笑えな、い…映画『スマイル2』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年に配信スルー
監督:パーカー・フィン
交通事故描写(車) ゴア描写
すまいるつー
『スマイル2』物語 簡単紹介
『スマイル2』感想(ネタバレなし)
続編も笑顔で拡散よろしく!
最近のハリウッドでは映画のプロモーションはバイラルマーケティングを意識しているものが多く、要するにいかに「バズる」かということが重視されています。
ひと昔前であれば、予告動画(トレイラー)がその宣伝の欠かせない中心だったわけですが、今は動画コンテンツなど毎日いくらでも目に入る時代です。そんな動画なんて他の無数の動画の洪水に流されて、そう簡単に注目してくれません。
昨今では予告動画を視聴した際の反応を自撮りした動画や、何かのお題に挑戦する姿を撮ったチャレンジ系の動画がTikTokなどでウケやすい傾向にありますが、それに便乗してその両方を合体したマーケティングを繰り出してきた映画が2024年に現れました。
具体的にどんなものかと言うと、映画の冒頭7分間が無料で観れるのですが、ただし条件があって、鑑賞時にはスマートフォンやPCの内カメラが作動し、動画再生する視聴者が「笑顔」を維持しないと映像が最後まで再生されない仕様になっているのです。笑顔を崩すともう動画は観れなくなってしまいます。
この映画がホラーなので笑顔で見続けるのは大変です。映像にワっと驚いてしまえば笑顔は失われます。挑戦課題としてはなかなかに過酷。
でもこの映画にとってはこの「笑顔」チャレンジは内容にあまりにぴったりすぎるもので、まさにバイラルを狙うには完璧に刺さっていました。
そのマーケティングでもみんなを笑顔にする、笑顔が大切なホラー映画が『スマイル2』です。
「みんなを笑顔にする」「笑顔が大切な」って書くとすごく優しい語りかけにみえますけど、全然この映画は優しくないです。むしろえげつないほどに残忍です。
本作は、口コミで観客が殺到して2022年に最もハリウッドで成功したホラー映画のひとつとなった『Smile スマイル』の続編。“パーカー・フィン”という新鋭の長編映画監督デビュー作でありながら、いきなりの大ヒットで瞬く間にホラー映画界隈の寵児になりました。
不気味な満面の笑顔で残酷に死んでいく人が突如として出現し、それを目撃した人にはなぜか異様な現象が起き始め、やがてその人まで笑顔で死んでいく…。そんな恐怖の拡散をショッキングな映像とともに描いていく戦慄のホラーでした。
大好評だったので当然のように続編が作られ、2024年にお披露目となったわけですが、今回の2作目はあの衝撃的な結末からの続きです。1作目を観た人は思っていたはず。「あのラストの続きなんて最悪が上書きされていく一方なんじゃ…」と。その想像を上回る最低最悪を見せられますよ…。
主人公は一新され、また異なる舞台での恐怖となっています。今回はポップスターが中心のエンターテインメントの世界です。
監督はもちろん“パーカー・フィン”が続投。このシリーズをすっかりモノにしています。
今作の主人公を演じるのは、インド系イギリス人の“ナオミ・スコット”。『パワーレンジャー』(2017年)、実写『アラジン』(2019年)、リメイク版『チャーリーズ・エンジェル』(2019年)と大作で存在感が増していましたが、3年間くらいお休みし、2022年あたりから仕事復帰。映画ではこの『スマイル2』で戻ってきました。晴れてスクリーム・ガールです。今回はポップスターで、パフォーマンスも自らやってますが、王道ヒロイン的に歌唱を披露していた『アラジン』からのギャップがすごい…。
共演は、『わたしの心のなか』の“ローズマリー・デウィット”、『ドリーム・シナリオ』の“ディラン・ゲルーラ”、『HOW TO BLOW UP』の“ルーカス・ゲイジ”、ドラマ『アガサ・オール・アロング』の“マイルス・グティエレス=ライリー”、『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』の“ピーター・ジェイコブソン”、『ティファニーの贈り物』の“レイ・ニコルソン”、『Strange Darling』の“カイル・ガルナー”など。
1作目も日本では劇場未公開で配信スルーになってしまったのですけど、残念ながら今回の『スマイル2』も配信スルーです。日本では大手スタジオのホラー映画が映画館で観れないことがちょっと目立ちすぎる…。寂しい…。こんなに現地ではネットの口コミで確かにヒットさせているのに…。
今作もピザハットがでてくるのですし、ピザハットとコラボすればいいんですよ。ピザを食べながら笑顔でこのホラー映画を満喫しましょう。
『スマイル2』を観る前のQ&A
A:1作目の『Smile スマイル』の結末から物語は始まりますが、前作を観ていなくてもそこまで物語についていけなくなるほどではありません。
鑑賞の案内チェック
基本 | グロテスクなゴア描写が多いです。また、生々しい交通事故を描くシーンがあります。 |
キッズ | ショッキングな映像が多々あるので、低年齢の子どもには向いていません。 |
『スマイル2』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
生気のない顔で呆然と車内に座っているジョエルという男。冬景色の町並みにポツンと車が止まっていて、そこで何をするでもなく、佇んでいます。
そのとき、赤いスポーツカーが目の前に現れると目出し帽をかぶり、車のドアを開けておもむろに外へ歩きます。そして無防備な運転手に近づき、銃を突きつけ、脅します。人質にしたまま近くの家に入り、そこにいたソファに座っている男に手をあげろと命令。
さらに、何の躊躇もなく人質にしていた男をナイフで串刺し。殺害します。ところが流れ弾がソファの男にもあたってしまい、慌てて駆け寄るも絶命。そちらは殺すつもりはなかったジョエルは大声で悪態をつきます。
しかし、背後で一部始終を目撃していたらしい若い男が現れ、その状況に思わず笑みがこぼれるジョエル。怯える目撃者の若い男には事情が呑み込めません。ジョエルはこれで終わったと家を立ち去ろうとします。
ところが家には騒ぎを聞きつけた相手の仲間が押し寄せ、ジョエルはなんとか逃げようと窓から脱出。必死に走り出すも道路で猛スピードで走ってきた車に轢かれて死亡し…。
ところかわってニューヨークを拠点に活動するポップスターのスカイ・ライリーは、メディアにも引っ張りだこで大勢のファンに熱狂的に愛されていました。今はカムバックツアーの準備を進めている真っ最中で、パフォーマンスの練習にも余念がないです。
しかし、ストレスで滅入っており、ドラッグに依存していました。多忙というのもありますが、実は俳優でボーイフレンドであったポール・ハドソンが自動車事故で亡くなったという事件がなおも鮮明にトラウマになっていたのでした。悪夢もよくみます。
母親でありマネージャーでもあるエリザベスと、アシスタントのジョシュアの厳しい管理のもと、アーティスト活動でその不安を忘れようとしますが、そうもいきません。あるリハーサルの際に背中を痛めるアクシデントも起こしてしまいました。
どうしようもなく追いつめられたスカイは、昔の友人であるルイスから鎮痛薬のバイコディンを手に入れるようとこっそり外出。
アパートのドアを叩くと、ルイスは明らかに様子がおかしく、錯乱していました。怯えているかと思えば、ハイテンションになったりする状態です。単に薬物でハイになっているだけなのか…。
ルイスは奥に引っ込みますが、返事がありません。かと思ったら急に叫びながら現れ、部屋のある一点を見つめて大絶叫。そして口を開けて息苦しそうにし、ピタっと動かなくなります。ところが今度は不気味な笑顔で起き上がり、微動だにせずバーベルのプレートで自分の顔面を何度も叩き割り、顔がぐちゃぐちゃになったまま死ぬのでした。
状況が理解できず、一瞬、救急に通報しそうになるも、スカイはこの状況で警察に知られると自分のキャリアも危ういと判断し、誰にも知らせずにその場を立ち去ります。
しかし、そこからスカイの周囲で異様な現象が起き始め…。
悪質なインフルエンサーなのかな?

ここから『スマイル2』のネタバレありの感想本文です。
1作目を観賞済みの人ならわかりますが、このシリーズはひたすらに登場人物が追い込まれ続けてバッドエンドに突き進みます。救いはありません。信じる者も信じない者もみんな死にます。このいかに最悪のラストを迎えるかという過程のエグさを楽しむための露悪的なエンターテインメントといっても過言じゃないと思います。
『スマイル2』はそのエグさがさらに研ぎ澄まされており、極悪非道です。
映画開幕するとまず「6日後」といきなりデン!と表示されるのですが、映し出されるのは1作目でアレを見てしまったジョエルです。もうこのジョエルの表情と日数だけで「ああ…大変だったんだな…」と全部を察することができます。6日もあればここまで狼狽するんだな…と思いますし、逆に6日も持っているのは頑張っているほうなのかも…とか。
ジョエルも良識的な人間らしく、誰かを殺してそれを目撃させることでこの「呪い」(実際は呪いなのかも不明ですけど)を他人に移すことができるわけですが、ジョエルはずっと犯罪者を殺すことで良心の呵責の中で妥協を見出しているようです。せめてもの倫理の一線を守ろうとするその心…。
しかし、可哀想なことに全然上手くいっていない様子。冒頭の殺人シーンも痛々しいくらいで、笑うに笑えないユーモアが漂います。偶然の目撃者の出現でやっと解放されたと思ったら、無残に死んでしまいますしね…。
この冒頭では「殺人」をはっきり映し出すことで、「観客にも呪いを移してやったからな」という作り手の笑みが透けてみえます。ええ、サイテーな監督ですよ、まったく…。
で、このジョエルのせいで目撃者として呪いを引き継ぐことになってしまったルイスも、ただただ哀れであり、おそらくルイスはこの呪いの仕組みとかもよくわからないままに使い捨てられたのでしょう(本命はスカイです)。
スマイル・エンティティ(あの恐怖の存在の本体をとりあえずこう呼ぶらしい)は作中の説明どおり寄生生物のようなものなのか、意思があるのかも不明ですが、今作では明らかに最悪を最大に拡散するために狙って行動しているようにみえます。悪質なインフルエンサーみたいなものですよ。
ポップスターの笑えない現実
『スマイル2』の本命の主人公はスカイです。今回の不幸のくじを引いてしまった張本人。
前作でも主人公は心理的トラウマを抱えており、それが現象に投影されていましたが、今作ではポップスターというキャラクター背景を活かし、そんなエンターテインメント業界で生きるセレブの苦悩がぎっしり生々しく描かれていきます。
何よりも仕事の多忙さ。次々と半ば自動的に決定されていくスケジュールはキツく、ハードな日々に心を休める時間はありません。
そのうえ、母親によるコントロールという抑圧が圧し掛かっています。どうやらこのスカイにとってあの母エリザベスは相当に逆らえない相手のようです。
そしてファンの対応もストレスです。いくら自分を応援してくれるとはいえ、中にはストーカーみたいな有害なファンもいるし、そんな単純なものではないです。でもファンに毒を吐くこともできない苦しさ…。
極めつけは、過去に起きたボーイフレンドの死。口論のすえにスカイの突発的な行動が凄惨な事故を招いたのですが、スカイにとっての心の泥沼です。沈むばかりで抜け出せない…。
そういう心情ですから、パフォーマンスや世間を意識して「笑う」ことを要求されても、心の底から笑えるわけもなく…。
今作ではこの「笑う」という仕草が、強迫的な行動として成立しうる恐ろしさみたいなものを嫌になるほど突き付けてきますね。個人的には前作よりも主人公の心理の見せ方が巧みになっていたように思いました。
髪を抜くという自傷的な行為、人前でのパニック発作、不眠症、もちろんドラッグ依存も…さまざまな警告がスカイの心理面の悪化を知らせているわけですが、救いはこちらもありません。
しかし、そこにジェマという親友の再登場がひと筋の光に…。いいえ、そうはならない。この映画はそういう信頼者が現れると不幸の連鎖の道具に利用されるだけだと1作目の鑑賞者は思い知らされています。「ジェマ、ありがたいけど、帰ったほうがいい…!」と叫びながら観客は目撃し続けるしかできません。
ただ、今作のスマイル・エンティティはどこまで幻覚をみせているのかあやふやでしたね。ルイスの死の後からはすでに幻覚だったのかな…。
今作のラストは、恒例のグロテスク本体出現からの、大勢のファンの目の前で盛大な死のパフォーマンスを披露。スマイル・エンティティの狙いどおり、強烈な拡散を成功させました。悪いことは拡散しやすい…そして身を滅ぼす…。スマイル・エンティティさんによる、実演型のネットリテラシー講座です。
“パーカー・フィン”監督いわく、3作目も検討中だそうですが、アイドル級の拡散を超えるものは、もうSNSそのものをハッキングするか、大統領くらいしかないんじゃないか…。
3作目も恐る恐る待つとして、ひとまず最悪な世の中なのに笑顔で固まっている人が近くにいたら要注意です…。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
ナオミ・スコット出演の映画の感想記事です。
・『チャーリーズ・エンジェル』
作品ポスター・画像 (C)Paramount Pictures
以上、『スマイル2』の感想でした。
Smile 2 (2024) [Japanese Review] 『スマイル2』考察・評価レビュー
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