続編の魔法は24時間以内に解約できます…映画『魔法にかけられて2』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:アダム・シャンクマン
恋愛描写
魔法にかけられて2
まほうにかけられてつー
『魔法にかけられて2』あらすじ
『魔法にかけられて2』感想(ネタバレなし)
また魔法にかけられる? それとも解くの?
「本当に解約してもよろしいですか?」と念押しでしつこく聞いてくるくせに、購入はあっさり完了できる…そんな事実から、丁寧な文章の裏に隠された商業主義の本音が見えてしまう今日この頃。
おそらく映画ファンの人は多くの動画配信サービスを利用しているでしょうが、同時に多くの動画配信サービスを解約することにもなるでしょう。最近は同じサービスを継続利用するよりも、あのサービスをしばらく使って、次はこのサービスに移って…と転々としながらコストを最小限に抑えてなるべくたくさんの作品を視聴しようとしているのではないでしょうか。そうでもしないとやってられないくらいに、現在は動画配信サービスが過剰に溢れかえっています。
まあ、そういうユーザーの動画配信サービス離脱を引き留めるために、各社はオリジナル作品を毎月のように配信開始してくるのですが…。
今回紹介する映画はちょっと矛盾を孕んでいます。「Disney+(ディズニープラス)」の冬の目玉となる独占配信映画で、これで利用者を掴むぞ!という魂胆が見え見えですが、でも映画の中身である物語は「魔法を解けさせる」、つまり「解約する」話なんですよ。なんだよ、契約させたいのか、解約させたいのか、どっちなんだ…。
そんな映画が本作『魔法にかけられて2』です。
本作は邦題からわかるとおり2作目となる続編。1作目の『魔法にかけられて』(2007年)は熱烈なファンも多い人気作です。おとぎ話のいかにもディズニーっぽいアニメーション世界からプリンセスが現実のニューヨークの実写世界に迷い込んでしまう…という非常にキャッチーな設定が話題となり、日本でもヒットしました。お約束なプリンセス・ストーリーに対する「それってどうなの?」というメタな投げかけの先駆けとなる作品でもありましたね。それを本家のディズニーがやったということに大きな意味がありました。
その後はこのプリンセス・ストーリー的な規範を揺さぶるアプローチで挑む作品が続出したことからも、この映画の影響力がわかります。
近年も『フェアリー・ゴッドマザー』(2020年)、『スニーカーシンデレラ』(2022年)、『スクール・フォー・グッド・アンド・イービル』(2022年)などなど、ポスト『魔法にかけられて』な映画の花盛りです。ディズニーの主流であるアニメーション映画でさえも、昨今のプリンセス系作品は『魔法にかけられて』の影響を受けているでしょう。
結局のところ、多くの人は「プリンセス・ストーリーってどうなの?」と内心では疑問に思っていたわけで、その鬱憤や疑問がこの『魔法にかけられて』で一気に弾けたのではないでしょうか。
その旗頭となった『魔法にかけられて』ですが、続編の企画は2010年頃から始まっていました。しかし、全然思うように進みません。なんだかんだで続編がやっと公開されたのは2022年になってしまいました。待ちわびた人も少なくないと思います。1作目から15年も経過してしまいましたからね…。
それにしても2作目のタイトル…邦題は『魔法にかけられて2』なのですけど、原題は「Disenchanted」なのです。1作目の原題は「Enchanted」だったので、真逆な方向性です。邦題だとそこが全然伝わらないのは残念ですが…。
どんな物語かは観てのお楽しみ。でも物語内でも前作から15年が経過したことになっており、多くのキャストも続投していますので、世界観はそのまんまです。
主人公はもちろん“エイミー・アダムス”。今回は製作にもクレジットされています。
『近距離恋愛』の“パトリック・デンプシー”、『ソニック・ザ・ムービー』の“ジェームズ・マースデン”、『アンカット・ダイヤモンド』の“イディナ・メンゼル”などもいつもの面々も。
新キャストとしては、今作でもやたらと目立つ“マーヤ・ルドルフ”、そして若手の“ガブリエラ・バルダッキーノ”が抜擢。
『魔法にかけられて2』の監督は『glee/グリー』のエピソード監督を務め、『ステップ・アップ』シリーズの振付なども担当し、パフォーマンス面での才能も備わっている“アダム・シャンクマン”。『ロック・オブ・エイジズ』や『ハート・オブ・マン』の監督もしていました。
音楽はディズニー・ミュージックのレジェンドである“アラン・メンケン”が担い、前作よりも楽曲のボリュームが増えています。
『魔法にかけられて2』はDisney+独占配信ですが、家でのんびり見るにはちょうどいいファンタジー映画です。
『魔法にかけられて2』を観る前のQ&A
A:Disney+でオリジナル映画として2022年11月18日から配信中です。
A:前作の『魔法にかけられて』を観ることをオススメします。
オススメ度のチェック
ひとり | :前作ファンは注目 |
友人 | :ファンタジー好き同士で |
恋人 | :気楽に見れる |
キッズ | :子どもでも大丈夫 |
『魔法にかけられて2』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ハッピーエンドの後にも続きがある
おとぎ話の魔法の世界「アンダレーシア」でプリンセスとして暮らしていたジゼルはエドワード王子と出逢ってその日のうちに婚約を決めましたが、魔女ナリッサによって別の世界「ニューヨーク」に追放されてしまいました。しかし、そこで弁護士ロバートと娘のモーガンに助けられ、この世界での愛の築き方を学び、魅了されていきます。そしてロバートと結ばれ、この世界で生きていく道を選んだのでした。
めでたしめでたし…。
でもこの物語にはまだ続きがあります。
あれから15年後。ジゼルはロバートと幸せな家庭を築き、女の子のソフィアが生まれていました。しかし、ロバートは仕事で忙しく、ジゼルも赤ん坊の世話も増えてゆっくりできません。さらにモーガンは厄介なティーンエイジャーになり、心の距離は離れるばかり。
そこで思いつきます。郊外のモンロービルに引っ越して心機一転しよう、と。こうして摩天楼に別れを告げ、ジゼルたち家族は荷造りをして引っ越すのでした。ジゼルは張り切っていましたが、モーガンは嫌々です。
新居に到着。まだ工事は終わっておらず、慌ただしいです。モーガンを元気づけるためにジゼルは歌い出し、庭にいるシカもアライグマもスカンクも応えてくれますが、そんなジゼルの独特の空気にモーガンはうんざり。
そこでモーガンの部屋を見せます。ここだけはもう完成済みです。「ステキだね」と一瞬モーガンは心が晴れますが、電気をつけた瞬間に配線がショートして段ボール箱が燃えてしまい、すぐに失望に変わります。
そのとき、訪問客が…。このモンロービルの有力者で、何でもこの町を築いた女王のようなものだと噂のマルヴィーナ・モンローと、その取り巻きのロザリーンとルビーです。豪華なプレゼントを渡され、さっそく郊外の力関係を提示されますが、ジゼルはあまりわかっていません。
朝。バタバタと忙しくしていると、アンダレーシアの王妃になったナンシーとエドワード王子がやってきます。エドワードはロバートに剣を授けるなど相変わらず。また、ソフィアの誕生日ということで2人は「願いの杖」を贈与してくれます。
モーガンとジゼルは高校へ。マルヴィーナはお菓子を売っており、モンローフェスを仕切っているようです。学校ではモーガンはマルヴィーナの息子タイソンと親しくなりますが、それ以外は最悪の始まりでした。
帰宅したモーガンは孤立するばかりの学校生活で気分は最悪。ジゼルは張り切ってモーガンの印象を良くしようとブースをだしますが、逆効果でモーガンは幻滅します。
ロバートも通勤が続くであろう人生に疑問を感じていました。
ニューヨークで遊んでいたモーガンは帰ってくるなり、「ここは私たちの居場所じゃない」と不満をぶちまけます。「母親にそんな口を聞くんじゃない」と父に叱られますが、「この人は継母だ」と言い放つのでした。
ジゼルは夜にひとりで寂しさを歌います。するとリスのピップがアンダレーシアから励ましに来てくれます。そこであの願いの杖を使えばいいのではと思いつき、おとぎ話の世界を願うことに…。
そのときは何も起こりませんでしたが、朝に目覚めると何か違和感。食器が勝手に動き出し、モーガンもロバートもやたらと陽気に歌っている…。
この町は「モンローレーシア」というおとぎ話な世界への変貌していたのです。
ジゼルは笑顔になりますが、自分に起きている変化にはまだ自覚なく…。
今回は熱唱してもらいました
『魔法にかけられて2』は今回もアニメーション・パートが盛沢山。初っ端からアニメで始まってくれます。この作品はやはりこうでないと…。
世界観のノリはそのままですが、続編らしい遊び心もたっぷりです。
主役のジゼルを演じた“エイミー・アダムス”は前回はおとぎ話の世界しか知らない女性が現実社会のニューヨークにやってきてあたふたするというコミカルな主軸があったのでそのドタバタ劇を体を張って見せてくれました。でもこの2作目で同じ手は通用しません。それだとさすがに観客も飽きます。
ということで今回はジゼルが願いの杖の効果で、あろうことか「意地悪な継母」に変化していくという仕掛けが用意されています。おとぎ話での役割がプリンセスから継母に移行してしまうわけです。
この絶妙に小悪な継母の雰囲気がチラ見えしていく“エイミー・アダムス”の演技のさじ加減はさすがといったところです。まあ、あの“エイミー・アダムス”ですからね。この程度の演技の遊びは造作もないかもですけど。
その意地悪な継母に染まっていくジゼルと悪役対決をしていくことになるのがマルヴィーナです。ここもさすが“マーヤ・ルドルフ”で、悪役としてきっちり対抗できる、こちらはコテコテな感じの悪い魔女っぽさを全開にしており、実に楽しそうです。
そして今回のナンシーはしっかり歌唱シーンがセッティングされていました。“イディナ・メンゼル”の歌声を見せつけてやろうじゃないかというあからさまなサービス展開だった…。もう完全に『アナと雪の女王』になっていましたね…(一応、知らない人向けに説明しておくと、“イディナ・メンゼル”は『アナと雪の女王』でエルサの声を担当して熱唱もしてます)。
他にも作中で随所にディズニーに関するオマージュやイースターエッグが散りばめられており、ディズニーファン向けのネタ探し遊びもいくらでもできるようになっています。そういうのは「disenchanted easter eggs」などと検索するといっぱい解説がでてくるので、知りたい人はそっちを見てください(丸投げ)。
『魔法にかけられて2』はファン向けの続編として振り切っている感じなのかな。
もっと魔法を解いて!
一方で1作目は意欲作としての評価ができたのですが、今回の『魔法にかけられて2』は続編としての踏み込みは弱く、平凡な“続き”の話で終わってしまったかなとも思います。
今作ではジゼルが「意地悪な継母」になってしまう!というサスペンスで観客をハラハラさせるわけですけど、中年女性が主役になっている以上、こういう切り口で続編を作るのは悪くないです。でも「意地悪な継母」の対極として「良い母親像」を安易に提示してしまうのは、それこそステレオタイプな良妻賢母で終わっているのではというモヤモヤが残ります。
ただでさえ今回は郊外の住宅地を舞台にしていて、アメリカのオーソドックスな家庭的イメージが濃くなりやすいフィールドです。その点に関する批判視点がこの映画には少し欠けているんじゃないか、と。
『魔法にかけられて2』を鑑賞後に『ドント・ウォーリー・ダーリン』を観てほしいですよ。題材に対するギャップが凄いから。
仕事を辞めたロバートに対して、ジゼルは全然負担も何も減ってないですからね。
もしこの舞台で前作的な自己批判を内包した展開にするなら、「おとぎ話の女性像は古い」「でもこの現実世界の女性像だって相当に古いよね」という二段階批判を投げかけ、新しい女性像を開拓していかないといけないのではないかと思うのですが…。
ジゼルは「妻も母も辞めるわ、会社立ち上げる!」くらいに突っ走っていいのに…。
それをやるんだったら大きな役割を果たすのが10代のモーガンになるのですけど、今作では「アンダレーシアの娘」ではないという血縁ではないことの劣等感がテーマにあり、それはそれで大切なテーマですが、目新しいフレッシュなテーマでもないし…。2010年にこの内容ならまだしも、今は2022年ですからね。若い視聴者層は絶対にこれでは満足しないだろうな…。
モーガンとタイソンも、「とりあえずロマンス要素入れてみた」みたいなノリでしかなく、全然「今」を捉えるような需要に答えていないでしょう。『ロザライン』のようなZ世代主人公の感覚ではない、どうにもこうにもひと昔前の古さが滲む映画だったのではと…。
ということで『魔法にかけられて2』を鑑賞しての率直な感想としては「もっと魔法を解けよ!」って感じでしたね…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 44% Audience 53%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Disney 魔法をかけられて2 ディスエンチャンテッド
以上、『魔法にかけられて2』の感想でした。
Disenchanted (2022) [Japanese Review] 『魔法にかけられて2』考察・評価レビュー