シーズン2の犯人は誰だ?…ドラマシリーズ『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス(2023年)
シーズン2:2024年にスターチャンネルで配信(日本)
原案:トム・エッジ
恋愛描写
びじるつー ぼうりゃくのぐんじどろーん
『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』物語 簡単紹介
『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』感想(ネタバレなし)
そのテクノロジー、大丈夫?
2024年7月19日、「ブルースクリーン」がその日のトレンド・ワードになりました。その理由は、「CrowdStrike」のセキュリティ・ソフトウェアの更新に致命的な欠陥があったこと(WIRED.jp)。世界各地で約850万台のWindowsのコンピューターが操作不能に陥るかつてない事態で、航空から病院まで生活基盤が機能しなくなってしまいました。
また、この夏は他にもIT災害が発覚。「Intel」のCPUの「Core 第13/14世代」で不具合が確認され、不可逆的損傷が発生するほどの深刻な状況が個別に起きました(ZDNET Japan)。こちらも多くのパソコンを使用できなくさせました。
どちらの問題も広く使われている機器に影響があるものだったので、世界中で大混乱が広がりました。
私たち人類のテクノロジーは進化していると言いますが、現実はこんなにも脆弱だということをあらためて教えてくれましたね…。技術への過信は良くない…。
むしろ今の人間社会はどんどんIT化させすぎてしまったところがあり、脆さが増しているのではないだろうか…。
今回紹介するドラマシリーズは、そうしたテクノロジー過信が軍国主義と合わさって私たちを揺さぶるミリタリーなミステリー・サスペンスです。
それが本作『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』。
本作は2021年に配信されて本国のイギリスで大好評となったドラマ『原潜ヴィジル 水面下の陰謀』のシーズン2です。シーズン1の感想はすでに書いたのですが、シーズン2では『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』と邦題が大きく変わったので、今回は別で感想を書くことにしました。
邦題は変わりましたけど、主人公は同じくスコットランド警察の主任警部であり、シーズン1から時間をあけるも続いています。
シーズン1の『原潜ヴィジル 水面下の陰謀』では、原子力潜水艦を主な舞台にそこで起きた謎の死亡事件を捜査することになっていました。
シーズン2の『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』では、舞台がガラっと変わり、イギリスと中東を行き来することになります。そして、今回も死亡事件が起きるのですが、重大な存在となってくるのが「軍事ドローン」です。つまり、海から空へとチェンジですね。
典型的な「Whodunit」という「誰がやったのか?」という犯人を追っていくシンプルさ、それでいながら国家間の政治的陰謀が裏で動き回る緊迫感の張りつめるポリティカルスリラー、全6話のストーリーが常に毎回のように二転三転していくノンストップ感…。今回もそれが売りになっています。
もうひとつの前シーズンの好評ポイントが、女性主人公に女性の恋人がおり、女性同士のロマンスも描かれるという点でしたが、今回もちゃんと健在。2人の仲がどう進展しているかは見てのお楽しみ。それぞれが協力しながら事件解決に挑んでいきます。
俳優陣は、主人公の刑事役の“サラン・ジョーンズ”、公私でパートナーである女性を演じる“ローズ・レスリー”は、しっかり続投。
今回は新たに、『ミス・マルクス』の”ロモーラ・ガライ”、ドラマ『Crime』の“ダグレイ・スコット”、ドラマ『The Athena』の”クリス・ジェンクス”、”オスカー・セイラム”、”ヒバ・メディア”、”アミール・エル=マスリー”などが参加しています。
ショーランナーは前作から引き続き、『ジュディ 虹の彼方に』の脚本を手がけた”トム・エッジ”。エピソード監督は、今回から“アンディ・ド・エモニー”と“ジョス・アグニュー”です。
『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』は日本では今シーズンも「スターチャンネル」で放送&配信となっているので少し目立たないのですが、関心あればぜひ。
とくにシーズン1を観ていなくても楽しめるので、『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』から鑑賞してもOKです。
『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :短いので簡単 |
友人 | :ジャンル好き同士で |
恋人 | :同性ロマンスあり |
キッズ | :やや暴力描写あり |
『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』予告動画
『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
中東の国、ウディヤン。その地にあるアルショーカ空軍基地では、イギリス空軍の航空団司令官であるアンソニー・チャップマンが娘のサビハに身支度をするように急かしていました。サビハを置いて部屋に入ったアンソニー。聞き耳を立てるサビハには口論の声が聞こえ…。
その後、アンソニーは基地内の外でエライザ・ラッセルに会います。アンソニーはスコットランドに帰国すると言い、それは病気治療のためと説明。暫定指揮官を頼みます。
しかし、娘とタクシーに乗ったアンソニーはこれは国外逃亡だと娘にだけほのめかします。そしてどこかへ…。
こうして責任を背負ったラッセルの最初の任務のひとつ。それは、スコットランドのダンデア軍事基地で行われる兵器ドローン演習の共同実施です。この演習はスコットランドにいるマーカス・グレインジャー空軍中将の監督下にあります。グレインジャーは武器企業のアルバンX社と共にドローン計画を推進しています。このR-PAS(遠隔操縦航空システム)と呼ばれる新システムはウディヤンでもコントロールされており、スコットランドと連携を取りながら 4人で小型ドローンを操作しています。
複数のドローンがフォーメーションを組んでイギリスのダンデア空軍基地内の訓練用ターゲットの建物に接近。一斉に攻撃を開始。小型ながらも高火力です。上層部もこの演習を見守ります。
そんな中、レーダーはすぐに周囲のフェンス近くで民間人を確認しましたが、いつの間にか消え去っていました。
演習は成功し、グレインジャーはウディヤン軍側にドローンの自動操縦機能をみせます。
しかし、コリン・ディクソンの操作するアルファR-PASはなぜか急に地上の兵士に発砲。さらに上層部の見学席に向かってきます。間一髪でニコール・ローソンが自身のブラボーR-PASを使ってアルファR-PASを破壊し、惨劇は終わります。しかし、7人が死亡し、わけのわからないままにコリン・ディクソンは拘束されます。
スコットランド警察の主任警部エイミー・シルヴァは娘を学校に送り届けると電話が鳴り、警部補でパートナーでもあるカーステン・ロングエーカーと一緒にダンデア空軍基地の現場へ。
ディクソンは無実そうです。問題のドローンを制御できた可能性のある人物のうち、残る2人ともウディヤンにいるサム・カーダーとカラム・バーカーでした。現場ではアルバンX社のデレク・マッケイブがドローンのデータを分析するも、いきなりR-PASが爆発。
シルヴァはウディヤンにいるラッセルと技術リーダーであるウェス・ハーパーと遠隔ビデオ通話しますが、ハーパーは「スコットランドに2人、ウディヤンに3人」のドローン操縦者がいると説明します。さらにディクソンの次にアルファR-PASを操縦したのはアントニー・チャップマンだとも…。
それぞれの加害性
ここから『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』のネタバレありの感想本文です。
『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』の主題にして事件の仕掛けとなる「軍用ドローン」。本作に登場するドローン・システムは一応は現状は存在しません。あそこまで小型のドローンに、あれほどの多彩な軍事攻撃機能を搭載するのは、現行の技術では難しいです。
しかし、開発上で目指している方向性としてはああいうドローンでしょう。
現実のイギリスは、今後10年の軍事ドローンの戦略に57億ドルを投じる計画のようで、2024年に発表されたビジョンではしっかり軍事ドローンの活用の具体性が記されています。本作では中東の国での運用になっていますが、実際の今はロシアによる侵攻に晒されているウクライナを想定した計画になっているようです。イギリスはすでにウクライナに4000機のドローンを供給しています(Reuters)。
本作はミステリー・サスペンスを通して、その現在進行形の軍事産業を批判し、なおかつ中東に対するイギリスの帝国主義を諌めています。
序盤からこのシリーズではすっかりおなじみ、みんな悪い奴に思えてくる怪しさがあちこちに散らばってきます。でもこの「みんな悪い奴に思えてくる」というのは当たらずといえども遠からずで、そう感じる理由があります。なぜなら本作に登場する人物の多くがこの軍事産業の下で働いているからです。役目は違えど、軍事産業を成り立たせてしまっている…。その時点で何かしらの加害者なんですね。
本作でなかなか犯人に辿り着けないのは、一種の多重下請けみたいな構造があるからです。
サビハ・チャップマンやロス・サザーランドのような使い捨ての駒になってしまう人もいれば、欠陥も多いドローン・システムを惰性で支えてしまうウェス・ハーパーのような技術者もいる。強欲に企業利益を追求するデレク・マッケイブのような守銭奴もいれば、軍規律に従うだけのエライザ・ラッセルのような正義のない権力追従型の人間もいる。そして、マーカス・グレインジャーのようなどうしようもない自己中な政治を語る奴もいる…。
ウディヤンの反体制派を悪者に仕立て上げ、そうやってスケープゴートにして自分たちは私腹を肥やす。こういう手口は現実の歴史で何度も繰り返されてきたことですけどね…。
ドローンという最新技術があっても、この人間社会の腐った歪みが改善されないと…。テクノロジーの最大の欠陥は、人間そのもの自体なのでした。
公には知られない事実上はしばらく闇に葬られることになってしまう対処にモヤっとする結末ですが、最終話ラストのジャーナリストのフィラス・ザマンの言葉が全てを物語っています。
西洋人の考える中東
ミリタリーなミステリー・サスペンスとしてはじゅうぶんに平均的な面白さを提供してくれる『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』ですが、個人的にはいくつか不満はありました。
ひとつは、前シーズンは潜水艦という閉所密室空間を活用したシチュエーション・スリラーという緊迫感が持続したのに対し、シーズン2の本作は舞台に制約はありませんから(作中で監禁されたりとかの展開は起きるけども)、そういう限られたシチュエーションにおけるスリルが乏しいという点。
別にできないことはなかったと思うのです。中東の軍事基地内から出られない制約が生じるとか、そんな中で推理するのもハラハラできたはず。ドローンを主題にしたスリラーなら『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』という先例の良作もありますしね。
もうひとつの気になる点は本作の最大の問題かもしれませんが、舞台の中東です。本作では架空の国である「ウディヤン」という舞台が設定されています。実在の国は国際情勢を考慮して登場させられなかったのは理解できます。
ただ、結果的にすごく漠然とした「西洋人の考える中東」みたいな大雑把な表象になってしまったな、と。
さらにマズくしたのは、主人公がイギリスの白人だということです。これでウディヤン人を主役にするならまだマシだったかもしれません。でもエイミー・シルヴァが引き続き主人公で中東に乗り込んでそこに巣くう者たちの不正を暴くので、構図としては白人救世主な感じは否めません。
作中のエイミー・シルヴァは常にウディヤンでイギリスが行っていることに嫌悪感を示し、現地の人々に同情的です。けれどもそれ止まりで終わる。今回の事件はこの属性を持つ主人公には非常に不向きだったんじゃないかな…。
また、同性愛の描写も今回のシーズンは少し「う~ん」となるところも…。
いや、シルヴァとロングエーカーのカップルの描かれ方は良かったですよ。今回はより共同で事件を解決する連帯感が強めで、2人の親密さがグっと増しました。ちょっとロングエーカーは妊婦なのに肉体的にも精神的にも負担がかかりすぎじゃないかと不安になりましたけども。心労が多すぎる職場だ…。
問題はアルショーカ空軍基地におけるサム・カーダーとカラム・バーカーの2人で…。
この2人は事件に関与しているのではないかと疑われてきますけど、2人のコソコソしている理由の大半は、2人が実は密かに交際しているからでした。あのウディヤンでは同性愛は法的に違法のようで、人目を避けるしかありません。
もちろんこれは現実の中東の多くの国々でも実態としてあることなので、それを反映しているのでしょう。
しかし、ここでも漠然とした「西洋人の考える中東」みたいな大雑把な表象になっていることが足を引っ張っており、印象としては「中東ってやっぱりLGBTQにとって怖いところだよね」という雑すぎる危険視にしか繋がっていないようにも思います。
スキャンダラスな同性愛以上の、あのウディヤンを主体にしたクィア表象がもっと欲しかったですね。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
作品ポスター・画像 (C)WORLD PRODUCTIONS LTD.
以上、『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』の感想でした。
Vigil (2023) [Japanese Review] 『ヴィジル2 謀略の軍事ドローン』考察・評価レビュー
#中東 #ゲイ #レズビアン