ジェイソン・モモアと夢の世界へ!…Netflix映画『スランバーランド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:フランシス・ローレンス
スランバーランド
すらんばーらんど
『スランバーランド』あらすじ
『スランバーランド』感想(ネタバレなし)
こんな夢なら冒険したい
私は寝ているときは嫌な夢しか見ない体質なので、基本的に夢に良い印象はありません。逆に楽しい夢を見られる人はなぜなんですか? なんかコツでもあるんですかね。
夢が自由に見られるのだとしたら、夢の中で映画を観たいです。だって人間は健康のために8時間眠るべきみたいな話を聞くと、「え? 8時間もあったら映画を3~4本は観れるよ?」って思ってしまうし…。体を休めながら映画鑑賞もできたら最高なんだけどな。なんとかならないのか。スリープモードになりながら映画鑑賞に必要な最低限の機能だけオンにしておけば…。
そんな戯言をベラベラ書いていても無駄なのですが、でも「夢の中で映画俳優に出会えた!」とかそういう経験をしたことがある人ならいるんじゃないですか? でもこれも私は経験がないんですよね。どうしてこんなに映画やドラマを観まくっているのに私の夢の中には著名俳優とか登場しないんだろう…。なんなんだ、もしかして私の夢に関する脳内フィルタリングが強すぎるか、壊れているんじゃないだろうか…。
こんな私にとってそれこそ夢のような映画が今回紹介する作品です。
それが本作『スランバーランド』。
この映画はなんと夢の世界をあの“ジェイソン・モモア”と大冒険できるんですよ。“ジェイソン・モモア”とデート気分で夢の中を旅できるんだったら、多少の嫌な夢も空気を吹き飛ばしてエンジョイできそうな気がしてくるじゃないですか。
『スランバーランド』はひとりの少女が夢の世界を巡ることができるようになり、“ジェイソン・モモア”演じる風変わりなキャラクターと一緒に大冒険していくファンタジーアドベンチャーです。
本作の見どころはもちろんさっきから言っているとおり、“ジェイソン・モモア”。快活でたくましくもあり、でも不快なマッチョイズムっぽさを微塵もださないという、爽やか&穏やか大男を演じさせたら抜群の安定感があるこの“ジェイソン・モモア”にとって、この『スランバーランド』はピッタリすぎる映画でした。
今作は思いっきりファンタジーで、子どもウケがいかにも良さそうなのですが、“ジェイソン・モモア”自身も子ども想いですし、人柄にジャストフィットした映画なのかな、と。“ジェイソン・モモア”以外、考えられないキャスティングです。
そしてもうひとつの見どころは美麗な映像。『スランバーランド』は夢の世界が映像化され、それは夢を見ている個人によって内容が違うのですが、毎回とても凝った映像表現になっています。視覚効果の遊びが満載で(『ドクター・ストレンジ』などを想像してください)、この綺麗なビジュアルで繰り広げられる冒険を観ているだけでもとりあえず飽きません。
おそらく製作費として小規模・中規模映画に収まらない、それなりの金額がかかっているはずで、大部分はVFXに投入されていると思います。『スランバーランド』はNetflixの製作となっていますけど、この程度のクラスの映画にもここまでVFXを注ぎ込めるのはNetflixならではですね(他の大手のスタジオだと予算配分が厳格なので、小規模・中規模枠の映画に使う予算も縛られがちだと思う)。
ともかく大画面で観ないともったいない映画です。Netflixは映画のスケールに応じて「このコンテンツは大画面推奨!」とか表示してアナウンスしてくれればいいのに…。そうしたらユーザーも判断材料になって便利だし、より高画質で見られる月額料金に移行してくれるかもしれないし、いろいろ一石二鳥だろうに…。
この『スランバーランド』、原作があって“ウィンザー・マッケイ”の「Little Nemo in Slumberland(夢の国のリトル・ニモ)」というコミックです。“ウィンザー・マッケイ”は非常に有名なアニメーターで、今のアニメーション映画の礎を作った人物なのですが、1905年から1911年までニューヨーク・ヘラルド紙で連載されたコミックがこの「Little Nemo in Slumberland」でした。
日米合作で1989年に『NEMO/ニモ』というタイトルでアニメ映画化もされたことがあります。東京ムービー新社が欧米進出を狙ってとんでもなく予算をかけて制作したのですが、興行的に失敗したという過去があったり…。
その知る人ぞ知るその原作が2022年にハリウッド実写映画化されたわけですが、その監督を手がけたのは『アイ・アム・レジェンド』や『ハンガー・ゲーム2』以降のシリーズ作でメガホンをとった“フランシス・ローレンス”。ひとつ前の監督作『レッド・スパロー』は大人向けのスパイ・スリラーでしたが、今回はまたガラっと趣向を変えて子ども向けできましたね。“フランシス・ローレンス”監督作だって最初はわからないですよ。
“ジェイソン・モモア”と共演するのは、子役の“マーロウ・バークレー”。とても愛嬌たっぷりに大男と隣に並んでいます。この映画を足掛かりにキャリアを伸ばすのかな。
他には、『ムクドリ』の“クリス・オダウド”、ドラマ『I May Destroy You』の“ウェルシュ・オピア”、『ミッドナイト・スカイ』の“カイル・チャンドラー”などが出演しています。
『スランバーランド』はNetflix独占配信ですが、繰り返しますけど大画面での鑑賞を推奨しますよ。
なお、注意喚起ラベルを貼るか悩んだのですが、津波というほど明確ではないのですけど、作中で海に飲まれるシーンがあり、水害を連想させるかもしれません。留意してください。
『スランバーランド』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2022年11月18日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :大人でも楽しい |
友人 | :俳優ファン同士で |
恋人 | :気軽に楽しく |
キッズ | :子どもも満喫 |
『スランバーランド』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):父に夢でも会いたい
お気に入りのブタのぬいぐるみを抱きながらベッドで目を覚ます少女、ニモ。11歳のニモの家は灯台です。船の汽笛の音が聞こえ、父が朝食を買って戻って来たのがわかります。
父との2人での穏やかな暮らしでした。帆船の扱いや、灯台の仕組みを教わり、ピアノを一緒に弾く。そんな日々だけで充実していました。「灯台の役割は灯かりだけじゃない。答えを見つけたら鍵を渡そう」…父はそう言います。
寝る前に父には昔話をいつもせがみます。定番の物語はいつも同じ。父がフリップという相棒と一緒に海を冒険した話です。どんな願いでも叶う魔法の真珠を探し、それは世界で一番危険な悪夢の海にあるとか。でも海の底に穴が開いて死の世界が垣間見え、怪物が闇から現れた…。
そんないいところで途中で無線が入り、父は嵐の中、釣り船の救助に向かってしまいました。
ニモは眠りにつきます。するとリアルな怖い夢を見ます。灯台が凍り付き、倒壊し、海に投げ出され、ニモは海中で沈む父を目の前にし…。
飛び起きると朝でした。船の汽笛の音が聞こえます。窓に駆け寄りますが、来たのは父の船ではありません。沿岸警備隊のカーラが深刻そうな表情で立っており、「パパは?」と聞くと「お父さんは亡くなったわ」と答えが返ってきます。
ニモの母は赤ん坊の時に亡くなり、身よりも他にないので、会ったこともない叔父さんに引き取られることになります。それは父の弟のフィリップでした。
こうして灯台を離れ、街に到着。フィリップ叔父さんはドアノブの会社の社長だそうで、リッチな家で独りで暮らしています。
自分の部屋を与えられ、そこに先に荷物と到着していたブタのぬいぐるみ(ピッグ)を抱きしめ、父を恋しく思うニモ。
夜、眠りにつくと、ブタのぬいぐるみが動き出しているのに気づきます。そんなことが? しかし疑問だらけですが、さらにベッドまでもが歩き出し、窓に向かって突き進みます。そのままニモを乗せて道路を歩行。海に飛び込み、スイスイと泳ぐベッド。
辿り着いたのは灯台です。もしかして父がいるのか…。ニモは声をかけます。
でも室内にいたのは見知らぬ大男でした。フリップという名で、父と相棒だったらしいです。てっきりお話の中の人だと思っていたけど…。夢に出入りできるそうです。その変な帽子で臭いフリップは地図を探していました。
「オヤジさんに会う方法がある」と言われ、願いを叶える真珠の在りかを示す地図を聞かれますが、ニモは知りません。そして窓から突き落とされて目覚めます。
翌日は学校へ通います。アーヤというスクールカウンセラーとジャマールという子と知り合いましたがニモの頭はあの地図の話でいっぱい。
夜、ピッグが箱から地図を探している夢を見て、起きて確かめると確かにありました。ニモはこっそり学校を抜け出して地下の誰も来なさそうな場所で眠りにつきます。
夢の世界「スランバーランド」を旅するために…。父に会うために…。
半人半獣ではなく、ほぼモモア
『スランバーランド』はもうすでに何度も書きましたけど、“ジェイソン・モモア”による“ジェイソン・モモア”のためのような、おあつらえ向きの映画です。
原作ではフリップは半人半獣の設定です。でもこの映画版ではフリップを演じる“ジェイソン・モモア”は一応頭に巻角みたいなのがついてますけど、それ以外はほぼ人間です。図体はデカいですし、毛髪の量がやたらともっさりですが、それは“ジェイソン・モモア”のもともとです。要するに“ジェイソン・モモア”にちょっと角つけただけなんですね。
このフリップの映像化はなかなかに大胆ですが、“ジェイソン・モモア”なら押し切れる!という製作者の自信の表れとも言えるし、確かに“ジェイソン・モモア”のフリップはハマってます。
態度も肉体もデカいけどチャーミングで目が離せません。設定上の都合で童心のままなので、図体はやたら大きいけど中身は子どもみたいな感じなのですが、どうにもこうにも放っておけない魅力があります。子どもを楽しませるコツを心得ている男ですよ(これはフィリップとの対比になっているわけですが)。
終盤の悪夢の海の海底世界でニモが真珠をついに発見するもナイトメアに迫られて絶体絶命のピンチに、颯爽と豪快に軽飛行機でかっ飛ばして海中を飛行するフリップは実に“ジェイソン・モモア”らしい荒業。アクアマンは海中でも飛行機に乗れるんだな…。
水への恐怖を解くという軸のある物語ですし、だったらコイツに任せろですよね。
“ジェイソン・モモア”が演じるフリップと横並びになるニモがまた可愛くて、序盤では父を失い、相当に精神的に滅入っているのですが、フリップの影響で良い意味で悪ガキ化していき、ハツラツとしていく。演じる“マーロウ・バークレー”が小生意気そうな笑みを浮かべたりするのがいいですね。
原作では少年だったのですが、今回の映画版では少女になり、フリップとのチグハグなコンビっぽさが増した気がします。
多少の悪態なんて大目に見てくれる、そんな事実上のイマジナリーフレンドがフリップであり、ニモの心がケアされていく過程を丁寧に描いていました。
遊び心いっぱいのVFX
『スランバーランド』の大冒険をゴージャスに彩るのが映像です。今作のVFXは独創性重視で見ごたえがあります。
個人的に好きなのは、序盤でニモが寝ていたベッドが歩き出すシーン。ベッドの足の部分が文字どおり歩き回る脚になり、高所も脚が伸びるのでへっちゃらで、大きな幹線道路も車を悠々と飛び越え、あげくには海まで泳げてしまう。これぞファンタジーの幕開け!というワクワク感です。
ブタのぬいぐるみのピッグも動き回る姿は愛らしいのですが、微妙に不気味な感じも残しており、ちょっと“ヘンリー・セリック”監督的なセンスを感じます。
『スランバーランド』のVFXは単純に見れば高品質で物量が多いのですけども、それだけでなく遊び心をしっかり捉えているのが良さなのではないかなと思います。
ドリーム・コップである潜在意識活性局のエージェント・グリーンに追い詰められる過程も緊迫感以上に次は何を見せてくれるのかというハラハラで満ちています。普通だったら画面が暗転してシーン切り替えとなっても良さそうなのに、広いトイレがガシャガシャと形状を変えて狭いエレベーターになるとか、そうしたひとつひとつの動作が面白いです。
潜在意識活性局のあの事務的な佇まいは、ドラマ『ロキ Loki』を思い出すけど…。ああいう事務っぽい労働スタイルで摩訶不思議なことをしている世界観っていいよね…。
『スランバーランド』のルックとしては豪勢な映像でお届けするファンタジーアドベンチャーですが、中身はわりとしっかりメンタルケアを扱っています。
ニモにもスクールカウンセラーがついていたりして、そのあたりの専門家の大切さもさりげなく描いていますし、フィリップの件においても”悲しみ”を表現できない大人男性のメンタルヘルスに向き合っていたりします。まあ、仕事人間だった男が子どもを通して感情を取り戻していくという構図はやや古典的すぎるくらいなので、もう少しアレンジをしてほしかったのもありますけど…。
『スランバーランド』は疲れた時に眠りにつくほどの心の平穏さもない場合、心理的な安定剤みたいに落ち着かせてくれる、そんな映画だったのではないでしょうか。
今日は夢の中で“ジェイソン・モモア”に会えるかな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 37% Audience 88%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『スランバーランド』の感想でした。
Slumberland (2022) [Japanese Review] 『スランバーランド』考察・評価レビュー