感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『ライオン・キング(2019)』感想(ネタバレ)…超実写版と本物の動物はどう違う?

ライオン・キング

超実写版と本物の動物はどう違う?…CG実写映画『ライオンキング』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Lion King
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年8月9日
監督:ジョン・ファブロー

ライオン・キング

らいおんきんぐ
ライオン・キング

『ライオン・キング』あらすじ

アフリカの広大なサバンナで、動物たちの王であるライオンのムファサの子として生まれたシンバは、いつか父のような偉大な王になることを夢見ながら成長していく。しかし、ある時、王位を狙う叔父スカーの策略によって父の命を奪われ、その出来事にショックを受けた幼いシンバ自身もサバンナを追われてしまう。そして、月日は流れ…。

『ライオン・キング』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

映画撮影の新時代を告げるキング

ンナァーーーーーーーツィゴェンニャーーーマバギーズィババー…

南アフリカ共和国のズールー族が話すズールー語で始まる印象的な歌詞。この作品と言えばこの曲。ご存知、ディズニー・ルネサンスを代表する1994年の長編アニメーション映画『ライオン・キング』の挿入歌にしてテーマ曲とも言える「Circle of Life」の最初の一節です。

『ライオン・キング』は今や25年も前の作品になりましたが、当時の反響は凄まじく、観客動員数は絶大で、物価変動を考慮してフェアに比較すると現時点でも『ライオン・キング』がアニメーション映画史上1位の観客数だと言われています。

皮肉なことにその1年後の1995年にピクサーの『トイ・ストーリー』が公開されて、アニメはセルからCGへと大きな激変を迎えるわけなのですが…。

そのディズニーにとってもメモリアルな『ライオン・キング』が、ここ最近の相次ぐ往年のディズニーアニメ映画の実写化の流れに乗って、ついに満を持してと言いましょうか、リメイク実写映画化することになりました。それが本作『ライオン・キング』です。

でもひとつ注釈。これは各所で散々言われていることですが、正確に実写ではありません。というのも全部フルCGだから(厳密にはワンシーンだけ実写カットがあるらしいですけど)。じゃあ、それってフォトリアルなCGアニメーション映画じゃないの?とは誰もが思うところであり、さすがに公式もそれを自覚しているのか、「超実写版」という新語で宣伝しています。

無論、動物しか出てこない作品ですので、本物の動物を使って撮影するのは不可能ですから、こういうかたちになるのは必然。でも「超実写版」なんて言い方は大袈裟では…。そう思う人もいるでしょう。

しかし、この生まれ変わった『ライオン・キング』は単なるフォトリアルなCGアニメーション映画でもないという凄さもあるのが特筆ポイント。それは土、草、木、水、空、毛並み…全てが精密なCGで再現され、まるで本物と区別のつかないリアリティを達成しているという部分ではありません(もちろんそれも凄いのですが)。

本作の革新的な凄さとは、VRを使った全く新しい撮影手法。簡単に概説すると、CGで舞台となる環境をあらかじめ構築しておき、監督など製作陣がヘッドマウントディスプレイ(HMD)を頭に装着し、まるでそのCGで作った世界の中に実際に立っているかのような状況を用意します。そこで、ここにこのキャラを配置しようとか、カメラはここから撮ろうといったプロダクションをしていくのです。つまり、VR空間内で実写映画を撮る要領で制作しているんですね。なので、出来上がった映像が、まるで実際のアフリカでカメラを回して動物をおさめたような、ネイチャードキュメンタリー風にしか見えません。

こうなってくるともう普通のアニメ映画製作でもなければ、実写映画製作でもない…ある種の別次元の製作スタイルが確立されているわけで…。いやはや凄い時代になったもんだ…。

このVRテクノロジーをフル活用した撮影手法は、ディズニーが2016年に実写化した『ジャングル・ブック』でも使用されていたものですが、あちらは子役の人間も出演していたのに対し、今回の『ライオン・キング』はオールCGなので、この技術が全面的に大活躍したとか。これはもう新時代映画の始まりを告げる一作なのかもしれません。オリジナル版のアニメの方はセルアニメの終わりを飾る映画だったので、偶然にもハッキリとした対比ができましたね。

本作の監督は『ジャングル・ブック』実写化でも才能を発揮した“ジョン・ファヴロー”。彼は監督だけでなく俳優も脚本もできる多才な人で、最近も『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』で愛嬌のある演技を披露しています。料理が趣味らしく、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』という監督作もあるくらいで、私も『ライオン・キング』事前予習として、“ジョン・ファヴロー”がひたすら料理を振る舞うクッキング番組『ザ・シェフ・ショー 〜だから料理は楽しい!〜』をNetflixで見ておきました。えっ? 『ライオン・キング』と関係ないって? いや、ほら、あの虫を食べる名シーンに影響を与えているかもしれないから…(テキトー)。

映像のみならず声をあてるキャスト陣も素晴らしいです。すでに実写化が発表されている『リトル・マーメイド』のヒロインの人魚に黒人を起用したことで議論になっていたことがこの間もありましたが、実はこの『ライオン・キング』も黒人キャスティングになって生まれ変わっています。

主人公ライオンのシンバを演じるのは、『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』でも大活躍した“ドナルド・グローヴァー”、ヴィランとなるスカーを演じるのは、『それでも夜は明ける』で高い評価を得た“キウェテル・イジョフォー”。そして、ヒロインのナラを演じるのは、あの世界の“ビヨンセ”です。こうなるとまた“ポリコレが…”という人が出てきそうですが、そもそもアフリカを舞台にした作品なのですから、アフリカ系の人を声に起用するのはむしろ普通ですよね。

私はまたまた事前予習として(事前予習になっているのか問題)、『HOMECOMING』という“ビヨンセ”のライブ映像作品(Netflixで配信中)を観たのですが、やっぱりパフォーマンスが素晴らしい。歌でいっぱいの『ライオン・キング』も期待してほしいですし、吹き替えと字幕双方で楽しんでください。

『ライオン・キング』はもともと人気作ですし、それに動物好きにはたまらない作品です。なにせ動物オンリーな世界ですから。それが超実写版に新生して、ますます動物成分が増しました

でも実は本物の動物とは異なる部分も…。本作をきっかけに動物についてもっと知ってほしいので、今回はそのフィクションとリアルの比較をメインで感想としてまとめていきたいと思います。感想後半では、この徹底してリアルとなった新『ライオン・キング』の動物たちは、実際の動物たちとどう同じで、どう違うのか、マニアックな視点で自己満足に語っています。ぜひ一緒に見たお子さんや友人・恋人との話のネタに使ってください。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(動物好きにはたまらない)
友人 ◎(ディズニー好きと一緒に)
恋人 ◎(エンタメ性抜群で気分上々)
キッズ ◎(子どもでも大満足)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ライオン・キング』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

見た目だけでなく、本物っぽくなった?

『ライオン・キング』の主役はそのタイトルどおり「ライオン」です。

ライオンと言えば、アフリカを代表する野生動物として知名度抜群。でも昔はヨーロッパやアジア、アメリカにも生息している分布域の広い動物でした。大半の地域では絶滅してしまい、まとまった数がいるのはアフリカだけになってしまった…という現状です。

作中では、ムファサという名のオスライオンを中心に複数のメスライオンが群れを成す“ファミリー”がメインとなっています。この“群れを作る”というのは、ライオンの特徴的な生態のひとつ。同じくアフリカに生息するヒョウなどネコ科の動物は基本群れは作らないのですが、ライオンは社会性のある群れを作ります。この群れは「プライド」と学術的には呼ばれていて、作中で舞台となる地域が「プライドランド」と称されているのは、そこに由来しています。

ただ、作品オープニングのように他の動物に崇められるかのような扱いはないです。あれはきっと「百獣の王」というライオンにつけられがちなフレーズからイメージを膨らましたのでしょうね。

メスライオンの仕事は狩りです。作中でもナラがイボイノシシのプンバァを襲っていました。オスはそのメスたちが連携して捕ってきた獲物をもらうだけ。じゃあ、オスは何をしているのか。それは他のオスから群れを守ること。ライオンはオスがメスの群れを奪い合う習性があります。

なので作中で、ムファサがスカーの策略にハマり、群れを奪われ、追い出されて成長したシンバが今度は逆にムファサから群れを奪い返すというのは、いかにもフィクションなドラマ的シナリオに見えますが、かなりライオンの生態が忠実に活かされたものなんですね。

しかし、ひとつ決定的に実際と違うのは、本物のライオンのオスは群れを奪うと、すでにいる以前のオスとの間にできた子どもを殺すという、“子殺し”の習性があること。作品内では、ムファサは子殺しをしているようには見えません(子どものナラが何事もなく成長している)。あくまでムファサは子どものシンバだけをターゲットにハイエナに殺しを命じるのみです。さすがに“子殺し”まで表現したら残酷すぎると思ったのでしょうか。

また、群れを追い出されたシンバが自分のいた群れにまた戻ってくるのも、水を差すようで悪いですけど変です。ライオンのオスは本来、成熟して大人になると、自然と群れから追い出され、他の群れを探します(群れを奪う側として頑張らないといけない)。シンバも別の群れを探すのは通常なのですが、まあ、そこはね…。ちなみに後に結ばれるナラとは父も母も異なるようなので、近親交配にはなっていないようです。

新生『ライオン・キング』では、ナラを中心にメスライオンたちの出番が少し増えています。これはフェミニズム的な潮流に合わせたものと言えますが(あとミュージカル舞台版も反映しています)、本来からしてライオンはメスの立場が自立した“強い存在”であるということを忘れないでおきたいものです。むしろ擬人化されがちな動物キャラ事情に対して、今回の新生『ライオン・キング』はメスライオンの描写を増やしたことで、より本物のライオンらしくなったといえるのではないでしょうか。

スポンサーリンク

気づきました? アレがないことに

『ライオン・キング』はライオン以外の動物もサブキャラとして出てきますが、対立的に描かれるのがハイエナです。種としては「ブチハイエナ」でしょうか。

ハイエナはライオンのライバル的な存在で、実際に獲物を奪い合うような関係性。作中ではシェンジ、アジジ、カマリという3匹がスカーと結託したように描かれますが、さすがにライオンと協力関係を結ぶハイエナはいません。でも、ハイエナだけでもじゅうぶん強い生き物です。獲物を奪う卑怯者みたいなイメージがありますが、そうではなくライオンと同じように群れで狩りをします(ハイエナの群れは「クラン」と呼ばれます)。持久力はハイエナの方があるので、作中でもシンバをひたすら追いかけるしつこさが描かれていましたが、案外あれもリアルです。

またハイエナは笑っているかのような不気味な鳴き声をあげることで有名。これもオリジナル版のアニメの方ではかなり反映されていたのですが、今回の超実写版では抑えめだったような…。

ちなみに本作は全動物が本物と見間違うかのようなリアリティがありますけど、ひとつだけ決定的に欠けているものがあります。お気づきでしょうか。

それは…「生殖器」

どんな動物にもある、“おまたのアレ”がまるまる描写されていません。これはディズニー映画に限らず、CG動物の登場する映画ではよくあることですが。さすがに生々しくなりすぎるし…(でも本作ではあまり股間が映らないようなカメラワークになっていた気がする)。

しかし、この生殖器不在の描写が、ハイエナの特徴を大きく削いでいたりもします。実はハイエナはオスもメスも生殖器が非常に目立つ動物で、メスですら“ぶらんぶらん”しているので、両性具有だと考えられてきた歴史もあるほど。

気になる方はハイエナをネットで検索してみてください。

スポンサーリンク

小さなアフリカのサークル・オブ・ライフ

まだまだ動物はいっぱい。

賢者的なポジションにいる「ラフィキ」。このキャラは少しややこしく、分布域や体格を考えると「ヒヒ」なのですけど、顔の特徴的な色鮮やかな模様は「マンドリル」で、合成的な特徴を合わせ持った存在になっています。作中では、杖を使って戦っていましたけど、実際は歯をむき出しにして威嚇することはあります。本来は群れる生き物なので、ああやって単独行動はしません。

シンパの子守り的な執事風の役どころの「ザズー」「アカハシコサイチョウ」がモデルみたいですけど、一番リアルになって本物感が増したキャラかもしれません。『アラジン』のときも思いましたけど、鳥をキャラとしてリアルのバランスを考慮して描くのは難易度が高いですよね(哺乳類はまだ感情を表情で描けるけど、鳥は…)。狩りの練習に使われる場面が、超実写化によってガチな雰囲気が増したのがシュール。

お調子者コンビとして登場するミーアキャットの「ティモン」と、イボイノシシの「プンバァ」。「ハクナマタタ」を合言葉に好き勝手に暴れまわる二人は、本作のムードメーカー。全体的にリアルな動物の世界を再現していた本作の中でも、この二人だけはフィクション度合いが一気に増しています。そもそも絶対にペアを組まないであろう2種を組ませている時点であり得ないですから。今作では“セス・ローゲン”演じるプンバァのコミカルが良かったですね。もともとイボイノシシは可愛げのある動作の多い動物なので、コメディに適しているとも言えます。

ちなみにティモンとプンバァは虫が大好物で、シンバにも虫を勧めますが、実際のライオンも虫を食べる事例はあるみたいです。ただお腹は満たされないでしょうが…。やっぱり大きな食事がないとね(チラっと近くの虫喰っている二人を見る)。

他にも背景にサラッと登場する動物たちがたくさんいましたが、プライドランドを出てハクナマタタ精神で成長したシンバが故郷を想っていると、シンバの生存痕跡がラフィキに伝わるというシーンがあります。今回の超実写版ではそこがアレンジされていて、具体的な痕跡がフンコロガシやハキリアリなど、アフリカの小さな生物を通して伝搬していく演出に変わっていたのが、個人的には嬉しいポイント。アフリカにはこういうミニマムな生き物もいるんですよ、という目配せ。良いです。

超実写版でスケールが増したことで、より壮大な生態系を描き切ることができており、見事なパワーアップじゃないでしょうか。

大まかなストーリーは同じなので物語面の新鮮さは薄いでしょうけど、まあ、変えづらいでしょうからしょうがないのかな。個人的には続編として製作されている、『ライオン・キング2 シンバズ・プライド』がご時世には合っているのかなとも思います(シンバの“娘”が女王になろうとする話)。

これだけビックスケールな世界観を作り上げてこれで終わりなのも寂しいので、完全オリジナルで続編を作ってもいいんですよ。

『ライオン・キング』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 53% Audience 88%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

以上、『ライオン・キング』の感想でした。

The Lion King (2019) [Japanese Review] 『ライオン・キング』考察・評価レビュー