エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ
映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(エイスグレード)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Eighth Grade
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年9月20日
監督:ボー・バーナム

エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ

あらすじ

中学校生活最後の1週間を迎えたケイラは、動画サイトで顔出しで自分なりのトーク動画を投稿している。しかし、学校ではクラスで最も無口な子と言われるくらい影が薄い。SNSを使って周囲についていこうとするがそれが精一杯。そこで勇気を出してリアルの自分を変えようとする。高校生活が始まる前に、憧れの男の子や人気者の女の子たちに近付こうと奮闘するケイラだったが…。

『エイス・グレード』感想(ネタバレなし)

あなたは直視できる?

子どもの憧れる職業として上位に挙げられる「YouTuber(ユーチューバー)」。動画サイトに投稿して収入を得る人たち…という説明は今さら必要もないですね。この子どもへの人気傾向は日本だけでなく、世界中の国々で見られるものであり、時代を象徴する現象でもあります。しかし、それでもなお大人の中では「いやいやYouTuberって職業じゃないでしょ」と半笑いで嘲る人も少なくなく、むしろ根強い認識といえるぐらいに。「YouTuber」とか言っている人は社会の現実を何もわかっていないよ…と言わんばかり。

でも社会の現実をわかっていないのはそんな「YouTuber」をバカにする人自身かもしれません。あなたがどう思っているにせよ、この存在は世界で大きな影響を持つようになっており、クリエイティブな業界を担うひと柱にもなっています

ではその実例はあるのか? そんないつまでも疑り深い人にもオススメなのが本作『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』です。

この映画は2018年に公開されるやいなや、世界中で大絶賛され、その年を代表するインディーズ映画として大注目されました。挙げだすとキリがないほどのたくさんの映画賞を受賞orノミネートされた本作。実は監督の“ボー・バーナム”という人は、これが監督デビュー作なのですが、彼のキャリアのスタートは「YouTuber」なんですね。そこからコメディアンやミュージシャンとキャリアアップし、俳優も経験して、今回の監督業に至る、と。で、出来上がった映画が傑作と大評判。やっぱり才能を持っている人は違うんだなぁ…。

その“ボー・バーナム”の才能にいち早く気づき、製作&配給を担った「A24」。相変わらず名作センサーを働かせるのが上手いものです。

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』の中身は簡単に述べるなら「青春映画」。ただし、甘酸っぱいものでもなければ、ほろ苦いものでもない。むしろ“痛々しい”青春がリアルに映し出されます。最近でも『レディ・バード』とか『スウィート17モンスター』とか、イタい青春映画というのはいくつも定期的に生まれているものですけど、この『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』のイタイタしさはちょっとさらにグサグサくる(個人差あり)。


言ってしまえば(あまりこの言葉は使うべきではないのかもだけど)学校でひとり浮いている、いわゆるイマドキの表現でいうところの「陰キャ」な10代の少女の物語。人によっては「これは私だ…」と図星を射抜かれ、心がバクバクと動揺してしまいかねない…そんな映画です。直視できない人も多いはず。映画館の座席で「ああああああああ!やめてくれぇぇぇぇ!」と絶叫しかねない(本当にしないでね)。

しかも、「陰キャ」だけではないのが本作の特徴で、主人公はそうなのですが、その周囲にいる同年代の子たちもその性格や学校でのポジションは違えど、やっぱりイタイタしいことには変わりなく…。今現在の10代の有り様をそっくりと活写しています。

こういう映画は現在10代の子が見たらどう思うのだろうか。逆に見たくない現実を突きつけられるので、居心地が悪い、もしくは実感もしにくいかもしれないです。やはりある程度、年齢を重ねてあの時代を落ち着いて客観視して振り返られるようにならないと、この作品の良さは伝わりづらいのかな。ぜひ今10代だというティーンたちも10年後20年後くらいに本作を鑑賞してみてほしいですね。もしかすると、懐かしさと恥ずかしさと温かさが一挙に混ざり合って心に流し込まれる、そんな感覚に浸れるかもしれないですから。

けれども別の角度で考えてみれば多感な時期であるその瞬間に鑑賞することもまた意義があるのかもとも思ったり。今、学校生活が辛いと悩んでいる子どもにも見てもらいたいものです。きっと何か心のつっかえが取れると思います。そうだといいな。

そして、公開時期の時点で今はもう大人だという人は、本作を観ることで、今の10代の子どもたちに向ける視線がほんの少しでも優しくなるのではないでしょうか

オススメ度のチェック
ひとり◎(青春映画好きは必見)
友人◯(青春を語り合おう)
恋人◯(苦すぎる映画でもいいなら)
キッズ◯(自分自身と重なるかも)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『エイス・グレード』感想(ネタバレあり)

ああぁ、黒歴史…

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』のタイトルにある「エイス・グレード」。日本人にはさっぱりですけど、アメリカの教育システムにおいては一般的に12の学年に分かれ、そのうちミドルスクールを構成する最終学年がこの8年生(eighth-grade)です。日本語翻訳だとどうしても日本の教育システムに無理やり合わせようとするので「中学3年生」となりがちですが、イコールではないので注意。

そんなミドルスクールの最終学年としての節目を迎えようとしている13歳のケイラ。彼女は学校ではあまりしゃべらない、というかほとんどしゃべらない子として認知されており、いつも物静か。学校の集会で「最も無口な子(Most Quiet)」として名前を挙げられてしまうくらいです(あれ、なんなんですかね、表彰でもしているつもりなのか)。

そのケイラには実は裏の顔がありました。それは動画サイトで動画を投稿している「YouTuber」なのです。その動画内では学校の普段ではあり得ない、真逆の姿があり、ひたすらに喋る喋る。ライフスタイルに関するアドバイス風情なことをトークするわけですが、まあ、要するに自分語り(この映画感想ブログと同じ)。「Hey Guys」で始まり、最後は「Thank you for watching」からの「Gucci」で締め。もうバッチリと型が決まっています。私なんか、学校であんなキャラなのにネット上でこうも堂々と顔出しできるなんて凄いなと思ってしまうのですけど、今は別に普通なんでしょうね。ケイラの“他者に認めてもらいたい願望”の象徴であるのでしょうが、当の本人はそんな客観視なんぞできていません。

ある日、今日も無言の学校生活を終えて帰宅しようとすると、クラスメートで一番のマドンナ的存在であるケネディが主催するプールパーティーに招待されるという思わぬ展開に。まあ、ただし誘ったのは気を利かせたケネディの母親なのですが…(当のケネディは全くその気がない)。

一方、ケイラは今絶賛メロメロ中なのがエイデンという同級生の少年。エイデン自身は傍から見ると相当にナルシストに思えるのですが、ケイラはそんなのお構いなし。彼が視界に入るたびに、謎のバイブレーションサウンドが脳内で流れるのが笑えますが、本人は真面目です。エイデンのSNSをチェックし、彼の筋肉見せつけポーズにうっとりし、自分の手の甲に口づけしてキス感覚を味わい、ひとり発情するケイラ。う~ん、これは…黒歴史確定。

いよいよプールパーティーの日。そもそもプールパーティってなんだよという感じですが、要するにみんなでプールに入って遊んでいるというだけ。しかし、ケイラにとっては最難関ミッション。不安で発作に襲われるも、意を決して水着姿になり、プールのみんなに加わります。ここで宣伝ポスターにも使われているシーンになるわけですが、このポスターの画像、絶妙にケイラの負のオーラをトリミングしているのですけど、実際の作中ではかなりキツイ場面なわけです。まずあの緑の水着は似合わない。そして余計に周囲とのギャップに浮きまくる。現実は厳しい…。

ところが憧れのエイデンと会話する突発イベントが発生し、それでテンションあがったケイラは、これで私もリア充の仲間入りと言わんばかりに元気百倍。カラオケだって率先して歌うのでした。

そしてラストチャンスとばかりに最終学年終了間際で、光が差し込み始めたように見えたケイラのスクールライフでしたが、リアルはやっぱり残酷で…

インターネットが当たり前の青春

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』で主役となるケイラを含む子どもたちは、俗に言うところの「ジェネレーションZ」と呼ばれる世代です。インターネットが日常化している時代に生まれた子どもたちを指してそう言うのですが、本作でもこのIT系の要素は非常に重要な存在として登場します。

一方で、本作は決してティーンとITの正しい付き合い方を教育的に提示してみせる作品ではなく、あくまでリアルをそのまま表現する作品です。だから良いとか悪いとか関係なしに、一切の添加物なく、10代とインターネットの姿を映し出します。

画面が割れても手放すことは考えられないスマホ。ちなみにIMDbによれば、AppleがiPhoneを無料で提供してくれる予定だったけど、それが劇中で投げて壊れると聞いて渋った…なんて製作裏話エピソードがあったとか。まあ、壊れますよね、普通。

Facebookは使わず、今はInstagramとSnapchat。ひたすら永遠に続くような「いいね」の連続。このへんは日本も共通。

平然と性的な自撮り写真を女子に求めるエイデンの「セクスティング」。そして、そのエイデンの頼みの流れで「blowjob」の意味をケイラがYouTubeで検索してみると普通に解説動画が出てくるくだりとか(Googleさん、仕事して!)。

世間で言うところの若者とインターネットのマイナス側面がオブラートもなしで描かれるので、大人たちとIT企業は苦い顔をするのでしょうけど、でもこれがリアル。そして、本作はそれを間違いだと説教するのではなく、ただそのまま描く。

もっといえばケイラのYouTuber業の姿さえも、どこかシニカルに淡々と映していているわけで、“ボー・バーナム”監督は自分のキャリアにも関係しているインターネットの存在を実に冷静な目で扱っていて、スマートな落ち着きすら感じます。Enyaの「Orinoco Flow」の曲に合わせて、10代の子たちの青春をあえてフワッと描くセンスとか、本当に面白い着眼点です。

あと、個人的にカルチャーショックだったのですけど、作中のキーアイテムとして登場する、数年前の自分からのタイムカプセルの中にあるのがスポンジボブの「USB」という…もうUSBっていう道具自体そういえば古いよね…となんだか再確認してしまいました(昔はUSB、バカ高かったなぁ…)。

私はどちらかといえば、作中のケイラの父親マークの立ち位置に共感しやすいですね。そうです、こんなジェネレーションギャップがあったら、どう娘と向き合うべきか悩むのも当然ですよ…。

子どもとインターネットの関係を露悪的に描かず、でもストレートに描く…このセンス、日本のあの話題になった映画も見習ってほしかった…。

エイス・グレード

未来の自分に「頑張って」

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』に登場する子どもたちは誰もがイタイタしい一面を持っており、しかもそれに無自覚だったりするので、余計にいたたまれないです。

ケネディやエイデンといった、学校社会での“恵まれている”立場にいるようにケイラの目から見えている子であっても本当は大同小異。それはきっとオリヴィアといった年上組でも同じはず。隣の芝生は青く見えるだけです。

そんな必要以上に自分を過小評価したり、真逆に過大評価したり、背比べをやめられないジレンマという、自我が芽生えてアイデンティティを確立しようとする10代ならではのコンプレックス。おそらく国、宗教、性別、人種…一切関係なく皆が等しく経験してきたのではないかという、このアンビバレンツな不安定さを独特のタッチで描き切った本作は、見事な手際でした。

現実的には小さな小さな山に過ぎない。でも当事者にはエベレストより巨大な山。それをわざとらしくドラマチックにせずに乗り越える姿を優しく描く、この後味も好みです。それを不特定多数の他者ではなく、自分に向けて前向きなメッセージを贈れるようになるという、ケイラのYouTuber的な進歩とも重ねるあたりとか、捻りが効いていて上手い。

役者陣も素晴らしいです。

ケイラを堂々と演じた“エルシー・フィッシャー”は、これまで『怪盗グルー』シリーズで声の出演をしたりと、実写映画も『カリフォルニア・ガール 禁じられた10代』くらいで、決して目立つキャリアではなかったですが、これで一気に火がつくのではないでしょうか。

潜水少年のゲイブを演じた“ジェイク・ライアン”は出番は少なめでしたが、『ムーンライズ・キングダム』や『犬ヶ島』などウェス・アンダーソン監督に出ている子で、ほどよく好印象。オリヴィアを演じた“エミリー・ロビンソン”といい、どこか隙がある雰囲気なのが良かったです。対するエイデンを演じた“ルーク・プラエル”のあの隙のなさそうなオーラ。今回が長編デビューらしいですが、これはまた美形少年ファンを惹きつける新たな逸材が生まれてしまったかも…。

そんな不安定な子どもたちの中での唯一の大人であるケイラの父マークを演じた“ジョシュ・ハミルトン”はいつもの安定感でした。

ここまでのバランスの優れた秀作を見せられると、私の中では「ジェネレーションZ」世代の青春を描く映画として、『スウィート17モンスター』やジョン・ワッツ監督の『スパイダーマン』シリーズの双璧に、新たな『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』という新入りが加わった感じですね。


いつかこれさえもノスタルジーになる日が来るのか、信じられないなぁ…。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 99% Audience 82%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

関連作品紹介

おすすめ PiCKUP!
↑『スウィート17モンスター』…17歳の青春不満足な少女が、妄想を片手に奮闘するティーン・ムービー。
作品ポスター・画像 (C)2018 A24 DISTRIBUTION, LLC