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『パッドマン 5億人の女性を救った男』感想(ネタバレ)…生理も偏見も漏らさず吸収

パッドマン 5億人の女性を救った男

生理も偏見も漏らさず吸収…映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Padman
製作国:インド(2018年)
日本公開日:2018年12月7日
監督:R・バールキ

パッドマン 5億人の女性を救った男

ぱっどまん ごおくにんのじょせいをすくったおとこ
パッドマン 5億人の女性を救った男

『パッドマン 5億人の女性を救った男』あらすじ

インドの小さな村で最愛の妻と新婚生活を送るラクシュミは、貧しくて生理用品が買えず不衛生な布を使用している妻のため、清潔で安価なナプキンを手作りすることに。生理用品の研究とリサーチに明け暮れるラクシュミは、村人たちから奇異な目を向けられ、数々の誤解や困難に直面する。

『パッドマン 5億人の女性を救った男』感想(ネタバレなし)

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生理のタブーを破壊するインド映画

「女性がどれくらい生理のためにお金をかけているか知っていますか?」

そう日本人の男性に質問すれば、おそらく大半の人はうまく答えられないでしょう。それどころか考えようと思ったことすらないはずです。あくまで女性だけの問題だし、男性には無関係だと。でも世の男性は女性のバスト・サイズはやたら気にするのに、生理は気にしないなんて都合がいいにもほどがあるんじゃないでしょうか。

ある試算によれば、女性は生理が起こる年齢が平均38年間、456回の生理があるそうで、それに基づいて合計すると一生のうち2280日間(6年3カ月)もの時間を生理経験することになります。たまにしかないものだと思っている男性にしてみれば、これはきっと驚く数字だと思います。

そして一生涯で生理にかかるお金は50万円以上とも計算されています(あくまで最低限の費用を見積もった概算)。決して微々たる金額ではありません。たまたま女性に生まれたという理由だけで、男性には一切ないこのコストがかかるというのは、ずいぶん理不尽なハンデです。

お金だけでもじゅうぶん重荷なのに、そこに「偏見」による精神的な苦痛までプラスされたらたまったものじゃありません。

しかし、たいていの世界中の女性はこの生理にまつわる偏見の中で生きています。もしかしたら自分さえもそれを自覚せず、生理に偏見を持つ女性だっていることでしょう。どうしても“性”の話題はタブーになりがちであり、触れてはいけない空気感があります。

そんなつい目をそらしがちな生理の問題を構成するタブーの壁を、軽やかな語り口で痛快にぶち破る映画がインドからやってきました。それが本作『パッドマン 5億人の女性を救った男』です。

インドでは生理に対する社会の目はとても偏見に染まっており、どれほどかというと“穢れ”として扱われ、忌み嫌われる存在になっているほど。生理中の女性は、外出もできず、かといって家の中にも入れてもらえず、外と家を隔てる廊下で夜は寝る状況。さらに生理中の女性に触れることもできません。完全に“空気”みたいに扱われています。また、ナプキンなど生理用品も普及しておらず、女性が使うのはそこらへんにある使い古したような布か葉っぱという、日本人感覚で見ると“原始時代かな?”と思ってしまうのも無理はない話です。ナプキンの値段も日本円感覚にして“ひとつ”1000円以上します。一応、言っておきますけど、これは2000年代のインドの今の話ですよ。

そのインドで安価な生理用ナプキンの開発・普及に尽力した人物がいました。それが「アルナーチャラム・ムルガナンダム」という男性。彼はその功績から「パッドマン」と呼ばれるほどの著名な社会企業家となり、2014年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたりもしました。

本作『パッドマン 5億人の女性を救った男』はその男性をモデルにした主人公を描いた映画です。

インド映画は踊ってばかりのエンタメだと舐められがちですが、こうやって社会に巣くう偏見や先入観に染まった常識へのカウンターになるような映画を堂々と作ってヒットさせられるのが本当に凄いですよね(日本があまりできていないことでもあります)。

主人公を演じたインド映画界でも人気のある俳優“アクシャイ・クマール”も「大勢にこの問題を知ってもらうためにも、商業映画にすることに意味がある」と熱く語っており、その重要性をしっかり認識しているのが素晴らしいです。実はこの人、インドの女性が悩んでいる問題にクローズアップした映画に出演するのはこれが初めてではありません。過去の出演作に『Toilet: Ek Prem Katha』があり、こちらは“インドでは女性用のトイレが家にない”という問題を扱っています。

とにかく老若男女問わず多くの人に観てほしい一作。あなたの偏見が気持ちよくパッドマンによって吸収されていくことでしょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(難しく考えずに観られる)
友人 ◎(みんなでワイワイ楽しめる)
恋人 ◎(性を理解し合う良いきっかけに)
キッズ ◎(教育的にも推奨できる)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『パッドマン 5億人の女性を救った男』感想(ネタバレあり)

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モノづくりでスーパーヒーローになれる

私が『パッドマン 5億人の女性を救った男』で最も素晴らしいなと思うのはテーマに対する追及の深さ。“生理”という議題を扱った映画でこれ以上の深さまで突き詰めた作品は現状ないのではないか、そう思うほど本作のテーマに対する姿勢は真摯です。

生理を題材にするとなれば、下手な作品なら“生理はツラい”という生理痛薬のCMみたいな戯画化した生理のイメージでメッセージ性(それもそこまで深くはない内容)を発信することが多いはず。ところが本作は生理を変に抽象化するような逃げの姿勢は一切ないんですね。

ひとまず生理の社会問題は置いておいて、本作は「モノづくり」映画として素直に面白いです。

主人公のラクシュミはモノづくりが得意な腕前を活かし、愛する妻ガヤトリのためにお手製の生理用ナプキンを作り始めます。この過程がとても新鮮。女性でさえ生理用ナプキンがどういうことに気をつけながら製造されているのかなんて知らないと思いますが、本作は“こうやってできるのか”と発見と驚きの連続です。

ラクシュミが典型的な理系思考の持ち主なのも良いですね。最初は綺麗な布を買ってきて、誰も使ってくれないので、自分で動物の血を使って実験。工学の専門家などから必要な知識を得るためにリサーチも欠かせません。トライ&エラーを繰り返すなかで、やがてセルロース繊維を材料にしたナプキン製造マシーンの存在を知るラクシュミ。

ナプキン製造マシーンを説明した製造過程の動画を見て「これなら自分でもできる」と思いつき、ついには製造機の製作に着手。この場面で「粉砕」「圧縮」「梱包」「減菌」のプロセスを、普段女性が家でやっている家事の作業と重ねる演出も、後の伏線につながり、上手いところ。

ラクシュミのオリジナルナプキン製造マシーンがついに完成し、インド工科大の発明コンペで見事に優勝。発明家として認められます。学歴も資産も何もないこの男がここまで上り詰める。

こういう「モノづくり」的なテイストは『アイアンマン』のトニー・スタークなんかを思い出しますが(まさにスーパーヒーロー)、これだけでもじゅうぶん感動的。映画としてはここで終わっても良いくらいです。

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自分の中の偏見に向き合う

しかし、そこで喜ばせないのが本作の真面目さ。

ラクシュミの成功が表彰され、みんなもお祝いムード、これでめでたし、めでたし…と思いきや、そこに冷や水をぶっかけるのが「偏見」という根深い問題。

そもそもラクシュミが生理用ナプキンにここまで執心していったのは、全ては愛を捧げる妻ガヤトリのためという、仲むつまじい夫婦愛があるがゆえ。ところが当の妻自身はそれを快く思いません。「男は口出ししてはいけない」「女の股の間になぜそんなに興味があるの」と、家族の他の女性も厳しくラクシュミのことを責め立て、ついには、変質者だ、呪術だ、クズだと村全体からほぼ迫害に近い状態で追い出されるという悲惨な体験をします。

この酷いありさまのラクシュミが可哀想になってきますが、忘れてはならないのがこれはあくまで女性が普段社会から受けている恥辱と同じだということ。本作は女性を通して生理を語れないというインドに根付く“常識”に対して、男性を通して語ってみせるという“裏をつく”ようなやり方でその問題を提示します。ラクシュミが自分で生理用ナプキンを自転車に乗って実験する過程で失敗し、下半身が血まみれになってしまうシーンは、まさに女性が毎月感じる“恥ずかしさ”や“後ろめたさ”を男性を含めた大衆に直視させる場面です。「女にとって恥ほど重い病気はない」と言い放つほどの問題の重み。

偏見なんてバカバカしいと一言で一蹴するのではなく、偏見の生まれる問題の重さは軽々しく扱わず、実直に受け止める姿勢が『パッドマン 5億人の女性を救った男』にはあります。

そして、一端は忘れていたものの、ナプキン製造マシーン完成後にラクシュミの前に再び立ちはだかる偏見の壁。そこで本作のターニングポイントが訪れます。

ナプキン製造マシーンは出来がったものの、なおも生理への偏見から誰も相手にしてくれないことに悩むラクシュミの前に、最初に自分の作ったナプキンを使ってくれたパリーが登場。彼女は父がインド工科大の先生で、男手ひとつで父に育てられ、かなりリベラルな価値観を持っている女性です。そんなパリーが、ナプキンを売り込むと、あっさりと売れてしまいます。

ここでハッキリするのは、ここまでのラクシュミを見ているとパーフェクトな聖人君主に見えますが、実は彼もまた以前として“ある偏見”を抱えていたということ。それまで本作はずっと「男が“主”、女が“従”」の関係性が前提にありました。ラクシュミもそれが当たり前のように無意識に思っていましたが、ここに来てその立場が逆転。

“女であること”が武器になることもあるんだという盲点。

偏見に苦しむラクシュミが自分の中の偏見に気づく自己批判ができてはじめて、偏見との戦いに勝機が見える。ただ単に「偏見は良くない!」という上から目線な説教で終わらないというはとても本質的に大事なことだと思います。偏見を解決するにはまず自分の中の偏見から解決しよう…ってことです。

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スピーチが全てを物語る

女性が“主”になり、ラクシュミのナプキンが軌道に乗り始めるとわかるのが、偏見のない平等な社会のパワフルさ。こんなにどんどん相乗効果が生まれるのかという驚き。それがナプキンが女性に普及し、ラクシュミの事業で働く女性が増えていく、短い映像だけで観客にグッと伝わる見せ方も上手いです。ただでさえ偏見の粘り着くようなしつこさを散々描いてきましたから、こうも一気に解放されると爽快ですよね。

そして同時に“なぜこんな偏見が生まれたのか”、“どうしたら偏見を生み出さないようにできるのか”、その根本にも回答を用意するのが本作の良さ。

相手を正しく知り、正しく価値を評価すること。学歴主義や資本主義に憑りつかれないこと。相手を心から愛すること。それが偏見の分かれ目なのだと。

まあ、私のこんな拙い感想でまとめるなんていらないのですけどね。なんていったって、終盤のラクシュミが国際連合の招待でニューヨークの国際連合本部ビルでスピーチするシーンの言葉が全てを総括し、物語ってくれるのですから。

以下に長いですけど抜粋します。

僕はさんざん笑われた。村では。だから発明した。ナプキン製造機を。
ここでも笑われている。だから発明した。私の英語を。ラクシュミのリングリッシュ。
学校も勉強もなし、文法も知らない。でもわかるでしょう。
英語はタクシー。僕の気持ちを運ぶ。メーターを倒すよ。
最初に月に行った人は? ニール・アームストロング。
初のエベレストマンは? テンジン。
初のパッドマンは? ラクシュミカント・チャウハン。長すぎるからラクシュミ。
ラクシュミはお金という意味。
なぜ僕は国連で拍手されるか。ラクシュミを追わなかったから。
追っていたらパッドマンではなくマネーマン。
みんな追う。大きな家、もっと大きな家。バカだ! ホワイトハウスは大きすぎ。
なぜ? 何も考えないで生きている。カネで問題は消えると思っている。
みんな神に祈る。問題はイヤだ。いらないと。
問題がイヤなら死ねばいい。死ねば問題ない。シンプル。
問題がない人生なんてない。問題は生きるチャンスだ。
僕は運がいい。インドは問題だらけだから。
雨の問題。左にも、右にも、上も下もそこら中に問題。問題はチャンス。
何という言葉だっけ、「機会」
インドには機会がいっぱいある。
女性には5日間問題があると気づいた。
インドではこう呼ぶ。テストマッチ。
5日間続くクリケットの試合。球からヒザを守るのに打者はパッドを付ける。
女性のテストマッチにはパッドがない。ぼろきれを使っている。
クリケットの球がぶつかるより危険。
妻が同じことをしていた。
僕のナプキン物語は悲しい。狂ったと言われた。
でもナプキンのことを考え続けた。
少年が手伝ってくれた。考えすぎないからいい。僕もそう。
頭の中は真っ白な紙。何も書かれていない。
カネ持ちの会社はR&Dする。研究と開発。
僕は貧乏。先に試すしかない。試して失敗を繰り返す。
失敗が一番。失敗して覚える。
カレンダーが変わっていった。大きな機械を小さくした。この機械はとても簡単。
僕はインド工科大で勉強してない。今では僕が勉強されてる。
賞をもらった。最初のナプキンを作った。それをあげた、あの女性に。
ラクシュミに羽をくれた。僕は名前を変えた。アメリカ風に。
ラクシュミキャント(can’t)からラクシュミキャン(can)に。
僕が作ったこのナプキン。2ルピー。たった2ルピー。
女性に2か月、多くの命を与える。本当なんだ。説明しよう。
毎月5日間、女性は家の外で何もしないで過ごす。
5×12で60。毎年60日。2か月ムダにする。
このナプキンを使えば2か月生きれる。
男には1年に12か月あるのに女は10か月。なぜだ? 男はズルい。
男が30分、血を流したらすぐ死ぬ。
大きな男や強い男が国を強くすると思わない。
女性が強くて母が強くて姉妹が強ければ国も強くなる。
今、パッドマシンは女性を強くしている。
ナプキンを使って生き、生活を立てている。
ビジネスは上がったり下がったりする。
このビジネスは上がるだけ。
なぜか。嘘じゃない。本気で言っている。
チャムスが始まれば売れる。誰かが必ずチャムス。
自然のビジネスは上がるだけ。
狂っていると思うだろう。構わない。
昔はみんなに言われた。ラクシュミは狂った。狂って有名になった。
有名になったけど僕は変わってない。カネは持っていない。少しだけ。
カネは1人を喜ばす。いいことすると多くの女性が笑う。
僕の国ではやることがいっぱいある。
インドでは18%の女性しかナプキンを使わない。
僕はインドをナプキン100%の国にしたい。
僕の望みは100万人の女性に仕事を与えたいんだ。このビジネスで。
やるから見ててくれ。
また国連に戻って僕のリングリッシュを聞かせるから。
覚えたいならインドにおいで。
2ルピーで教える。
どうもありがとう。

使っている単語はシンプル、文法はめちゃくちゃ…それでも伝える力はじゅうぶん。大演説でしめる映画はあまり手法として上手くないのが一般論ですけど、本作の場合はちゃんと意味のある集約になっています。

ガヤトリとパリーという2人の女性がヒロインとして登場しますが、これはあくまで誇大化されたひとつの女性像にすぎません。

真のヒロインは名もなき数多の女性たちです。

邦題は「5億人の女性を救った男」ですが、なおも現在進行形でこの問題との戦いは続いています。

『パッドマン 5億人の女性を救った男』を鑑賞後は、本作で描かれていることを題材にした短編ドキュメンタリー『ピリオド 羽ばたく女性たち』が存在するので、ぜひともそちらを合わせて鑑賞することを強くオススメします。実際に生の声を聞くことでこの問題のリアルがより切実にわかるようになり、感動も2倍3倍と膨れ上がりますから。

『パッドマン 5億人の女性を救った男』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 90%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 SONY PICTURES DIGITAL PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

以上、『パッドマン 5億人の女性を救った男』の感想でした。

Padman (2018) [Japanese Review] 『パッドマン 5億人の女性を救った男』考察・評価レビュー