イッツ・ミー、マーガレット!…映画『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2024年に配信スルー
監督:ケリー・フレモン・クレイグ
イジメ描写 恋愛描写
かみさまきいてる これがわたしのいきるみち
『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』物語 簡単紹介
『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』感想(ネタバレなし)
あの話題の作品が50年越しの映画化
あなたの信じる宗教は何ですか?
「Gallup」の2022年の調査によれば、アメリカ人の信仰する宗教は、プロテスタントが34%、カトリックが23%、特定のものではないキリスト教徒が11%、モルモン教が2%、ユダヤ教が2%、特定の宗教を信仰していない人が21%との結果になっています。
やはりキリスト教の割合が非常に高いですが(6~7割)、実は年々その割合は減少傾向にあります。
例えば、今から50年以上前である1970年の同じ「Gallup」のデータでは、プロテスタントが65%、カトリックが26%、特定の宗教を信仰していない人が3%です。無宗教が相当に増大しているのがわかります。
宗教に視点を置くだけでもアメリカの時代の変化を捉えることができますね。
今回紹介する映画は1970年代のアメリカを舞台に「宗教」がひとつのテーマになっている作品です。
それが本作『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』。
原題は「Are You There God? It’s Me, Margaret.」。1970年に出版された有名な小説「神さま、わたしマーガレットです」を映画化したものです。この小説はかなりアメリカでは認知度があり、その特徴的なタイトルもあって、よくいろいろな別作品でネタにされがちです(最近だとドラマ『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』でパロディにされていた)。
この原作を執筆したのがアメリカの作家“ジュディ・ブルーム”。児童文学の著名な人物としてよく挙げられます。近年は某児童小説家による火の粉が降りかかってきた際に「トランスジェンダーの権利を支持します」とコメントしたりしていました(Snopes)。
長らく“ジュディ・ブルーム”の意向もあって映画化はされていなかったのですけど、今回、『スウィート17モンスター』を成功させた“ケリー・フレモン・クレイグ”監督の手腕を信頼し、企画が成立。実際に見事な映画が完成しました。
先ほど書いたように「宗教」が題材ですが、宗教への少し皮肉な語り口もあったり、そんなゴリゴリに信仰を推奨する感じではありません。それに宗教に全然興味ないよという人でも、もうひとつのテーマには関心を持ちやすいのではないでしょうか。
それが思春期で、本作『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』は、11歳の女の子を主人公にしており、その子がこの時期特有のあれこれを経験して奮闘する姿を素のままに描いているのが特徴です。
同年代の子との今までにない大人っぽい会話にドキドキしたり、急に周りの男の子に恋愛的好奇心を抱くようになってしまったり、自分の体型が妙にダサくみえて恥ずかしくなったり、第二次性徴として否応なしに起きる生理に困惑したり…。
11歳のただの女の子にしてみれば、こんな出来事の連発はもう天変地異と同じ。大災害であり、パニックになりますよね。
このテーマの作品群と言えば、『私ときどきレッサーパンダ』などの最新のオリジナル作品も多いですが、『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』はその土台となる作品。やっと映画になったので、ちょっと出遅れた気もしますが、中身は色褪せていません。
主演の子である“アビー・ライダー・フォートソン”の可愛い演技を見ているだけでも癒されます。この子役は『アントマン』『アントマン&ワスプ』でキャシー・ラングを演じていたあの子ですね。
共演は、『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』の“レイチェル・マクアダムス”、『リチャード・ジュエル』の“キャシー・ベイツ”、『アンカット・ダイヤモンド』を監督した“ベニー・サフディ”、ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の“エル・グラハム”、ドラマ『ARROW/アロー』の“エコー・ケラム”など。
『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』は原作が話題作ということもあってこの映画も2023年公開時は注目され、高評価も獲得。しかし、日本では劇場未公開で配信スルーとなっています。気になる人はぜひチェックです。
『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ほっこりする |
友人 | :気楽な相手と |
恋人 | :思春期を語り合って |
キッズ | :大人と一緒に |
『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
1970年、11歳のマーガレット・サイモンは同年代の子と何ら変わりないごく普通に無邪気な人生を過ごしていました。朝から晩までたくさん遊び駆け回り、笑顔は絶えません。
充実したサマーキャンプから帰ってきたマーガレットはバスから降りると母のバーバラが迎えてくれます。ちょっと背が伸びたような我が子にご満悦の母。大好きな祖母
シルヴィアも来てくれました。
重たい鞄を家に運ぶと、父のハーブがまた温かくハグしてくれます。しかし、祖母からのひと言で空気が変わります。「引っ越す」のだと…。
寝耳に水でどういうことなのかとマーガレットが聞くと、父の昇進で、家族3人でニューヨーク市からニュージャージー州郊外に引っ越すことになったそうです。
母は必死にこれは良いことだと落ち着かせますが、マーガレットはショックを隠せません。たくさんの友達もいるし、今の学校も好きだし、祖母と一緒のこの場所がいいのに…。なんとかその場では不満を抑え込みますが、マーガレットの不安が消えるわけはありません。
自室で思わず「神様、そこにいますか? 私です。マーガレット・サイモンです。引っ越したくありません」と切実に呟きます。
結局、引っ越しは避けられず、住み慣れた地を離れ、まだ荷物だらけで片付いていない新居にマーガレットはいました。
しかし、隣人でもうすぐ6年生のクラスメイトになるナンシー・ウィーラーがいきなり訪ねてきます。ぐいぐいと近づく彼女にすっかり押され、家も案内してくれます。ナンシーはなんだか大人びており、膨らみ始めた胸を意識し、しかも「男の子とキスしたことある?」と平気で聞いてきます。ナンシーはキスの練習をしていると言い、ベッドの柱で実演。
2人は水着姿でスプリンクラーの庭で遊んでいると、ナンシーの兄エヴァンと一緒にいたムースと少し会話する機会があり、少し年上の男の子にドキドキするマーガレットでした。
自分が女らしい身体でもないことを気にし始め、その夜、また部屋で神様にぼやきます。
次の日、緊張しながら学校へ。でも教室にナンシーがいたので安心。ナンシーは他の2人の女の子、グレッチェンとジャニーを紹介してくれて友達の輪に入れてくれます。
教室にやたらと長身で大人っぽい女性が部屋に入って来たので先生かと思ったらローラという同級生でした。自分と同じ年であんな大人の身体になれるのか…。
この学校ではフィリップ・リロイという男の子が女子たちの憧れのマトみたいです。確かにカッコよく、全然セクシーさもない自分には手が届きそうになくて眺めるしかできません。
ずっと胸が気になり続け、ある日、ブラジャーがほしいと母に思い切って言ってみます。事情を察して買ってくれる母。
さらにマーガレットの悩みは尽きることなく…。
信仰は思春期の一部
ここから『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』のネタバレありの感想本文です。
『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』の主人公である11歳のマーガレットの信仰的な立ち位置は少し変わっています。
母親のバーバラはクリスチャンの家系。父親のハーブはユダヤ教の家系。しかし、母父双方ともに宗教にはあまり関心がない様子で、我が子のマーガレットにもとくに宗教的に接する気はないようです。
加えてバーバラに関してはユダヤ人と結婚したことを理由に敬虔なクリスチャンの両親との関係が悪化し、バーバラは相当に傷つき、疎遠になったことが語られます。つまり、バーバラは宗教については個人的トラウマがあることになります。今回の映画版はこのバーバラのエピソードにも目を向けており、葛藤がこぼれていました。夫のハーブがかなり包容力のある人で、そこが救いではあります。
そんな親に育てられたマーガレットですが、宗教に無関心ではなく、漠然と神様にお祈りするくらいはするという姿勢です。キリスト教でもユダヤ教でもない…何の神様なのかは自分でもわかっていない…。もし統計調査に答えるなら「その他」に区分されそうな感じですね。
なのでマーガレットは毎回部屋で「It’s Me, Margaret」と可愛らしく神様に語りかけるのですが、それも神様にLINEする感覚で軽め。でも本人の悩みは本人なりに深刻です。
引っ越しした後のマーガレットはいろいろな宗教に触れていきます。大好きな祖母にシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)に連れて行ってもらったり、背の高いローラの後を追って告解室に入ったり、ジャニーと一緒に黒人教会でノリノリな空気を味わったり…。
思春期の迷いや揺れを描くのはこのプレティーン作品なら定番です。なんで自分の胸が大きくならないのかと悩み、ナンシーに触発されて「we must increase our bust!」とわけのわからないバストアップ運動に熱中するくだりとか、正直、どの宗教よりも真剣で笑ってしまいます。クラスの人気者男子とゲームの結果ではあれど、キスできてニヤニヤが止まらなかったりとかも、微笑ましいです。
本作がユニークなのはそうした性に絡んだ話題の中で、ちゃんと宗教も混ざり合っているということ。宗教にそもそも関心が一切無く、まともに触れる機会もなかった人は、そんな思春期を過ごしたりはしなかったと思いますけど、こういう思春期に宗教が絡む体験をしてきた人も確実にこの世にはたくさんいるわけで…。
いつの間にかローラへのいじめに加担してしまったことに気づいて罪悪感を感じるマーガレットの姿とか、そうやって宗教が思春期と折り重なる瞬間をこの映画は自然体で捉えていました。
宗教による生理のオブラートを取っ払う
『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』が思春期と宗教の交差点として最も目立って取り上げているのが生理(月経)でした。
マーガレットのような年齢に入ると各々でそのタイミングは違いますが、多くの子は初潮を経験することになります。
ここでひとつの基礎知識として、生理というのは歴史的に宗教においてタブー的に扱われてきたという事実があります。生理で排出されるそれは「不純物」であり、汚らわしいものとみなされてきました(『「生物学的性別」とは? その意味と定義の歴史、そして性スペクトラム』の記事でも少し解説しましたけど、そもそも「女性」という存在自体が生物学的・医学的に下等とみなされてきた歴史があります)。
本作はこの生理に対して、そういう宗教的なオブラートを取っ払って、もっと素直に映し出しているのが特徴です。主人公が宗教を自分の意思で選択する描写も合わせて、この宗教と性への自己決定最優先スタイルゆえに、この原作は一部の保守的な宗教支持者から批判を受け、図書館などにも意義を唱えられやすい書籍の代表作でもあったほどです。
マーガレットにとって生理は宗教と同じで未知の存在。本作は1970年を舞台にしているので、先進的な性教育はやってないですし、インターネットで調べるわけにもいきません。学校で生理に関するやたら淡々としたビデオを見せられるだけ。
グレッチェンにまず最初に生理がきて、その感想話で余計に不安が増すマーガレットたち。そこからジャニーとド緊張の中で生理用品を買いに行くくだりも面白いです。ちなみにこの1970年代は生理用ナプキンにちょっとした革命が起きた時期であり、当時はナプキンやパンティライナーに粘着性の固定機能がついて使いやすくなり、それが一般に普及しました(それ以前は専用のベルトで固定していた;V&A)。
無論、それは笑い話だけでは片付けられず、例えば、ナンシーと家族と一緒にニューヨークに出かけた際に、あんなに大人に憧れた態度をとっていたナンシーがトイレで初潮にパニックになって泣いている姿をみて、なんて声をかければいいのかもわからずに立ち尽くすマーガレットだったり…。
現在はもう少しその不安を和らげるサポートが充実…しているといいのが理想ですが、実際はどうかな…。世界でもまだまだ生理をめぐる衛生と健康の格差も大きいし…。アメリカでも保守的な宗教勢力が学校でLGBTQを教えないように圧力をかけたりすることも起きているし…。
本作は特定の性的特徴に依存する生理をやや過剰に人生経験の要として強調しすぎているところはありますが、生理の直球な語りというのはまだまだ少ないので、こういうタッチの作品は貴重で親身に感じやすいです。『セイント・フランシス』とかもありましたけど、もっといろいろな切り口の生理を扱う作品が増えるといいですね。
ともかく『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』は70年代のアメリカを扱っているので、青春映画と言えどもあくまで一定の年代の大人がノスタルジーに浸るという楽しさを提供している面が大きいですけど、そのありのままの語り口に好感が持てる映画になっていました。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 99% Audience 95%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2023 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved. 神様聞いてる アー・ユー・ゼア・ゴッド イッツミー・マーガレット
以上、『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』の感想でした。
Are You There God? It’s Me, Margaret. (2023) [Japanese Review] 『神さま聞いてる? これが私の生きる道?!』考察・評価レビュー
#宗教 #性教育