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『雪の峰』感想(ネタバレ)…Netflix;家父長的な遭難捜索に希望は見つけられない

雪の峰

家父長的な遭難捜索に希望は見つけられない…Netflix映画『雪の峰』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:The Father Who Moves Mountains
製作国:ルーマニア・スウェーデン(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:ダニエル・サンドゥ

雪の峰

雪の峰

『雪の峰』あらすじ

厳寒の雪山で息子が行方不明になる。その知らせを受けた父親は、我が子を見つけ出すため、あらゆる手を尽くした必死の捜索を続ける。しかし、一向に手がかりは見つからず、縮小されていく救助隊に怒りをぶつける。このままでは息子の命は危ない。どんな痕跡でも見つけたかった。焦った父親は自分のコネを利用して独自の行動に出る。それはどんどんと無謀になっていき、やがては大きな犠牲を出すことに…。

『雪の峰』感想(ネタバレなし)

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山を甘く見てはいけない

山に登ってますか? 油断はしないでくださいね。

警察庁の発表によれば、2020年、日本における山岳遭難の発生件数は2294件、遭難者2697人だったと報告されています。そのうち死者・行方不明者は278人です。

山岳遭難の発生件数は平成になってから増加傾向にありましたが、2020年はガクっと減りました。これはコロナ禍で登山に出る人の数がそもそも減ったのが影響していると思われます。人類を脅かす新手のウイルスが存在しなければ、きっと山岳で遭難する人の数は例年の傾向どおり増加したでしょう。それはそれで虚しい話ですけど…。

久々に山登りを体験したいという人。ちょうど良かったですね、今回の紹介する映画は登山に関する作品です。まあ、山岳遭難した子どもを捜索しようとする父親の物語なんですけど…。テンション下がるとか言わないで、たぶん山登りへの緊張感を思い出せますよ。

そんな映画のタイトルは『雪の峰』

随分と平凡な邦題になっていますが、実はルーマニア・スウェーデンの合作映画。英題は「The Father Who Moves Mountains」で、どう考えてもこっちの方がいいですね。邦題も「父の峰」とかの方が良かったんじゃないかな…。

物語はさっきちょっと語ったとおり。ある男の息子が険しい雪山で遭難したこととの一報を受け、その父である男は現場に駆け付けるわけです。そして捜索に参加しようとする。ここまでは普通。観客も同情したくなります。当然ですよね、愛する家族の命が刻一刻と危ないのですし。けれどもこの映画、そう単純にはいかない。この父親が…まあ、言葉を濁しますけど、あれやこれやと展開を引き起こしていくのです。

『雪の峰』は表向きは自然に翻弄される人間たちの物語ではあるのですが、それを通して有害な家父長的権力の横暴(パターナリズム)を映し出すという社会派ドラマの側面を持ち合わせています。家父長的な男性なんて見たくもないという人にはツライ作品かもしれませんね。かなり典型的な家父長制男性像が描かれますから。

監督は“ダニエル・サンドゥ”というルーマニア人で、2017年には『One Step Behind the Seraphim』という司祭になろうとするティーンエイジャーを描いた長編映画を撮っています。私は全然意識したことのなかった監督なのですけど、これは注目の才能が映画界に頭角を現してきているような感じじゃないですか。作風の雰囲気としては『フレンチアルプスで起きたこと』の“リューベン・オストルンド”監督に似ている気もする。人間や家族というものの素朴な醜さを淡々と描くスタイルが似ていますね。

俳優陣は、“エイドリアン・ティチェニ”、“エレナ・プレア”、“ジュディス・スターテ”、“ヴァレリウ・アンドリウツァ”、“トゥドール・スモレアヌ”、“ヴィルジル・アイオアネイ”など。私は全くルーマニア俳優の情報に詳しくないからわからないですけど、“エイドリアン・ティチェニ”(“アドリアン・ティティエニ”とも表記)は『エリザのために』(2016年)で主演していましたね。

この「シネマンドレイク」という映画感想サイトはこれまで1200作品以上の感想をあげてきましたけど、ルーマニア監督によるルーマニア人俳優のルーマニア製作の正真正銘「ルーマニア映画」を取り上げるのは初ではないだろうか…。記念すべき第1弾のルーマニア映画が私好みの良作で嬉しいです。

ルーマニア…東欧の国であり、ややマイナー感がありますけど、ヴラド・ツェペシュでおなじみの吸血鬼ドラキュラ以外にもいろいろあるでしょうし、もっとルーマニア映画も掘り下げていかないとなぁ…。

なお、繰り返しになりますが、家父長的な暴力性、加えて自然災害的な描写がずっと続く陰湿な作品ではあります。嫌な人にはかなり嫌なものです。気分はあまり良いことにはなりませんが、それでもこの稀有な作家性を示してきたルーマニア映画を一度は眺めておくのもオススメです。

Netflix配信なので比較的気軽に観れます。自然風景の映像が象徴的な作品なので、なるべく大きい画面で観るのを推奨します。

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『雪の峰』を観る前のQ&A

Q:『雪の峰』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年9月17日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり4.5:ヨーロッパ映画好きなら
友人3.5:趣味が合う者同士で
恋人3.0:夫婦の雰囲気は悪い
キッズ2.5:大人のドラマです
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『雪の峰』予告動画

The Father Who Moves Mountains – Trailer
↓ここからネタバレが含まれます↓

『雪の峰』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):捜索はやがてひとりの男の意地に…

予備役将校のミルチャ・ジャヌは妊娠中の妻アリーナがおり、仕事の傍ら新しい生活を待っていました。

しかし、家に突然警察がやってきます。なんでもミルチャの前の妻パウラとの間に生まれた息子コスミンブチェジ山で遭難した可能性があると言うのです。息子のコスミンとは最近話してもおらずその子は前妻と暮らしているはずでした。遭難者は2名で、ダニエラという同行者から通報があったようで、交際中で一緒に旅をしていたとか。

ブチェジ山は、ルーマニアの中央を東西に走るトランシルヴァニアアルプス山脈を構成している山群です。リゾート地になっており、行楽に訪れる人々も多いエリアになっています。

ミルチャはすぐに車で現場に急行します。部下のローが運転。ミルチャは車中で前妻のパウラに電話し、情報を共有します。彼女も寝耳に水だったようです。

観光客で賑わう冬山に到着しました。雪がシンシンと振っており、観光客も普通に見られます。ミルチャはそんな一般人に目もくれず、救助隊チーフのクリスティアンのもとへ。今朝から再捜索しているものの、天候悪化で順調にはいっておらず、痕跡も見つかっていないそうです。

ミルチャは「どう手伝えば?」と質問しますが「ただ待つだけです」と言われてしまいます。それでも捜索に加わりたいと懇願し、「私にはツテがあるんです」と登ると言い張り、登山を強行しようとします。ろくな装備も無しで…。しかし、警察を呼ばれたのでさすがに一旦保留に。

ホテルへ行くと、息子と一緒に遭難した女性の両親がおり、挨拶します。夜にはパウラも来ました。

谷沿いに進む若者2人の目撃者情報があり、期待してしまいますが、次に本部に無線がくると遭難小屋に明かりがあったものの別人だったという残念な知らせでした。

なんとかホテルに泊められるようにしてもらうと、コスミンはここに宿泊していてチェックアウトしていないと判明。荷物はそのままの部屋に足を踏み入れます。

翌朝、ミルチャは装備を整えて捜索に行く気満々。「素人には無理です」と再び救助隊のクリスティアンに諭されますが、押し切ってゾロゾロと登っていきます。

雪深い山道。早々と息切れするミルチャは休憩回数も多く、救助隊の一同も「ほら見たことか」と内心では思っていました。道はさらに険しくなり、急斜面に差し掛かるとミルチャは全然登れません。結局ミルチャだけ麓に戻らされました。

心配したアリーナも来てくれましたが、パウラと複雑な関係性があるゆえにミルチャは良い顔をしません。パウラもかなり嫌そうです。

息子の手がかりはまだ見つかりませんでした。日に日に人数が減る救助隊に文句を言うミルチャ。「全員を使え」と命令しますが、救助隊のクリスティアンはこれが精一杯だと言います。

居ても立っても居られなくなったミルチャは、自分の総力を駆使することに決めました。ある日、物々しい大量の車列が山のリゾート地に集結します。全員がミルチャのコネで招集した情報局の仲間です。すぐさま仮設テントを設置しだし、隊長のフィリップはミルチャに全力を尽くすと約束。情報が欲しいとクリスティアンに迫ります。クリスティアンは「なぜ情報局が介入するんですか」と納得いってなさそうですが、半ば強引に現在の情報を提供してもらい、ミルチャ指揮のもとで捜索が開始されました。

希望のためなら手段を選ばずに…。

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家父長制では歯が立たない大自然

『雪の峰』は、ミルチャ・ジャヌというひとりの主人公のわかりやすいほどの家父長的な存在感が物語の軸になっています。

家父長的な絶対的存在感が暴走していくさまを描く物語と言えば、『アイリッシュマン』や『葛城事件』など枚挙にいとまがないですが、『雪の峰』はそこに加わる新たな一本。

まずミルチャは予備役将校とのことで普段は軍での仕事はしていませんが、ルーマニア軍関係者に対してかなり絶大なコネを持っているようです。情報局を私的な理由で動かせるなんて相当な権力でしょう。ルーマニアは軍隊の汚職も酷いそうなので、そういう背景が反映されているのかもしれませんが。

そして家庭でもミルチャは権力を振りかざしていました。前妻パウラとの関係は冷え切っています。こんなときでもハグさえも拒絶する心底嫌そうなパウラの姿などにその内情が見てとれます。コスミンが不良グループにイジメられたときも警察が裏で動かして全員逮捕させたというエピソードが語られますが、家庭においても徹底したパターナリズムを貫いていたことが察せます。

それは今の妻であるアリーナとの関係でもそう変わっていないことは冒頭ですぐにわかります。仕事も家庭も自分の所有物としてコントロールしたいだけであり、それが思うようにならないのであれば、ひたすらに苛立ち、八つ当たりしてくるだけ。

そんなミルチャが次に直面したのがこの遭難事件です。しかし、今回は相手となるのは大自然。権力で操ることはできません。ひとりの人間として徹底的に無力であることを思い知らされる。これがミルチャにしてみれば屈辱的で我慢ならないわけです。

それを印象的に突きつけるのが、あの強引に登山に加わったはいいものの、バテバテになってしまい、急斜面を登り切れずに疲弊して滑り落ちるという無様な姿。本人にとっては最大級の恥。あの救助隊にさえもバカにされて、自分の弱さが露呈してしまったのですから。

ここで自信喪失してしょぼくれてくれればまだ無害だったのですが、このミルチャ、さらに醜悪に突っ走ることになり…。

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男らしさか、善意か

“男らしさ”(マスキュリニティ)を描いた映画の中では、『雪の峰』はその男らしさの有害性という部分に焦点を当てていきます。もう本当に大袈裟でも何でもなく「有害」そのものになっていく。確かに最初は息子がこんな目に遭っているのだし、少し荒れるのも気持ちはわからなくもない…という同情心も芽生えるのですが、しだいにそうも言っていられないレベルの暴挙に悪化するわけで…。

自然相手に敵わないと悟ったミルチャは今度は救助隊を“敵”認定し、自分の部隊を招集して張り合わせることにします(相手方は張り合う気は欠片もないのですが)。言ってみれば「俺様はこんなこともできるんだぞ、どうだ参ったか!」というパフォーマンスです。法律違反だとかも気にしていません。力の誇示しかできない男なのです。

しかし、そんな権力をもってしても三角測量の結果、雪崩地帯に埋まっていることが判明しただけで失望に変わります。ところがここでさらにエスカレート。「いいから探しに行け!」「無理などとほざくな!」と危険性があるのに恫喝して部隊を派遣し、あげくに雪崩に巻き込まれるという二次災害を発生させてしまいます。

でもまだ懲りない。昔のよしみのフィリップにさえも愛想をつかされ、今度はカネで一般人を雇い、ロープウェイも買収して私設の救助隊を作るという苦し紛れの策に。

男らしさをこじらせた男の顛末としてあまりにも悲惨。もはや息子のためなのかもわからない。自分のエゴのためのような気さえしてくる。

本作『雪の峰』はそんな暴走化する男らしさの傍らで、やっぱりこういうときにこそ人類には善意が必要なんだということも提示します。善意が人を救えることもある。救えないこともあるけど、でも善意は追い詰められた人の心に寄り添える。それは何よりも大事なことだ、と。最初はミルチャを見下していた救助隊のルプが最後にはついてきてくれるシーンもいいですね。

あのミルチャもそれを内心ではわかり始めている。だから三角測量の機材を貸し出して他の遭難者を救ったり、ついには自分の判断で私設救助隊を他の遭難者現場に向かわせたりするというラストを迎える。

それでも自分だけは現場に残り、あてもなく雪の塊をひたすらに掘り続ける。きっと雪解けまで掘り続けるつもりなのか、それともあのまま次の雪崩でミルチャも埋まってしまうのか。

後退できなくなった男らしさの実態をじっととらえるカメラの佇まいが余韻を残す、そんなエンディングでした。

現実でも自然災害発生時の救助や支援の世界が、男社会のパフォーマンスの見せ場になってしまうケースが散見されるわけですが、善意が全ての土台だということは忘れたくはないですね。

『雪の峰』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix ザ・ファザー・フー・ムーブス・マウンテンズ

以上、『雪の峰』の感想でした。

The Father Who Moves Mountains (2021) [Japanese Review]