ラスト・クリスマス
映画『ラスト・クリスマス』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Last Christmas
製作国:イギリス・アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年12月6日
監督:ポール・フェイグ

ラスト・クリスマス

あらすじ

ロンドンのクリスマスショップで働くケイト。華やかな店内のイルミネーションとは裏腹にケイトの心は深く沈んでいた。何かと失敗の連続で上手くいかない人生にすっかり嫌になり、仕事にも身が入らない。そんなある日、ケイトの前に不思議な青年トムが現れる。トムはケイトが抱えるさまざまな問題を見抜き、彼女に答えを導き出してくれるが…。

『ラスト・クリスマス』感想(ネタバレなし)

あの定番曲の意味を知っている?

日本でも洋楽はイベント、創作物、店内BGMなどいろいろなシチュエーションで流れて耳にすることができます。でもときおり「あれ?」と思うこともあるわけです。「ここでこの曲をセレクトするのは変じゃない?」と…。というのも私たち日本人は基本的に外国語の歌詞を理解せず、メロディだけで曲を気に入るかどうか判断してますから、後から歌詞をじっくり読むと「え!そんな内容の曲だったの!」とびっくりすることがあります。ゆえにミスマッチも当然起こります。下ネタ全開の曲も子ども向けイベントで使ってしまったり、差別との戦いを歌うシリアスな曲をやたら明るい高揚感のあるシーンで流してしまったり…。

例えば、ジョージ・マイケルとアンドリュー・リッジリーからなるイギリスの二人組ミュージシャン「ワム!」が1984年にリリースした曲「Last Christmas」。非常に人気の高いクリスマスソングであり、日本でも誰しもが聴いたことがある曲で、多くのアーティストによってカバーもされています。割と賑やかなことが多い他のクリスマス曲とは違って、センチメンタルなメロディでムードを醸し出してくれるため、ここぞというときによく多用されがちな曲です。

でもこの「Last Christmas」、歌詞を見れば一目瞭然なのですが、失恋を歌っているんですね。しかも相当にその過去の恋を引きずっている感じの内容です。だから今まさにロマンチックな恋が絶好調で見つめ合っているカップルを絵にしてこの「Last Christmas」を流すと、変な意味にも感じてしまわなくもない…。失恋フラグみたい…。

これは英語歌詞を理解していない日本人特有なのかなと思っていたのですが、別に英語圏の国でもそこまで気にしていないところもあって…。なんかここまで名曲だと「細かいことはどうでもいいの!」って感じになるのでしょうかね。ま、良い曲だし、何でもいっか(通常の着地)。

けれども本作『ラスト・クリスマス』を観れば、「Last Christmas」の曲の意味をしっかり頭に印象づけることになるかもしれません。

この映画はその直球そのままなタイトルのとおり、ワム!の「Last Christmas」に触発されて生み出されたオリジナル・ストーリーのクリスマス映画です。「Last Christmas」はもちろんのこと、ワム!や解散後にソロ活動していたジョージ・マイケルの曲も多数使って物語が展開していきます。

お話自体は主人公の女性が冬のロンドンで謎めいた男性と出会い、だんだんと親しくなっていく…という典型的なクリスマス・ラブコメ。ロンドンつながりだと『ラブ・アクチュアリー』などの有名映画もありますが、それと同じ系譜です。しかし、『ラスト・クリスマス』、実は意外な展開も…とこのあたりに関しては観てのお楽しみ。一応、ネタバレ厳禁な映画なので、鑑賞前に情報収集する際は気を付けてください。

監督は『SPY スパイ』『ゴーストバスターズ』『シンプル・フェイバー』と、ジェンダーに関するテーマの中でキャラクターを転がすのが非常に上手い“ポール・フェイグ”です。実は彼は2006年に『エアポート・アドベンチャー クリスマス大作戦』というクリスマス映画を監督しています。なお、そちらは大コケでした…。


ただし、今作『ラスト・クリスマス』では“ポール・フェイグ”はどちらかといえば雇われ監督的なポジション。製作に関して本作を根本から担っているのはあの人、“エマ・トンプソン”です。そもそも本作のストーリー原案は“エマ・トンプソン”と夫“グレッグ・ワイズ”が考えたもので、“エマ・トンプソン”は製作&脚本もガッツリ担当。思いっきり“エマ・トンプソン”の映画と言って差し支えないレベルです。彼女は1995年の『いつか晴れた日に』でアカデミー賞脚色賞を受賞していますし、ここまで自分体制で映画作りするのは久しぶりかも。

出演陣も要注目の俳優揃い。主演となる二人の男女を演じるのは、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で炎の中から蘇ってキャリア的にも大飛躍を遂げ、『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』でもヒロインを演じたばかりの“エミリア・クラーク”。そして、『クレイジー・リッチ!』での俳優デビュー以降、『シンプル・フェイバー』でも活躍し、恋愛は不向きとされてきたアジア系男性のレッテルを吹き飛ばしてくれている“ヘンリー・ゴールディング”。この二人の組み合わせが新鮮ながら本当に楽しそうに演じており、幸せオーラがこちらまで届いてきます。

他にも『クレイジー・リッチ!』で“ヘンリー・ゴールディング”と共演したばかりの“ミシェル・ヨー”も登場。ドラマの『スタートレック ディスカバリー』ではカッコいい姿を見せていましたが、今回はかなりお茶目な役です(なんか『ポリス・ストーリー3』でも縁がある“ジャッキー・チェン”みたい)。

ホリデーシーズンが到来し、私ももう5~6本は2019年のクリスマス映画を鑑賞しましたけど、この時期はやっぱり1本くらいはこのジャンルを観ておかないと。ありがたいことに日本でも本作はクリスマス時期に公開してくれました(配給さん、わかっている)。「Last Christmas」の曲を聞くと発作で死ぬという人でもないかぎり、気軽に観に行ってください(そういう物語、面白そうだなぁ。「Last Christmas」の曲を聞くと発作で死ぬ人がこの時期を乗り切るために奮闘する映画…)。

オススメ度のチェック
ひとり◯(独りで観てもいいじゃないか)
友人◯(俳優ファン同士で)
恋人◎(クリスマス映画にどうぞ)
キッズ◯(大人の気分を味わう?)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ラスト・クリスマス』感想(ネタバレあり)

ラストになってしまえ、クリスマス

ケイトは憂鬱でした。

世間はクリスマス・シーズン。街はいつもと違った空気が漂い、街行く人々の心もどこかきらめいたりする季節です。

でもケイトは違います。クリスマスだからといって特別な気分にはなりません。なぜなら彼女はクリスマスショップで働いており、年がら年中オーナメントなどの飾りつけアイテムを客に販売するという、変わり映えのしない仕事をしているから。当然、出世のチャンスなど欠片もない、夢も希望もない立場に憤慨でした。クリスマスなど最も憎むべき対象で、観飽きているのです。

今日もトナカイの置物に八つ当たりしますが、日常に変化は起きません。ショップ内にところ狭しと輝くイルミネーションとは正反対のダークな心の沈み具合。完全にフォースがダークサイトに堕ちています(あれ、そんな展開があったような…)。それどころか最近は嫌なこと続きで、ますますイライラしていました。

ルームメイト(イギリス英語ではフラットメイトと言う)と仲違いをして部屋を追い出されてしまったため、キャリーケースをゴロゴロひきずりながらの職場出勤。

職場の上司である通称「サンタ」はいかにも厳しい頭でっかちな奴で、その業務命令によりエルフに扮して客対応するも、その姿はもはや怒れる細身のハルク(実際はサンタ衣装の緑カラー版に過ぎないのですけど…)。

不機嫌に今日の仕事をこなしていると、ふと窓を覗くと、上を見上げる謎の男性がいました。珍しいものでもあるのかと思うのですが、彼だけが上を見上げているので明らかに変です。思わず気になって近くに寄り、一緒に隣で見上げると、鳥が止まっているだけでした。なんだそんなものかと思った瞬間、顔面に鳥の糞が直撃。またついていない自分に心底ガッカリ。しかし、その男は妙にポジティブな言葉をかけてくれます。

仕事も終わり、ちょっと手間取ったケイトはダッシュである場所に向かいます。彼女はずっとこの仕事を続ける気はなく、夢は歌手でした。歌のオーディション会場へ息も絶え絶えに到着し、エルフ衣装のままアカペラで歌いますが、結果は残念なものに。

その帰り、またあの男に出会います。トムという名のその男はやっぱり謎だらけですが、なぜか嫌いにはなれず、楽しい短い時間を過ごします。

家はないので友人宅に一時的に住まわせてもらうも、ここでも嫌われてしまい、失敗を繰り返すケイト。さらに最悪の失態も追い打ちに。それは自分の不注意で店の戸締りをしなかったために、空き巣に入られ、店内はグシャグシャになっていたのでした。上司からも失望されるケイト。この時期にサンタに怒られる存在は自分くらいなものなのか…。

夜、たび重なるショックの連続で落ち込み座っているとまたあの男が自転車でやってきます。そしてサラッと励ましてくれるトム。自分を尾行でもしているのかと思うくらいの遭遇率の高さですが、そうではないようで、悪意があるとも思えない。本当にミステリアス。

とりあえず行き場もなく両親宅へ向かったケイト。しかし、両親は出来の悪い自分にはあまり目を向けてくれていない気もする。実家なのにそこさえも居心地が悪いケイトはまたもひとりでブラブラと夜中にうろつき、またまた何度目になるかわからないですが、トムと鉢合わせ。誰もいないスケートリンクで、天井にはライトアップで照らされる中、二人で滑ったり、はたまた別の時にはトムのアパートに行ったりもしました。その部屋はやたらと殺風景でしたが、ケイトはトムに自分の本心にある不安を吐露します。

それは自分の過去のある出来事の話にも言及。自分に心をくれた、大切な事件。自分は半分は死んでいるような存在なのか…トムはその言葉を黙って聞いてくれて…。

本当の秘密を知らないラスト・クリスマスはすでに始まっていました。

ラスト・クリスマス

なんだこの全員のキュートさは…

『ラスト・クリスマス』の最大の魅力は何と言っても主演二人のキュートさ。基本、それをずっと眺めているだけの映画と言ってもいいです。

“エミリア・クラーク”は『ゲーム・オブ・スローンズ』での非常にダークな影のある強烈なキャラクターの印象が強く、このイメージを覆せるのかなと今後のキャリアに不安さえ感じるほどでしたけど、当人の演技力が素晴らしいので全くの杞憂でしたね。『世界一キライなあなたに』でもロマコメに関わりましたが、あれはアレでしたから別枠として、今回の『ラスト・クリスマス』はド直球なコメディエンヌっぷりを披露。あんなに顔がコロコロ変わる“エミリア・クラーク”を初めて見ました。

転び方が非常にさまになっているのが良いです。全世界転倒選手権があったら女子部門で金メダルを獲得できます。転び方も上手いのですけど、製作陣の転ばせ方も上手いですよね。ちゃんと確かにそれは気を付けてないと転ぶなというところで転ばせてます。もちろんこれはオチを知っているとわかるのですが、ケイトは実質ひとり空想トークをしながら歩いているわけで、だから転んでいるという合理的理由があるのですが(まあ、でもそうじゃないときも転んでいるから根本的に転びやすいのかもしれない)。

後は歌唱シーン。“エミリア・クラーク”本人が歌っているみたいですけど、絶妙に下手な感じがまた…。逆にホームレスたちの意外な歌唱パフォーマンスがまた愉快でしたが。

一方で“ヘンリー・ゴールディング”。これは彼の過去の出演作から継続しての印象ですけど、あの気さくな嫌みのない爽やかさ。本当に愛されキャラで素敵です。これはもう女も男も好きになっちゃうやつですよ。

例えば、ケイトがバスに乗って別れる際に投げキッスをするのですが、それをトムが受け止めるときの、あのパントマイムな仕草。あれはきっと役者のアドリブなのでしょうけど、めちゃくちゃグッドじゃないですか。

“ヘンリー・ゴールディング”の知名度もグングン急上昇しているでしょうし、これでアジア系男性の恋愛面でのイメージも抜群にアップしたでしょう。まあ、ただ、実際のアジア系男性たちが“ヘンリー・ゴールディング”みたいなやつかと言えば、また別問題ですが…(元も子もない)。

ケイトとトムのロマンスに見せかけてオチはアレでしたから、本当の恋愛関係ではないものでした。しかし、大丈夫。今作にはサンタを演じる“ミシェル・ヨー”が恋愛担当として最高に輝いているから。若いヒロインを差し置いて、誰よりもウキウキに心が躍っている“ミシェル・ヨー”。もう“ミシェル・ヨー”が幸せならクリスマスが存在する価値はあるってものです。

こんな役者たちとロンドンのクリスマス気分を堪能できるのですから、プチ旅行みたいで楽しかったのではないでしょうか。

なお、やたら夜中のシーンが多いのは単純にひと気の少ない深夜に撮影しているかららしいです。都市撮影だとよくこうなりますね。

あのオチは現実とシンクロする部分も

ここからは『ラスト・クリスマス』のオチの話。

トムは実はケイトが昔に心臓移植を受けたドナーだった…という真実が判明する終盤。正直、トムがケイトの何らかのイマジネーション・キャラクターなのはすぐに推測できる範囲だったと思います。ちなみに海外の予告動画ではトレイラーの内容でオチが推察できてしまい、一部で問題になったらしいですが…。

このオチ、さすが“ポール・フェイグ”監督なだけあって丁寧に作ってあるのでそこまで雑さはないのですが、根本的なアイディアとしての弱さは残ります。「へぇ~!」という驚き以外の展開がないというか…。案の定、オチがわかったらもう物語は店じまいしだすし…。

理想としてはあのオチは前半の山場で判明し、そこからどうやって二転三転させていくかが、脚本の腕の見せ所なんじゃないかと思うのですが。役者が良いぶん、もったいないとは感じます。

もちろん曲絡みでのフィット感としては重々理解できます。知らない人のために解説しておくと、「Last Christmas」のワム!のメンバーで2016年に53歳で亡くなったジョージ・マイケルは、実は12月25日のクリスマスにこの世を去りました。その偶然にしても運命を感じるエピソードが、本作のあのトムの境遇と重なる元ネタになっているのは言うまでもなく。

加えて“エミリア・クラーク”自身の境遇もケイトとオーバーラップするようになっており、“エミリア・クラーク”は2011年にクモ膜下出血によって治療に専念しないといけないほどかなり危険になり、言語障害も抱えるほどの状態でした。そんな“エミリア・クラーク”の回復後の人生と、作中のケイトの回復後の人生の一致ですね。

こんな風にメタ的な構成になりつつ、イギリスが今まさに直面しているブレクジットや移民排除問題、そして昔からのホームレス問題などの社会テーマをなぞらえて作られているのが本作です。

そのカバー範囲の広さは良いのですが、それぞれがまんべんなく広がっているので若干の薄味さは否めないのが個人的には残念でしたが、クリスマス映画らしいと言えば100%のクリスマス映画だったので、これでいいのかな。

でも、どうなのでしょうか。私は臓器移植を受けたこともしたこともないのですけど、ドナー相手にこんなロマンチックな想像を膨らましたりするものなのだろうか。ちょっと臓器移植経験者の人がいたら教えてください。私がもし“ヘンリー・ゴールディング”から心臓をもらって、たびたび彼が想像の世界から顔を出してくれたら文句は何一つないですけど…。

とりあえず「Last Christmas」は名曲だということを再確認しました。この曲を街で聞いたら“ヘンリー・ゴールディング”を探してみよう…。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 47% Audience 81%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

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・『クリスマス・ナイト 恋に落ちた騎士』


・『クリスマスに降る雪は』


作品ポスター・画像 (C)Universal Pictures ラストクリスマス