シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声
Netflixドキュメンタリー『シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:City of Joy
製作国:アメリカ・コンゴ(2016年) 
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:マドレーヌ・ギャビン

あらすじ

戦争で荒廃したコンゴでは性暴力が女性たちを苦しめていた。その性的暴行を受けた女性のために設立された「シティ・オブ・ジョイ」。この場所で、被害者たちは少しずつ自我と自信を取り戻していく。

ネタバレなし感想

ノーベル平和賞が贈られた理由

2018年10月5日、ノルウェーのノーベル委員会はこの年のノーベル平和賞の受賞者を発表しました。内戦状態が続くコンゴ民主共和国でレイプ被害を受けた女性たちの治療と自立に努める医師で活動家のデニ・ムクウェゲ氏と、過激派組織「イスラム国(IS)」による性暴力被害者で、国連親善大使として人身売買被害者の救済を訴えるナディア・ムラド・バセ・タハ氏の2名です。事前の予想では、「Me too」や「Time's Up」といった女性の抗議運動が近年の注目であったため、ノーベル平和賞も女性への性暴力に関連したものになるのではないかと有力視されていましたが、実際そのとおりになりました。映画業界から大きな火がついた運動が、ノーベル平和賞にも影響を与えるなんて、映画好きとしては感慨深いものです。

ところが、日本では「Me too」や「Time's Up」といった活動が国内ではそれほど盛り上がらず、政治もメディアも市民も関心が低いせいか、この2018年のノーベル平和賞に関する報道もざっくりとした紹介にとどまっているケースが多いです。

しかし、ここで心強い存在になってくれるのが映像作品!(もう何度言っただろうか、この流れ)…。ノーベル平和賞受賞者のひとり、デニ・ムクウェゲ氏の活動を題材にした『シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声』というドキュメンタリーがまさにぴったり。どんなニュースメディアよりもわかりやすく、かつ心に訴えかけてくる、最高の作品です。本作を観ておけば、2018年の受賞者がいかに素晴らしいことを成し遂げているのか、すぐに理解できます。その日から、友人や家族にドヤ顔で語れますよ。

ちなみにほぼ同名のタイトルで『シティ・オブ・ジョイ』という1992年の映画がありますが、それと混同しないように注意してください。『シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声』の方は、Netflixオリジナルドキュメンタリー作品です。Netflixは2018年9月に本作を配信しだしたので、ノーベル平和賞のタイミングと合わせて狙っていたのでしょうかね?(たまにNetflixはそういうことやるので)

テーマになっているのは、アフリカのコンゴで性暴力を受けた女性のために設立された「シティ・オブ・ジョイ」という名の施設で、デニ・ムクウェゲ氏はその共同設立者のひとり。

性暴力が題材と聞くと、どうしても「暗い作品なのかな…」とか「観るのに覚悟がいりそう…」などネガティブなイメージが付きまといますが、本作は確かに性暴力という過酷な実態も説明されます。しかし、観終わった後は、不思議と清々しいのです。私は性暴力の被害者でもないのですが、なぜか本作の鑑賞後は勇気と元気をもらえました

ぜひとも多くの教育現場で上映すべき作品だと思います。本作は、Netflix公式で「教育を目的とした上映を許可されたオリジナルドキュメンタリー作品」として扱われています。なので学校などで本作を上映することができます。詳細は以下のページを確認してください。
「シティ・オブ・ジョイ ~世界を変える真実の声~」Netflixメディアセンター:教育を目的とした上映の許可について
より多くの人がこの作品を目にして、日本を含む世界から性暴力が少しでもなくなればいいのですが…。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

性暴力のスポンサーは私たち

本作の舞台はアフリカの真ん中らへんにある「コンゴ民主共和国」という国。日本人の大半は(私も含めて)「アフリカ」という漠然とした地域のイメージしかなく、構成する国々ひとつひとつに関する知識は乏しいと思います。1997年より前は「ザイール」という国名であったこのコンゴは、植民地時代以降、いくつもの戦争を経て、いまだに周辺国との間で緊張関係が続いています。

被害を受けているのは当然、コンゴの住民たち。戦争から逃げるように地元の村から避難してきた人たちで一部の地域は溢れかえり、本作では「ブカブの人口は5万人から100万人に増えた」と説明されていました。

そんなコンゴで起こっている女性への性暴力。本作では、被害者たちがそのまま映し出され、悲惨な体験を語ります。正直、その内容を文章にするのもおぞましいのでここであらためて書きたいとも思わないのですが、彼女たちはまっすぐ言葉に表します。印象的で脳みそに刻み込むような言葉が次々と飛び出していました。例えば、活動家のクリスティーン・シュラー・デシュライバーという女性が語る言葉。「生後6か月でレイプされた子も見た。“人を殺せる”と初めて思った」…冗談抜きでリアルで他者に殺意を抱くくらいの怒り…想像したくもないです。

一方で、どこかで私は「アフリカなんだから治安が悪いし、性暴力が多発するのも普通なのだろうな…」と単純に考えていました。

しかし、それは大きな間違いだと知ります。“治安が悪い”という背景の裏にはさらに別の複雑な背景があるのでした。

それが前述した戦争や紛争。この紛争はなぜ起こっているのか。その根本的な理由は、コンゴで豊富に採掘される鉱産資源。これらは「Conflict resource」とも呼ばれ、その利益をめぐって起こる商業的な争い。しかも、その鉱産資源採掘に関与しているのは世界中の企業。その企業の中には土地勘に長け、安い労働力となる民兵を雇用しているものも存在し、その民兵たちが鉱山の周りの村を襲い、女性たちをレイプしているというのが真の実態でした。

そして、その非道な行為の過程で手に入った鉱物で作られているものこそ、今、先進国を豊かにしている電子機器。あなたがこのブログを見るのに使っている、パソコンやスマホ…それらは性暴力の結果、製造されたものである。この事実は、私たち日本を含む先進国に深く突き刺さります。作中では日本企業の名前も挙がっていました。戦争責任はないのか、世界は無関心じゃないか…言葉がグサグサと貫きます。

「レイプは戦争の兵器」「レイプじゃなくて、性的なテロ」…テロリストのスポンサーは私たちでした。

シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声

被害者で終わらせない

こういう被害者の凄惨な実像と、遠くで他人事にしている私たちへの加害者意識を突きつけることに関して、本作はこれ以上ないパワーを発揮しています。ただ、本作の凄いところ、いや、この「シティ・オブ・ジョイ」の素晴らしい部分はその先にあるんですね。つまり、「コンゴの性暴力って酷いな…」と暗い気持ちや罪悪感を持たせることが目的ではありません。

この施設の目的は序盤でハッキリ明示されています。それは「性暴力の被害者をリーダーに育てること」

そもそもなぜこの施設は「シティ・オブ・ジョイ」という名前なのか。共同設立者のひとりであるイヴ・エンスラーも言っていましたが、「女性は犠牲者だから“ジョイ(喜び)”というのは間違いだという声もきく」というのは、確かに一般論としてありがちです。不謹慎だと批判だってされそうです。

でも、それに対してデニ医師は名言します。「一生不幸でいる必要はない」と。

この施設に入居した女性たちは何をしているのか。まず、自分の被害体験を語り合います。これはすぐに予想がつくことです。次に、護身術を学ぶ。これもまあ、被害を繰り返さないためにも必要だなと納得できます。ただ、その他がびっくりで、例えば、スピーチの能力を身につけるんですね。黙ってはいけない、沈黙を破るのよ、世界は変えられる…そうして女性たちに発信させようとするのです。「ヴァギナという言葉は禁止だったけど、私は遠慮なく使った。あなたたちも口に出しなさい」と言う、クリスティーンの言葉。ヴァギナと言うのが罪なのはオカシイし、自分を愛しましょう、性器だって美しい、恥ずかしくて醜いものじゃない…手鏡をくばって自分のヴァギナを絵に描いてきてくださいという課題までさせるのには驚きです。

でも、それも真意を理解すれば、腑に落ちるわけです。これもどれも女性を「被害者」で終わらせないためのものなのだと。

このポリシーこそがこの施設の称賛されるべき姿勢であり、そして私たちが忘れている重要な視点でもあるなと思います。性暴力に限った話ではないですが、よくありがちなこととして、私たち先進国の人はアフリカのいかにも貧しそうな子どもの写真とかを見て感傷に浸るわけじゃないですか。クリスティーンも「(このコンゴにも)セレブは大勢来るけど、写真を撮るだけで、動物園よ」と文句を言っていました。もしかしたら、このドキュメンタリーもそのつもりで観た人もいるかもしれません。つまり、「不幸」の象徴として、知らず知らずのうちに期待してしまっているんですね。

また、性暴力の被害者はただでさえ“恥ずべきもの”として扱われてしまいます。被害者自身も内にこもりがちですし、周囲の他者も触れてはいけないと過剰に配慮しがちです。

でも、そういう「性をタブー視すること」や、「被害者が内側に閉じこもること」も、性暴力につながる…だから社会に復帰させようという以上に「リーダーに育てる」ということに目標を設定する。そして、有言実行しています。

レイプされる前よりも輝いているんじゃないかと思うぐらいの堂々とした女性たちの姿に衝撃を受けましたし、もし自分が性暴力の被害者だとしたら社会に出ようと思うだろうかと考えてしまうなか、この「シティ・オブ・ジョイ」のようなとてつもない“全肯定性”を持つ支援組織があることの力強さを痛感しました。

「シティ・オブ・ジョイ」の在り方は性暴力関係なく、学校・会社・政府、あらゆる組織が理想にすべきだとさえ思うほどです。

日本に喜びはあるか

残念なことに、日本はコンゴで起きている性暴力の“スポンサー”というだけでなく、自国内でも起きている性暴力にも無関心です。いや、それどころか差別的な視線を向ける人も少なくありません。

性暴力を告発する人がいれば、「自業自得だ」「金、目当てだ」「生意気だ」と被害者を誹謗中傷する声は後を絶ちません。こういうのを「セカンド・レイプ」と言いますが、本来、ファーストもセカンドもありません。これも性暴力です。輪姦と呼んでもいいくらいです。

「いや、コンゴで起きている性暴力と、日本の個人レベルの性暴力は違うし…」と防衛線を張る人もいますが、誰がそんな都合のいい境界線を作る権利があるのでしょうか。戦時中の性暴力であれ、どこの国の性暴力であれ、セクハラであれ、とにかく性を搾取し尊厳を踏みにじられたことには変わりありません

作中で「シティ・オブ・ジョイ」の女性たちが欧米にも性被害者がいると知って驚いていましたが、日本の実態を知ったらどう思うでしょうか。あなたの国は、私たちから鉱物を奪って私たちに性暴力の火種をばらまくだけじゃなく、自国でも性暴力をしているの? …本当に何も言えません。

コンゴの小さな小さな場所「シティ・オブ・ジョイ」。それが「ジャパン・オブ・ジョイ」になって「ワールド・オブ・ジョイ」になる日を願っています。いや、願っているだけじゃダメですね。

ROTTEN TOMATOES 
Tomatometer 100% Audience --%
IMDb 
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★

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・『ハンティング・グラウンド』
…アメリカの大学で起こるレイプの実態に迫るドキュメンタリー。この作品でも被害者の力強い姿が印象に残ります。
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(C)Netflix