パンデミックで崩壊した世界で生きるのはシカ人間でした…ドラマシリーズ『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
シーズン1:2021年にNetflixで配信
製作総指揮:ジム・ミックル、ロバート・ダウニー・Jr ほか
スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年
すいーととぅーす しかのつのをまつしょうねん
『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』あらすじ
何事もなく日常が続いていたはずの世界は当然の異常事態によって崩壊してしまった。しかし、それで終わらない。同時に不思議なことが起きる。人間から生まれてくる赤ん坊はそれまでの姿とは違っていた。こうして何もかもが成立しなくなり、常識もルールも消えた。そんな世界でまだ10歳の少年はひとり生活することになってしまう。生きる知恵は決して豊富とは言えない。おまけにその子にはシカの角が生えていた。
『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』感想(ネタバレなし)
制作はあのアイアンマンの人の会社
「シカ人間」…そうは言っても、別に「シカを愛する研究者」のことではないですし、「シカ肉を好物とするジビエ好きの人」でもないです。
文字どおり、鹿と人間のハイブリッド、ちょっと不思議な生物のお話。さっそく今回紹介するドラマシリーズ『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』の話題に移りましょう。
本作はさっきから言っているように、シカ人間の少年を主人公とするファンタジーアドベンチャーです。この子は基本的には人間の少年っぽい体がベースにありますが、一部に体毛があり、シカのような耳が生え、そして角も生えています。それ以外にも動物的な感覚に優れていたり…。この子は生まれつきシカ人間なのですが、なぜこの子がシカ人間として生まれたのか。それはこの物語のひとつの謎になってくるのでお楽しみに。
舞台はある理由で人間社会が崩壊した地球。ポストアポカリプスですね。といってもまだ生存している人間たちの中には地上で秩序を保ち、社会を回復させようと努力している者もいますし、ひたすらに隠れ住む者もいれば、欲望に身を任せて暴力を振るう者も…。
そんな世界でシカ人間の男の子が大冒険をしていく『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』は、子ども向けの作品になっているので、比較的小さい子でも楽しめるようになっています(直接的な残酷描写は抑えられています)。だからといって大人の鑑賞には不向きと言うことはなく、しっかり大人も満足できるクオリティになっているのでご安心を。実はコロナ禍の時代だからこそ刺さる倫理観を問うテーマもあったり…(詳細は後半の感想で)。
その『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』、原作があってそれはあの「バットマン」とか「スーパーマン」でおなじみのDCコミックスです。2009年から刊行されており、批評的には『マッドマックス』と『バンビ』を合体させた作品という、なんともぶっとんだレビューがつけられたりも。
なので本作の制作もDCとワーナーになっています。しかし、企画時点ではワーナーの動画配信サービス「HBO Max」もなく、結果「Hulu」での配信を予定していたようですが、なんだかんだあって「Netflix」での配信になりました。
また本作の制作を担うプロダクションとして無視できないのは「Team Downey」という会社。これは名前からもう存在感が出まくりですが、あの『アイアンマン』で有名な“ロバート・ダウニー・Jr”設立の企業です。最近は『ドクター・ドリトル』(2020年)を作っていましたし、子ども向けの動物モノが“ロバート・ダウニー・Jr”は好きなのかな。『ペリー・メイスン』みたいな大人向けの作品も制作していますけどね。
製作総指揮と脚本、そして一部のエピソード監督を務めるのは“ジム・ミックル”。『月影の下で』(2019年)を最近は手がけていました。
そして『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』の主役であるシカ人間の男の子を演じるのが“クリスチャン・コンヴェリー”であり、これまでも子役として活動していましたが、この本作の成功でさらにブレイクしそうな予感。もう全編ずっと可愛いですよ。ほぼこの子を愛でるためだけの映像のようなものです。良いキャスティングをしてきたな…。
共演は、ナイジェリア系イングランド人の“ノンソー・アノジー”。この人は『アルテミスと妖精の身代金』とかいくつかの作品でチラホラ見かけますけど、舞台ではかなり活躍されている方なんですね。
他には、『ヴィクトリア女王 最期の秘密』の“アディール・アクタル”、『ビーチ・バム まじめに不真面目』の“ステファニア・ラヴィー・オーウェン”、ドラマ『HEROES/ヒーローズ』の“ダニア・ラミレス”、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』の“ウィル・フォーテ”、『この茫漠たる荒野で』の“ニール・サンディランズ”など。
シーズン1は全8話で1話あたり40~50分ほど。毎日少しずつ鑑賞していくのでもちょうどいいボリュームと気軽さのあるエンターテインメントです。動物が好きなキッズにもオススメです。
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽に楽しみやすい |
友人 | :ファンタジー好き同士で |
恋人 | :気軽な暇つぶしに |
キッズ | :子どもでも見やすい |
『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):フェンスの外へ
この物語はとても特別な男の子にまつわる話。
アディティア・シンという医師の男はいつも真面目に働いていました。患者は毎日やってきて助けを求めています。しかし、気になる症状の患者が少しずつ増え始めます。それは小指がぴくぴくと痙攣するのが特徴で…。
気が付いたときには手遅れでした。疫病の感染は瞬く間に拡大。隔離が進みますが、ペストに匹敵にする死者数を出し、この「H5G9」と名付けられた史上最悪のウイルスは猛威を振るいます。世界は緊急事態となりました。
アディは妻のラニを病院へ運びます。彼女にもその症状が現れていました。しかし、街は上に下にの大混乱で、外出禁止令が出る中、車を飛ばし、病院へ。
しかし、そこでもうひとつの異常を目にします。世界に混乱が起きると同時にある異常なことが起きていたのです。病院の新生児室にいるたくさんの生まれたばかりの赤ん坊。普通の光景です。けれどもちょっと違いました。その赤ん坊たちは人間とは少し違う姿。動物のような毛や翼、鱗があるのです。人類最大の謎がふいに出現しました。獣的な特徴を持つ人間の赤ん坊…「ハイブリッド」です。
その頃、別の男が赤ん坊を抱えて人間社会から離れて森を歩いていました。その赤ん坊はガスと命名されれ、その姿はシカのようでもあり…。森の中にある古びた家に到着。そこで暮らし始めます。
ガスはスクスクと成長しました。人間を観たら隠れるように教わり、父親の言うことに従います。
冬。上空を軽飛行機が飛び、ビラが舞いおりてきました。それはハイブリッドの保護区を知らせる内容です。父は警戒を強めます。
一方で、ガスは7歳になり、外の世界への好奇心は強まるばかり。そこで父が教えてくれます。「ずっと昔、悪い人間が世界を支配していた、だから病気で消そうとした、奇跡でハイブリッドが生まれた、人間はハイブリッドを忌み嫌う、外の世界に火をつけた、人間は火の中から狙っている…」そんな逸話を真に受けるガス。
そしてさらに年月が経過。ガスは9歳に。ガスは偶然にも壊れたフェンスの手前まで来てしまい、父に怒られます。しかし、人の声が聞こえました。銃を向ける父。そこにいたのは別の人間の大人。そいつは外は最悪だと語り、疫病は収まっていないと現状を伝えます。とりあえずその場を立ち去るも、父は慌ててガスをシェルターに隠し、ひとり様子を見に行きます。
しばらく後、父が帰ってきたと思ったら倒れて息絶えてしまいました。「ママは人間だ、名前はバーディ」と言葉を残して。ひとりになったガスは想像の力で仲間を妄想し、生活。
しかしついに孤独に耐え切れず、箱から見つけた母らしき女性の写真とコロラドという手がかりをもとにフェンスの傍にやってきます。その直後に襲ってきた人間から助けてくれたのは大柄な男。このビッグマンはガスに目もくれず、置いていってしまうのですが、覚悟を決めたガスは追いかけます。
「連れてって!」
10歳のガスは一歩を踏み出しました。
パンデミックの現実と重ねて
『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』の世界は「Sick」という謎の病気によるパンデミックに直面し、社会は崩壊してしまいます。溢れる患者に大混乱する医療従事者、感染者への強烈な排除意識、なんとか日常を取り戻そうと現実逃避するコミュニティ…。既視感でいっぱい…。
まさに新型コロナウイルスのパンデミックの中にある配信時の現実社会とシンクロしていますが、本作の企画はコロナ禍以前のことなので偶然の一致です。
ただし、本作の撮影はコロナ禍真っただ中の2020年夏に行われました。撮影はニュージーランドだったようです。確かにあんまりアメリカって感じの風景ではなかったですけど、終末後のアメリカはちょうどニュージーランド的な自然風景の多い空間になるのかも。
なので撮影時点ではリアルで感染症パニックの恐怖を作り手も嫌というほど痛感していたわけで、本作で描かれるパンデミック描写もなかなかに現実味がありました。これぞリアルがフィクションをバージョンアップさせる重大事件ですね。ちゃんとマスクしていますし(昔のパンデミック映画はマスク自体が軽視されがち)、ソーシャル・ディスタンスを呼びかける看板もあったり、ディテールがガラっと変わりました。もう私たちはパンデミックを雑に映像化できませんね…。
一方でその良い点に対して逆にパンデミックを経験してしまったからこそ気になってしまう点もあったり。
例えば、この『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』ではパンデミックに加えてハイブリッドと呼ばれる獣的な特徴を持つ赤ん坊が生まれるようになるという設定も導入されます。
それはいいのですが、そのパンデミックの原因とされる病の治療薬を作るのに、なぜかハイブリッドの人体実験が必要だったりします。正直、なぜ解剖するのか、医学的な理屈はさっぱりなのですが(別にサンプル採取なら殺さなくてもいいのに)、たぶん物語上のショッキング要素のためなんでしょう。
ただ、それプラス、さらにガスが母と思っていたバーディの研究の結果生まれた存在だと判明したり、要するに疫学を取り巻く科学的合理性を疑う描写が多い作品なんですね。
こういう作品に刺激を加えるためにセンシティブな要素を無邪気に発信するのは、やっぱり昨今も大問題になっている「anti-vaxxer」と呼ばれるワクチン反対派や陰謀論者を勢いづかせるだけになるんじゃないかとややモヤモヤします。
病気を治して世界を救うために大切な存在を犠牲にすべきかという葛藤は、「The Last of Us」というテレビゲームを思い出すものですけど…。
この倫理的にきわどい状態を挽回できるようなメッセージ性は出せるのかな…。
シーズン1:また檻の中(でも仲間と一緒)
まあ、そんな難しいことはさておき、『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』の魅力は主人公の可愛さじゃないですか。
見てください、この公式メイキング動画を。微笑ましすぎる…。
シロップなど甘いもの好き(だからあだ名もスイート・トゥース)という設定からもどことなく「くまのプーさん」感があるんですけど、デフォルメによってずいぶん愛らしさが増しています。何よりも役者の“クリスチャン・コンヴェリー”の可愛さが100点満点。一挙手一投足が全てキュートです。可愛すぎてシリアスなシーンがあまりにシリアスに見えないという欠点さえもあるのですが、まあ別にいいか。
その“クリスチャン・コンヴェリー”の横に並ぶジェップ(トミー・シェパード)を演じる“ノンソー・アノジー”も可愛いですからね。
対する敵となるアボット将軍はいかにも悪そうな奴で、あんなコテコテの悪人顔いる?ってくらいのベタさなのですけど、子ども向けだからわかりやすさ重視なのかな。あんな髭モジャだと、あいつも何かのハイブリッドなのかと一瞬思ってしまう…。
キャラ造形は良いのですが、ひとつ気になるのはガスやウェンディのように主役側に近いハイブリッドほど人間要素が強いということですかね。ちょっと忖度を感じる…。ここもあくまで視聴者の子どもを怖がらせない程度のバランスなのか。
『らいおんウーマン』のように獣的人間キャラのデザインはいろいろありますが、『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』はそういう意味ではすでに受け入れやすさ重視の見た目であり、もうこの製作側の配慮があるせいで、物語内の「ハイブリッドと共存できるのか」というテーマはやや意味合いを失っている気もしないでもない。
とにかくシーズン1のエンディングでは、ガスはアボットに捕まり、アディ医師のもとに実験動物として持ち込まれ、檻の中で他のハイブリッドと初めて遭遇。ジェップはエイミーに救助され、反撃の準備へ。ベア(レベッカ;ベッキー)は無線でバーディと繋がることができ…。とまあ、やっとプロローグ終了という感じですし、これから物語は本格スタートですかね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 98% Audience 92%
IMDb
8.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Warner Bros. Television スイートトゥース
以上、『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』の感想でした。
Sweet Tooth (2021) [Japanese Review] 『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』考察・評価レビュー