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『ヘレディタリー 継承』感想(ネタバレ)…オカルト映画の突然変異

ヘレディタリー 継承

オカルト映画の突然変異…映画『ヘレディタリー 継承』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Hereditary
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年11月30日
監督:アリ・アスター

ヘレディタリー 継承

へれでぃたりー けいしょう
ヘレディタリー 継承

『ヘレディタリー 継承』あらすじ

祖母エレンが亡くなったグラハム家。祖母の娘であるアニーは、夫と2人の子どもたちとともに淡々と葬儀を執り行った。祖母のいない喪失感を残しながらも普通に過ごそうとしていると、家族に奇妙な出来事が頻発する。

『ヘレディタリー 継承』感想(ネタバレなし)

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これがデビュー作…!?

「遺伝」という言葉は、科学者でなくとも日常の一般社会で普通に使われるようになった生物学用語のひとつですが、理解しているようで正しくは理解できていない言葉でもあります。例えば、「あなたの〇〇は劣性遺伝です」と言われたら、どう思うでしょうか。結構多くの人は“嫌な気持ち”になるのではないでしょうか。「えっ、私、なにか悪い状況なの?」そんな不安を抱くはずです。

その理由は、「優性遺伝」「劣性遺伝」という言葉に「性質の優劣がある」という印象を持ってしまっているからです。実際はこの言葉はあくまで「表れやすさの違い」を述べているだけです。なのであなた自身が劣っているわけでありません。

それでも世の中では「優性遺伝」「劣性遺伝」をめぐる誤解が蔓延しているため、2017年、日本遺伝学会が「優性遺伝」を「顕性遺伝」に、「劣性遺伝」を「潜性遺伝」に、言い換えることを提案しました。しかし、あんまり浸透していない気がします。これからなのでしょうか。

他にも「なんでもかんでも遺伝のせいにしてしまう」といった「遺伝」にまつわる一般の誤解は多く、いろいろ注意しなければいけないですね。

そんな遺伝に対する不安感を独創的なイマジネーションで表現したホラー映画が本作『ヘレディタリー 継承』です。原題の「Hereditary」は、まさに「遺伝性の」という意味。

2018年は『クワイエット・プレイス』、『イット・カムズ・アット・ナイト』とスマートなホラー映画が連続していますが、『ヘレディタリー 継承』はそれに続くこれまたインパクトのある一作です。面白いのがこの3作、どれもホラー映画であってもジャンルが微妙に違うんですよね。『クワイエット・プレイス』はエンタメ系の強さが濃い映画で、『イット・カムズ・アット・ナイト』は嫌な気持ちにさせる心理スリラー要素が濃い映画。

では『ヘレディタリー 継承』は? 本作は分類するなら「オカルト系ホラー」です。過去作だと『ローズマリーの赤ちゃん』や『エクソシスト』の系譜ですね。

なのでホラー映画の中では最も観客を選ぶタイプといえるかもしれません。オカルトですから、突拍子もないことが次々と発生します。理屈では説明不可能。ショッキング映像連発。好きな人は手を叩いて喜び、慣れてない人はただただ困惑…。間違いなく万人にオススメできる映画ではありません。

しかし、本作は批評家からの評価がかなり高く、この手のジャンルが好物なマニアからもなかなかない絶賛を受けています。私も本作のクラシックな伝統を継承しつつ、そこに変異レベルの斬新さを加えてくるテクニックにまんまとハマりました。

監督の“アリ・アスター”は、これが長編デビュー作だそうで。なんなんでしょう、ホラー映画界隈の新たな才能の出現率。これ自体がオカルトですよ…。

ネタバレできないので具体的には言いませんが、いきなり冒頭から凄いです。絶対に途中入場で鑑賞するのはダメなやつです。最初から瞬きなしでスクリーンを直視して観ましょう。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ヘレディタリー 継承』感想(ネタバレあり)

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この世界は作り物?

映画冒頭はこんな風に始まります。

窓から見えるツリーハウスを映し、そこからぐるっと部屋を見渡すようにカメラが動きます。そして雑多な部屋に置いてあるミニチュアの家で停止。その小さな家のある部屋にズームしていきます。すると、そのミニチュアの部屋の扉が開き、「ピーター」と呼びかけて若い青年を起こす男性が出現。すると今度はカメラが外に切り替わり、先ほど映っていたツリーハウスに入る男性は、今度はチャーリーという名の少女を起こします。

「ん?」です。これが映画館でないのなら、一時停止して巻き戻したい気分。さっき、ミニチュアの部屋が…あれっ?

本作、これ以降はこの冒頭の観客混乱必須のトリックカメラを説明するようなことはありません。完全に放置プレイです。

この後の場面でも、意図的にカメラをひいて景観や部屋を遠めで映しているカットが多かったり、作り物を匂わせる演出は多いです。そして、次々と起こる奇怪現象もまるで誰かがミニチュアで操作しているかのような、非現実感。

しかも、本作の主人公となる家族グラハム一家のアニーはミニチュア模型を作るアーティストが職業です。彼女が作中で作っているミニチュアも余計に意味深なものばかり。亡くなった祖母(アニーの母)をミニチュアの部屋においたり、はたまた悲惨な“事故”によって死亡した娘のチャーリーの凄惨な現場をなぜかミニチュアで再現したり。序盤では病院を作っていたらしい話も聞けます。つまり、全部が現実と関係のあるものです。

観客はこの物語がまるでどこか別次元の“作られた”モノのように思えてきて、妙にフワフワした気持ちになります。結果的に、作品全体が紛い物にすら見え、何が起こっておかしくない不安感を増長させる。この映画デザインの綿密さが怖くもあり、また秀逸でもあって。

突然鳴り出す音や現れる存在で恐怖を煽るのはホラー映画の常套手段ですが、本作は外側から無意識的に包囲してくるという、なんとも“いや~”な作品でした。

ちなみに本作の室内シーンは、スタジオに部屋のセットを組み上げて撮っているそうなので、本当に全部作り物なんですけどね。

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この家族はオカシイ

紛い物に見えるのは作品の環境だけではありません。

本作の主人公となるグラハム一家も、相当に怪しい。冒頭は祖母エレンが亡くなったことで葬儀に出席する家族のメンバーが映し出されるわけですが、全然哀しそうではありません。どうやら祖母エレンは家族にとって“いわくつき”の重要な存在だったらしく、快くは思っていないがゆえに、こんな微妙な反応らしいということはわかります。

それにしたって何か変。普通、ホラー映画では誰か感情移入できるような自分をメインに据えて、その人物に重なるように観客は恐怖体験を味わうのがセオリー。しかし、本作は家族の誰とも心を通わせ合う隙は一切なく、物語は進行してきます。

そして、ついに衝撃の事件が起きます。この「チャーリー頭部クラッシュ事件」(勝手に命名)。一般的な感覚からすれば、幼い子どもが悲惨な事故で惨たらしく死ぬシーンですよ。観るのもツラい嫌な気持ちになるはずです。ところが、このチャーリーですら、最初からどこか不気味なため、これまた全く感情の置きどころがない。よりによってチャーリーは学校で窓にぶつかって死んだハトの首をハサミで切断して持ち帰るという、なかなかにブラックジャックなことをするわけです。それが因果応報なのか、自分の首もぶっとぶのですから…。

でもこの「チャーリー頭部クラッシュ事件」のシーン。ホラー映画の見せ方としては最高でした。しかも、残った頭部がアリにたかられているという追い打ちもあって。これ、考えた監督、狂ってるな~(褒めています)。

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遺伝した負の正体

家族すら紛い物に見える理由は最終的に明かされるとおり。このグラハム一家は愛や信頼で結びついた家族ではないのでした。

そもそもアニーは、こっそり参加していた遺族カウンセリングで打ち明けますが、母であるエレンが解離性同一性障害を発症していたという問題や、父が統合失調症だったこと、兄の被害妄想的な自殺、そして自身も重度の夢遊病に悩まされ、子どもさえも危険にさらした過去を抱え、自分の家族がなんらかの先天性遺伝による“負”を背負っているという不安を持っています。

無論、それらが全て遺伝で説明がつくわけはありません。ただ、そのせいで息子のピーターが生まれた時も素直に喜べないという状況に陥るなど、自ら状態を悪化させています。そのアニーの不安は子どもであるピーターやチャーリーにも伝染していき…あとは結末どおり。

最終的にこの家族が抱える“負”は、祖母エレンが長となっていたカルト教団に発生源があり、それに気づいたときはすでに遅し。アニーは「夫スティーブン大炎上事件」(勝手に命名)で精神を崩壊、人ならざるものに体を明け渡し、最後は生き残ったピーターが悪魔「パイモン」の復活の土台となって、エンディング。
めでたし、めでたし(えっ)。

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顔パワーが武器の俳優陣

『ヘレディタリー 継承』は俳優が本当に素晴らしく、どうやってこんな逸材を揃えたんだという感じ。顔パワーが凄いです。

アニーを演じた“トニ・コレット”なんて、私は今まで出演作品をいくつか観ていますけど、そこまで意識していなかったのですが、今作の怪演は見事としか言いようがない。娘を失うわ、交霊術に驚くわ、母の真実を知るわ、どんどん異常な事態に襲われ、最後は「夫スティーブン大炎上事件」で精神がパーン!と壊れる。あの瞬間の表情変化は神がかっていますね。本当にこの俳優自身が壊れたんじゃないかと心配するレベルです。私が撮影現場にいたら、絶対にチビッているに違いない…。

その娘チャーリーを演じた“ミリー・シャピロ”も負けていない。あの顔で睨まれたら、私も「ハトでもなんでも好きなだけ首を切ってください」ってなる…。演じている当人は可愛らしい子なんですよ。本作の場合、メイクでかなりに不気味に盛っているのかな。

ちなみに公式サイトのキャスト紹介では“ミリー・シャピロ”はこう説明されています。

2002年、アメリカ合衆国フロリダ州タンパ生まれ。13年、ブロードウェイ・ミュージカル「マチルダ」ブロードウェイ公演『Matilda』にて主人公・マチルダ役を演じ、トニー賞を受賞したほか、グラミー賞の候補にもなった。その他の舞台出演作に、オフ・ブロードウェイ作品『You’re A Good Man』のサリー役、ヨーク公劇場の『Charlie Brown』などがある。また、姉のアビゲイル・シャピロと、歌手として数多くのCDをリリースしている。本作『へレディタリー/継承』にて長編映画デビュー。女優、歌手としての活動以外にも、全国的な《NO BULLY(イジメ根絶)》キャンペーン活動を行っており、子供を勇気づけ守る運動に頻繁に参加している。

なんだ…大人の私の数倍も素晴らしいプロフィールをすでに持っているじゃないか…。

ピーターを演じた“アレックス・ウルフ”も良かったです。『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』では気弱な青年役でしたが、『ヘレディタリー 継承』では多才な演技力を発揮。とくにアニーの交霊術に付き合わされるくだりのパニックっぷりがいいです。

個人的には、アニーが遺族カウンセリングで出会うジョアンを演じた“アン・ダウド”のあの胡散臭い感じもたまらないのですが。興奮気味に交霊術をやってみせてハイになっている姿とか、ちょっとしばらく観察してたいです。それに対比してその隣でガクブル状態で怯えているアニーの姿は、今思うとギャグでしかないですね。

ということで、気持ちのいいオカルトホラーでした。今後の“アリ・アスター”監督の新作にもとっても期待です。

パイモン万歳!

『ヘレディタリー 継承』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 62%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★

(C)2018 Hereditary Film Productions, LLC

以上、『ヘレディタリー 継承』の感想でした。

Hereditary (2018) [Japanese Review] 『ヘレディタリー 継承』考察・評価レビュー