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『ブレスラウの凶禍』感想(ネタバレ)…Netflix;監督の悪趣味が凶禍です

ブレスラウの凶禍

監督の悪趣味が凶禍です…Netflix映画『ブレスラウの凶禍』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Plagi Breslau
製作国:ポーランド(2018年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:パトリック・ベガ

ブレスラウの凶禍

ぶれすらうのきょうか
ブレスラウの凶禍

『ブレスラウの凶禍』あらすじ

ポーランドのヴロツワフ。この歴史と賑わいを合わせ持つ街で、凄惨な事件が起きる。縫い付けた牛革に入れられた死体を皮切りに、殺害された死体が次々と見つかり、明らかにそれは異常な犯行だった。世間を嘲笑うような事件に挑むのは、卓越したスキルを持つ女刑事。同じように優秀な捜査能力を有するパートナーとタッグを組み、正体不明の犯人を追いかけるが…。

『ブレスラウの凶禍』感想(ネタバレなし)

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ポーランド版「セブン」?

「ヴロツワフ」という街がポーランドにはあります。ドルヌィ・シロンスク県の県都であり、歴史的にシロンスク地方の中心都市として栄えてきました。今は割と富裕層も多い地域みたいですね。大学も博物館も数多く存在し、アカデミックな土地柄でもあります。ここにあるヴロツワフ動物園はポーランドで最も古い動物園であり、しかも世界で3番目に見られる動物種が多いところだそうで、動物園マニアの人はなんとしても行ってみたい場所でしょう。

一方で、そんな楽しそうなヴロツワフですが、この街はとにかく歴史に翻弄された過去もあります。ポーランド王国、オーストリア帝国、ドイツ、ハンガリー、プロイセン、ボヘミア…多く国の一部としてとっかえひっかえ変わり続けたのです。第二次世界大戦後に今のポーランド領に落ち着きました。幸いといいますか、第二次世界大戦中は戦火で街が滅茶苦茶になることはなかったようです(その代わり戦争難民はたくさんやってきた)。

そのヴロツワフを舞台にし、タイトルにも地名が入っているポーランド映画が今回の紹介する作品です。それが本作『ブレスラウの凶禍』。あれ、ヴロツワフじゃないけど…と思った人。この「ブレスラウ」はヴロツワフのドイツ語表記です(ドイツ領にもなったので)。

なんか禍々しいタイトルの本作。「凶禍」は「きょうか」と読みます。普段は使わない言葉ですけど、最近の某パンデミックのせいで「禍」の字が頻出するようになっちゃいましたね…。

不吉な予感がしますが、どんな映画なのか。その不吉さは正解です。

『ブレスラウの凶禍』はミステリーベースのクライムサスペンス。ある日、街中で死体が発見され、陰惨すぎるやり方で殺された異常殺人として捜査が開始。しかし、続々とさらなる遺体や殺人が立て続けに発生し、捜査員を混沌に突き落とす。この謎めいた事件の黒幕は誰なのか…。

ハリウッド映画に例えるならデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』みたいな物語だと思ってもらえればいいと思います。『ブレスラウの凶禍』は『セブン』以上に残酷描写が多く、残忍に殺された死体も接写でハッキリ映りまくるので、あまり食事しながら鑑賞したい映画ではありません。結構ひっきりなしにゴアな場面が出てきますのでね。苦手な人はとことんダメだと思うので、そのときは遠慮なく目を背けてください。

それ以外だと何と言ってもミステリアスなドラマが売りなわけですから、当然のようにネタバレ厳禁。ほぼオチで持っていくタイプです。インターネット上であれこれ検索せずに、気になるなら即行で鑑賞してしまうのがベター。

幸いにもNetflix配信ですからいつでも見れますし、映画時間も約90分なので、ちょっとした寝る前とかでも視聴できます(怖い夢を見ないようにね…)。

それにしてもポーランド映画は作品の幅が広いですね。『COLD WAR あの歌、2つの心』みたいなアート系作品もしっかり撮れるし、本作『ブレスラウの凶禍』みたいなエンタメジャンル作品も用意できるし…。

監督は“パトリック・ベガ”。私もポーランド映画業界には疎いので全然知らない人だから調べてみたのですが、なんか2017年の監督作『Botoks』が最悪の作品に与えられるポーランドの賞を最多受賞していたり、評判を探ると「ポーランド映画史上最低の作品だ」と痛烈に書かれていたり、なにやらとんでもない監督らしいことがじんわり伝わってくる…。私は他の作品を観ていないのであれなのですけど、どうやらかなり論争を巻き起こす過激な内容に手を出すことに定評(悪評?)のある人物みたいです。どこの国にもこういうクリエイターはいるんだなぁ…。

もともと『Pitbull』という犯罪スリラーからキャリアを躍進させた人で、こちらもセンセーショナルゆえに話題になったらしい…。こうなってくると気になる…。

確かに『ブレスラウの凶禍』も“パトリック・ベガ”監督の過激性の片鱗が見えてくる一作でしたね。

俳優陣は、“マウゴジャータ・コズホフスカ”、“ダリア・ビダフスカ”、“カタジナ・ブヤキビッチ”、“マリア・デイメク”、“アンジェイ・グラボウスキー”など。かなり主演の俳優たちの演技力で引っ張っていくところもあり、良い仕事をしていました。

内容が内容なだけに気分爽快とはいきませんが、過激さを欲しているならオススメです。

『ブレスラウの凶禍』はNetflixオリジナル作品として2020年4月22日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(過激なスリルを味わうなら)
友人 ◯(事件捜査モノ好き同士で)
恋人 △(気分が晴れやかにはならない)
キッズ ✖(残酷描写がかなり多め)
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『ブレスラウの凶禍』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ブレスラウの凶禍』感想(ネタバレあり)

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正気ではない凶悪殺人の犯人は?

車の中にいる女性にナンパ風に絡もうとする男たち。しかし、その女性が銃を手に車にじっと座っているのをみて、「(あ、ヤバいな…)」と察知して退散。それは明らかに不自然で、様子がおかしく取り乱しています。すぐに酔っぱらった風な男が車にぶつかってくるも無視。彼女は自分の感情と必死に格闘していました。

この冒頭シーンはラストにつながる大きな伏線になるわけですが、最初はわけがわかりません。

ところかわって街中。賑わう市場の中、少年があるものを発見します。市場の片隅に見えづらく置かれていたのは牛皮に包まれた“何か”。それはどことなく人の形をしているような…。

通報で駆け付けたのは女性(冒頭の人)。刑事であり、名前はヘレナ。到着後、野次馬を立ち去らせ、淡々と指示を出して周辺を立ち入り禁止にします。非常に手慣れており、何よりも威圧感のある堅実な仕事っぷりです。愛想のようなものは微塵もありません。
「リムーザンの牛皮ね」と不審な発見物を分析し(そういう品種の牛です)、太い釣り糸で縫われたその牛皮を切ることにするヘレナ。中から出てきたのは無残な死体。まだ新鮮でどうやら死んで間もないようです。

別の女性が来て、「死亡時刻は約2時間前ね、窒息死でしょう」と判断。死体を完全に出し、広げてみると、腹の下に文字があり、「堕落者」と書かれています。何を意味しているのかはわかりませんが、犯人は何かしらのメッセージをこの殺人によって伝えたいのか。この牛は純血ならID番号があるはずだとしてとりあえず唯一の手掛かりを調査させます。

検死をすると、まだ生きている間に文字を焼き印されたようで、牛皮が日光にさらされて縮んでいき、圧迫されて心臓が止まったことが判明。かなり残酷です。几帳面な犯行で計画性が高いと考えられました。

ヴロツワフにリムーザン牛がいるとの情報が入り、すぐさま向かうとフェンスが壊されて1頭消えた という牧場主の話をゲット。買い付け業者のリストからとある精肉業者を調べます。するとボグダンという従業員が失踪中だと判明。また泣いている人を発見し、「あれは天罰だ」とこぼします。なんでも被害者の男は、冷蔵庫に閉じ込める、トイレに行かせないなど他の従業員を毎日のようにいじめていたようです。それほど嫌われていたならば容疑者は大勢いると思われ、捜査は手詰まり。

しかし、立て続けに事件が起こります。今度は馬が街中を疾走する騒ぎです。しかし、それはただの事故ではありません。その馬には紐で遺体が結ばれており、「略奪者」とまた書かれていたことから牛皮死体と同様の人物による犯行と推定。二頭の馬で生きたまま体を引きちぎるという凶悪なものでした。

マスコミも騒ぎ立て始めたこの凄惨な連続殺人。そこにワルシャワ警察本部よりイウォナという女性が派遣されてきます。イウォナも分析力に長けているようで、すぐにこの一連の事件を「ブレスラウの凶禍」だと推測します。昔、フリードリヒ2世がドルヌィ・シロンスクを支配し、ブレスラウを中心地にしようと計画したことがあり、疫病を解決しないと不可能だと彼はわかっていたので、作ったのが疫病週間。毎日午後6時に特定の罪を犯した者を処刑者が公開処刑し、堕落者が月曜日、強盗者が火曜日というようにルールがあった。それになぞらえた犯行だとすれば、日曜日は休みなのであと4人死ぬことになります。

相棒のブランソンは馬に踏みつけられて昏睡状態にあるため、ヘレナはこのイウォナとタッグを組むことになりますが、すでに犯人の手のひらの上にあるのでした…。

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ドラム缶のネタ切れ感

『ブレスラウの凶禍』は「え、なんだってーーー!」という最後にどんでん返しが起こるタイプの映画なわけですが、まあ、このオチ自体はさておき、そのオチを踏まえてみると、あらゆる意味で過剰すぎるだろうというツッコミはできます。

あの一番目の殺人での牛皮の件も、まずは牛をさらって、牛の皮を剥いで、ターゲットを入れて縫い付け…(あと焼き印もいれないといけないのでそれも用意しないと)、どれだけ時間がかかるんだという手間暇。牧場主の人は「肉は食べたのかな」とぼやいていましたが、そんな余暇もないだろうに…。

続く2番目の殺人はさらに大掛かりで、馬二頭をターゲットにくくりつけてセットし、かなり計算をしたうえで、爆弾も構築し、発火装置も作って、用意ドン!させる。街中を馬が走り回るのは完全に目立ちたいだけのパフォーマンス(でも映画として映像面は見ごたえありますけどね。あれ、撮るの大変だったのではないかな…)。

オペラ劇中での焼死殺人は、ターゲットの声帯を切断し、万能触媒を使って他に延焼しないようにしつつ、被害者のみが燃えるようにさりげなく放火する。これまた職人技ですよ。観衆への配慮が行き届いているのか、ないのか、さっぱり意味不明ですけど。

窓からくくりつけられた遺体がバシャーンと落下してくる第4の殺人は、警察内での大胆な犯行で、しかもこれも面倒な作業の多い工程。わざわざあの円形の構造物に綺麗にセットアップしているわけですからね。正直、1日では終わらない作業量だと思うのだけど…。

5番目の殺人はドラム缶ゴロゴロ。なんだろう、ネタが尽きた感じがする。たぶん作業に疲れたのかな、ドラム缶に入れて転がしちゃえという安直な発想を決行。絵面的に残酷というか、これはマヌケに見えるのだけど、あそこまで迫真のドラム缶ローリングはなかなか見られないので良しとするか(何がだ)。ちゃんと人が跳ね飛ばされるシーンを描くあたりにこだわりを感じる…。

ラストは生首をヘルメットにセットしてヤギエルスキ首相のいるスタジアムでプレゼントするというサプライズ。あの受け取った首相が金色のヘルメットを意気揚々と持って、頭にかぶせようとして「あれ、入らないな…」みたいなコント(コントじゃないけど)をしますけど、持った瞬間で違和感があるだろうに…。

これらの殺人スタイルは一応、作中では「ブレスラウの凶禍」に沿っていると説明されます(犯人本人がそう言うのだから)。でも「ブレスラウの凶禍」はあくまで特定の罪人を順番に毎日処刑していくことが本意であり、このイウォナあらためマグダのやっている過剰殺人は関係ありません。世間を騒がせたいにしてもやりすぎです。

つまり「ブレスラウの凶禍」、全然無関係なわけです。タイトル…。

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監督の悪趣味こそが狂禍です

じゃあ、なぜこんなクレイジーな殺害をしているのか。

それは作品内での説明では不可能で、答えはひとつ。映画として派手にしたい…これに尽きる。

『ブレスラウの凶禍』を見ていてもわかりやすぎますが、“パトリック・ベガ”監督は相当な露悪性の持ち主で、結構やりたい放題なことを、絵面優先でやっちゃうタイプなのでしょう。

街中を遺体をぶら下げた馬が疾走する場面が欲しいな、良しやろう。オペラの汚職した奴が文字どおり人間炎上するのウケるな、良しやろう。こんな感じで思いつきで映像化を決めているとしか思えない。ずいぶんな欲求に忠実な精神。なお、本作は脚本も“パトリック・ベガ”です。

完全に作中の犯人と同一思考なんじゃないだろうか…。

それなりのバックストーリーはあるにはあります。マグダは歴史と法律が好きで勉強熱心だったけど、脊髄筋炎を患わっていて医療保障も乏しく、軍に入隊したけど問題を起こし、その後、財務省で働いたけどここでも嫌な目に遭い、次の職場でも…。こんな可哀想エピソードも用意されています。

ただいかんせん過剰に残酷すぎるので、このマグダに同情する人はいないのでは…。

加えてなぜかそのマグダの意思を受け継ぐヘレナの唐突さ。冒頭での伏線があったとはいえ、罪から逃れた憎き人間を殺すまでに駆り立てるものをヘレナはマグダから感じ取れたのか。私にはさっぱりわからなかったですが(なにせ同僚のブランソンを予想外とはいえ、ああやって死なせかねないことをした奴に協力はしないでしょう)、どうなんだ、主人公…。

あと全体的にヘレナとマグダありきで物語を成り立たせているので、他の面々(警察とか)が異様にマヌケになっているのも不自然で…。でもこのへん、“パトリック・ベガ”監督はあえて無能な奴らを描くというギャグでやっているつもりなのかもしれない。死体と自撮りしている奴とかいるし…。

どうでもいいですけど、ヘレナが小さい子にボールを投げ渡して顔にぶつける場面は意図しない事故かな。それをそのまま採用しているあたり、やっぱりこの監督、悪趣味なのか…。

ツッコミ疲れる本作ですが、役者陣は良かったです。ヘレナを演じた“マウゴジャータ・コズホフスカ”と、マグダを演じた“ダリア・ビダフスカ”の両名は、普段のパブリックイメージとはガラッと変わった他者を寄せ付けない存在感を上手く体現しており、それだけでも見ている価値はありました。たぶんこの二人の俳優がいないと、一層チープになっちゃうでしょうしね。

ポーランドを訪れる際は、馬とドラム缶に注意しながら街を散策してください。

『ブレスラウの凶禍』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
5.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)Showmax, Netflix ブレスラウのきょうか

以上、『ブレスラウの凶禍』の感想でした。

Plagi Breslau (2018) [Japanese Review] 『ブレスラウの凶禍』考察・評価レビュー