とふざけ半分で思いましたけど、バッチリそれだったとは…。さすが妖精の国、ウェールズ。伊達に国旗にドラゴンを描いている国じゃないですね。妖精というか、「もののけ婆」でしたが…。真面目な話、こういう超常現象が実在するかはさておき、キリスト教が席巻する以前に栄えた自然崇拝をまだ継続する人とかはいるでしょうから、この地域での宗教ネタとしてはベタですね。

本作のタイトルである「apostle」は「使徒」という意味で、まさしくトーマス自身が超常的な力を発揮して使徒になるラストでした。彼は、キリスト教の宣教師でしたが、北京で逆に酷い反発を受け、宗教に絶望を感じ、遠ざかっていた過去がありました。そんなトーマスが、唯一の支えである妹を救出し、さらには伝道者としての新しい役割を手に入れる。そういう意味では、本作は別にカルトに否定的な映画ではないのでしょうね。どんな宗教であれ、それがその人の救いになるなら…。

ということで、残酷アクションを華麗に描くセンスもあって、ファンタジーもイケる。この“ギャレス・エヴァンス”監督の才能は、アメコミ映画にぴったりじゃないですか。スカウトされないのかな…。

『アポストル 復讐の掟』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 77% Audience 66%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『アポストル 復讐の掟』の感想でした。

Apostle (2018) [Japanese Review] 『アポストル 復讐の掟』考察・評価レビュー