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ドラマ『ハートブレイク・ハイ』感想(ネタバレ)…オーストラリアの性教育学園ドラマ

ハートブレイク・ハイ

オーストラリアの性教育&青春学園ストーリー…ドラマシリーズ『ハートブレイク・ハイ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Heartbreak High
製作国:オーストラリア(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
製作総指揮:ハンナ・キャロル・チャップマン
性暴力描写 児童虐待描写 LGBTQ差別描写 人種差別描写 性描写 恋愛描写

ハートブレイク・ハイ

はーとぶれいくはい
ハートブレイク・ハイ

『ハートブレイク・ハイ』あらすじ

学年生徒内のセックス相関図が書かれた秘密の「マップ」が校内の壁で発見され、その作成者であるエメリーは学校中から大ひんしゅく。たちまち、のけ者にされてしまう。しかも、なぜか大親友のひとりから絶交を突きつけられる。この事態を受け、性欲旺盛な生徒たちを矯正すべく学校は性教育クラスを立ち上げることになるが、それは一筋縄ではいかない。恋や性の悩みを経験しているのはエメリーだけではなかった…。

『ハートブレイク・ハイ』感想(ネタバレなし)

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オーストラリアから多様な青春学園ドラマが転入!

子どもの仕事は「学校で学ぶこと」。でもただ従順に席に座っているばかりではありません。自分たちの平等と権利が脅かされるのならば、子どもたちは立ち上がります。

NBC News」によれば、2022年9月、アメリカのバージニア州で90を超える学校の生徒たちが一斉に授業を放棄してストライキを決行しました。その理由は、州政府が新たに定めたトランスジェンダーの生徒に対する学校の方針に反発したからです。その方針では、すべての生徒が出生時に割り当てられた性別に応じてバスルームや更衣室などの学校施設を使用することを義務付け、トランスジェンダーの生徒が学校で親の許可なしに名前や代名詞を変更することも禁止しました。これはトランスジェンダーの生徒の権利を著しく侵害するものであり、差別的だと批判の声があがりました。そしてバージニア州の子どもたちは自ら行動にでたのです。

今、こうした生徒たちがLGBTQの権利を求めて抗議活動をする光景が世界で当たり前に見られます。この背景には保守的な勢力が学校に介入し、LGBTQの権利を抑圧しようという動きがあります。Z世代にとってプロテストすることは日常になりました。これが今の子どもたちなのです。

当然ながらそれは映画やドラマなどの作品にも反映されます。青春学園ドラマを描こうと思えば、昔は部活、イジメ、恋愛、親子関係などを描いていましたが、今はそこにプロテストが並びます。

今回紹介するドラマもそんなイマドキなティーンの姿が映し出されています。

それが本作『ハートブレイク・ハイ』です。

本作は王道の青春学園ドラマであり、ある高校を舞台にしたティーンの群像劇なのですが、私は知らなかったのですけど、作品自体は知る人ぞ知る有名なタイトルだそうです。本作はオーストラリアのドラマで、実は1994年に同名のドラマがあり、シーズン7も作られるほどに人気を博していました。この1994年のドラマはもともと『The Heartbreak Kid』という1993年のオーストラリア映画のスピンオフとのこと。

で、その1994年のドラマを2022年にリブートしたのが本作『ハートブレイク・ハイ』となります。だからファンにしてみれば「あのドラマがまだ戻ってきた!」という感じなんですね。

このドラマはオリジナルの頃から特徴があって、それは多様な人種のティーンが登場することで、そこが評価と人気のポイントになっていました。

そして2022年版の『ハートブレイク・ハイ』もそれを継承しています。例えば、メイン主人公の女子高校生はインド系です。インド系というと、アメリカでもドラマ『私の初めて日記』が好評ですが、『ハートブレイク・ハイ』もノリが似ています。

また、そのメイン主人公の女子高校生が恋する相手のひとりはブンジャラン族というアボリジニに出自があったり、他にも先住民系の子が結構普通にいるのがいかにもオーストラリアらしいです。それ以外にもアジア系の子もいたり…。今作でも多彩さでは負けていません。

そして物語上では「性」がテーマになっており、おそらくドラマ『セックス・エデュケーション』を意識しているのではないかなと思わせます。非常に性教育的な要素の濃い中身になっています。

当然ながらそれをテーマにする以上、LGBTQ表象も豊かで、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルはもちろんアセクシュアルと思われるキャラクターもメインのひとりとして登場。また、ノンバイナリーな生徒もおり、クィアな物語が絡み合っています。

加えて自閉症スペクトラムもきっちり描いていて、インターセクショナリティな作品としてやる気じゅうぶんという感じ。

2022年版の『ハートブレイク・ハイ』の企画・脚本を手がけたのは“ハンナ・キャロル・チャップマン”という人物で、注目のクリエイターです。

基本的に「誰が誰とヤったのか」みたいな話題が多く、そういうのが苦手な人にはあまりオススメできませんが、多様性溢れるアンサンブルを楽しみたい人には絶好のドラマでしょう。

ただ、注意点として、本作は差別描写がそれなりにあり、人種・LGBTQ・性差別など多岐にわたります。加えて性暴力や児童虐待に関連するシーンもあり(直線的な描写ではない)、重苦しい展開にもなったりするので、その点は留意してください。

『ハートブレイク・ハイ』はNetflixで独占配信中。シーズン1は全8話(1話あたり約45~50分)です。

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『ハートブレイク・ハイ』を観る前のQ&A

✔『ハートブレイク・ハイ』の見どころ
★多様な10代が赤裸々に悩みをぶちまける。
★LGBTQ表象も多彩。
✔『ハートブレイク・ハイ』の欠点
☆トラウマ描写がやや多い。
☆性的関係の話題が主要を占める。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:多様な表象が見たいなら
友人 4.0:青春学園モノ好き同士で
恋人 3.5:性について語り合おう
キッズ 3.0:性描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ハートブレイク・ハイ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):孤立無援のハイスクール開幕!

エメリー・ワディアハーパー・マクレーンは大親友です。5歳で友達になった2人の絆は深く、それはハートリー高校の高校生になっても同じ。2人は実は学内のセックス相関図を古い階段に落書きして発散していました。誰とどんな行為をしているか…目撃だけでなく噂、はたまた願望まで、壁に好き勝手に描いて楽しんでいました。

ある日、いつものようにエメリーはサーシャたち友人の車で登校。でもハーパーは連絡がつきません。エメリーはダスティンに片思いしており、今日も目が吸い寄せられます。

しかし、呑気にしていられませんでした。なんとあのセックス相関図が見つかり、大騒ぎになったのです。大はしゃぎする者、喧嘩になる者…反応はさまざま。

集会が開かれ、みんなが集まっていると、ハーパーは坊主頭で現れます。なぜあんな見た目に? それになぜかエメリーのことを見向きもせずに冷たい態度。

案の定、マップは大問題になり、ステイシー校長は保護者に連絡すると宣言し、「作者は覚悟しなさい」と告げます。そしてエメリーは校長室に呼び出され、「あなたの仕業ね、清掃員が目撃している」と言われます。バレていました。

エメリーはハーパーに声をかけるも「もう友達じゃない」と殴ってきて、わけがわかりません。加えてエメリーは学内で「マップ女」と噂になり、他の友達からも愛想をつかされ、孤立。

絶望を味わっていると、自分も含めて何人かの生徒が呼び出されます。壁に名を書かれた生徒たちで、性的な行動に問題があるとして性教育クラス(SLT)を受けるハメになったのです。教師はジョセフィン(ジョジョ)です。

行き場もなくトイレで食事していたエメリーは隣のクィニーに話しかけられます。「“13の理由”みたいに命を絶つつもりなの? 私の性器を確認してくれる? ひだが大きいの?」…クィニーは壁に描かれたことを真に受けていました。

衝動で前髪を切ったエメリーでしたが、クィニーの親友であるダレンに前髪を直してもらいます。そしてハーパーの件で愚痴ちます。先週一緒にフェスに行っただけ、なんでハーパーに嫌われたのか…記憶が曖昧でよく覚えていません。確かフェスの途中でハーパーとはぐれたような…。

生徒たちが墓地で集まって騒いているのでそれに参加。するとダスティンにキスされるエメリー。なんだか急に嬉しい出来事が舞い込んできて混乱します。

でもここでもハーパーと喧嘩を起こし、「私に関わってほしくない」と言われ、不快なまま場を後にすることにしたエメリー。

その夜、教室の机の裏に誰かが密かに落書きをしていました。ダスティンとハーパーがヤった…と。

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“ホロフェルネスの首を斬るユディト”的生徒たち

2022年版の『ハートブレイク・ハイ』のメイン主人公であるエメリーは、直球で同情の余地がないキャラクターとして描かれており、かなり思い切った主人公の配置だなと思いました。どうしたってあのマップはやりすぎな行為なので擁護不可ですし、ハーパーとの一件だって真相を知ったうえで考えてもやはり取り返しのつかないことをしてしまっています。

それでもこの同情できなさがこのドラマのミソで、「ティーンなら大きなヘマをしてしまうことがある。でもそこからどうするの?」っていうことを描こうとしているのだと思います。逆に言えば「ティーンに対していかに更生の機会を与えるか」という大人に突きつけられた問いでもあります。

エメリーはハーパーとの絶交事件がなぜ起きたのかを探るのを当初はあっさりやめてしまい、マラカイ・ミッチェルとの色恋などに逃避します(彼も結構ベタな転校生ハンサム・ボーイでしたね)。自分でも早く性体験が欲しくて浮足立っています。

そのエメリーが終盤で「ジョセフィン先生と性的関係を持った」と誤情報が飛び交い、先生がクビになってしまったことで、初めて「他人のために行動しよう」という利己的な生き方から卒業する一歩を踏み出すわけです。校長室選挙のプロテストはエメリーにとっても欠かせない成長の始まりでした。

一方で、ハーパーは終盤で明らかになるように、フェスの日にエメリーのせいで酔いつぶれて見知らぬ男たちの車に押し込まれ、ギリギリで逃げ出していました。しかし、スペンサー・ホワイト(スパイダー)とヤっていたエメリーは部屋の窓を叩いたボロボロのハーパーを結果的に見捨てます。さらにハーパーの父親は重度の依存症で錯乱しており、ハーパーは暴力に晒されます。かなり痛々しく可哀想な境遇です。

ハーパーが作中でずっと自暴自棄な態度をとっていたのもケアの不足が背景にあり、エメリーに打ち明けることで回復の扉を開けられるようになります。

また、マラカイもかなり警官によるレイシャル・プロファイリングなどの人種差別的態度、はたまた性的指向の悩みやらあれこれのせいで自暴自棄に陥っており、やはり彼もまたケアのために一旦学校を離れます。

本作『ハートブレイク・ハイ』は性教育が主題ですが、結局のところ、まずは子どもたちには各々のケアが大事なのだという基本を映し出しており、心のケアこそが性教育の基本だとも言えますね。

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クィアフレンドリーな学校でもアセクシュアルは居心地が悪い

2022年版の『ハートブレイク・ハイ』のLGBTQ表象も多彩で楽しかったです。

クィン・ギャラガー=ジョーンズ(クィニー)のレズビアンかつ自閉症スペクトラムとして、どうやって恋人(サーシャ・ソウ)と関係を続けていくのかという奮闘があったり…(ちなみにクィニーの両親は父親たちゲイカップルのようでした)。マラカイ・ミッチェルのバイセクシュアルな自覚にともなう悩みがあったり…。とくに自閉症とクィアを絡めた表象はまだまだ少ないでの今度も増えていくといいなと思います。

また、ノンバイナリーであるダレン・リヴァーズの生き方も印象的。代名詞として「they」を選択するも、父親はその代名詞を面倒くさがって、やや否定的な態度をとるので、家にいられない野宿状態になってしまったり…。なお、あのダレンの父親ピーター・リヴァーズは“スコット・メジャー”が演じており、これは1994年のオリジナルのドラマにも登場していたキャラクターだそうです。その1994年版では10代の少年で問題児だったらしいですが、今回の親としての成長描写はファンには嬉しいでしょうね。

ダレン絡みではボール・カルチャーも描かれており、オーストラリアにどれくらいこの文化が浸透しているのか私は歴史を詳細に知らないのですけど、このドラマの製作陣は『POSE ポーズ』などの話題作の要素が取り入れるのに積極的なのかな。

そしてそんなダレンが好意を寄せ始めるのがファストフード店でデリバリーをしているダグラス・ピゴット(キャッシュ;Ca$h)です。露骨にゲイ文化ポジティブなダレンにキャッシュも感化されていきますが、彼には言えない秘密がありました。

なかなか良いムードになっても体を交えるステップには進まないキャッシュにもやもやするダレン。そしてキャッシュはダレンに「誰に対しても欲求は湧かないんだ、キスはできる、セックスは全くしない」と打ち明けます。

作中でアセクシュアルという言葉は使っていませんが、キャッシュの口ぶりからはほぼアセクシュアルと見て間違いないのかなと思います。最終話ではダレンに「透明みたいだね」と言われますが、これもアセクシュアルを評するいかにもな言葉のセンスですし…。

ここでやはり注目なのは、こんなにクィア・フレンドリーな学校でも、こんなにクィア文化に精通している生徒でも、アセクシュアルを認知していないということ。ダレンも含めて「みんなセックスしたいと思うものだ」と決めつけている。クィア界隈ですらもアセクシュアルの居場所が無いことがハッキリ浮き彫りになっており、生々しいですが、これもアセクシュアル当事者が直面しやすい現実でしょう。

まあ、キャッシュは不良集団と犯罪行為に手を染めており、それとどう見切りをつけるかという問題が喫緊の課題として立ちはだかっているので、最終話はそこにケリをつけた感じですね。

個人的には、何かと人畜無害のように描かれがちなアセクシュアル男性に対して「他者に性的に惹かれなくても性暴力に加担してしまうことはある」という、男性特権の責任というものを、本作はしっかり逃げずに描き切っているのでそこが私は一番大事なレプリゼンテーションだなと思いました。

ラストはダレンへの愛の告白&教室での逮捕という作中最大のドラマチック展開で「お前が主人公だよ!」状態の話題をかっさらっていきますが、続編があるならキャッシュがアセクシュアルという言葉に救われる展開が見たいものです。

『ハートブレイク・ハイ』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 90%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

アセクシュアルを描いた作品の感想記事です。

・『インパーフェクト』

作品ポスター・画像 (C)Netflix ハートブレイクハイ

以上、『ハートブレイク・ハイ』の感想でした。

Heartbreak High (2022) [Japanese Review] 『ハートブレイク・ハイ』考察・評価レビュー