感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『らいおんウーマン』感想(ネタバレ)…どんな見た目であろうとも

らいおんウーマン

どんな見た目であろうとも…映画『らいおんウーマン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Lion Woman
製作国:ノルウェー(2016年)
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信
監督: ヴィベケ・イドソー
らいおんウーマン

らいおんうーまん
らいおんウーマン

『らいおんウーマン』物語 簡単紹介

エバという名の少女はその誕生から奇妙な存在として注目を浴びることになってしまった。その理由は見た目である。生まれた時から全身が体毛で覆われていた周囲の人々と大きく異なる外見ゆえに多くの困難を強いられてしまう。それでも父親代わりの駅長のグスタフや、乳母として傍にいてくれたハナなどに確かに支えられながら、少しずつ前を向いて自分の世界を広げていく。自分の可能性を信じながら…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『らいおんウーマン』の感想です。

『らいおんウーマン』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

ひとりの少女の成長物語

Netflixの新着配信作品リストをなんとなく眺めていたら、パッと目に付いたのが本作『らいおんウーマン』の文字。

らいおん? なんだ、この某アイドルグループの曲の名前みたいなやつ…と、単なるタイトルありきの興味心で本作を鑑賞しました。邦題が合っているかどうかは置いておいて、こういう偶然の出会いがあるのはいいものですね。ちなみに、iTunesでは「ライオン・ウーマン」という邦題で配信されているみたいです。

お話は、あらすじのとおり、生まれつき体中が体毛で覆われた女性の成長物語です。「スター・ウォーズ」のチューバッカや、「X-MEN」のミュータントみたいな風貌をしている主人公ですが、それ以外はいたって普通の女の子。子どもらしい好奇心もあれば、勉強もしたいし、恋もしたい、夢だってある…そんな彼女がいろいろな人に出会い、いろいろな経験をしながら成長していきます。

あまりこういう呼び方をするのは良くないのですが、いわゆる“フリークス”と呼ばれる「特殊な見た目をしている人たち」を描いた作品は、往々にして“どよ~ん”とした悲痛で苦難のドラマであることが多く、観る人を選びがち。でも、本作は心配いりません。確かに差別は描かれますが、最終的には温かい気持ちになれるはずです。これは本作があくまでひとりの人間の成長物語を描いているからなのでしょう。雰囲気的には、自閉症の少年の成長を描いた『僕と世界の方程式』に似たものがあります。

本作の主人公のような症状は実際にあって、「多毛症」と名付けられています。ただ、本作の場合、とくに特定の誰かを題材にした伝記作品ではないようですけど…。

原作はノルウェーの小説で、本国ではベストセラーになったみたいです。ということは注目度の高い映画化だったのかな? なかなか北欧の事情が入ってこないので私は全然ついていけてませんね。

気になった方はぜひ気軽にご覧ください。

スポンサーリンク

『らいおんウーマン』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『らいおんウーマン』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

あらすじ(前半):その子には毛がある

雪積もる寒々しい景色の中を歩く女性。オーロラが夜空に浮かぶ幻想的な一夜。その女性は倒れます。膨らんだお腹を押さえながら。

たまたま通りかかった人に助けられ、町まで同行してもらいます。すでに血が垂れており、状況は本人が思っているよりも急がないといけません。

駅に到着。駅長のグスタフ・アークタンダーに抱えられ、すぐにベッドの上へ。彼は女性と顔見知りのようです。医者はまだ着いていません。アークタンダーは心配そうです。

しばらくして部屋から呻き声が聞こえ、そして赤ん坊の声。取り上げた人は顔を見合わせます。医者は「初めて見た」と呟き…。

産んだ女性は息絶えていました。赤ん坊の顔を見ることもなく…。

部屋にアークタンダーが入ってきて母親の死に言葉を失います。そして生まれた赤ん坊を見て、さらに言葉が見つからなくなります。

「生きているのか?」「人間じゃない。山猫だ。化け物だ」

そう言って部屋を出ていきました。あの母親の女性に家族はいません。残るのはアークタンダーだけ。

彼は外に出て昔を思い出します。それはまさしくこの場所でした。「私はルース。新任の音楽教師です」…そうやって握手したのが最初だった…。あのとき、彼女はまだ輝いていた。それなのに…泣き崩れるアークタンダー。

名前をつけていないアークタンダーでしたが、当人は放心状態が続いており、それどころではありません。話の流れからエバにすることに。

洗礼を受けます。葬儀は粛々と行われましたが、すでに赤ん坊に問題があるという話は出回っていました。あの駅長は何かを隠しているという噂は確かに広がっていき…。

赤ん坊の異様さに恐れをなして育てようとする大人は現れず、17歳の乳母に任せることに。赤ん坊が乳母に渡されます。毛むくじゃらのその子が…。泣き出すエバ。乳母はおそるおそる赤ん坊を抱き、あやしていきます。

毛むくじゃらのエバの情報は新聞社にまで知れ渡りました。そして報道されます。世間は常にスキャンダルを求めており、町中にその話は拡散し、アークタンダーは激怒。乳母に窓に近づくなと命じ、人との接触も禁じられます。

健康を心配し、「エバに外の空気を吸わせては…」と提案する乳母。乳母車を用意し、人がいないルートを設定し、入念に計画を練ります。秘密の散歩が始まりました。

そんな中、専門家がやってきて調査をしだします。これでもしかしたらこの毛をどうにかする方法が見つかるかもしれないとアークタンダーは期待していました。専門家いわくこんな症例は初めてだそうです。脱毛をそる方法はなく、無理に剃るのもダメだとのこと。毛は抜けないと断言され、ショックを受けるアークタンダー。

それから数年後。エバは成長していました。毛はそのままに。

なぜ自分はみんなと違うのか。その答えをあてどなく求めながら…。外に出ることは許されず、窓から見つめることしかできず…。

スポンサーリンク

複雑な親心

時代は1912年(ちなみにノルウェーが独立したのは1905年)。夜にひとりでふらついていた妊婦が保護され、出産後に亡くなってしまいます。一方で、赤ん坊は無事に生まれましたが…見た目が普通ではなく…。

ここでこの“エバ”と名付けられた子を育てることになったのは、亡くなった母である女性と親交のあった駅長のグスタフ・アークタンダー。個人的にはこのグスタフの複雑な親心の揺れ動きが、『らいおんウーマン』の大きな見どころのひとつでした。グスタフは単純に「良いキャラ」「悪いキャラ」で分けられるものでもなく、すごく人間臭い存在。体毛だらけのエバを最初に見て「山猫」呼ばわりし、なにかと体毛を除去できないのかと口にしたり、エバが窓から外を見ていただけで物置に閉じ込めてしまったりと、冷たい対応をとります。かと思えば、赤ん坊のエバを外に出すために人目のつかない散歩コースを計画したり、モールス信号に興味を持つエバに電信機をプレゼントしたりと、労力を惜しまずエバを支える行動も見せます。

グスタフは、エバと観に行ったフリークス・ショーで体を震わせて怒りを表していたことからも、きっと根は優しい人なんでしょうね。じゃないとエバの母と親交を持つことなんてしなかったはずですから。

エバが周囲から好奇の目で見られるのは許せない。でも、エバの外の世界への好奇心には答えてあげたい。この間で揺れる親心はじゅうぶん共感できます。ときには行き過ぎてしまって、スパーキーの人生を傷つけることもしてしまいましたが、グスタフも親として不完全なのでしょう。

そのグスタグを演じた“ロルフ・ラスゴード”の演技は魅力的でした。彼は『幸せなひとりぼっち』というスウェーデン映画で主演し、賞をもらうほど高く評価されていますので、本作を観て気になった人はこちらもチェックすると良いと思います。

スポンサーリンク

子どもの自立

そんなグスタフのハラハラな親心をよそに、エバは傷つきながらも着実に成長を遂げていきます。

本作を観て改めて感じますが、子どもは親が思う以上にちゃんと成長しているんですね。

1926年。コペンハーゲンの学会へ招待され、治す薬があるかもと期待するエバでしたが、待っていたのは研究的好奇心しかない学者の目。そこで出会ったのは、アンドレイというこれまた特殊な肌をした不気味な雰囲気を漂わす男です。フリークスの劇団に所属している彼は、遠回しに特殊な者同士で暮らす方がいいと誘ってきます。

このシーンでは最初は、こう、エバをダークサイド的な方向に誘惑する場面なのかなと私は思ったのですけど、全然違いましたね。

むしろエバはその世界に自分の意志で飛び込み、自らからお金を稼ぎ、大学に行って、あんな立派な教授にまで成長するなんて。ちょっとこのへんがストーリー上、駆け足だったのが残念でしたが、素晴らしい成長っぷりにこちらも感動。見事な自立です。

久しぶりに故郷に帰ってきたエバにハナが綺麗になったねと言うシーンは、もちろん見た目だけでなく中身の変化も感じ取ったからこそなはず。

見た目がどうであれ、人は成長できる…本作のメッセージは、多様性を重んじる今の社会だからこそ忘れてはいけないことだと思います。それを声高に主張するのでなく、じんわりと伝えてくれる本作は他にはない味わいがありました。

他にも母親代わりとなる乳母のハナや、友人となるスパーキーとか語るべき人物はたくさんいますが、文章がただただ長くなるので割愛で。

ただ、あれです、保養所で出会う同じくエバという名の女性の語る「カタツムリ療法」。あれ、映像化する意味あったのか!? いや、個人的にこういう映像が大好きなので嬉しいのですけど、あれかな、北欧ギャグなのかな…。

『らいおんウーマン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix ライオンウーマン

以上、『らいおんウーマン』の感想でした。

The Lion Woman (2016) [Japanese Review] 『らいおんウーマン』考察・評価レビュー