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映画『第10客室の女』感想(ネタバレ)…Netflix;落ちたのは誰?

第10客室の女

そして堕ちたのは誰?…Netflix映画『第10客室の女』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Woman in Cabin 10
製作国:イギリス・アメリカ(2025年)
日本では劇場未公開:2025年にNetflixで配信
監督:サイモン・ストーン
第10客室の女

だいじゅうきゃくしつのおんな
『第10客室の女』のポスター

『第10客室の女』物語 簡単紹介

とあるジャーナリストは取材のために豪華なスーパーヨットに乗船する。多額の富を寄付することに決めた病弱な女性の財団が主催したクルーズであり、その女性の夫が多くの著名人を招いている。しかし、航海中のある夜、その船にて誰かが海に落ちたような音を聞くが、それを聞いたのはジャーナリストひとりだけで、他の誰も信じてくれない。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『第10客室の女』の感想です。

『第10客室の女』感想(ネタバレなし)

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スーパーヨットはろくなものじゃない

「スーパーヨット」に乗ったことはありますか? 私はないです。私は乗り物が嫌いなので、いかなる船にも乗りたくはないのですが…。

スーパーヨットは大型で豪華なプレジャーボートです。もっぱらおカネ持ちの人が保有もしくはチャーターしている船の代表格であり、富の象徴になっています。スタッフが常駐し、快適性でゲストをおもてなしするように設計されています。富裕層が自分の仲間を呼び寄せて、この船であれやこれやと楽しんでいる感じですね。

私にしてみれば、スーパーヨットは映画などフィクションの中で散々目にするものであり、そのせいで余計に嫌な印象がついているかもしれません。

今回紹介する映画もスーパーヨットが舞台なのですが、案の定、ろくなことにはなりません。

それが本作『第10客室の女』

本作は、イギリスの作家である“ルース・ウェア”の小説を映画化したものです。この“ルース・ウェア”はもともとヤングアダルト小説を書いていたそうですが、2015年以降からサイコロジカル犯罪スリラーのジャンルでベストセラーになり、今やそのキャリアで話題の人。2015年の『In a Dark, Dark Wood』に始まり、ほぼ毎年、小説を発表しています。

今回の『第10客室の女』は“ルース・ウェア”の2016年の『The Woman in Cabin 10』を映画化しており、他にもいくつかの作品が映像化の権利を買われているようですが、いち早く完成したのは今作となりました。

内容は、ミステリー要素の濃いサイコスリラーで、ジャーナリストの女性が主人公。スーパーヨットに招かれて乗船すると、そこである誰かが海に落ちたような音を聞きます。しかし、それを聞いたのは主人公ひとりだけで、他の誰も信じてくれない…。結構ベタなプロットではありますが、だからこそ映像化の腕が問われるところです。

『第10客室の女』を監督したのは、もともと劇作家で演劇の世界で高評価を受けてきた“サイモン・ストーン”。2015年に『The Daughter』という映画で単独長編監督デビューし、2021年には『時の面影』を手がけました。今は演劇と映画の二足の草鞋で多忙なようです。

『第10客室の女』で主演するのは、ドラマ『ブラック・ダヴ』“キーラ・ナイトレイ”。“キーラ・ナイトレイ”で船と言えば、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズだと思うのですけども、今回の船上では一方的に翻弄されるばかりです。

共演は、『ブルータリスト』“ガイ・ピアース”、ドラマ『スタートレック: ディスカバリー』“デヴィッド・アヤラ”『Halal Daddy』“アート・マリック”、ドラマ『ジェントルメン』“ダニエル・イングス”、ドラマ『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』“ハンナ・ワディンガム”など。

『第10客室の女』は「Netflix(ネットフリックス)」で独占配信中。手軽に観られるサイコスリラーですので、気が向いたときにどうぞ。

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『第10客室の女』を観る前のQ&A

Q:『第10客室の女』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2025年10月10日から配信中です。
✔『第10客室の女』の見どころ
★キーラ・ナイトレイの誠実な演技。
✔『第10客室の女』の欠点
☆物語の展開や登場人物の活かし方は平凡。
日本語吹き替え あり
佐古真弓(ローラ)/ 三上哲(リチャード)/ 鶴岡聡(ベン)/ 清水はる香(アンネ) ほか
参照:本編クレジット

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 3.0
殺人の描写があります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『第10客室の女』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

ジャーナリストのローラ(ロー)・ブラックロックは、仕事も順調で、賞も獲得しているほど。同僚からも褒められる日々でした。ある日、デスクのパソコンをつけると、メールに「豪華クルーズの招待」の案内がきていました。リングスタッド財団というところからの招きで、随分と優雅な船旅のようです。

ローラは内心では疲れ切っていました。調査とは言え、凄惨な事件を追うのは心が疲弊します。実はつい最近もかなりキツイ出来事に直面したばかり。上司のローワンの前では弱音を吐けますが、休みを勧められても受け入れられません。

今はあのクルーズが気になります。あの財団はノルウェーの海運会社を継いだ末期の白血病のためにアンネのために夫リチャード・ブルマーが募金集めで設立したもの。たまには良い話を取材しようということでローラはそのクルーズに向かうことにします。

船は「Aurora Borealis」と呼ばれるスーパーヨットで、到着すると靴を脱ぐことになります。招かれたのは、やはり大物が多いです。リチャードとは知り合いのアダム・サザランド、担当医者のロバート・メータハイディ・ヘザーリーとその夫トマスラース・イェンセン、さらにはインフルエンサーのグレース…。

その中にはローラが以前に付き合っていたカメラマンのベン・モーガンもいました。顔を合わせ、気まずい思いをします。

客室チーフのカーラと、スタッフのイジーが、各自の部屋へ案内してくれ、ローラは8号室を割り当てられます。船は錨を上げ、出航。静かな出発でした。

リチャードは参加者を集め、今回の趣旨を説明。そこに遅れてダニー・タイラーが派手に現れます。

ドレスに着替え、廊下を歩いていると、ベンが女性と歩いていて、思わず近くの10号室の部屋に隠れてしまうローラ。その部屋にはシャワーを浴びるっぽいラフな格好の金髪の女性がひとりだけで落ち着かなさそうにいて、勝手に入ったことを謝ります。

ディナーはリラックスした空気で終わり、その後、ローラはアンネの書斎で彼女に会います。

ローラを呼んだのはアンネらしく、ジャーナリズムを称賛。アンネはもう治療をやめているようで、かなり弱っていました。しかも、全財産を寄付するらしく、リチャード含め財団からは手を引くそうです。その無私の心に思わず感銘を受けます。

その夜、寝ていると何か音を耳にした気がして起きます。男女が争うような声。何事かと立ち上がり、バルコニーから外を見ると、海に何か落ちる音。人のようです。考えられるのは隣の10号室のあの女性か…。区切りの壁に血の跡もありました。

慌てて連絡し、船のスタッフは緊急事態に動き出します。警備主任のシグリッドの指揮で調査が行われますが、全員無事です。アディス船長いわく、10号室は誰も泊まっていないとのこと。血の跡も消えています。把握している乗員乗客全員に何も問題はないので、通常の航行に戻ります。

しかし、ローラだけは納得していません。これは勘違いなどではないと…。

この『第10客室の女』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/10/15に更新されています。
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悪行より善行

ここから『第10客室の女』のネタバレありの感想本文です。

乗り物の中で人が消える…私は確かにその人を見た…でも他の誰も信じてくれない…。

これは乗り物を舞台にした心理サスペンスの定番です。列車であれば“アルフレッド・ヒッチコック”監督の『バルカン超特急』(1938年)という名作がありますし、飛行機であれば『フライトプラン』(2005年)などの映画もあります。

このサブジャンルの面白いところは、一度動き出してしまった特定の乗り物はそれ自体が疑似的な閉鎖空間となり、出入りが制限されるので、そこから「人が消える」というのは誰からみても異常事態ということです。

そのうえ同乗者は本来は運命共同体で、同じ体験を共有しているはずなのに、自分だけが「人が消えた」ことを認識しているのは明らかに変。異常さに別の異常さが重なり、乗り物という舞台の一方向的な加速が余計に心理的な焦りを生みます。

舞台とサスペンスがこれほどマッチしているのですから、どおりで目が離せません。

『第10客室の女』の舞台である船(スーパーヨット)は、列車や飛行機と比べると速度はゆったりめで、閉鎖性はそれほどでもありません。その気になれば、小型ボートでも横づけして、動き出した途中でも人を出入りさせることは可能でしょう。

しかし、本作が切迫感をだすのは、単に「人が消えた」というだけでなく、「海に人が落ちた」という認識を主人公が持っているからです。これは海難事故。あってはならないはずの出来事。

そのうえ、これは女性を主人公とする場合のよくあるシチュエーションですが、女性主人公が自分の認識を主張すると信じてもらえないどころか、精神的に問題を抱えているとみなされ、孤立を深めます。

今作においてはローラは以前の調査でエレーナという人が目の前で殺される(車が水に沈むフラッシュバック)のを経験したばかりらしく、ややこしい先入観を与えてしまっています。まあ、さすがにそんな経験をしたなら、もっと休もうと声をかけるのは良識的だと思いますが…。

そしてもちろんアンネもまた不当な責めを受ける女性のひとりであり、最大の犠牲者です。

さらに今回の映画版では、ローラとアンネ以外にも追加で不当な責めを受ける女性が存在します。それがアンネに成り代わる役目を押し付けられたキャリー

原作では、アンネのふりをしている女性は単なるリチャードの愛人で、シンプルに共犯でした。今回は、子どもを養うためにおカネが必要になっているという貧困の背景が目立つように浮き上がり、結果、貧富の格差という階級社会が風刺されています。

映画『第10客室の女』の結末では、キャリーも無事だったようなので、そこに善行の波及として救いがもたらされています。

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真面目さは海に落としましょう

そんな脚色も加えつつ映画化された『第10客室の女』ですが、全体的に味気ない感じは否めなかったかなと思います。

だいたいこのサブジャンルのフォーマットをみせられた時点で、観客側は「主人公の認識は真実なのだろう」と察します。そして誰が騙しているのかという加担者を探そうと考えます。

しかし、本作は考察するまでもないです。どう考えてもアンネの夫であるリチャードが胡散臭いのですから。

こういうトリックを成立させるには、舞台を仕切れるような管理者的なポジションの人間の加担が必須です。事実、今回のスーパーヨットはリチャードの好き放題できる空間。公共的な交通である列車や飛行機と比べると、はるかに強引なトリックを成し遂げやすいです。

作中ではリチャードの他にも、医者のロバートや船長のアディスも案の定関与していたので、言わんこっちゃない状況でした。

それはいいとしても、他の登場人物も絡めて、じっくり惑わせるようなドラマが薄すぎましたね。他の招かれた乗客の存在が面白いミスリードになることもなく、終始、どうでもいいモブと化していました。

ベン・モーガンももう少しなんとかプロットでの活かし方はなかったものか。お前、写真撮っているだけだったけど、カメラマンの仕事をしている人は、もうちょっと現場に関心を持つものだろうよ…。

意外に頑張っていたのは警備主任の風貌がクールなシグリッドでした。別にあそこまで射撃する必要もない気もしたけど、カッコよかったので良しとしよう…。

まずそもそもこういうミステリー仕立てのサイコスリラーを大真面目にやるというのが、最近の目の肥えた観客にとっては少々斜に構えてしまうものなのかもしれません。近年はドラマ『ポーカー・フェイス』などが象徴的ですが、ジャンル自体を皮肉りながらウィットに富んだ会話を混ぜていじくるのが流行りになっているし…。

“キーラ・ナイトレイ”の淡々としながらも誠実な演技でなんとか最後まで観れましたが、スリルを持続させる効果はだいぶ沈没気味でした。わかりきっている答えを念のために確認する作業になってしまったかな。

『第10客室の女』
シネマンドレイクの個人的評価
5.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

作品ポスター・画像 (C)Netflix ザ・ウーマン・イン・キャビン10

以上、『第10客室の女』の感想でした。

The Woman in Cabin 10 (2025) [Japanese Review] 『第10客室の女』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2025年 #イギリス映画 #サイモンストーン #キーラナイトレイ #ガイピアース #ハンナワディンガム #ダニエルイングス #デヴィッドアヤラ #サイコスリラー #船舶

サスペンス
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シネマンドレイク

ライター(まだ雑草)。LGBTQ+で連帯中。その視点で映画やドラマなどの作品の感想を書くことも。得意なテーマは、映画全般、ジェンダー、セクシュアリティ、自然環境、野生動物など。

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