でもフランチャイズは終わらない…映画『死霊館 最後の儀式』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2025年10月17日
監督:マイケル・チャベス
恋愛描写
しりょうかん さいごのぎしき

『死霊館 最後の儀式』物語 簡単紹介
『死霊館 最後の儀式』感想(ネタバレなし)
死霊館のひと区切り
また「終わる終わる詐欺」みたいなタイトルの映画が現れてしまったけど、この作品ならむしろふさわしいか…という気がしないでもない…。
ということでさっそく『死霊館 最後の儀式』の感想です。原題は「The Conjuring: Last Rites」。
1950年代から1980年代にかけて、悪魔的な心霊超常現象の調査者としてアメリカの世間を沸かせたエド・ウォーレンとロレイン・ウォーレンという夫妻がいました。エドは自称「悪魔学者」であり、ロレインは自称「透視能力の霊媒師」という触れ込みで、各地の怪奇現象が起きる現場に首を突っ込み、「これは悪魔の仕業だ」と断言して、お茶の間を騒然とさせました。
そんなウォーレン夫妻を主人公にしてホラー・エンターテインメントに仕上げたのが2013年に公開された映画『死霊館』。“ジェームズ・ワン”が旗揚げを担い、この映画は大ヒットし、フランチャイズ化。スピンオフもどんどん増え、「死霊館」ユニバース(The Conjuring Universe)として世界観を共有する壮大なシリーズに発展しました。現在、最も成功しているホラー映画のフランチャイズです。
ウォーレン夫妻を主人公とすることで一貫している『死霊館』と銘打たれたメインシリーズのほうは、2016年に2作目の『死霊館 エンフィールド事件』が公開され、2021年には3作目の『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』がお披露目に。
そして4作目となるのが本作『死霊館 最後の儀式』です。「死霊館」ユニバース全体としては9作目にあたります。いつの間にそんな数に…。
「最後」と副題についていますが、一応、ウォーレン夫妻を主題にするのはこれがラストという意味合いらしく、フランチャイズは継続する模様。まあ、これだけ稼げるシリーズをスタジオが捨てるわけないですね。
「死霊館」ユニバースの良いところは、あまりシリーズの整合性は気にしなくていいという点で(むしろ食い違っているところも多い)、なので『死霊館 最後の儀式』も過去作とか気にせずに楽しめます。
そう言えば「死霊館」という邦題も初心者には何のことかさっぱりですよね…。もう別に「館」とか舞台じゃないし…。
とりあえず区切りの一作になる(?)…はずの『死霊館 最後の儀式』。監督は2019年の『ラ・ヨローナ 泣く女』から「死霊館」ユニバースに仲間入りし、『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。 』(2021年)、『死霊館のシスター 呪いの秘密』(2023年)と、すっかりこの「死霊館」ユニバースの先導者となっている“マイケル・チャベス”。
主演はもちろん“ヴェラ・ファーミガ”と“パトリック・ウィルソン”の2人。主人公の娘の役には今回はドラマ『The Beast Must Die』の“ミア・トムリンソン”が起用されています。
他には、『カレとカノジョの確率』の“ベン・ハーディ”、『聖なる証』の“カイラ・ロード・キャシディ”、『HERE 時を越えて』の“ボー・ガズドン”など。
区切りの映画になっているので、多少のしんみりした空気もありますが、基本はいつもの「死霊館」ユニバースです。
『死霊館 最後の儀式』を観る前のQ&A
A:とくにありません。
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 多少の怖いシーンがあります。 |
『死霊館 最後の儀式』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
1964年、心霊研究家にして数々の悪魔に苛まれた人々を救い出してきて名を馳せていたロレインとエドのウォーレン夫妻。今は、雨降りしきる夜、骨董品店でアンティークの鏡にまつわる幽霊騒動を独自に調査していました。
ロレインは妊娠しており、お腹は随分大きくなっています。それでもこの仕事に身を捧げています。
問題の骨董品を保管している部屋へ足を踏み入れます。ロレインは布に覆われた姿見の鏡から何かを感じます。禍々しい装飾が施されており、霊媒師としての才能があるロレインは語りかけます。ゆっくりと手を伸ばすと不気味に笑った自分が映ったかにみえ、すぐに陣痛に襲われます。
エドは急いで車を飛ばし、病院に急ぎます。激痛で絶叫するロレインは病院で緊急診察を受けます。なぜか病院は停電し、手術室でもロレインは得体の知れない恐怖の気配を感じます。天井に何かいるような…。
医者はいきんで赤ん坊を押し出すようにロレインに指示し、赤ん坊はなんとか外に産まれますが、息をしていません。死産のようです。
夫婦はその光景に絶望していましたが、ロレインは声を振り絞って赤ん坊を求めるように祈ります。亡骸を抱きかかえ、声をかけ…。
すると赤ん坊は泣きだし、奇跡的に蘇生しました。ジュディと名付けられたその子と一緒に、ウォーレン夫妻は幸せな生活を送りました。
1986年。スマール一家はペンシルベニア州ウェストピッツトンに引っ越してきました。ジャックとジャネットの夫婦で、ジャックの両親のメアリーとジョンも同居し、そして4人の娘、ドーン、ヘザー、双子のカリンとシャノンと共に暮らす大所帯です。いつも賑やかで、新しい家でも充実していました。
熱心なカトリックでもあり、ヘザーの堅信礼式を控えていました。その大事な儀式を終え、この日の夕食はお祝いムード。ジョンはヘザーにアンティークの姿見の鏡を贈りました。その様子をビデオで撮る父。鏡は一部が割れていますが、ヘザーは一応はその場では喜びます。
そしてケーキの蝋燭を消しますが、その瞬間、キッチンの天井灯が突然派手に落ち、ヘザーは頭に切り傷を負います。
しかし、悲劇はそれだけでは終わりません。謎の老女を見たりする家族もいました。何かこの家に良からぬことが起きている…。
不気味に感じたヘザーはあの鏡が家に来てからおかしくなっていると直感し、その鏡を夜中に家の前の外のごみ箱に捨てました。翌朝、ゴミ収集車が持っていき、鏡はぺちゃんこになります。
しかし、それと同時に、居間にいたドーンが盛大に嘔吐。鏡のようなガラスの破片を吐いたのでした。
これはもはや気のせいという話ではありません。一体誰に助けを求めれば…。

ここから『死霊館 最後の儀式』のネタバレありの感想本文です。
ダイナミックな鏡
『死霊館 最後の儀式』にて恐怖体験に襲われる今回の被害者であるスマール家。実際にあった実話で、1974年から1989年の間に自宅に悪魔が住み着いたという主張し、当時は大きく報道されたそうです。
ただし、映画の出来事は限りなく99%脚色です。本作では「鏡」が元凶になっていましたが、実話では鏡にまつわる心霊現象があったらしいですけど、別に鏡自体に問題があったわけではありません。また、ウォーレン夫妻が調査に来たこともありましたが、「悪魔の仕業だ」と断言しただけで、この事件を解決したわけでもありません。
そもそもウォーレン夫妻はこのスマール家に起きた出来事を基に本を出版し、ちゃっかり儲けの材料に使ってしまっているのですが…。
そんなこんなはさておき、映画のほうは「死霊館」ユニバースの中でも基幹の「死霊館」シリーズとして順当にウォーレン夫妻に焦点をあて、ファミリーの物語の幕を下ろす作りになっていました。
ジュディのトニーとの結婚、そのジュディ自身の霊的能力との対峙、そしてウォーレン夫妻の引退…。もうホームビデオを見ているような感覚になります。
まあ、そのジュディがあそこまで悪魔的な存在にびくつくような人間になっているのは、物語上の理屈だとしても、『アナベル 死霊博物館』の設定は完全に無かったことになっているのは残念でしたが…(私は『アナベル 死霊博物館』の“悪魔にやり返せる”ジュディが好きだった…)。
このホームビデオ的なウォーレン家のファミリー・ストーリーが間に挟まる構成ゆえに、本作はちょっと展開がゆったりしすぎて、恐怖の緊張感が持続しないのが欠点でしたね。本作の映画時間もシリーズ最長の2時間15分で、だいぶ間延びしています。
肝心のスマール家に起きる恐怖ですが、演出としてはいろいろなジャンルを盛り合わせた基本はジャンプスケアありきの連発です。おもちゃの人形がでてくるあたりは、「アナベル」の発展版みたいになっていましたが、せっかくああいう演出をするなら、それ一本で絞って効果的にみせてほしかったところもあります。
いよいよウォーレン夫妻の介入によって儀式が始まるくだりになると、ここが本作の見どころなのか、鏡が本領発揮します。いやぁ、まさかあの鏡があんなダイナミックな動きをするとは思わないじゃないですか。 『ハリー・ポッター』の世界のアイテムだよ…きっと魔法使いの道具がマグルに手に渡ってしまったんだ…。
鏡のダイレクトアタックで押し合いになりながら、家族一丸で悪霊を退治するフィナーレは、もうギャグなのかなんなのかわからない勢い任せでした。
正直、ウォーレン夫妻の最終決戦相手がこの鏡だというのは、あんまりテンションは上がらないのですけども(「鏡」以外に他になんかあったのでは?)、たぶんこれはいろいろ大人の事情があるのだろうな、と…。
“良い夫婦でした”キャンペーンの功罪
というのも、『死霊館 最後の儀式』に限らず、この「死霊館」シリーズは実在するウォーレン夫妻を主題にするうえで、本人にかなり配慮していると思われ、あまりネガティブな描き方をしないようにしています。
例えば、今回のスマール家の事件でもそうなのですけど、たいていああいう悪魔が話題となる事件では、「悪魔に性暴力された」みたいな主張も飛び交うのですが、そういう性的な話題には触れないようになっています。
実は結構、取捨選択された悪魔の描き方なんですね。それこそ映画的に都合のいい部分しか物語に採用していません。
そしてここが一番肝心ですが、この当時のいわゆる「悪魔が平穏な家庭を脅かしている!」という一連の騒動は、ドキュメンタリー『サタンがおまえを待っている』でも整理されていたように、「サタニック・パニック(悪魔パニック)」と呼ばれるものの一部です。

実際のウォーレン夫妻は当時から多くの専門家に「インチキ」だと言われていましたし、「悪魔が原因だ」と焚きつけることで富と名声を手に入れていたのは事実です。こうやって映画になっているわけですし…。
つまり、この「死霊館」シリーズは結果的にウォーレン夫妻を「真っ当な対悪魔専門家」であったように印象を作り替える作用をみせており、ウォーレン夫妻のイメージアップのキャンペーンになってしまっているんですね。
しかも、今作にいたっては「良き家庭」を前面に打ち出しているので、なおさら好印象を押し売りしまくっています。模範的な家庭の宣伝動画みたいです。
これ自体の倫理性はさておくにしても、映画としてはやはりどんどん平凡化していってしまったのは否めないかなと思います。ウォーレン夫妻を良識人として理想的に描くことを前提にしてしまえば、それはそうなるのも無理ないです。ジャンルとしてはマイルドに傾いてしまいます。
個人的にはこの「死霊館」ユニバースがウォーレン夫妻と縁を切るのはちょうどいいタイミングだとは思うのです。そろそろ次の主軸となる“何か”が必要でしょうし…。
問題はこのフランチャイズはあれこれと映画を量産しているわりには、あまりこれだというキーパーソンを新規に確立できないまま突っ走っている状況だということ。「アナベル」がいるにはいますが、あれはホラー側のアイコンであり、「死霊館」ユニバースもそういう方向性に舵を切るのか、その行く末も気になるところ。最近のホラー映画界隈はホラー側のアイコンに頼りっきりですけどね。
いっそのこと完全にリブートすることだってできますし、今度はなるべく制約の少ないかたちで、大人の事情を気にせずに、自由に創造していってほしいです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『死霊館 最後の儀式』の感想でした。
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The Conjuring: Last Rites (2025) [Japanese Review] 『死霊館 最後の儀式』考察・評価レビュー
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