バース・オブ・ネイション
映画『バース・オブ・ネイション』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Birth of a Nation 
製作国:アメリカ  
製作年:2016年 
日本では劇場未公開:2018年にDVDスルー 
監督:ネイト・パーカー 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

Plot Summary

1800年代初頭。バージニア州のターナー家の農場で奴隷として働くナットは若い頃から読み書きができたため、聖書に精通し、奴隷のために説教をするようになる。そして、ナットは説教を続ける中で、奴隷たちのあまりにも悲惨な境遇を思い知らされる。そして、理不尽な仕打ちに耐えきれなくなった彼は、黒人奴隷たちを率いて、自由を勝ち取るために立ち上がるが…。

ネタバレなし感想

作品と製作側は表裏一体

作品自体がその内容などのせいで炎上することは多々ありますが、中には作品ではなくその作り手側の言動によって、火の粉が作品にまで飛び散り、最終的に作品の公開などが中止になってしまう事例も稀に起こります。その際、必ず起きる論争が「“作品”と“製作側”の境界線はあるのか」というものです。つまり、製作側の誰かが不祥事を起こしても非難されるべきはその当事者だけであって、何も作品にまで影響を及ぼすようなことはあるべきではない。それでは創作や表現の自由が侵害されてしまう…そんな「別物である」という主張もあります。

しかし、現実ではそんな“別物”主張は通じるような状況ではありません。例えば、日本でも不祥事を起こした芸能人の出演していたTV番組や映画は、公開が中止になったり、その人物の出演部分がカットされます。でもこれはあくまでクレーム対応のような、いわば受け身の作業にすぎないことも多いです。

ところが、最近の映画界ではワインスタイン問題に端を発したマイノリティ・ムーブメントによって、“作品”と“製作側”が表裏一体として議論されることがもはや常識化していることを実感させる事例が相次いでいます。これはポリコレやコンプライアンスの問題として語られることもあれば、それ以上の崇高な領域で論じられることもあります。これはやはり映画というものが、「商品」であるだけでなく、「芸術」であり「ジャーナリズム」でもあるという多面性を持っているがゆえなのだろうと思います。だからこそ、都合が悪くなったら“作品”と“製作側”の表裏一体を解除するなんて浅はかな行為は許されないのでしょう。

映画が製作陣にまで牙をむく

先ほど「ワインスタイン問題に端を発した」と書きましたが、実はその直前に、この「“作品”と“製作側”の境界線」問題を考えさせる事件を起こした映画がありました。それが本作『バース・オブ・ネイション』です。

この映画は、黒人奴隷反乱を指導した歴史上の人物「ナット・ターナー」を描いた作品です。原題の「The Birth of a Nation」は、映画史に名を残すD・W・グリフィス監督による1915年公開の無声映画『The Birth of a Nation(邦題:國民の創生)』からとったもの。『國民の創生』はKKKのプロパガンダ映画的な側面もあり、白人至上主義に基づいて作られたものでした。つまり、『バース・オブ・ネイション』はそれに対する明確なカウンターであり、しかも原案・製作・監督・脚本・主演をつとめた黒人の新鋭“ネイト・パーカー”の渾身の一作。まさに“作品”と“製作側”が表裏一体で繰り出す、マイノリティ・ムーブメントを先導するような強烈な一撃…になったはずでした。

初お披露目となった2016年のサンダンス映画祭では観客賞と審査員賞を受賞。史上最高額で配給を買われ、批評家たちも映画の未来を担う一作だと絶賛。アカデミー賞では間違いなく有力作になると期待されました。

しかし、作品を主軸となって作り上げた“ネイト・パーカー”と同じく原案の“ジーン・マクジャンニ・セレステイン”に、過去に強姦事件の疑いがあったことが発覚(裁判では無罪)。しかも、その被害を訴えた女性はその後自殺。さらに、事件に対する“ネイト・パーカー”の対応が火に油を注ぎ、大炎上。その時、彼を擁護したのが誰であろう“ハーヴェイ・ワインスタイン”でした。

結局、本作は披露直後のあの熱の高さはどこへやら、すっかり冷めきってその後の賞では総スルー状態。日本も劇場公開を予定していましたが、ビデオスルーになりました。

本作が“正義から悪へ”一転してしまった騒動は、まさしく芸術性やジャーナリズム性を有する映画だからこそであり、非常に考えさせられるものでした。

こんな話、映画を観る前に知りたくないという人もいるかもしれませんが、そもそも本作だって隠された暴力を暴いて反撃するために作られたものなわけですから、“ネイト・パーカー”自身もわかっているはずです。だから例の騒動以降、彼がだんまりを決め込むのも自分の築いた正論に自分が潰されそうになっているからなのかもしれません。映画が製作側に牙をむく(いわゆるブーメラン)という事例も特異ですね。

そんなこんなで本作は色々な意味で語りがいのある映画じゃないでしょうか。少なくとも黒歴史にするのはもったいないですし、そうすべきではないと思います。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

黒人版イエス・キリスト

とりあえず“ネイト・パーカー”の過去の話はいったん置いておいて、映画自体の話をすると、まず本作は簡単に言ってしまえば「黒人版イエス・キリスト」の物語です。啓示→苦難→反旗→処刑→崇拝と意志の継承…この一連の流れがまさにキリスト的であり、そのため付いていきやすいストーリーだったのではないでしょうか。

鑑賞前は『國民の創生』からタイトルを拝借していると聞いていたので、内容も同様にスケールの大きめの話なのかと思っていました。しかし、意外というか、よく考えれば当然なのですけど、ナット・ターナーという歴史上の人物の伝記としてスマートにまとまった作品でした。

確かに「反乱」の部分に期待していると、そこはあっさり終わってしまうのでガッカリするところはあると思います。少なくともアクション面は“ネイト・パーカー”監督は得意ではないのがわかります。観ているときは、これは同じくキリスト的ストーリー大好き人間であるメル・ギブソンだったら、もっとフレッシュかつ大胆な映像を見せてくれるのに…なんて思ったりも。まあ、予算の問題もありますけど。

ただ、“アガる”展開だったか…と言われれば、YES。結構テンションを同調させられる、ストーリーテリングの巧みさがあったと思います。わかりやすいのが説教のシーンですね。

最初にいかにも差別的な陰湿さが見てとれる家で黒人たちに説教する場面。
「心からおそれ敬って主人に従いなさい。善良で寛大な主人にだけでなく、無慈悲な主人にもそうしなさい」
ここの“これでいいのか…”という顔からの、次のさらに差別的な家に移ってからのこの言葉。
「主の慈しみに生きる人よ。賛美の歌を歌え。主と共に生きる人は栄光に輝き、伏しても喜びの声を上げる。口に神をあがめる歌、手には両刃の剣を、悪魔の国々に報復し、諸国の民を懲らしめ、その王たちを鎖で縛り、貴族に鉄の枷をはめ、裁きを行う。言葉れは信徒への誉れである! 主をほめたたえよ! 新しい歌を歌うのだ!」
シンプルな対比ですけど、演技の熱の入りようもあって、非常に良いシーンでした。

バース・オブ・ネイション

女性の扱いに不満も…

他に気に入っているシーンを挙げるなら、終盤の反乱に失敗したあとに、妻のチェリーのもとにやってきたナットが彼女に語りかける場面。ここではナットは姿が映らず、声だけが聞こえてくる演出になっています。ナットが黒人たちの心の精神的存在になったかのような別のステージに行ってしまったことを想像させる、意味深な雰囲気が良かったです。

役者も素晴らしく、主演以外だと、敵か味方かイマイチ掴みづらい主人のサミュエル・ターナーを演じた“アーミー・ハマー”の名演。『君の名前で僕を呼んで』でも素晴らしい演技でしたが、本作でも内側の見えないキャラを見事に体現していました。
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また、ナットの妻であるチェリー・ターナーを演じた“アヤ・ナオミ・キング”も登場時から素晴らしい演技を披露してくれるのですが、あまり決定的な出番は少なかった気がして残念。

まさしくその部分が本作で一番引っかかったことなのですが、これは“ネイト・パーカー”の不祥事を知っているせいで余計にそう思ってしまうのかもしれませんが、本作で描かれる黒人女性の扱いが弱い気がします。妙に都合がいいというか、あっさりしていますよね。チェリーも最初はあんなに怯えていたのに、やけにコロッとナットになびいてしまうし…。なにより女性への暴行がナットの反乱への動機のひとつとして本作では強調されるのは、どうしても男性主観的要素(“俺の女になにしてんだ”的)を感じて腑に落ちません。ちなみに妻への暴行はフィクションだそうです(もちろんこの時代は黒人女性への暴力は日常的だったのは言うまでもないですが)。

こんな感じで、良くもあり、悪くもありな感想になってしまいましたが、ひとつ断言できるのは、このナット・ターナーの歴史を知れたのは勉強になりました。それは間違いなく本作の他にはない価値です。

次は、今回の騒動を含むネイト・パーカーの伝記映画を作ることですかね。そっちのほうが意義深いと思うくらいですけど。

関連作品紹介

ネイト・パーカー出演作

・『フライト・ゲーム』
・『キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け』
・『グレート・ディベーター 栄光の教室』

黒人/人種差別映画の他作品

・『それでも夜は明ける』
…第86回アカデミー賞の作品賞受賞作。1841年にワシントンD.C.で誘拐され奴隷として売られた黒人の奴隷体験記を映画化。

・ 『マッドバウンド 哀しき友情』
…黒人と白人、二つの家庭を描くことで、アメリカ田舎社会での差別を浮き彫りにする、Netflix作品。
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・ 『デトロイト』
…1967年、ミシガン州のデトロイトで起こった、白人警官による黒人への残酷な捜査を描いた衝撃作。
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