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『デイアンドナイト』感想(ネタバレ)…狭間でもがく30代が生み出した映画

デイアンドナイト

狭間でもがく30代が生み出した…映画『デイアンドナイト』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:Day and Night
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2019年1月26日
監督:藤井道人

デイアンドナイト

でいあんどないと
デイアンドナイト

『デイアンドナイト』あらすじ

明石幸次は父の死をきっかけに実家へと久々に戻ってきた。明石の父は大手企業の不正を内部告発したことを理由に地元では追いやられ、家族も崩壊寸前となっていた。そんな明石に手を差し伸べたのは北村という男だった。北村は児童養護施設のオーナーとして、父親同然に孤児たちを養いながら、清濁を共存させた道徳観を持っていた。それは明石の人生にも影響を与える。

『デイアンドナイト』感想(ネタバレなし)

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日本の30代は頑張っている

俳優が映画の製作に参加し、プロデュースする側にまわるというのは欧米では全然珍しくなく、監督にすら普通になったりするのですが、なぜか日本では滅多に見られることではありません。理由はわかりませんが、やはり俳優は俳優、監督は監督、製作は製作…という“自分の仕事に徹するのが正しい働き方!”みたいな仕事論が常態化しているからなのでしょうか。私としては才能があるならどんどん新しいことに手を広げていってもほしいのですけど。それが業界構造を変える起爆剤にもなりますしね。

そんな保守的な一人一業の価値観が根強い日本映画界で、その流れに反するような俳優がいます。それが“山田孝之”という男。

2005年の『電車男』で主演を飾り、それ以降も順調にキャリアアップしているといえばしていたわけですが、本人的には“そうじゃない”と思ったのか、業界にありがちな俳優の定番進路とは違う路線を取り始めます。話題にもなったNetflixのドラマシリーズ『全裸監督』など、スタンダードから外れたアンダーグラウンドな作品を好み、俳優として活躍を続ける傍ら、製作面にも足を踏み出しました。

そして“山田孝之”があえて俳優としては関与せず、製作、さらには脚本に参加し、自らの力で企画をスタートアップさせた映画が本作『デイアンドナイト』でした。

この『デイアンドナイト』誕生に関わった俳優は“山田孝之”だけではありません。彼と年齢も近い“阿部進之”もまた企画・原案・主演というかたちでガッツリとチームにイン。『仮面ライダー555』や『超星神グランセイザー』など特撮でキャリアを温め、“山田孝之”とは出発点は違いますが、彼もまた同じ志を共有する仲間なようです。

これら野心溢れる若い俳優たちに監督を任せられたのが“藤井道人”という人物。彼は2019年の邦画を語るうえで欠かせない監督のひとりになりました。別に今年にデビューした監督ではないですし、2019年よりも前も作品を手がけてはいたのですが、今年の監督作は本作『デイアンドナイト』と『新聞記者』で相当に尖っていたため、一気に映画ファンの中でも注目監督の仲間入りを果たした感じです。まだ33歳ですからね。これからいくらでもさらなる可能性に満ち溢れていくでしょう。

つまり、30代の俳優二人と監督一人という30代体制で作られた映画が『デイアンドナイト』であり、とても自由奔放にモノづくりを楽しんでいる感じが伝わってきます。日本でもこんなスタイルで映画を作れるのかと気づかされますし、なんだかワクワクしてきますね。

で、肝心の『デイアンドナイト』のクオリティなのですが、こういうインディーズ系ならフレッシュさありきで多少綻びはあっても良し!みたいな評価基準で見がちですが、本作はそんなこともとくにいらない、こんなこと言うとあれですけど、凄いしっかりした映画でそこにもびっくりです。もう“日本映画史に残る傑作誕生!”みたいなキャッチコピーで宣伝されてもおかしくない高品質です(いや、その宣伝文句は恥ずかしいのでやめていただきたいですが…)。

こういう完全オリジナル作品をポンと作れてしまっているから凄いですね。

お話はノワールなサスペンスであり、ある闇を抱えた家族のひとりとして実家に戻ってきた主人公が自分の生き方を見つめ直していくという、まあ、昨今の邦画でもよくあるタイプのもの。これだけだと“またか”感もあるのですが、『デイアンドナイト』は非常に質の高いストーリーテリングがなされているのと、かなりエッジの効いた演出も盛り込まれているので、鑑賞すればオリジナリティをガンガン感じるはず。

俳優陣は主演の“阿部進之”の他に、『貞子vs伽椰子』『劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』でも出演していた“安藤政信”がとても表にできない過去を抱えた男を熱演。また『ちはやふる 結び』『愛唄 約束のナクヒト』でも輝いていた“清原果耶”は、その過去作の明るさとはガラッと変わったシリアスな演技を披露。基本はこの3名がメインです。その3名の主人公側に相対するポジションとして“田中哲司”が印象的な役どころで登場。彼は『新聞記者』でも似た感じの立ち位置でしたね。

これ以外に出番は少なめですが、“小西真奈美”、“佐津川愛美”、“渡辺裕之”、“室井滋”など俳優たちが抑えた名演をさりげなく見せてくれます。

「人間の善と悪」をテーマにした境目を彷徨うような内容ですが、この映画自体は中途半端な迷いは微塵もなく作られています。見逃している人もぜひ鑑賞してみてください。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(隠れた話題作は必見)
友人 ◯(映画好き同士で)
恋人 ◯(俳優目当てで話のネタにも)
キッズ △(大人のシリアスなドラマ)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『デイアンドナイト』感想(ネタバレあり)

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善と悪、どちらにいるのか

走るバス。それに乗っている男「明石幸次」の表情からは感情は読めません。キャリーケースを引きずり、久しぶりの実家の帰省。塀には「死ね」などの文字が大量に落書きされています。しかし、家から出てきて「こうちゃん」と呼びかけ出迎えたはそれをあえてスルーしているのか、普通に振る舞っています。

父の遺体と対面。も揃って家族3人での食事をしますが、妹はそそくさと仕事に出ます。二人っきりになった明石幸次は母に「何があったの」とボソっと尋ねるのでしたが、母の答えは曖昧でした。

父の手記のようなものを見つけ、それを開いて読んでみると「善と悪はどこからやってくるのか。そして私は今、どちらにいるのだろうか。」と書いてあるのを発見。

市役所の戸籍課へ行き、死亡の手続きを済まします。葬式もなく火葬を母と二人で終わらせ、これからどうするか決まりもせずに、夜にうろつきます。向かったのは父が働いていた「明石モーターズ」という小さな会社。その敷地は管理も放棄され、建物も無残な状態に。それを見つめていると、「北村」という見慣れない男が話しかけてきます。「悔しいですよね」「正しいことした人間が追い詰められて間違った人間が生きている」「自分なら絶対に許さない」…そう言って同情し、父と関わりがあったと口にする北村。

朝、玄関で母が記者らしき人から何かの質問を受けていました。「被害に遭われた方に何か一言ありますか?」という問いに力なく逃げる母。明石幸次は母に北村のことを尋ねますが、知らないとのこと。

すると今度は中町自動車の「三宅」という男が来ます。先ほどとは打って変わって「帰ってください!」と厳しく追い返す母。「お父さんを殺したのはあなたじゃないの」と言い放ちますが、三宅も「虚偽の告発で人生を狂わされた人はたくさんいる」「自分の罪が抱えきれなくなったんでしょう」と尻込みすらせず逆に反論。明石幸次にも「あなた父親のこと何も知らないでしょう」と言葉を投げつけます。

確かにそのとおりで何も知らなかった明石幸次は自分なりに情報を収集しだします。父の部屋にあった部品や新聞記事を見つけながら何が起こったのかを整理。どうやら父は大企業相手に内部告発して村八分にされたようで、その大企業に頼る地域だったので町の人は今も冷たい態度をとっていたのでした。ある人は「徹底的に追い込む」と言い、ある人は「正しいとか悪いとかの問題じゃない」と言う、そんな状況。脅しの電話も平然とかかってきますが、母は無力。明石幸次は「なんとかするから」と母の前では言いますが、打つ手すら見つかりません。

そこでとりあえず生活費を稼ぐべく、以前に出会った父と知り合いだという北村のもとへ名刺を頼りに向かいます。そこは「風車の家」という名の児童養護施設で、親に育てられた子どもたちが大勢いて集団生活をしており、北村はオーナーを務めていました。その外には父が作った子どもサイズのロボットがあり、絵に描いたような善人だったと語ります。

「なんで親父は死んだんだと思いますか」との明石幸次の質問にも「わからない」「どんな人間にも表と裏がある」と答える北村。

「僕のところで働かない?」と言われ、東京で居酒屋で働いていたことから料理を担当することに。どんなことがあっても助け合って生きていくことを第一にしているこのコミュニティ。そこにはなぜか東京に関心を持っている、言葉少なげな「奈々」という女子高生がいました。

夜。一緒に別の仕事をするべく車で連れられる明石幸次。この夜の仕事は父も手伝っていたらしいですが、「とりあえず見て覚えてください」と言われるばかりで詳細はわかりません。

どこかの駐車場に到着すると、慣れた手つきで車をこじ開け、装置をつなぎエンジンを起動。「次いきますか」と今度も民家の車をリレーアタック方法でいとも簡単に盗みだします。「これって盗んで売るってことですか?」…そう言って北村たちの裏の顔を知ることに。しかし、「明石君のお父さんのしたことは正義だよ。俺たちのやっていることは犯罪だけどあの子たちを生かしている」「善と悪は法律では決めれない。自分の正義を信じないと」…そういう北村の言葉に返すことはできませんでした。

こうして明石幸次は昼は「あかしシェフ」として子どもたちに料理をふるまい、夜は窃盗や裏稼業で金を稼ぐという二重生活をすることになります。

父と同じように…。

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映画が抱える正しさ以前の欠陥

『デイアンドナイト』は「正しさ」とは何か?という非常にわかりやすい命題があり、加えて地方が舞台なので(おそらく秋田県)、地方特有の閉鎖的社会での「正しさ」がキーワードになってきます。

地域の経済や雇用を支える大企業の不正を告発して多くの住民の生活を乱した明石幸次の父は正しいのか。大義名分のもと明石幸次の父を追い込み、死に至らしめた三宅良平は正しいのか。子どもたちを救うためといって犯罪にすらも手を染める北村健一は正しいのか。自分の妻を殺した犯人を殺害し、その犯人の娘であることを奈々に黙る北村健一は正しいのか。それらの事実を知ることもなく今まで流されるように生きてきた明石幸次は正しいのか。

最初にいきなり苦言になってしまいますけど、このテーマに対して本作はかなり安易な二項対立になってしまっている感は否めません。最終的には明石幸次と三宅良平と文字どおり血生臭い殺し合いとなるわけで、これはまさに地方の保守的な権化の代表と、それに抗いたい意思が残る男の戦い。『デイアンドナイト』の製作陣の業界での立ち位置とも重なるともとれます。

おそらくその二項対立を中和するべく中心に置いているのが奈々であるのでしょうけど、彼女の存在感は非常に言ってしまえば「男性幻想」的で、個人的意見で言えばこれもまた安易かなとも思います。闇を抱えつつもイノセントな存在感。女子高生という年齢やビジュアル。男性陣への冷たくもありつつ内では親身な態度。ハッキリ言って露骨にステレオタイプです。

そう考えると『デイアンドナイト』はかなり作り手の男性視点が濃すぎます。結局は明石や北村サイドですらも男のナルシズムな保護欲と犠牲というマスキュリニティそのものですから。

最後にバスで今度は奈々が東京に向かうという対比で終わらせるくらいなら、もっと奈々に自立性を与え、男側を完全に切り捨てるくらいのラストがないと(おカネを受け取らないとか、刑務所の明石に面会に行かないとか)、物語の解放感は乏しいかな、と。

『ジョーカー』みたいに男性幻想的な女性キャラは本当に幻想でした!くらいのトリッキーなオチでもできれば良かったですけどね。

業界の新風を巻き起こす製作陣のクリエイティブな挑戦心が光る『デイアンドナイト』ですが、男ばかりなクリエイティブ性は仇になっており、ジェンダー・バイアスの軽視につながっているように思います。

そこだけは『デイアンドナイト』の闇に隠しきれない、欠陥のあるパーツでしょうかね。

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撮影と演技が暗闇でも光る

そんな割と致命的な問題点も指摘できなくはない『デイアンドナイト』ですが、その欠点も吹き飛ばすくらいに全体的に完成度のルックがいいのも事実。

まず映像の撮影面。幾度となく挿入される風力発電の施設。そのブレードが常に一定のペースで回り続けるさまはそれこそどんなことにも動じず、黙々と存在するだけを正しさとする地方の怖さを暗示するようです。もうこの映像だけで「田舎、怖い!」的な感情が煽られます。

そして『デイアンドナイト』というタイトルのとおり、この映画は二面性が重要になります。昼の世界と夜の世界、笑顔の世界と暴力の世界、家族の世界と裏切りの世界、光の世界と闇の世界…。そういう二つの世界をあえて強烈に対比する演出の思いきりの良さが目を惹きます。とくに明石幸次が北村たちの夜の仕事をまざまざと見せつけられ、完全に受け入れた後の、あの連続的なシーン。パッパッと昼と夜が切り替わるあの演出は怖くもあるわけですが、同時にカッコいい空気も確かに感じ、明石幸次がそこに傾倒していくのも頷けます。

東京の美大に進学しようか悩む奈々が少し暗い時間帯に帰ってきて、施設の電気が消え、誕生日の飾りつけのイルミネーションがだんだんとついていくシーンなんかは、その二面性の中間的ですごく印象に残りました。

こうやってわかりやすいくらいに光と闇を強調する演出は完全に映画の個性になっていました。撮影は『帝一の國』『ユリゴコロ』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』の“今村圭佑”で、“藤井道人”監督作では『新聞記者』等よくタッグを組んでいるのですが、良い仕事をしています。

撮影以外だと俳優陣も凄まじくハマってます。無論、本作の発案者でもある“阿部進之介”演じる明石幸次は完璧で、あの世界に無関心しすぎて今さらついていくのに必死な感じはそうそう出せるものじゃないですね。逆に“安藤政信”は世界の現実を直視しすぎて感情が麻痺している存在感をぞんぶんに体現していました。

そんな二人の“無”のオーラに負けない“無”を放つ“清原果耶”。NHK連続テレビ小説『なつぞら』でもメイン主役を脇に押しのけて話題になったりしていましたが、やっぱり底知れぬ才能があるなぁ、と。このまま良い主演作にガンガン巡り会ってほしいものです。

個人的には、川上に不正の証拠を売るなど割とガッツリ糞野郎なチャラチャラした男「山口」を演じた“山中崇”の演技が印象的。ちゃんと彼にも昼の世界としてスーパーマーケットのシーンが用意されていて、あそこでのどうしようもないほどに素朴なカップル感とかもいいですよね。本当は明石幸次とキツイ対立をかましたばかりなのに、昼の世界で出会うと「あ、どうも…」みたいな空気。あのキャラの変わりっぷりとかすごく好きです、私は。

この映像力と演技力だけでもじゅうぶんお釣りのくる一作でした。

“藤井道人”監督にはこれからも業界の空気を無視して好き勝手に映画を作ってほしいですね。“山田孝之”プロデューサーにはその手腕をいかして、ぜひ日本映画界で過小評価される女性クリエイティブの力を底上げする役割を期待したいところ。全裸になる前に。

『デイアンドナイト』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)「デイアンドナイト」製作委員会

以上、『デイアンドナイト』の感想でした。

Day and Night (2019) [Japanese Review] 『デイアンドナイト』考察・評価レビュー