ピリオド 羽ばたく女性たち
Netflixドキュメンタリー『ピリオド 羽ばたく女性たち』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Period. End of Sentence.
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ライカ・ゼタブチ

あらすじ

男性を中心とした社会。その影でひっそりと暮らす女性たち。男女の権利が著しく異なる、あるインドの田舎村で変革が起きていた。安価な生理用ナプキンを製造することで、生理につきまとう悪いイメージを払拭し、女性の経済的自立を促そうと女性たちが立ち上がる。

ネタバレなし感想

短編ドキュメンタリー賞を受賞

2018年の映画に贈られる第91回アカデミー賞の結果が華やかに発表されて、映画業界や映画ファンが大いに湧き立ちました。一方で、今回のアカデミー賞はノミネート作品の発表時から、ある一点について残念がる意見も聞こえていました。

それは「ウーマン・リブ」、いわゆる女性の活躍に関するトピックとなる映画が少ないということ。

前年の2017年は「#MeToo」や「Time's Up」など女性のパワーが唸り声をあげた年であり、それと比べると確かに2018年は後退気味というか、目立っていません。実際、2018年は作品賞に輝いたのは男性二人が主人公の『グリーンブック』でしたし、監督賞ノミネートの中に女性監督はいませんでした。非常にフェミニズム要素を色濃く感じさせる『天才作家の妻 40年目の真実』のグレン・クローズが事前の期待に反して主演女優賞を逃したのも大きかったですね。
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そんな中、2018年のアカデミー賞受賞作品のうち、最もフェミニズムを全開にしている作品は、間違いなく短編ドキュメンタリー賞を受賞した本作『ピリオド 羽ばたく女性たち』でしょう。

本作は、インドにおける女性の生理にまつわる問題と、生理用ナプキンの製造・販売を行う女性たちにカメラを向けたドキュメンタリーとなっています。

映画好きの方ならピンときたかもしれませんが、本作の題材は日本でも2018年12月に公開された『パッドマン 5億人の女性を救った男』というインド映画とほぼ同じものです。『パッドマン』で主人公のモデルとなった「アルナーチャラム・ムルガナンダム」という男性も『ピリオド 羽ばたく女性たち』でご本人が登場します。

じゃあ、何が違うのかと言えば、本作は女性たちをフィーチャーしているので、『パッドマン』のように男性がリーダーとして目立っていくような中身では全くありません。『パッドマン』のその側面がちょっと気になっていた人はこれで溜飲が下がりますね。また、フィクションを交えた劇映画では絶対に見られない、リアルな生理に対する社会の反応がストレートに目に映ります。結果、この問題の根深さみたいなものが一切のオブラートなしにハッキリ伝わるので、より現実問題として認識しやすい作りになっています。あとはインド映画ではないので歌ったり踊ったりはありません、はい。

26分程度と短い時間ながらも、問題提起・議論の深堀り・解決案の提示・未来への展望とひととおりキッチリ揃っているのでとても見やすいドキュメンタリーです。案外、これくらいの短時間だとサッと寝る前とかに観られて便利だったりします。

最近のNetflix映画はこれが配信戦略なのかどうかはわかりませんが、インドと女性をテーマにした作品を集中的に配信している気がするのですがなんなのでしょうか。そこにニッチを見いだしたのかな。

それにしてもNetflixはドキュメンタリーに関しては非常に多彩な作品が揃っていますし、教育ツールと言ってもいいぐらいの魅力がありますね。とはいっても、本作のように短編ドキュメンタリー賞を受賞した作品でもあまり大勢が関心を持って視聴してくれるわけではないので、ちょっと応援も込めて感想を書く作品としてピックアップしました。

作品の中身についてはこれくらいにして、あとは事前にダラダラ語るよりも観たうえで議論すべき作品ですからね。女性でも男性でも、大人でも子どもでも、観て損はない、いや、観ることで大切な何かを知ることができる…そんなドキュメンタリーです。

オススメ度のチェック
ひとり◯(勉強になる)
友人◎(議論が捗る)
恋人◎(相手を知る良い機会)
キッズ◎(教育的な意義あり)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

知っているけど言えない

「生理について知っていますか?」

なんてことはない、ただの質問なのに、言葉をつぐむ女性たち。ある若い女の子は羞恥心に耐えられないかのごとく顔をふせ、また別の人は真顔で沈黙する。まるで「お前は殺人を犯したな、罪を告白しろ!」と警察に尋問されている人のよう…と言うには極端かもしれませんが、でも共通しているのは全ての女性が一様に“後ろめたさ”を感じているということです。

一方の男性はと言うと、知らぬ存ぜぬを突き通す、なんとも無慈悲で無反応な態度。生理ナプキンを製造する機械を「子どものオムツを作る機械」と頑なに表現したりと、まるで「生理」という概念の存在自体を認めたくないようです。「月経を知っていますか?」という質問をぶつけられた若そうな男たちが「病気の一種だろ。女性の病気だと聞いた」と口を揃えるあたりは差別や偏見というか、ただただ無知であることがわかります。

もちろんここは生理という現象の起こらない特殊な民族が住む土地ではありません。生物学的に当然の生理・月経をここの女性たちも普通に体験しています。でもそれはいつぞや日本の「隠れキリシタン」のように、社会にバレないようにこっそり行っているのでした。こんな世界ですから、そこで生きる女性たちは窮屈で自由というものを感じることができません。

女性は生理中は汚れていて寺には入れないなど、露骨な締め出しもあるし、ろくにサポートするアイテムもないために手当たり次第の布を使うしかない状況。その布も夜にこっそり捨てに行く(それを犬が拾ってくるのが若干シュールでしたけど)。

さすがにここまでくると「生理ってなんだっけ…満月の光を浴びるとバケモノになるアレだっけ…」とこっちの常識まであやふやになり、現実が行方不明になってきますが、一度、確認しましょう。

生理(月経)とは「女性の子宮壁の最内層の子宮内膜と呼ばれる層が周期的に剥離・脱落する際に生じる出血」のことです。ものすご~く簡単に言ってしまえば、要するに“血が出ている”というだけ。それも外傷によるものではない、自然に起きることなので、何も怖くない。鼻血なんかよりもありふれた現象です。もちろん状態によっては辛い症状につながることもありますが、ひとつだけ言えるのは“後ろめたさ”を感じる理由なんて何もないということ。

なのに…。

ピリオド 羽ばたく女性たち

女性がいなければ世界は回らない

どうしてこうも生理は嫌われるのか。やっぱり性と関連付けられるからなのか。出血が股間から起こるからダメなのか。じゃあ、へそから出血するとかだったら、嫌悪にならなかったのか…。

まあ、ともあれ生理という現象の仕組みを恨んでもしょうがありません。

私たちにできるのは社会を変えることです。

そこで行動に出たのが、低価格の生理ナプキンの開発者であるアルナーチャラム・ムルガナンダムという男性。この国の最大のタブーである月経を暗黒時代から救うため、彼は女性たちにフォースの力を与えたのです。そのフォースの名は「自立」

一般的に、支援と言えばモノをあげることを思い浮かべますが、アルナーチャラム・ムルガナンダム氏はただ生理ナプキンをばらまくのではなく、ナプキン製造機械の使い方を女性に教えて雇用を生み出すと同時に、その結果によって女性たちが父権社会から羽ばたかせることを達成している…ここが大きいことですよね。

レイプ被害者の自立支援の活動に迫ったドキュメンタリー『シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声』にも通じるものがあります。
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従来は男社会に従属するしかなかった女性たちが、ビジネスを学んでいくことで自立していき、収入を得ることで実績が認められ、周囲から敬意を得る。このサイクルを実現できることは、まさに生理の根底にあった“後ろめたさ”を払拭することにダイレクトに結びつきます。しかも、自分の性のマイナス面とさえ思っていた生理が収益になるのですから、大違いです。

ただ生理の現象を科学的に説明するだけじゃダメなんですね。知識の啓発のための活動はすぐに思いつきますけど、ここまでのパラダイムシフトを起こすアクションを展開できるのはなかなかないです。でもこういう活動こそ本当に求められるものなんだということは痛感できます。

作中で映る自信に満ちた女性たちの顔は力強く輝いていました。それは序盤の沈黙に顔を沈める女性たちの姿とは180度異なるものでした。真のフェミニズムの輝きがそこにありました。

日本の女性たちも羽ばたくとき

こんな感じでインドの生理問題を扱った『ピリオド 羽ばたく女性たち』ですが、毎度のことながら「日本は関係ないですし」思考の人が湧いてくるもの。

でも少し考えればわかることですが、日本も生理の正しい理解なんて全然進んでいない国です。そもそも日本は先進国の中でも「性」自体をタブー視する傾向が強いとも思います。ゆえに生理にだって常に一定の“後ろめたさ”がつきまとっているでしょう。

月経を生理と呼ぶならまだしも、「女の子の日」とか「アレ」とか隠語で呼んでいる時点で、日本社会がそれをどう扱っているかは一目瞭然です。生理用品のCMではなぜいまだに“青い透きとおった液体”で生理を表現するのでしょうか(他の血は普通に赤く描写するのに)。

男性は生理ナプキンの値段がいくらか知っているでしょうか。生理を英語で「period」ということすら知らない人も大半のはずです。

この日本にも生理の呪縛はある。それだけは確かです。恥ずかしい? いいえ、こんな社会の方が恥ずかしいです。

この『ピリオド 羽ばたく女性たち』というドキュメンタリーは、そんな日本のような国にも届くように作られた作品。少しでも多くの人に観てもらいたいものですね。

また、個人的には以下の動画も非常にオススメ。生理にまつわる最近100年の時代の流れを数分の動画でオシャレにまとめたもので、とても勉強になります。


上記の動画でも紹介されていますが、2015年のロンドン・マラソンで、タンポンやナプキンなどの生理用品を一切付けずに、出血しながらフルマラソンを走り抜いてみせた「キラン・ガンジーさん」。女性が普段生理のせいでどれだけ不条理に辱めを受け、厄介な思いを強いられているかを世間に知ってもらう良い機会だと考えて、あえてこの大胆な行動に出たそうですが、彼女の言葉が印象的です。
「生理なんて大したことではない。たとえ出血していようと走りたければ走れば良いし、やりたいことをやるべきだ」
『ピリオド 羽ばたく女性たち』のあの女性たちや、この勇気あるランナーから、私たちはバトンを渡されている気がしてきませんか。

もしあなたが「今日は大事な日だったのに生理で…」と“後ろめたさ”を1ミリでも感じたことがあるのだとしたら、それはそういう風に思わせる社会の責任なのであって、あなたは何も悪くはないのです。

自由に走ってください。

ROTTEN TOMATOES
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作品ポスター・画像 (C)Netflix