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アニメ『とんでもスキルで異世界放浪メシ』感想(ネタバレ)…異世界アニメは植民地主義が隠し味?

とんでもスキルで異世界放浪メシ

異世界アニメは植民地主義が隠し味になっている?…アニメシリーズ『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Campfire Cooking in Another World with My Absurd Skill
製作国:日本(2023年)
シーズン1:2023年に各サービスで放送・配信
監督:松田清

とんでもスキルで異世界放浪メシ

とんでもすきるといせいかいほうろうめし
とんでもスキルで異世界放浪メシ

『とんでもスキルで異世界放浪メシ』あらすじ

ある日、突然異世界へと召喚された普通のサラリーマン、向田剛志(ムコーダ)。自分の意思に反して半ば流れのままに異世界の住人となった彼の固有スキルは「ネットスーパー」という一見しょぼいものだった。落胆するムコーダだったが、実はこのスキルで取り寄せた現代の食品は異世界だととんでもない効果を発揮する。そして「食」を探求しながら、未知の世界を自分なりに冒険することになっていき…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の感想です。

『とんでもスキルで異世界放浪メシ』感想(ネタバレなし)

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ほのぼの異世界転生モノをその視点で?

日本のアニメの専門雑誌やウェブサイトを見ていると気づくことがあります。それは専門のレビューが行われていないという点です。映画であれば、雑誌でもウェブサイトでも各映画作品を批評する記事があるものですが、日本のアニメにはそれがないのです。もちろん「大人気です!」とか、そういう評判を紹介したり、人気ランキングなどを掲載したりする記事は見つかります。でも作品ごとにじっくりとレビューするものはない…。

たぶんこれはアニメをレビューする文化が業界の本流にはないんでしょうね(研究事例はあれど、商業的な世界では積極的に行われない)。日本のアニメ業界はかなり独特の構造を持っています。そのため、日本語圏でアニメのレビューを見つけようと思うと、個人でやっている人を見つけるくらいしか術がありません。

一方で英語圏などの海外では日本のアニメのレビューが専門ウェブサイトなどではしっかり行われていたりします。やはり海外にはちゃんとレビュー文化があるのです。日本のアニメに精通したライターが各作品をレビューしており、日本とは作品へのアプローチが全然違います。

そんな英語圏における日本のアニメのレビューを見ていると、日本ではなかなかお目にかかれない独自の視点で多角的にアニメを分析しているものもあったりして、新鮮です。「こんな角度からこのアニメを批評できるのか!」と私も勉強になることがよくあります。

そうやって私が日本のアニメに関する英語圏のレビューを漁っていると、ある日本のアニメでも定番のジャンルを特定の視点で分析することが可能なんだと学ぶことができました。

そのジャンルとは「異世界転生モノ」です。「異世界転生モノ」とは、現代社会に暮らしていた主人公が何らかの理由で、異世界へと転生することになり、そこで第2の人生を生きていく…という、ざっくり言えばそんな軸がある物語を有するジャンルです。日本では「異世界転生モノ」はすっかりおなじみのジャンルとなり、アニメでも「異世界転生モノ」系の作品がいくつも作られています。

基本的に日本では「異世界転生モノ」は、現実社会から離れ、ファンタジーな世界で新しい生き方ができるので、「現実逃避」の感覚を与えてくれます。それでいて同時に「現実社会の知識や常識」が持ち込めるので、ファンタジーにありがちな複雑な設定に混乱したりもせず、むしろメタ的に楽しめる…お手軽なジャンルだからこそ支持されているのだと思います。源流をたどれば「浦島太郎」も「異世界転生モノ」と言えなくもないですね。

この「異世界転生モノ」は英語圏では「Isekai」とそのまま呼ばれており、日本の漫画やアニメ特有のジャンルとして認識されています。

そして「異世界転生モノ」について英語圏のレビューを見ていると、それを「植民地主義(コロニアリズム)」の視点でその相似性を分析していることが結構あるんですね。

一体どういうことなのでしょうか。「異世界転生モノ」と「植民地主義」にどんな関係があるのか…。

ということで前置きが長くなりましたが、今回は『とんでもスキルで異世界放浪メシ』というアニメシリーズを題材にして、この「異世界転生モノ」と「植民地主義」の関連を少し掘り下げてみようと思います。

『とんでもスキルで異世界放浪メシ』は、“江口連”によるライトノベルが原作で、2016年から続く人気シリーズです。平凡なサラリーマンがファンタジーな異世界に転生し、そこで勇者になるわけでもなく、なぜか「ネットスーパーでショッピングする」というスキルを活かすことで現実世界の食材をこちらに持ち込み、それを利用して生活することにする…というそんな”ほのぼの”としたお話。

「グルメ」系のジャンルの要素も持ち合わせており、これと「異世界転生モノ」(もしくはファンタジーもの)を合体させた作品と言えば、『異世界食堂』『ダンジョン飯』など他にもアニメ化されたものがあります。スタイルとしてはそこまで超個性的ってほどでもないです。

『とんでもスキルで異世界放浪メシ』は前述したとおり、”ほのぼの”感が人気の理由と思われ、モフモフした獣とポヨポヨしたスライムと一緒に美味しいご飯を食べる…そんなリラックスしたひとときを過ごして癒されたい人が多いんじゃないかな。

『とんでもスキルで異世界放浪メシ』のアニメシリーズは「MAPPA」制作で、2023年から開始されましたが、それが「植民地主義」の視点でどんなふうに見え方が変わるのか。お付き合いいただける人は、後半の感想へとどうぞ。

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『とんでもスキルで異世界放浪メシ』を観る前のQ&A

✔『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の見どころ
★刺激も薄いので、のんびりと楽しめる。
✔『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の欠点
☆あまり大きな起承転結はない。
☆お腹がすく。
日本語声優
内田雄馬(ムコーダ)/ 日野聡(フェル)/ 木野日菜(スイ)/ 内田真礼(ニンリル)/ 東地宏樹(ヴェルナー)/ 甲斐田裕子(キシャール)/ 白砂沙帆(ルサールカ)/ 大地葉(アグニ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.0:暇つぶしにでも
友人 3.0:気軽に流せる
恋人 3.0:まったりと一緒に
キッズ 3.5:子どもでも見れる
↓ここからネタバレが含まれます↓

『とんでもスキルで異世界放浪メシ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):こんな上手い肉は初めて!

「勇者様!」…3人の10代の少年少女たちは異世界「レイセヘル王国」に召喚されました。神官の鑑定いわく、聖剣の使い手、聖魔法、光・風・雷・氷の魔法を網羅するなど、それぞれの特殊なスキルがあるようです。「どうかこのレイセヘル王国をお救いください」と姫は懇願します。

その少年少女たちの背後でスーツ姿の成人男性がひとり突っ立っていました。「これはあれか? 異世界召喚ってやつか?」…そんなことを脳内でぼんやり考えながら…。

そのサラリーマンの存在に気づく神官。さっそくステータスを鑑定しだします。「名前は、むこうだつよし。27歳。固有スキルは、“ねっとすうぱあ”?」

全然勇者っぽくないので、異世界の人たちも興味なさげ。一応、王様に謁見する一同の後ろについていきますが、この巻き込まれてしまった男、ムコーダは察しがつきました。自分がここで勇者になる意味はない…と。

そこで「自分は地味に暮らしていこうと思います」と辞退し、金貨20枚を持たされて着の身着のまま街をうろつくことになります。とりあえず違和感のない普通の服装に着替え、宿に泊まります。

と言ってもどうやってここで生活しようか…。自分でもステータスを確認すると、確かに固有スキルは「ネットスーパー」となっています。画面をタップすると、おなじみの大手オンラインショッピングのサイトが開き、水やすぐに食べれそうな食品を買い物かごに入れ、購入手続きへ。

しかし残高不足。なので銀貨を画面に投入。すると空間から箱が出現。ちゃんと届きます。カネさえあれば食うには困らないし、カネもこのスキルで稼げるのでは?…とムコーダは思案します。

キールスという国境の町へ行くことにし、アイテムボックス鑑定のスキルは貴重だそうで、自分が異世界転生者だとバレないようにしようと心に誓います。

乗合馬車の運行停止で国外に出れず、冒険者ギルドでフェーネン王国の国境までの移動中の護衛を依頼することに。護衛してくれるのは、アイアン・ウィルのヴェルナー、剣士のヴィンセント、斥候のリタ、魔法使いのラモン、回復役のフランカ

休憩時に昼食を作ることになり、一般的なカセットコンロを取り出し、サンドイッチとスープを提供。一同はこんなおいしい食事は初めてのようで感激してくれます。夕食も大絶賛でした。どうやら現実社会の食材はすごい効果があるようです。

生姜焼きをごちそうしていると、その匂いにつられて現れたのは魔物…ではなく、巨大な魔獣フェンリル「それを我に食わせろ」と威圧的に要求し、たらふく食べきると「お主と契約してやろう」となんと従魔契約を結ぶハメに。

普通に暮らしたかっただけなのに、なんでこんな魔獣にご飯を作らないといけないのか。こうして「食」の旅が始まってしまうのでした…。

この『とんでもスキルで異世界放浪メシ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/05に更新されています。
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Mighty Whitey

ここから『とんでもスキルで異世界放浪メシ』のネタバレありの感想本文です。

『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の感想に入る前に、そもそも「異世界転生モノ」と「植民地主義」はどうして結び付けられるのか?という根本的な基礎知識の話をしないといけません。

それにはまずこれを知っておくべきでしょう。Mighty Whiteyです。

これは物語によくある構造のひとつで、白人の主人公が先住民族(もしくはそれに準ずる何か)の世界へと飛び込み、そこで文化や社会を学び、しだいにリーダーとしてパワフルな存在へと成長する…というやつです。『ターザン』のように昔から白人大衆社会に好まれるプロットであり、最近だと『アバター』はまさに直球の「Mighty Whitey」でした。

しかし、この「Mighty Whitey」は「優れた存在」が「劣った存在」の文化や社会で優位性を発揮することで成り立つので、前提として優生思想的であり、植民地主義的な構造を有しているという指摘もありました。

そしてこういう「Mighty Whitey」の派生のような構造を持つ作品は、映画のみならず、各種エンタメにいろいろあるんですね。例えば、子どもの間でも大人気な「マインクラフト」というゲームも植民地主義的な関係性で分析されることがあります。

こんな感じで「あの作品って“Mighty Whitey”では?」「この作品は植民地主義な感じだよね」みたいな議論は英語圏では掲示板やSNSでは頻繁に勃発します(そして往々にして荒れやすい傾向にある)。とにかく日本では意識度は低いでしょうけど、英語圏ではよくあるトピックなのです。まあ、日本はもっと植民地主義の意識を持つべきだと思いますけどね。

もっと言えば、私たちが何かの世界で活躍する主人公に「快感」を感じるとき、その「快感」の裏にはもしかしたら「植民地主義」を土壌とする達成感のようなものが意図せず混入しているのかもしれません。

だからこそ近年はこれらのジャンルに覆い隠されがちな植民地主義をあえて露呈して暴くカウンター的な作品も見られます。映画だと『エターナルズ』『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』などがそうですし、日本の作品だと『進撃の巨人』なんかもその類でしょう。

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「食」を文化としてではなく…

そんな「Mighty Whitey」に根差す「植民地主義」について日本の「異世界転生モノ」でも同様の類似性がある…そんな視点は実はすでに多く寄せられており、研究事例もいくつもあります(例えば、Settler Colonial Studies)。

確かに「異世界転生モノ」はたいていの場合、現実社会の知識や経験を有した主人公がそれを優位性とし、異世界で存在感を強めていきます。「異世界転生モノ」にありがちな主人公の“チート”属性と、(読者や観客にとって)既知のファンタジーな世界を“攻略”プレイしていくようなストーリー感覚が、意図せずとも植民地主義と重複しやすいのでしょう。

全ての「異世界転生モノ」がそうだという話ではないですが、これは一種の日本版「Mighty Whitey」なのかも…。

で、やっと『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の話題に戻りますが、本作は一見すると“ほのぼの”感たっぷりのまったりした世界観なのですが、しっかり植民地主義的な構図が観察できます。

「人を殺す」とか「土地を奪う」とかの虐殺略奪だけが植民地主義だと思われがちですが、植民地主義は文化や社会に優位性を持って作用する行為です。例えば、言葉や食文化への介入も、ときには立派な植民地主義的な干渉になるでしょう。

そう考えるとこの『とんでもスキルで異世界放浪メシ』は「異世界転生モノ」に「グルメ」の要素を持ち込んだのが仇になっているのですが、本作の場合はさらにその「食」が「ネットスーパー」で持ち込まれるのが植民地主義的な構造を輪をかけて濃くしてしまっています。

本作はなかなか見られないほどのプロダクトプレイスメントの量で、食事調理シーンなんか、これはもう企業の宣伝CMでは?と思うレベルです。イオンネットスーパーに始まり、各種企業の商品がこれでもかと投入され、異世界の人々を(モンスターや神さえも)絶賛させます。実在の商品を広告的に用いている以上、「この料理、マズいな」みたいな感想をキャラに言わせるわけにもいかず、とにかく「美味しい」と言ってくれるだけの異世界です。そこには食文化の多様性とか、そういう観念はゼロに近いです。

つまり、そのへんの雑魚モンスターの肉を焚火で焼いたものよりも、日本の黒毛和牛や、高ランクモンスターを大企業の販売するタレをかけたり、日本の調理グッズで下ごしらえする方が「優秀」だと、この作品は結構何のためらいもなく言い切ってしまっています。本来、食文化に優劣なんてないはずなのに…。

言い方を変えれば、本作において「食」とは、パラメーターのある「アイテム」であり、「文化」ではないです。

たぶん本作の主人公のムコーダにとって、日々の食事は自分の生活の充実さを示すステータスにすぎず、そこに文化へと意識を伸ばす感覚は皆無なんだろうな…。今の日本人はこんなものだと言えばそうなのかもだけど…。

そもそもこのムコーダは召喚時からレイセヘル王国の権力体制などを俯瞰的に見つめ、近寄らないようにするわけですが、自分自身が有する権力性には無自覚で、ちょっと振る舞いが冷笑主義者っぽいんですよね。物腰は柔らかいですけど…。

強力すぎるフェルとスイによって遂行される容赦のない乱獲もあったり、それで大金をゲットして金銭的に不自由なく暮らせたりと、植民地主義の要素を観察するのは容易い作品です。

これで、例えば、ムコーダがこの異世界の本来の食文化に敬意を払ったり、その土着の食文化の素晴らしさに気づいて、日本の資本主義食品業界を自己批判できるようになる…とかだったら、まだこの作品の植民地主義っぽさを払拭できる可能性はあるのですが…。

ちょっとあっさりした感想で終わりますけど、こんなふうに『とんでもスキルで異世界放浪メシ』みたいな作品こそ、植民地主義の隠し味をレビューするのもたまにはいいんじゃないでしょうか。

別に「異世界転生モノ」を「植民地主義」の視点で批判できるからと言って、その作品やジャンルを全否定するわけではないですからね。多角的な見え方を提示することで、新しい作品の一面に気づける。そしてそれは次の創作のアイディアに活かされたりする。

それがレビュー文化の美味しいところです。

『とんでもスキルで異世界放浪メシ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
4.0

作品ポスター・画像 (C)江口連・オーバーラップ/MAPPA/とんでもスキル

以上、『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の感想でした。

Campfire Cooking in Another World with My Absurd Skill (2023) [Japanese Review] 『とんでもスキルで異世界放浪メシ』考察・評価レビュー