セラとチーム・スペード
映画『セラとチーム・スペード』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Selah and the Spades
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にAmazonビデオで配信
監督:タヤリシャ・ポー

セラとチーム・スペード

あらすじ

名門の寄宿学校を牛耳っているのは5つの学生組織。そのうちのひとつ「スペーズ」を取り仕切るセラは生徒たちが欲する快楽を提供する役目を担い、日々活動してきたが、自分の後継者が見つからないでいた。そんなとき、あるひとりの下級生に目を付ける。しかし、セラの心に芽生えた感情が原因で人間関係はこじれ始め、愛憎が一線を越えてしまうことに…。

『セラとチーム・スペード』感想(ネタバレなし)

「♠」マークを掲げる“鋭い”青春学園劇

ポーカー、ブラックジャック、ババ抜き、七並べ、神経衰弱…いろいろな遊びができる定番のアイテムである「トランプ」。自宅巣ごもりで世界を守る人たちの中には欠かせないパーティグッズになっていることもあるでしょう。

そんなトランプのスート(マークのことです)はご存知のとおり、ダイヤ、ハート、クラブ、スペードの4種類。このうち一般的には「スペード」最も強いとされています(ゲームのルールで多少違ってきますが)。なぜなのでしょうか。

スペードは本来はを示すカタチだったらしく、それがいつの間にか今の私たちがよく目にする木の葉っぽいデザインになったのだとか。だいぶランクダウンした感じがする…。つまり、当初は(というか今もですけど)意味しているものは剣なので、連鎖的にそれは「騎士」「貴族」「軍人」を意味するもので、だから強いんですね。トランプのマークは4種類あって、それぞれが社会階級を当てはめているので、スペードが強いのはそういう流れなのです。

そのスペードがタイトルに含まれている本作『セラとチーム・スペード』という映画は、このスペードが持つ意味というものを頭に入れておくと、物語の理解の助けになる…かもしれません。

本作は日本では劇場未公開で、Amazonオリジナル作品として配信スルーで観られる映画なので、知っている人はあまりいないと思います。相変わらず目立って宣伝しないAmazonオリジナルですね…(もう少しやる気を見せていただけないものか…)。

でも『セラとチーム・スペード』の監督である“タヤリシャ・ポー”という人は、覚えておくと良い、注目の新鋭監督なのです。本作が長編監督デビュー作となる“タヤリシャ・ポー”は短編制作時から関心を集め、業界が注視するニューフェイスな映画人のひとりとしてピックアップされていました。Variety誌の「2019年注目すべき監督10人」に選出されていますし、まだまだ駆け出しではあるものの、その才能への期待はじゅうぶんすぎるほど。

実際にこのデビューを飾った『セラとチーム・スペード』は、大手の映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」で90%の批評家スコアを記録。その実力を証明しています。サンダンス国際映画祭で本作が上映され、Amazonが唾を付けて即買いしたのも納得です。

しかし、映画の中身はかなり意表を突くというか、変わっているというか、独特のタッチのある作品で、だからこそのオリジナリティが高評価を受けたのかもしれませんが、ちょっと一般の観客層には届きづらいこともあるのかなと思います。

物語はアメリカのとある寄宿学校を舞台にした青春学園ドラマ。これだけ聞くと「普通じゃないの?」と思うのですが、そこから編み出されていくストーリーは何とも言えないセンスを放っています。私の語彙力が低いので上手く表現できませんが、校内の派閥争い的な大きいスケールの中に隠れる、いち生徒のインモラルな心の揺らぎを描いていくような、そんな非行的成長劇の様相。少なくともノーマルな「the 青春!」というルックを持つ映画ではないのは確かです。『ミーン・ガールズ』をもっと心理面のどす黒い部分まで深掘りした感じでしょうか。やっぱり上手に語れないな…。大丈夫か、こんな私の感想で…。

約97分と短めの映画時間ですが、とりあえず最初は何が主軸なんだとわからない気持ちに観ていて鳴ると思いますが、最後まで見ると「あ、そういうことね」と主人公の本心と葛藤に気づける(それに同調できるかどうかはまた別ですが)。そういう作品なので、関心を持ったらとにかくエンディングまで視聴してみてください。

俳優陣は、“ラビー・シモーン”、“セレステ・オコナー”、“ジャハール・ジェローム”、“アナ・モーボイ=テン”など若者ばかり。このうち“ジャハール・ジェローム”は大絶賛を受けたドラマ『ボクらを見る目』で名演を披露していたので観た人の印象に残っているでしょう。


家で有名な大作を観るのは飽きた、少し変わった映画を観てみたいというシネフィル欲求が沸き起こっているなら、ぜひ『セラとチーム・スペード』も候補に入れてみてください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(隠れた作品に出会いたいなら)
友人◯(マイナー作品を求め合うなら)
恋人◯(映画マニア向けな一作ですが)
キッズ△(幼い子ども向けではないのは確か)

『セラとチーム・スペード』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『セラとチーム・スペード』感想(ネタバレあり)

5つの組織が支配する世界へ

ペンシルベニア州にあるエリートな子どもたちが通う寄宿学校のホールドウェル校。寄宿学校と言っても完全にそうではなく、寮生と通学生が混在しているようです。かなり閉鎖的で、オープンなスクールライフがあるタイプではなく、規則も厳しいところ。

そんなホールドウェル校には生徒が運営する地下組織が5つありました。各々が違反行為に対する生徒会のニーズを満たす実用的な役割を担っていて、この学校をコントロールしています。この組織の最も重要な起きては「密告の禁止」であり、掟を破れば組織による制裁が待っているのです。つまり、この学校は、教師陣の大人によるルールの他に、生徒たち側の力を持った組織が強いるルールもあり、所属する生徒たちは挟まれるように生活しているのでした。

その5つの組織。ひとつはタリット率いる「シー」。これは教師のお気に入りたちであり、適正価格でカンニングを手助けしてくれるというチートを提供しています。2つ目はアンバー率いる「スキンズ」で、賭博の元締めをしており、秋のアメフト、冬のバスケ、春のソフトボールが対象で、校内のカネが動きます。3つ目はボビー率いる「ボビーズ」。こちらは消灯後に寮の地下で開かれる闇パーティを仕切っており、生徒たちの大事な息抜きの場です。4つ目は「プリフェクツ」と呼ばれ、地下組織の存在を経営陣から巧みに隠すことに尽力し、今のトップはトーマス・R・トーマス(略して2トム)です。

そして最も有名な組織が「スペーズ」。お酒、錠剤、粉末(要するにドラッグ)など快楽を提供するこの存在は、あらゆる生徒たちにとって欠かせないもので、依存する人は少なくありません。そのスペーズのリーダーこそがセラ・サマーズという女子で、右腕にマクシーという男子を従えています。

そのセラは卒業を控えていましたが、まだ自分の後継者を見つけられずにいました

野外で各組織のトップが机を囲んで議論をしています。
 
「無害だ」「プロムが中止になる」「校長は名を上げたいから権力を振りかざしているんだ」「風船にしない?」「水にしよう」

最上級生いたずらに使うものは何がいいかという議題に舌戦が白熱する一同。そのうちの一人であるボビーは「ティーラなら…」とボソリと呟きます。このボビーはとくにセラに敵対心を露わにし、決裂しつつも、議論は終了しました。

セラは母から電話を受け、微積分のテストが93点だったことを責められます。しかも、レッドウッド大学の進学を推薦され、勝手に自分の人生が決められることに内心では不満を抱くも、表では反発できません。

チアリーダーとしても活動するセラ。そんなセラたちの写真をパシャパシャと撮っている生徒がいました。彼女はパロマといって、転校生でセラよりは下級生です。

そんなパロマを気に掛けるセラ。部屋に呼んで仲良くするだけでなく、パロマには全てを教えたいと思うとマクシーに熱意を話すほどでした。

パロマはセラが仕切るスペーズの仕事に参加していきます。部屋にある謎の宝箱の中にはクスリがぎっしり。在庫や金銭管理をしているのはマクシーらしく、クスリは外の街で危険覚悟で入手しているようです。

ある日、タリットから「君の寮には裏切り者がいる」と情報提供を受けるセラ。どうやらマクシーを疑っているらしく、最初はそんなはずがないと考えます。ところがマクシーの挙動はおかしく、遅刻も多くなり、注意散漫になっていき、セラは不信感を強めます。

スペーズの仕事の要である台帳をずさんに扱った件で、セラのマクシーへの信頼は崩壊。ついに「あんたはクビ」とスペーズから抜けるように宣告するのでした。

しかし、亀裂はそれだけに終わりません。フレンドリーな関係を築いていたパロマとの間にも、歪んだ感情が介入するようになり…。

セラは組織の象徴たる剣を振り下ろすのです。

セラとチーム・スペード

魔女として君臨するセラ

『セラとチーム・スペード』は冒頭で「これはセラ・サマーズの物語」「彼女が自分の遺産を継承する物語」と語られるように、完全にセラ個人のストーリーです。

本作はかなり考察できる物語にもなっており、観た人でそれぞれの受け取り方があると思います。以下はあくまで私の感想に過ぎないことを一応は明記しておきます。

本作を観ていくと、セラの学校内での立ち位置というのが非常に大事だと考えます。

それが映画始まりのL・フランク・ボーム著の「オズのオズマ姫」の引用でも示されていることでした。こんな文章の抜粋です。
9頭の牛飼いと結婚したジンジャーは今は自由で穏やかな生活だと言う。「夫は?」とオズマ姫に聞かれると「家の中で顔のアザを冷やしてる」と答えた。「私に反抗して赤牛の乳を搾ると言い張るからさ」「これで思い知ったはず」
「オズのオズマ姫」というのは有名な「オズの魔法使い」シリーズの3作目(実はすごい数のシリーズ作がある)。基本的にドロシーが主人公のシリーズですが、この作品は歴史的にも解釈がいろいろされてきました。例えば、無垢な少女がやってきてそれまでの社会構造をひっくり返してしまうという物語とも受け取れます。引用されている「オズのオズマ姫」のジンジャーのエピソードも、夫を尻に敷き、完全な脱“家父長制”を実行している様子です。

『セラとチーム・スペード』のセラもこのホールドウェル校を支配する、いわば魔女です。快楽を与える品を提供しているのがいかにも魔女っぽいですね。そして、他の女子生徒はもちろん、男子でさえもこのセラには一目を置き、逆らえません。それは同じスペーズで仕事するマクシーも同じ。

そんなとき、マクシーがナリという女子との関係に夢中なようで仕事が雑になってしまいます。それに怒ったセラは単純にクビにするだけでない、かなり一線を越えた制裁を与えます。彼をあえてひとりで危険な街に向かわせてクスリの調達に行かせるという罰。その後、マクシーはボロボロに怪我をして帰ってきますが、それさえも計算ずく。ここまで来るとセラの支配は暴君そのものです。彼女はチアリーダーもやっていますし、クイーンとして君臨しているんですね。

一方で、そのセラという魔女さえも支配するさらなる魔女が彼女の母親です。自分たちの体は自分たちで決める…そう言葉で訴えても意味はなし。母が送ってきた大学のシャツをハサミでズタズタにするくらいしかできない。セラの鬱屈は溜まっていくだけでした。

ドロシーのように変化をもたらすパロマ

そんなセラの前に純真無垢に現れたパロマ。彼女はまさに「オズの魔法使い」でいうところのドロシー

セラはパロマを明らかに後継者にしようと教育していきます。それはもしかしたら友情の枠を超えた愛の感情もあったかもしれません。セラはパロマを部屋に迎えたとき、マクシーとの関係を聞かれ、「私はデートとかセックスとかイチャついたりはしない」とやけに明言し、「私は運命の人を待てない。興味も持てない」と既存の人間関係を拒絶する素振りを見せます。このセリフの端々からセラのマイノリティな劣等感を匂わせますし、何より「オズの魔法使い」(ゲイの支持もアツいドロシー)との関連も含めるとなると…。

そのパロマが、校長のプロムのキャンセル発表によって急遽行われた緊急会議で、紛糾する各組織のリーダーたちを一喝。「何様なの」と自分たちでプロムをやればいいと提案し、完全に各組織の頂点に立ったかのように指示をだしていき、確実な能力を披露してみせます。このあたりもまさしくドロシーですね。

ところがそれを快く思わないセラ。実は彼女にはある過去が。以前にティーラという女子がボビーズからスペーズに引き抜かれたのですが、その子はクスリでハイになって車の事故を起こし、ドラッグ所持と器物破損で退学になったという話。どうやらそのティーラと深い関係にあったらしいセラですが、そのセラのせいでティーラはああなったと推測するボビー。二人の仲の悪さの根本にはこの確執があったのでした。

そして終盤、セラがパロマに対してやってしまったある行為が映し出され、セラの本性が露出してしまいます。それは同時にティーラに関する疑惑を裏付けるような、悲しい実態です。嫉妬に狂っただけなのか、あらゆるストレスの捌け口がたまたまパロマに向かったのか、それはわかりません。でもセラはやってしまった、またしても。

最後に自分が犯したことの深刻さに気づき、目が覚めたようにサラがハッキリした目つきになり、マクシーとパロマと一緒に3人が並んで歩くシーンで終わります。

3枚揃ったスペードがどんな効果をもたらすのかはわかりませんが、あの学校のトランプゲームの局面を大きく変えることもあるかもしれません。願わくばプラスの方向に進展するといいのですが…。

ユニークすぎる世界観を創出し、ストーリーテリングも作家性全開な“タヤリシャ・ポー”監督。卓越したティーンの心の切り出し方が光る一作でした。

『セラとチーム・スペード』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 67%
IMDb
4.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios セラとチームスペード セラ・アンド・ザ・スペーズ

以上、『セラとチーム・スペード』の感想でした。