管制、応答願います!…Netflix映画『グッドニュース』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2025年)
日本では劇場未公開:2025年にNetflixで配信
監督:ピョン・ソンヒョン
ぐっどにゅーす
『グッドニュース』物語 簡単紹介
『グッドニュース』感想(ネタバレなし)
その実話をコメディの素材に?
航空機のハイジャック事件は、今でも世界的にも年に数回か、全くない年もあるほど、滅多に起きないレアな事案です。
日本では歴史上、3件の航空機のハイジャック事件が存在し、そのうちのひとつは「こんなこと、本当に起きたのか!?」っていうくらいに「事実は小説より奇なり」の破天荒な内容でした。
そんな実際に起きた航空機のハイジャック事件から着想を得た映画が2025年に登場しました。
それが本作『グッドニュース』。
本作がインスピレーションの元にしているのが1970年3月31日に発生した、通称「よど号ハイジャック事件」。犯人は新左翼党派の共産主義者同盟赤軍派に所属する一部のグループで、北朝鮮へ亡命するべくそこに向かえと要求。日本にとどまらない、韓国や北朝鮮を巻き込んだとんでもない大事件へと発展するのですが、結局、死傷者をひとりも出さずに終息します。
映画『グッドニュース』はこの「よど号ハイジャック事件」をまぎれもなく明確に素材にしているのですが、大幅に脚色されたフィクションです。
そのうえ、ドラマ『ハイジャック』みたいなリアルなサスペンスに軸足を置いていません。ポリティカル・スリラーではなく、思いっきりブラックコメディなのです。本当に極端に誇張された風刺コメディに仕上げられています。

私もこの映画の企画を最初にメディアで知ったとき、「え? よど号ハイジャック事件をコメディにできるの?」と思ったのですが、実際に観てみるとしっかりユーモアでアレンジしていました。
『グッドニュース』は韓国映画で、韓国の視点をとおして事件が映し出されるのもコメディらしく切り込む勢いになっています。
それにしたって、やたらと豪華に遊びまくっているコメディ映画です。天下の「Netflix(ネットフリックス)」の潤沢な資金を使い、やり切っている感じ。
『グッドニュース』を監督するのは、『キングメーカー 大統領を作った男』や『キル・ボクスン』を手がけた“ピョン・ソンヒョン”(ビョン・ソンヒョン)。今回は笑いに振り切りつつ、その最中にわずかにスマートな社会批評を滲ませるのは、さすがこの監督らしさか。
主演は、『PHANTOM ユリョンと呼ばれたスパイ』やドラマ『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』などの“ソル・ギョング”。ここ最近の“ソル・ギョング”、元気すぎるな…。今作では謎のフィクサーという役どころで、またまた“ソル・ギョング”の劇場になってますよ。
共演は、ドラマ『悪鬼』の“ホン・ギョン”、ドラマ『家族計画』の“リュ・スンボム”など。
さらに『グッドニュース』は、日本人役に日本の俳優をキャスティングしているのも特徴で、“山田孝之”や“椎名桔平”、“笠松将”、“山本奈衣瑠”などが結構重要な役柄で活躍しています。韓国と日本はもっと一緒に作品づくりをしてほしいなと前から思っていたので、日韓キャストが混ぜり合っているのは嬉しいポイントです。
基本的に「よど号ハイジャック事件」を全く知らなくても『グッドニュース』は楽しめるのですが、むしろ全く知らない人の反応がみたいですね。「これって本当に起きたことなの?」と困惑しながら観てみてください。
『グッドニュース』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2025年10月17日から配信中です。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 暴力が多少描かれますが、子どもでも観れないことはないです。 |
『グッドニュース』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
1970年3月31日、日本の東京の羽田空港から板付(福岡)に向けて1機の旅客機が離陸します。当然、多くの乗客が搭乗していました。
何事もない平穏なフライトのように思えましたが、事態はすぐに急変します。銃や刃物を突き付けるハイジャック犯の集団が機体を乗っ取ったのです。犯人は新左翼の親組織から独立を宣言した赤軍派であり、高度経済成長期にある日本の資本主義のブルジョアを破壊すると宣言します。そして北朝鮮の平壌に着陸しろとパイロットを脅迫して要求します。
しかし、平壌に着陸するなんて普通はできません。国交のない北朝鮮と通信もできるわけありません。国内線なので燃料もないとパイロットと副パイロットは犯人グループに苦言を呈します。それでも、武装革命で死を覚悟している犯人グループも今さら引き返せません。飛行機もろとも爆死する気な様子。
とりあえず板付に着陸し、燃料を追加で補給することになります。これは時間稼ぎでした。機動隊による厳戒態勢の空港で、解決のための作戦が進みます。犯人グループは「我々はあしたのジョーだ」と通話で発言します。何やらあちらには信念があるようなのはわかりますが、膠着状態です。
そのとき、1機の戦闘機が滑走路から旅客機に接近していきます。誰もが固唾を飲んで見守る中、コックピットから現れたひとりの人物は戦闘機を置いて退散。これで旅客機は動けなくなります。これも地味な時間稼ぎ…。
こうして日本側がもたついている間、韓国のソウルでは「ノーバディ」と呼ばれる人物が密かに呼ばれていました。中央情報部長官のパク・サンヒョンに召集されたその男は、やけにラフな格好で全く緊張感がありません。しかし、国家中枢に普通に出入りできるような特別扱いでした。
そのノーバディは空軍中尉のソ・ゴミョンを手先のように巻き込んで、自身の作戦の実行者にさせます。ノーバディは常に裏にいて、世間に知られることはありません。何かをするときは看板になる都合のいい人間が必要なのです。
よくわかっていないソ・ゴミョンは真面目に今回のハイジャック事件はそう簡単に対応できるものではないことを自覚しています。韓国であっても北朝鮮に向かおうとする飛行機を止めるなど前代未聞。乗客の安全が最優先ならなおさらです。
しかし、ノーバディには何か策があるようで…。

ここから『グッドニュース』のネタバレありの感想本文です。
Yes or No !?
さあ、一体何が真実で何が虚構なんだ?と自らわざとらしく煽ってくる『グッドニュース』。確かにこの映画の中身は、「さすがにこれはフィクションだよね?」みたいなことの連発です。
でもびっくりなことに大半は史実どおりなんですよね…。
オモチャなどの偽物の武器で勢い任せにハイジャックを実行した犯人グループ、“ちばてつや”の漫画『あしたのジョー』を引用するノリ、板付空港での戦闘機による滑走路妨害作戦、粗末な地図とコンパスを渡しての見送り、金浦国際空港を北朝鮮の基地に偽装する大胆な引っかけ、その引っかけがあっさりバレるのも、日本の政務次官が代わりの人質で交換にでるのも…。
こんなことを言うと不謹慎ですけど、たぶん歴史上の航空機ハイジャック事件の中でも「よど号ハイジャック事件」が最も奇想天外で波乱万丈なんじゃないだろうか…。
なので普通に史実どおりに映画化してもじゅうぶんに面白い作品になると思います。もはや映画化してくれと言わんばかりの見どころを揃えた起承転結がありますから。
しかし、『グッドニュース』はこの史実の時点ですでに荒唐無稽な事件をさらにフィクションで味付けを濃くして、コメディに変えてしまいます。全体的に登場人物の戯画化を大袈裟にして、もはやドタバタ劇のギャグみたいな演出にさせてしまうほどに。
緊急周波数での交信をめぐって韓国が北朝鮮側の管制官と西部劇スタイルの早業対決になるのとか、やりすぎだろうというレベルでしたが…。
基本的に全方位をバカにしています。ただ、やっぱり韓国映画なので、韓国を自己批判する切れ味が一番炸裂していたかもしれません。
本作における韓国は、事案の当事国は日本と北朝鮮であるにもかかわらず、漁夫の利を狙うかたちで介入しています。「うち、関係ないです」と無視を決め込んでも良かったのにわざわざ手を出してしまい、それが混乱に拍車をかけます。
金浦空港を北朝鮮の基地に偽装するのも、反共プロパガンダに精通している映画監督を呼んできて、浅はかさが丸出しです。そして中央情報部はソ・ゴミョンをアカどもを倒した英雄にしたいという魂胆が見え見え。おまけに偽装引っかけがバレた面目丸つぶれの中央情報部のパク・サンヒョンは「日本よりも優秀なところをみせよう」とゴールポストをずらす始末(でも寿司は食べる)。
ハイジャック人質の中に韓国人乗客がいるという話を作り上げ、世論の反共産主義感情を煽り、まんまと反共決起大会まで起こすあたりは、もう勝手にやってろ状態。
共産主義の犯人グループは多数決の民主主義を無視する独裁思考だと皮肉った後に、民主主義を標榜する韓国のあられもない権力への官僚的追従をしっかり皮肉るので、最後までカッコ悪いのは韓国です。
アホしかでてこない中、“ホン・ギョン”演じるソ・ゴミョンと、“山田孝之”演じる石田が、この作品における良識人としてツッコミ役で大忙しになります。2人ではツッコミが回り切っていませんでしたね。
グッドニュースとバッドニュース
ではひたすらに誇張しまくって笑い者にしたいだけの映画なのかというと、実は最終的にはそうでもないような着陸をみせるのがこの『グッドニュース』であり、またそこがちょっとわかりづらくもあって、評価に迷うところでもあります。
そのあやふやさの原因は、韓国の中央情報部長官パク・サンヒョンに任命されたフィクサーである「ノーバディ」です。そしてここが本作の最大級のフィクション。
彼の素性は不明で、影の権力者の中央情報部の長官に気に入られているためか、韓国政府の中枢にも易々と入り込み、特別待遇を受けています。
最終的に本作はまるで全員が得をしたかのような軟着陸で終わります。燃え尽きるまで闘うと宣言したハイジャック犯人グループの目的は達成されましたし(北朝鮮国内でどんな扱いを受けるかはさておき)、この事件をきっかけにアメリカはソ連と交渉し、南北統一を目指すことになるし、日本は問題解決の功績を一番に獲得し、善良な犠牲の精神をみせた石田政務次官は模範になりました。作中では、「はる号」の副パイロットは帰化した在日朝鮮人となっており、日本での在日朝鮮人のイメージアップにも貢献したのでしょう。
最初に起きたことは物騒なハイジャックなのに、やけに平和な世界を後押ししたかたちです。みんな満足しているならそれでいいか…という空気。
韓国だけがひとりで空回りしたかのようにみえましたが、実はノーバディは市民としてのアイデンティティを獲得し、まるでノーバディこそがこの事件そのものをハイジャックしたかのように察せられる後味となっています。
つまり、「誰かが得をする」ということであり、国家やイデオロギーの対立はそのカモフラージュにすぎません。世の中は「国」や「思想」にばかり着目するけども、要するに「得をする人間」がいるという単純な事実の連なりが、世界を成立させている…。
『グッドニュース』は史実の事件をあえて喜劇に変え、その世の真理を浮かび上がらせたかったということなのかな。
もちろん史実の事件がひとりの死傷者もだしていないからこそできることだと思いますけどね。ハイジャックというものにそもそも不慣れな時代だったにせよ、乗客の人命を最優先にするというのがなんだかんだで達成されたのは奇跡でしたよ。実際のところ、それは善良さとかでは説明できない、ただの運みたいなものかもですけど。
『グッドニュース』は映画的なアプローチで何を風刺するにせよ、とっ散らかったものを最後にまとめるだけの力はやや弱かったかもしれません。こういうスケールのデカい風刺コメディにはありがちですが、風呂敷を畳むのが一番難しいものです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『グッドニュース』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)Netflix
Good News (2025) [Japanese Review] 『グッドニュース』考察・評価レビュー
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