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映画『初恋(2020)』感想(ネタバレ)…闇鍋系ヤクザ映画である

初恋

闇鍋系ヤクザ映画である…映画『初恋』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:FIRST LOVE
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2020年2月28日
監督:三池崇史

初恋(はつこい)

初恋

『初恋』あらすじ

天涯孤独の身で人と慣れ合わない、類まれな才能を持つ天才ボクサーの葛城レオは、試合でまさかのKO負けを喫し、病院へとかつぎこまれた。医師から自分の余命がわずかであるという事実を突きつけられ、自暴自棄になりながら歌舞伎町の街を歩く。そこでレオの目の前に、男に追われる少女モニカの姿が飛び込んでくる。それが運命の出会いとなり、波乱が起こる。

『初恋』感想(ネタバレなし)

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三池崇史はヤクザです(誤解を招く文章)

『孤狼の血』という久しぶりの極太ヤクザ映画の登場に、血に飢えていた悪い顔をした日本観客が「いいねぇ、いいねぇ」と舌なめずりをして喜んだ2018年。

私も大満喫したうえで、「これが日本のヤクザ映画なんだと世界にアピールしてほしい。頑張ってください、東映さん」と誠に勝手ながら最後にお願いする感想を書いていたのですが、さすが東映、私なんかの凡人が言わずとも、ちゃんと考えて行動してくれていました

実は『孤狼の血』の日本国内大ヒット後に、東映製作陣が虎視眈々と準備していた新たなヤクザ映画がありました。それが本作『初恋』です。

タイトルだけ見ると、全くと言っていいほどにヤクザ要素を感じられない雰囲気ですが、きっとこれも普段はヤクザ映画なんてこれっぽっちも観ない、一般観客層にリーチするためのあくどい戦略に違いありません。悪い、悪いですね~。それでこそこの映画らしい手口じゃないですか。

でも、一応はタイトル詐欺にはなっていないし、恋も描かれるのですけどね。なにせこの映画、凄まじくジャンルミックスな作品になっているのです。ロマンス、サスペンス、クライム、スリラー、コメディ、スポーツ…とにかくいろいろなジャンルが闇鍋のようにあれもこれもとひとつのグツグツ煮えたぎった大鍋にぶっこまれており、見た目だけで判断すると「なにこれ?」状態なのですけど、半信半疑で口に入れてみると「あら美味しい」。

ざっくり物語を表現するならば「ボクサーvsヤクザvs中華マフィアvs汚職刑事vsベッキー」です。え、いや、もう二度と繰り返しませんよ。そうです、このカオスさ。これが『初恋』の持ち味。

そんなクレイジーなヤクザ映画『初恋』を生み出したのは、世界的に有名な日本人監督にして、何でも手がける多作な才能のこちらもクレイジー映画人“三池崇史”。ここ最近は『テラフォーマーズ』『無限の住人』『ジョジョの奇妙な冒険』『ラプラスの魔女』と、漫画や小説原作のジャンルムービーが多めでしたが、ここにきてヤクザ業界に返り咲きました(こう書くとカタギからヤクザに戻った人みたいになるけど)。これぞ“三池崇史”の真骨頂。こういうのが見たかった!という映画ファンの需要をガッツリ満たしてくれます。

そしてこの『初恋』、実は日本よりも先に海外で公開されているのも特筆すべき点。カンヌ国際映画祭に先んじて出品され、アメリカでは2019年9月に先行公開。こんなことができちゃうのもやはり“三池崇史”監督の海外勢に通用するネームバリューがあってこそ。しっかり高評価を獲得し、外国人もご満悦な「This is YAKUZA movie」を見せつけてやりました。

出演陣はかなり多く、強烈なメンツばかり。実写映画『東京喰種トーキョーグール』シリーズや『犬猿』での好演も記憶に新しい“窪田正孝”を主人公に据えつつ、それ以外の役を演じる俳優の人たちも主役を食う勢いでガンガン暴れまわっています。

『アウトレイジ 最終章』にも出ていた“大森南朋”も主人公級に味のあるキャラを熱演し、奇才男優“染谷将太”はここでも怪演を連発し続け、『海難1890』の“内野聖陽”が完璧な武闘派ヤクザを体現していますし、あとは“ベッキー”ですね。正直、本作を鑑賞した人は“ベッキー”しか頭に残らないかもしれない。それくらいの“ベッキー”大暴走が見られますので、そこは大いに期待してほしいところ。

本作のヒロインに抜擢された“小西桜子”はこの2020年から一気に躍進しており、今後も活躍がステップアップしていくこと間違いなしの良いスタートを切っているのではないでしょうか。良い作品に巡り会えましたね。

個人的にはアクション映えする“藤岡麻美”をジャストフィットな役に起用しているのも嬉しいですし、『カンフーキッド/好小子』の“ヤン・チャンクオ(顔正國)”がここぞというタイミングで登場するのが最高で…。マニア勢にも目配りしているあたり、“三池崇史”監督、信頼できる…。

ということで怒涛の勢いで展開される本作は細かい説明は不要です。「なんだこいつら…」とドン引きしながらこのノンストップ・ムービーをお楽しみください。ヤクザ映画初心者でも気軽に見学できます。ただし、場外乱闘でこっちまでノックアウトされて気絶しないように注意してね。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(2020年の必見邦画の一本)
友人 ◎(ネタの宝庫で大盛り上がり)
恋人 ◯(ヤクザ映画に寛容なら)
キッズ △(悪い大人ばかりです)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『初恋』感想(ネタバレあり)

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助けてと言われたから

葛城レオはひたすらにボクシングに打ち込んでいました。昨日も今日も明日も無心でパンチを放つ。それはトレーニングでも本番の試合でも同じ。勝負の結果に関わらず淡々としているし、たとえ勝っても喜びの感情をあらわにしないので、コーチからも「何のためにリングあがってんだよ」とぼやかれますが、それも受け流す。心も人生も衝撃を感じないように。

実は葛城レオは、生まれてすぐに親に捨てられた境遇があり、親の顔も知らずに育ち、今はボクサーとしての自分しか存在しないのでした。

そんな動じない葛城レオに、ある試合で転機が訪れます。普通に考えても負けるはずはないと思っていた対戦相手。なのに葛城レオは一撃でKOされてしまったのです。

急遽、病院に行った葛城レオはそこで医者からMRI診断の結果を聞きます。それは聞きたくもないものでした。「かなり大きな腫瘍があり、脳幹を圧迫しています」「極めて難しい手術です」…試合中に予期せぬダウンをしたのは、これのせいだと理解すると同時に、手術をしたらボクシングは無理ですと宣告され、人生が真っ暗になる葛城レオ。

一方、新宿・歌舞伎町ではとある画策が進んでいました。チャイニーズマフィアとの緊張感のある対立にさらされているヤクザ組織に所属する加瀬は、これを好機とみなして作戦を考えていました。それを知り合いである刑事の大伴にも持ちかけ、仲間になってもらおうとします。それは流通する前のクスリを途中でぶんどるといういたってシンプルな行為。普通にやればバレるので、ヤスという元半グレの男の手元にある段階でクスリを強奪、その犯人をヤスが軟禁して体を売らせて稼がせている薬中のモニカという女に見せかけようというものです。

押収したクスリを横流ししている汚職刑事である大伴にとっても悪くはない話。役割分担はこうです。まず大伴がそのモニカという女の相手をし、テキトーに外に出す。その女のスマホをいじって犯人偽装もしておく。その間に加瀬がヤスの家へ行き、クスリを奪って一旦ロッカーに隠す。あとはモニカがクスリを持って逃げたということにすればOK。

しかし、ひとつ問題が。ヤスにはジュリという女がおり、そいつを引き離しておかないといけません。それは別の奴に任せていると言う加瀬。

そしていざ作戦を決行。大伴はさっそくモニカを出会い系を通じて呼び出し、スマホを上手く見ようとしますが、突然、モニカがパニック状態になり、“何か”を見たようで一目散に駆け出してしまします。急いで追いかける大伴。必死に“何か”から逃げるモニカはある若い男とすれ違います。

それこそ、ボクサー人生の消滅に絶望していた葛城レオでした。街中を心神喪失で彷徨い、なんとなく試した占いでも「健康はとってもいい」「まだ若いんだから」と雑なことを言われ、自暴自棄になり、どうするべきかもわからないでいた葛城レオ。

けれども、「助けて」という言葉を耳にした気がして、咄嗟にすれ違った女を追いかけているように見えた男を一発ノックアウト。自分のやったことに茫然となりながら、状況を理解しようとしていると、その男の懐から警察手帳がこぼれてきました。さらに男に追われていた女がいきなり「りゅうじくん」と自分を呼び、手を握って引っ張っていきます。

片や加瀬の方はうっかりヤスを殺害してしまい、状況はクスリの横取りでは済まない次元に。そして、大人しく拘束しておくはずだったジュリは予想外の暴走をし始め、チャイニーズマフィアもその騒動に参戦することになり…。

ヤケクソな人生の悪あがき。最後に笑うのはどちらなのか。

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これが日本のヤクザと警察だ

『初恋』か~、さぞかし初々しいキラキラした恋心が優しく描かれるんだろうな~。

そんなふうに思っていた人が仮にいたとしたら、冒頭からの生首コロコロで固まってしまったかもしれない…。

本作は典型的な巻き込まれ型サスペンスで、そのジャンルを王道にした『ダイ・ハード』から続く伝統のテンプレがあります。ただ、本作の場合はどんどんアンダーグラウンドな奴ら(しかもキャラが濃すぎる)がわんさか沸いてくるので、ちょっと日本版『ジョン・ウィック』と言ってもいいハチャメチャ度合いがあった気がする…。アクション要素はそこまでないけど、理不尽レベルはかなりのものです。

とにかくキャラクターの個性が病みつきになる。もう5分に1回は名言(迷言)を連発しているんじゃないかというくらいの、暴れ放題ですからね。ツッコミ不在なので、基本は観客がツッコんであげる必要があります。

口数の少ない主人公&チャイニーズマフィアに対して、あえて盛り上げようとしてでもいるのかというほどに言動で笑わせるヤクザ勢たち。

その筆頭にしてそもそもな元凶である加瀬。あの全部に勢いで乗っかって状況を打破しようする姿勢、嫌いじゃないけど、たぶん一緒にいたら迷惑だ…。自信満々で“ブツ”の強奪作戦を説明する序盤は前振りにすぎず、以降は己の醜態を全力でセルフカバー。ヤスとの乱闘になってしまって形勢不利になってからの「落ち着け、これ訓練だよ!」、恋人のヤスの死を無念に電話で伝えるジュリの言葉を聞いての「なに?中華野郎か!」などなどセリフが全て名言化する。なんで、こいつ、ヤクザやっているのだろうか…。

最終的には「全部ばれた…」と自分の目論見があっけなく瓦解したことを自覚し、そこから反省するでもなく、勝手に吹っ切れ始めるのもまたよくて…。ラストの一同集結バトルでの「痛くない」「痛いかもしれない」の呟きと、切り落とされた自分の手にぶつくさ文句を言う(「放せって」)姿…。ここまでの愛すべき小物ヴィランを演じられるのは“染谷将太”以外にいなかったです。

そんな加瀬と半ば共犯という名の漫才コンビを結成することになる大伴。彼も彼で割とノープランであり、基本は加瀬に乗っかるという一番頼りにしてはいけない奴の行動ありきなので、それはもう大混乱状態のドツボにハマるハマる。立体駐車場でカーチィス&銃撃戦での、「日本の警察なめんじゃねぇぞ」というお前が警察の代表面するなと言いたくなるセリフといい、大伴もやはり加瀬と同じ穴の狢、いや、類は友を呼ぶと言うべきか。なんで、こいつ、警察やっているんだろう…。

加瀬と大伴が合わさればそれはもう最強のバディ(笑いのセンスという意味で)。二人が葛城レオ&モニカと合流するシーンでの「いらんことにつっこむんじゃねぇよ!」という、おそらく観客全員が「お前らがな!」とツッコミをいれたい衝動にかられるボケ誘発ゼリフ。終盤の首をスパッとやられて転がる加瀬の生首への「なんだよ、いい顔しているじゃないか」というLOVEコメント。

海外よ、これが日本のヤクザと警察だ…!(違う)

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猛獣というか、ドラゴンです

しかし、そんな漫才コンビも吹き飛ぶキャラが。そう、“ベッキー”、じゃなかった、ジュリです。

初登場時から、薬物依存から抜け出せないモニカを異様な剣幕で怒鳴りつけるジュリが、どう考えてもあなたの方がヤクをやっているとしか思えないのですけど…という存在感。

愛するヤスを殺されたと知ってからのジュリはさながら復讐に憑りつかれたジョン・ウィックより怖い。加瀬のしょぼい発火仕掛けの大火災からも窓から飛び出して逃げ切るし…。それ以前に自分をさらった相手を「てめえ何者だよ。勝手に死んでんじゃねぇよ」と死体蹴りしてからの、電話報告が「たぶん日本人じゃない」という、あまりにも情報として乏しすぎるのが笑ってしまうし…。加瀬がジュリを送る車内シーンで、ジュリが包丁を握ったままのもシュールすぎるし…。

あげくに犯人が加瀬だと知ってからの葛城レオらの車に立ちはだかる場面。あそこ、ヤクザのお偉いさんたちもまるで猛獣を解き放つようにジュリを登場させるのが、個人的に一番好きなワンシーン。実質『ゲーム・オブ・スローンズ』のドラゴンと同格ですからね、ええ。「おい、なんだ今の?!」というセリフが飛び出すのも無理はない…。

恋が過激に暴走していく狂気を熱演した“ベッキー”の、若干の自虐的なまでの体当たり演技には、いくら拍手しても足りないです。いいですよね、こういう吹っ切れた感じのやつ。

それにしてもヤスはこのジュリとどう付き合っていたのか、謎だ…。

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「おめでとうございます」な人生もある

漫才コンビとドラゴンが戯れる中で『初恋』における真面目担当になってしまったチャイニーズマフィアですが、片腕のワンといい、女マフィアのチアチーといい、こちらはこちらでかっこよさが際立っていたので良かったです。

もちろん権藤の只者じゃない佇まいからの見せ場戦闘も含めて。こういうところでしっかり魅せてくれるのが“三池崇史”監督のストレートパンチの魅力。

そんなカオスにもみくちゃにされながら、葛城レオとモニカ(ユリ)の関係性が緩やかに深まっていくのもくどくなくていいです。ベタベタのロマンスにせず、あまりにも悲劇性ばかりを煽ることもしない。その絶妙な空気抜きを担う、モニカの父の幻影のどうしようもないダサさも良くて。

一時はどうなることかと思いましたが、最終的に「初恋」というタイトルにつながるオチで綺麗にまとめる手腕、お見事でした。もうあのラストの竜司夫婦の仲睦まじい温かさを見ていると、さっきまでのジュリとかがいた世界と同一線上にあるとは信じられないですが…。あれかな、車で走っているうちに別の次元の世界に移動してきてしまったのかな。そういうことにするか、うん、そうしよう。

「ごめんなさい」ではなく「おめでとうございます」な人生を歩み始めることはきっとできるはず。そのためには変なヤクザや刑事、ヤバい女や男にエンカウントしないようにしないとね。

『初恋』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 97% Audience 88%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2020「初恋」製作委員会

以上、『初恋』の感想でした。

First Love (2019) [Japanese Review] 『初恋』考察・評価レビュー