ジェフ・ブリッジス主演の最終章…「Disney+」ドラマシリーズ『ザ・オールド・マン~元CIAの葛藤』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にDisney+で配信
原案:ジョナサン・E・スタインバーグ、ロバート・レヴィン
ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤
ざおーるどまん もとしーあいえーのかっとう
『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』あらすじ
『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』感想(ネタバレなし)
ジェフ・ブリッジス、老いても魅力全開
1958年に『潜水王マイク・ネルソン』(原題は「Sea Hunt」)というドラマシリーズがありました。プロのダイバーが主人公で、海洋研究所に所属しているのですが、海で起きるあらゆる事件に挑んでいくという潜水メインの異色のドラマでした。
このドラマにまだ幼かったあの人が出演していました。その人とは“ジェフ・ブリッジス”です。
そもそも“ジェフ・ブリッジス”は典型的な俳優家族に生まれた子どもで、父親は『真昼の決闘』の“ロイド・ブリッジス”、母親の“ドロシー・シンプソン”も俳優です。先ほどあげた『潜水王マイク・ネルソン』も父や兄と一家総出演していました。
そんな“ジェフ・ブリッジス”が一人前の俳優として業界に刻まれたブレイク作となったのが、1971年の『ラスト・ショー』。そこからは『サンダーボルト』(1974年)、『スターマン/愛・宇宙はるかに』(1984年)、『ザ・コンテンダー』(2000年)とやや空白を開けながらも賞レースに顔を出し、『クレイジー・ハート』(2009年)でついにアカデミー主演男優賞を受賞。その後は『トゥルー・グリット』(2010年)や『最後の追跡』(2016年)などハリウッドらしい古きアメリカンな空気の作品が似合う俳優として老熟した魅力を披露していました。
同時に『トロン』(1982年)、『アイアンマン』(2008年)、『ギヴァー 記憶を注ぐ者』(2014年)などわりとジャンルど真ん中の作品にも顔を出し、意外に順応性のある役者なんだなとも感じます。
私は『ビッグ・リボウスキ』が好きかな…。
その“ジェフ・ブリッジス”が製作総指揮&主演を務めて本格的なドラマシリーズに帰ってきました。
それが本作『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』です。
本作は、エドガー賞を受賞した経験のある作家“トーマス・ペリー”によるベストセラー小説「The Old Man」をドラマ化したもの。
あるひとりの老いた男が静かに暮らしていると、謎の追手が出現。それを振り払って家を出て逃避行を始めるのですが、そこからこの老人の驚くべき過去が浮かび上がってくる…雰囲気はクライムサスペンス。しかし、このざっくりしたあらすじからは想像できないほどに、複雑な人間模様が絡まっていき、「え? そういう話なの?」とちょっと驚くことになると思います。ミステリー要素が強く、最初は全然情報が明かされないのでとにかく謎だらけなのですが、徐々に背景がわかってくる。ネタバレ厳禁です。その淡々としたスリルも見どころですね。アクションもあるし、なんだか老人版『007』かも…。
作中で「これはとても長い物語の最終章」という言葉がでてくるのですが、まさにそんな話です。
原案は、ドラマ『Black Sails/ブラック・セイルズ』を手がけた“ジョナサン・E・スタインバーグ”&“ロバート・レヴィン”のコンビ。さらに製作総指揮&エピソード監督には、『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』で見事に観客を沸かせた“ジョン・ワッツ”も参加しています。“ジョン・ワッツ”は久々に渋い作品に舞い戻ってきましたね(今回は子どもは酷い目に遭わないです)。
すっかりくたびれた老人になりつつも刹那の瞬間に身に染みついた体技で敵を圧倒する“ジェフ・ブリッジス”が見られる『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』。2022年時点で72歳、まだ現役で最前線を走ってます。
共演は、ドラマ『ザ・クラウン』でウィンストン・チャーチルを熱演してみせた“ジョン・リスゴー”。他には、ドラマ『BULL / ブル 法廷を操る男』の“E・J・ボニーリャ”、ドラマ『ラストサマー』の“ビル・ヘック”、ドラマ『Baghdad Central』の“リーム・リューバニ”、ドラマ『アレステッド・ディベロプメント』の“アリア・ショウカット”、ドラマ『弁護士ビリー・マクブライド』の“エイミー・ブレネマン”など。
『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』は大人向けの作品を制作する「FX」のドラマシリーズで、日本では「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信。全7話で1話あたり47~64分。かなりのボリューム。
そしてここが肝心ですが、シーズン1で全く終わりません。すでにシーズン2も決定済みで、明らかに続く前提で作ってます。シーズン1のラストも「ここで終わりかよ!」という一旦閉幕なので、そのつもりで眺めてください。
『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :俳優ファンは要注目 |
友人 | :盛り上がりにくいかも |
恋人 | :ロマンス要素は薄い |
キッズ | :やや子どもには退屈か |
『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):これはとても長い物語の最終章
夢から覚める老いた男、ダン・チェイス。ベッドから重そうに体を起こし、バスルームで座り込みます。靴下を履くのも不自由しながら、外で2頭の犬と戯れ、娘のエミリーと電話。
「今頃になってどうして? 落ち着かないのはわかるけど大丈夫よ」とエミリーは淡々と言葉をかけます。
その後、犬と出かけるも、電子レンジの中が発火しているのにも気づかず…。診療所で検査結果を聞き、認知テストに問題は無しという結果に少し意外さを感じるダン。最近は不安で落ち着かないと口にします。
帰りの街を歩いていると、視線が気になり、追跡者の気配が…。
帰宅したダンは缶を束ねた音のトラップを廊下に設置し、眠りにつきます。
夜中に缶の音で飛び起きるダン。素早い身のこなしで懐中電灯を手に、廊下をチェックしていくと、犬が男に噛みついています。犬に放せと指示し、名前を問うも、答えません。するとダンは何の躊躇もなく発砲。相手は死にます。
いかにも怯えた老人のように警察に通報。駆け付けた警官にやむを得ず撃ったと説明し、警官も「サイレンサーの銃を持っていて身なりのいい強盗は珍しいですね」と気さくに対応してくれます。
ダンはエミリーに連絡しながら運転し、「俺は安全のためにしばらく身を隠す」と発言。「期間は?」と聞かれても「わからない」と答えるのみ。
その頃、ハロルド・ハーパーは孫と一緒におもちゃ遊びをしていました。その幼い孫は「パパとママはいつ戻ってくるかな」と無邪気に口にだし、ハロルドはトイレに独り籠り、孫に見られないように泣きます。
そのとき一本の電話が…。ハロルドはFBIの副長官であり、「ある任務に関してあなたの力をお借りできないか」との内容。「1987年7月トールハムで行方不明になった工作員を覚えていますか?」「あの件は解決済みなのになんで今さら連れ戻そうとするんだ?」「説得に行った担当者は殺されました」…事態の深刻さを把握したハロルドも動き出します。
ダイナーにいたダンのもとにハロルドから電話があり、「車に戻れ、理由を説明してやろう」「昔とはゲームの状況は違っているんだ」「正直、あんたは死んだかと思ったよ」「引退したんだ」と会話が続きます。ハロルドは密かにダンと連絡し、「おそらくカブールのファリス・ハムザにあんたを届けるのが目的だ」と内情をばらします。
「なぜそれを話した?」「私も困るんだ。昔のことが蒸し返されると」
逃走に手を貸してくれるようです。ハロルドは「娘には連絡するな。あんたが消えたら彼女は安全だ」と言いますが、娘を第一に考えるダンは納得できません。
一応は従ってエミリーに最後の電話をしますが、ふと気持ちは変わります。そして追手をぶちのめし、明確に反抗することにしました。
その実力はまだ老いてはいない…。
シーズン1:くたばらない、オールドマン
ドラマ『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』は冒頭からとにかく非説明的な開幕で、人間模様も謎が多いのですが、とりあえず第1話は「この老人、やりおる!」というインパクトを与える快感があります。
このキレのいい演出力はさすが“ジョン・ワッツ”監督ですね。ほんのちょっぴり悪趣味さもプラスして味付けしている感じといい、バランスがすごく良いし、スリルも堪能できる。シーズン1全話通してもやはりこの第1話が一番完成度高いと思います。
最初は主人公のダン・チェイスがまさかのだらしのない放尿でもしているのかとびっくりするようなシーンに始まり、夢から覚めておぼつかない身動きで日常を送る。観客としては「大丈夫か、このジジイ…」という印象です。こういう老化や認知に苦労を抱える高齢者の物語なのかなと普通に受け取ってしまいます。
ところが夜中の家に侵入者ありとなった瞬間、あの凄まじい反射神経と躊躇のない殺害、そして理性的な現場証拠操作。明らかに百戦錬磨…手慣れていやがる…という佇まい。
『トゥルー・グリット』みたいなイカれた暴力性とも違う、洗練されたプロフェッショナルとしてのスキルを見せる老“ジェフ・ブリッジス”がひたすらにカッコいいです。
追手も見事に圧倒し(あの控えめな映像の撮り方も良い)、最後はお約束のように犬でトドメ。そして娘に電話をかけるという皮肉なオチ。
物語の全容は全く見えないけれど、このジジイ、なんか絶対にとんでもないことをやらかしてくれるぞ…そんなワクワクが膨らみます。
実際、以降もこのダンは冷静だけどどこか倫理観の外れている行動を淡々ととることが多く、単純な正義のヒーローとも違う、どこまでが真意でどこまでが老化ゆえの“やりすぎ”なのかも曖昧な勢いで突っ走るので、非常に視聴者にしてみれば落ち着かせてくれない主人公です。
第2話でもゾーイとの食事の帰りに警官に呼び止められ、ゾーイもろとも射殺する…という一瞬の考えが脳裏をよぎるのを、これまたいやらしく映像化してみせる“ジョン・ワッツ”流の意地悪があるのですが、あそこもこのジジイならやりかねないと後々でも思いますからね。
シーズン1:政府を敵に回しても達成したい目的
そんな老人の危なっかしい逃避行が始まる『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』ですが、邦題には「葛藤」と表現されていますけど、実際の中身は葛藤どころの話じゃない、なかなかに修羅場です。そんな滅茶苦茶なことしてたの!?と真相が明かされたときは驚きましたが…。
人間関係が謎だらけで、「みんな怪しいぞ!」となる登場人物たちばかりなのですが…。
まずFBIのハロルド・ハーパー。彼はダンとはソ連のアフガニスタン侵攻時のミッションからの知り合いで、ダンの過去に“やってしまったこと”を知っている旧友。それは若いダン(当時はジョン)とハムザに起きた出来事。しかし、実は一部しか知らないことが判明し、ハロルドも激怒します。
そしてCIAのレイモンド・ウォルターズ。彼は何かと探りをいれてきますが、CIA工作員ながら実はハムザから命令を受けており、ハムザが相当な権力を持っているのがわかります。つまり、今回のCIAはほぼ無能です(まあ、たいていの作品で無能に描かれがちだけど)。
さらに今回の物語の最重要人物、序盤から電話している娘のエミリー。当初、妙に冷静な声で話すエミリーは実在感がなく、エミリーは2003年に自殺と発覚したとアンジェラ・アダムス分析官は説明するのですが、その正体はまさかのアダムスと判明。息子と同じくらいにアダムスを大切にしていたハロルドはショックを受けますが、追い打ちでもっと衝撃の事実が…。アダムスは実はハムザの娘だった…。
つまり、ダンはアフガニスタンでの任務中に価値ある鉱床を見つけてしまった実はロシアの二重スパイであるベロア・ダードファー(ハムザの妻)と意気投合。2人で逃避行することにし、あろうことかハムザとベロアの幼い娘も連れていってしまったのでした。2人はアメリカの地で名前を変えながら生きていく覚悟を決め(ダイナーの回想シーンで描かれるとおり)、ベロアはマーシャ・ディクソンやアビー・チェイスといった偽名を用いていました。しかし、年月が経過し、老いてしまったベロア(アビー)は認知症に苦しみつつこの世を去り、ダンもそろそろ人生を引退かと思った矢先、あのハムザが娘を取り返しに来るという…。
今さら最終章に突入かよ!という感じの話ですね。シーズン1のラストは第1話のダンの起床と呼応するように老体ハムザの起床が対比的に描かれ、これがジジイたちの修羅場であることを大々的に暴露します。
まあ、全体的にこのジジイたちに付き合わされるそれ以下の年齢の人たちがちょっと可哀想ですし、女性や有色人種がやや物語上の駒に使われているのは気になるのですが、ダンとハロルドの老人版『サンダーボルト』みたいなロードムービーを見せられると、その行く末は気になってきます。これこそ本当の老害ってやつなのかもしれないけどね…。
これぞ運命共同体。この復讐劇はシーズン2でどんな衝撃を見せるのかな。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 95% Audience 78%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Disney ザオールドマン
以上、『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』の感想でした。
The Old Man (2022) [Japanese Review] 『ザ・オールド・マン 元CIAの葛藤』考察・評価レビュー