そんな世界のほうが良いんじゃない?…ドラマシリーズ『ピースメイカー』(シーズン2)の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン2:2025年にU-NEXTで配信(日本)
原案:ジェームズ・ガン
児童虐待描写 人種差別描写 性描写 恋愛描写
ぴーすめいかー
『ピースメイカー』(シーズン2)物語 簡単紹介
『ピースメイカー』(シーズン2)感想(ネタバレなし)
異例のシーズン2
また会いたかったよ、ワッシー!
ということで、さっそく『ピースメイカー』のシーズン2です。
しかし、本作、アメコミ(スーパーヒーロー系)のジャンルどころか、あらゆるドラマシリーズの中でも異例の珍事を平然と成し遂げましたね。
それが何かというと…。マーベルと並ぶアメコミ二大巨頭の片方である「DC」は、「DCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)」という名のシリーズから「DCU(DCユニバース)」へとシリーズ一新を最近果たした…その話は散々したのでもう詳細は割愛。
ドラマ『ピースメイカー』は、まだDCEUの時期だった2022年に映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のスピンオフとして“ジェームズ・ガン”監督の手で世界観を横に広げるように始まりました。
シーズン1のときは、私も「もうDCはジェームズ・ガンに任せればいいよ」なんて気楽に感想で書いてたのですが、本当に“ジェームズ・ガン”が新シリーズのDCUを主導することになってしまい…。
DCEUの大半の作品はリセットで無かったことになった中、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』と『ピースメイカー』(シーズン1)は“ジェームズ・ガン”直々の作品という特権があり、「以前のシリーズであるDCEUでありつつ、DCUとも部分的に世界観を共有している」という特殊な立ち位置になりました。
ということで2025年から配信となった本作『ピースメイカー』のシーズン2は、シーズン1からの続きなのにシリーズとしてはDCUになっているという、不思議な設定です。
一体どうやってそんな設定を成立させるんだ!?…と配信前からファンはざわざわしてましたが、さすが“ジェームズ・ガン”。荒業を使ってきます。観てのお楽しみです。
それ以外はシーズン1と全く同じ。むしろ“ジェームズ・ガン”がシリーズを率いることになったので、ますますやりたい放題できるようになってるような…。『スーパーマン』の“ジェームズ・ガン”もいいけど、やっぱりハチャメチャできるのは『ピースメイカー』です。
『ピースメイカー』のシーズン2ももちろん主演は“ジョン・シナ”です。最適すぎるベスト・アクトな役柄として君臨し続けています。
共演は、前シーズンから引き続き、“ダニエル・ブルックス”、“ジェニファー・ホランド”、“スティーヴ・エイジー”、“フレディー・ストローマ”、“ロバート・パトリック”など。
『スーパーマン』にも出ていた“フランク・グリロ”も参加するほか、『スーパーマン』から複数のキャラがゲスト出演していますし、“ジェームズ・ガン”作品おなじみのあの俳優もどこかに…。
そんなこんなでDC大好き、はたまた「DCU」の行く末が気になる人は、必見のドラマシリーズのシーズン2です。
『ピースメイカー』(シーズン2)を観る前のQ&A
A:『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』と『ピースメイカー』(シーズン1)は大前提として推奨しますが、2025年の『スーパーマン』も観ておくと世界観をまんべんなく楽しめます。
鑑賞の案内チェック
基本 | 親から子への虐待の描写があります。 |
キッズ | 直接的なヌード、残酷な暴力描写が多いので、子どもには不向きです。 |
『ピースメイカー』(シーズン2)感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
「ピースメイカー」と自称し、誰よりも平和と正義を体現すると自負する男、クリストファー・スミス。彼は世界を2度も救いました。
1度目は、政府のアマンダ・ウォラーからの秘密指令で「スターフィッシュ計画」を阻止するべく、犯罪者を集めた特殊部隊「タスクフォースX」、通称「スーサイド・スクワッド」に参加。チームのひとりであるフラッグ大佐を殺害する個人的な任務も的確にこなしつつ、生存を果たしました。
次に「バタフライ計画」と呼ばれる陰謀を食い止めるべく、政府組織「A.R.G.U.S.」のエージェントであるエミリア・ハーコート、ジョン・エコノモス、そしていろいろわけありのレオタ・アデバヨ…といった面々と手を組み、なんとかこの危機を乗り切りました。
今話題の調子に乗っているヒーローチームの「ジャスティス・ギャング」が駆けつける前に事態を収拾し、大手柄です。そのはずだったのに…。
クリスはなおも自己流でヒーローをやっている気分でしたが、教室で子どもからの素朴な質問に心をかき乱されるほどに、なおもアイデンティティに自信がありません。全然みんな自分を尊敬して愛してくれない…。ヒーローなのに…。
ふと夜に寝ていれば、父親のオーガスト・“オーギー”・スミス(ホワイトドラゴン)のことを思い出します。自分のトラウマ、兄のキースを殺したこと、そして父をつい最近殺めたこと…、いや、これは忘れよう…。
そんな夜、相棒の鷲のワッシー(イーグリー)に起こされます。広いところで羽を伸ばしたいようです。しょうがないようで自室のドアから繋がっている量子空間に連れていきます。クリスはここを物置として都合のいいように使っていました。ワッシーが自由に飛び去った後、クリスはワッシーを探しに行きます。
この空間はいろいろな扉で他の場所に繋がっているらしく、たまによく知らない異星人のような存在とも出会いますが、たいした会話にはなりません。
ワッシーはある扉をつついていました。その扉の前にはなぜか自分が使っているヘルメットと同じようなものが並んでおり、違和感を抱きます。まさかと思いつつ、自分も使っている暗証番号を打つとあっさり扉は開きました。
そこは部屋です。そして死んだはずの父が急にあまりにも平然と廊下の奥に現れ、普通のことのように話しかけてきました。驚いて扉に戻って閉じるクリス。
数か月後、クリスは前に手を組んだチームと連絡を取り合っていましたが、未だに英雄視されていないことに失望し、レオタに車で愚痴っていました。
そこで今日はジャスティス・ギャングへの入団を志願して面接場所へ行くことになっていました。しかし、そこでは尋問のような扱いを受け、ガイ・ガードナー(グリーンランタン)とホークガール、そして出資者のマックスウェル・ロードが透明ガラスの向こうで退屈そうに座っていました。
面接ではまともに話を聞いてももらえず、暴力的な過去を好き勝手に侮辱され、付き合ってられないのでクリスは立ち去ります。怒り心頭です。
一方、ハーコートはすでに責任をとらされて論争の渦中にいる以前の上司アマンダ・ウォーラーのせいで、多くの政府機関からテキトーな難癖をつけられて無下に断られ、就職できず、こちらも苛立っていました。
けれども、ハーコートはクリスと親密に付き合う気はないようで…。
愛すべきバカたちに囲まれた多様性

ここから『ピースメイカー』(シーズン2)のネタバレありの感想本文です。
『ピースメイカー』のシーズン2は、相変わらず自己肯定を見いだせずにいるクリスの姿から始まります。
そんなクリスが偶然に辿り着いたのは別次元の世界。そこは自分がいた世界と瓜二つで、でも父と兄と一緒に仲良くヒーロー活動をしていて、ファンも大勢いて、みんなが自分を支持し、受け入れてくれます。最高の居心地の良さを感じ、クリスは元の世界を捨て、こちらに身を移そうとする…。
でもここで“ジェームズ・ガン”流の嫌らしさが発動。実はこの世界は「ナチスが第二次世界大戦に勝利した」次元であり、有色人種が強制収容所に送られ、白人中心の社会が築かれていたのでした。
伏線は最初からありました。あらゆるところにいる人(職員もファンも)みんな白人でした(A.R.G.U.S.も反DEIが徹底された結果です)。それに対して元の次元の世界は、わざとらしく有色人種の存在を強調する演出が盛り込まれていました。
ハーコートに「なんで気づかなかったんだ!」とツッコまれてそこで初めて認識したクリスでしたけど、作中ではギャグっぽく描いていますが、これは非常に白人男性の心理の痛いところを突くプロットだなと思います。
(白人の)自分が無自覚に居心地の良さを感じてしまうもの…それが白人至上主義だということです。作中でオーギーが「ナチスと一緒にしないでくれ」みたいなことを口走るのですが、これも無自覚さのおぞましさがこぼれ出るセリフでした。
今回のこの多次元はマルチバースなのかは曖昧ですが、事実似たようなものです。DCに限らず、既存のスーパーヒーロー・フランチャイズがほぼ一貫して主にファンサービスとブランド構築のためにこのコンセプトを利用してきたことを考えると、本作はキャラクターのアイデンティティの神髄を描くのに採用しており、まだ誠実だと思います。それもかなり手厳しい自己批判ですし…。『スーパーマン』のときもそうでしたが、“ジェームズ・ガン”はこういうプロットから逃げないのがいいですよね。
最終的にクリスは元の世界で自ら孤立の道に逃避しますが、心配してくれる仲間に囲まれ、愛されていることを実感します。必要なのは特権ではなく、こういう愛です。
最後に「チェックメイト」という組織を設立するメンバーは、クリスの他に、エミリア・ハーコート、レオタ・アデバヨ、ジョン・エコノモス、エイドリアン・チェイス(ヴィジランテ)、サーシャ・ボルドー、ラングストン・フルーリー、リップ・ジャガー(ジュードマスター)…と、人種も年齢もさまざま。クリスはバイセクシュアル、レオタはレズビアン、ジュードマスターはゲイと、クィアな顔ぶれでもあります。
愛すべきバカたちに囲まれた多様性の居心地の良さをしっかり伝えてくれる作品でした。
無かったことにしよう!
そんなメインテーマはさておき、『ピースメイカー』のシーズン2も本編を忘れさせるほどのわちゃわちゃ感を楽しめます。
やっぱり真っ先に言及すべきは第1話冒頭の「これまでのDCU」ギャグです。どうやってDCEUからDCUへと繋げるのかと思いきや、正々堂々と真正面から「無かったことにする」大技でねじ伏せるとは…。
逆にこれを“ジェームズ・ガン”直々でOKにする前例ができたので、もう後に続くDCU作品を手がけるクリエイターは気が楽でしょうね。正史とか整合性とか、あまり気にしなくていいよ…ってことですから。DCUを今後鑑賞する身としても、これくらいの受け捉え方でいかないと…。
新キャラとしては、ワッシー専用のヴィランとして登場したレッド・セント・ワイルド。完全にオリジナルのキャラなのですが、さすが“ジェームズ・ガン”、動物虐待者には容赦ない…。これからも“マイケル・ルーカー”は常に何かしらで起用されて出てくる俳優の枠になるんでしょうかね。
そして今後のDCUでも大いに活用されるであろう、多次元世界へと繋がる量子空間の扉。あれはもはやネタの宝庫ですが(『スーパーマン』でレックス・ルーサーが開発したやつがちっぽけにみえる)、とりあえず「サルベーション」をやるってことでいいんですよね?
確かにヴィランを大集結させてハチャメチャなことができるだろうし、“ジェームズ・ガン”好みだろうな…。
自己肯定を見いだせたクリスには、他の劣等感に沈む厄介なヴィランたちを導く役割を担ってほしいものです。それもヒーローですよ。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
関連作品紹介
DCUのシリーズの作品の感想記事です。
・『クリーチャー・コマンドーズ』

作品ポスター・画像 (C)DC ピースメイカー2 ピースメーカー2
以上、『ピースメイカー』(シーズン2)の感想でした。
Peacemaker (2025) [Japanese Review] 『ピースメイカー』考察・評価レビュー
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