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『スローターハウス・ルールズ』感想(ネタバレ)…英国田舎にはいつも怪物がいる

スローターハウス・ルールズ

英国田舎にはいつも怪物がいる…映画『スローターハウス・ルールズ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Slaughterhouse Rulez
製作国:イギリス(2018年)
日本では劇場未公開:2020年にネットで配信
監督:クリスピアン・ミルズ

スローターハウス・ルールズ

すろーたーはうするーるず
スローターハウス・ルールズ

『スローターハウス・ルールズ』あらすじ

エリートたちが集まる全寮制の学校に転校してきた男子学生。そこでは真面目なスクールライフが待っているはず…だと思っていたが何やら様子がおかしい。この学校には秘密があるようだが、その謎を解く鍵は地下にあった。ある日、敷地近くの穴から現れた恐ろしい生物と生き残りをかけた壮絶なバトルを繰り広げていくとは思いもよらず…。

『スローターハウス・ルールズ』感想(ネタバレなし)

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あのコンビが映画会社を作ったよ

「Stolen Picture」と書くと「え? 映画でも盗まれたの?」と思うのも無理はないのですが、これは映画会社の名前です。紛らわしいネーミングだ…。

この珍妙な名称の映画会社を2016年に設立したのが、誰であろうあの“サイモン・ペッグ”“ニック・フロスト”のコンビです。

映画ファンならこの二人を知っている人も多数いるはず。なにせ映画オタク心をくすぐる愉快な作品にいっぱい関わっていますからね。

2004年の『ショーン・オブ・ザ・デッド』からその熱狂は始まり、2007年の『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』、2011年の『宇宙人ポール』、2013年の『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』など、次々とマニアな作品に出演。オタクの味方になってくれるイギリス俳優の代表みたいな存在でしょうか。

日本では初期の作品は劇場未公開だったりしたのですけど、映画ファンのアツい支持のおかげで一気に持ち上がった感じですね。ほんと、愛されてます。

そんな“サイモン・ペッグ”と“ニック・フロスト”ですが、二人は親友同士で、その付き合いもとても泣かせるものがあります。“サイモン・ペッグ”は大学で演劇を学び、コメディアンとしてある程度順調にキャリアをスタートさせました。対する“ニック・フロスト”は姉の死、家族の仕事の失敗など家庭の不幸が相次ぐ10代を過ごし、レストランでウェイターをしていました。そんなときにたまたまフラットメイト(ルームメイト)になったのが“サイモン・ペッグ”だったそうです。そして“サイモン・ペッグ”は親友“ニック・フロスト”のためにコメディの役を与え、二人三脚が始まります。

だからこの二人は私たちが考えている以上に深い関係なのです。なんか映画に出てくるブロマンスみたい…。ちなみ“サイモン・ペッグ”のWikipediaのページに「ニック・フロストとは親友。2005年7月23日、イギリスのグラスゴーで結婚。」って書いてあってまるで文脈の流れ的に二人が結婚したみたいですけど、してないですからね(念のため)。

その一蓮托生な二人が作った映画会社が最初に手がけた記念すべき第1作が本作『スローターハウス・ルールズ』です。

最近は二人の共演映画がないな…と思っていたかもしれませんが、ちゃっかり映画も作っているし、映画会社も作ってました。

お話は、イギリスのド定番ないつもの学校を舞台に、最初は学園コメディなのかなと思いきや、しだいにモンスターパニックへと変貌していくという、相変わらず自由奔放なクリエイティブ。バイオレンスも下品なネタも何でもあり。ノリはこれまでのフィルモグラフィーと全く同じです。

監督は“クリスピアン・ミルズ”という人で、「クーラ・シェイカー」というイギリスロックバンドのフロントマンです。この人、父親が『太陽に向って走れ』の監督である“ロイ・ボールティング”、母親は子役スターで一世を風靡した“ヘイリー・ミルズ”、祖父は英国演劇界の大物“ジョン・ミルズ”という、凄い家系なのですが、自分も監督業をしています。2012年に『変態小説家』という“サイモン・ペッグ”主演のこれまたヘンテコな映画を手がけました。要するに“サイモン・ペッグ”と仲が良いってことです。

出演陣は“サイモン・ペッグ”と“ニック・フロスト”が脇役で登場しつつ、メインは学園モノですので子どもたちです。主役のひとりはドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』や『アニマル・キングダム』の“フィン・コール”。またドラマ『セックス・エデュケーション』で魅力的な好演を見せていた“エイサ・バターフィールド”も隣に立ち、ヒロインには“ハーマイオニー・コーフィールド”が並びます。彼女は『ミッションインポッシブル ローグ・ネイション』でのレコードショップのあの女性と言えばわかるでしょうか…印象的でしたよね。他にも“イザベラ・ローランド”など。

大人勢だと『クィーン』や『フロスト×ニクソン』の“マイケル・シーン”などベテランもおりつつ、ゲスト出演的にハーレイクインでおなじみの“マーゴット・ロビー”が顔出ししています。

気楽に観るのにちょうどいい一作ではないでしょうか。

日本では2020年4月1日にNetflixで配信され始めたのですが、Netflixオリジナル作品ではないので、どこかのタイミングで配信終了になる可能性は高いと思います。ということで観れるうちに早めの視聴を強くオススメします。レアな作品ですからね。デジタル・レンタルなども考えにくいので、忘れないように。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優ファンは要チェック)
友人 ◯(気軽な暇つぶしにどうぞ)
恋人 ◯(気軽な暇つぶしにどうぞ)
キッズ ◯(案外と下ネタ多めですが…)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スローターハウス・ルールズ』感想(ネタバレあり)

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若人よ、苦労を乗り越えて“淫行”を掴め

スローターハウス学園の宣伝映像をノートパソコンで見るひとりの男子。彼はドン・ウォレスという名前で、母親の薦めでこの学校への転学を考えていました。名門中の名門だと自信たっぷりにアピールするそのプロモーションビデオ。映っているのはいかにも名門らしいお上品な学校生活。でもなんで「スローターハウス(slaughterhouse=畜殺場)」なのか、さすがに変な名前だ…と若干の訝しげ。そもそもこういう堅物な学校はガラではない…。

しかし、母いわくひとり生徒に空きが出て、それは滅多にないことだと太鼓判を押してくれます。「今のあなたは家でダラダラしているだけ」と言われ、しょうがないので「わかった」と渋々了解。「パパも喜ぶわ」と母は満足そうでした。
さっそく学校へ登校。ただその風景はあの動画で見たものとは少し違います。なんというか、フリーダムというか…。

気を取り直してメレディス・ハウスマン先生にルームメイトを紹介されることに。部屋にいたのはウィロビー(ウィル)・ブレイクという同世代の少年。そんなとき、ドアに「シーモア子爵」と書いてあるのを発見しますが「その子はもういません」と言われ、ハウスマンは「シーモアの痕跡は消せって言っただろ」と小声でコソコソ。「前のルームメイトさ。わかるさ、すぐにね」とウィルも意味ありげに答えます。
集会で生徒がホールに集められる中、ドンはひとりの女子に見惚れ、話しかけてみます。すると「ここは女子寮よ」と、ここが「アンドロメダ」という寮だと教えられます。他にも「ゼネフォン」(インテリの寮)、「オリンポス」(スポーツ系の筋肉バカ)、「スパルタ」(あそこは…ノーコメント)と説明を受け、自分がスパルタ寮であることに気になりはするドン。

しかし、マシュー・クレッグという偉そうな男子がいきなり来て「最上級生じゃないから話しかけるな」と威圧。どうやらマシューもあの女子も最上級生らしいです。

そこへキャスパーというウィルいわく「絶対君主」な生徒長が前に立ち、満を持してものものしく入ってきたのは昨年着任したばかりの学園長、通称「The Bat」です。

けれどもさらに誰かが来ます。それは明らかに学校とは関係ない乱入者で、「水圧破砕だ!」と言いながら入ってきた男たちが「汚染物質が広まっている」「採掘業者を入れたのはアイツだ」と学園長を名指し。なにかの活動家なのか。結局、追い出されます。

学園長は「学園地下でシェールガスが発見された」とこの利益で学校の経営は盤石になると自慢。

一方、ハウスマンは学校近くの森でランニング中に謎の破砕タワーを見かけ、その想像以上の物々しさに驚きます。

破砕タワーのモニタールームでは地下に穴があり、ガスの発生源を発見したと作業チームが喜んでいました。すると「ランバートさん、地下に何かいます、動いています」とひとりが何かを発見、でも「バトラー、モグラか何かだ」ともうひとりは相手にしていません。イギリスのモグラ、元気だなぁ…。

授業が始まり、ドンはあの一目惚れした女子クレムジー・ローレンスに夢中。でもウィルは高嶺の花なのでやめておけと一言。確かになんかスマジャーとかいうカレシがいるっぽい。

そんな二人はある日、懲罰で監督生にランニングさせられたのち、近道で森を抜けていると謎の髭男に遭遇しました。キャンプ集団はLSDやマッシュルームをやたら勧めてきますが、どうやらあの破砕施設に反対する運動のリーダーで、ウディ・チャップマンというようです。「あれは母なる自然を犯した」「テラフラック社のCEOと学園長は友人だ」とまくしたてるウディ。そして「あれはポータルだ、地獄につながっている」と怪しい言葉を口にするのでした。

そしてついに穴の中にいる何かの正体が判明することに…。

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イギリスの地方はこんなところです

『スローターハウス・ルールズ』の舞台はイギリスの名門校という設定。なんでも“クリスピアン・ミルズ”監督の母校で撮影したらしく、おそらく自分の学校体験をそのまま投影するようにしていたんじゃないかなと推察しますがどうなのでしょうか。

ともかく本作のスローターハウス学校はハチャメチャです。まあ、あの“サイモン・ペッグ”と“ニック・フロスト”が作る映画ですからね。クレイジーなのは想定内。

ただそれにしたって皮肉が効きまくり。利権にしか目が行っていない癒着どっぷりな学園長、なんとなく世相を反映して場当たり的に作られたであろう女子寮、体育会系マッチョイズム男子とオタク系アホ男子の不毛な争い、格調高い雰囲気を出すも要はただの乱交変態パーティ…。酷いありさまです。

こういう由緒正しき寮システムなイギリス学校(寄宿学校)は、日本人にも「ハリーポッター」のおかげで認知されていますが、実際の残念な姿もここまで誇張ありきとはいえハッキリ伝えられるのも当事者ならでは(まあ、ハリーポッターも生々しいリアルが描かれていたけど)。

日本でも学校を風刺した作品はありますし、アメリカも同じですが、やっぱり学校という空間はネタにしやすいですよね。

そしてイギリスの地方はろくでもない化物がいっつも潜んでいるものなんですかね。なぜかやってくる非日常な存在たち。

なお『スローターハウス・ルールズ』の撮影舞台は『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』と同じらしく、あちらもあれでしたから、毎回こんな感じです。なんかイギリスでミステリーサークルが流行った理由がわかる気がする。土着的にそういう日常に潜む摩訶不思議にハマりやすい国民性なのかもしれない。妖精とかもあるし、キリスト教ではない地域信仰がなんだかんだで根強いのかな。

日本もこういう地域信仰的な概念をホラーにするのは妖怪という文化があるのですけど、そこまで映画のネタとしてエンタメ化はしていないですよね。水木しげるから誕生して、今はかろうじて「妖怪ウォッチ」があるけど、あれは完全に子ども向けコンテンツだしなぁ…。妖怪の宝庫である日本列島だし、ネタの素材は腐るほどあるのだから、映画もいっぱい作れそうなのに…。

“サイモン・ペッグ”って、「スターウォーズ」とか「スタートレック」とか「ドクター・フー」とかそういうオタクコンテンツが大好きな人ですけど、自分なりに地元イギリスの素材を使ってコンテンツを作れないかあれこれ考えているのでしょうね。

まさに根っからのオタク思考ですよ、ほんと。

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まだまだネタは尽きない

『スローターハウス・ルールズ』はグロテスク方面でも遠慮がなく、登場人物たち(主に大人)がやけにあっけなく切断されていきます。

学園長はすっ飛んで首がもげ、クレッグは腕が引きちぎられ、ハウスマンも退場し、ウディは真っ二つで下半身とおさらば。全部がグログロのけちょんけちょんになっていく終盤は、まさにこの学校の名にふさわしい畜殺場状態。

対する生徒たち主人公側の阿鼻叫喚しつつも対抗していく感じも良い意味で気が抜けていて良かったです。ドンとウィルがクレムジーとケイを連れて破砕タワーの穴を見に行った際の、なんか変な小さい生き物に襲われたクレムジーが、パニックになりつつもなりふり構わず自分の上の服を脱ぎ、生き物を包んでぶったたき殺すシーンとか。これぞこの製作陣の暴力センス。そう、銃とか要らないんです、たたき殺すので。

それでも後半の展開の飛躍の少なさと捻りの乏しさはやや退屈なところ。

個人的にはもっと悪趣味にしてほしかったですし、なによりも怪物をたっぷり描いてほしかったなと思います。せっかくレーダーであんなにたくさん映っていたのに、大群での乱闘にまでは発展しませんでしたからね。モンスターに描写もなるべく生態的にリアルにしてくれると良かったのですが、そのあたりも不満なポイントです。

予算が少ない中でこの規模が現実的な妥協点だったのかな。

理想は怪物の群れが迫るフィナーレにて、学校の生徒たち全員で知恵を振り絞って一丸で戦うという乱戦パートですが、『クエスト・オブ・キング 魔法使いと4人の騎士』のようにはいかなかったか。あの前半の学校パートは前振りにならなかったのは残念。

私としては『アポストル 復讐の掟』くらいの歪みきった地域信仰スリラーの世界も見たかったですけど、やっぱりコメディとのバランス的に無理か。

なお、イギリスではシェールガス開発が一時期は注目されたものの、地震やCO2排出量の問題から批判もあり(実際に掘削作業が原因で小規模な地震が起きたらしい)、慎重姿勢になりつつも注視していた過去がありました。イギリスの地方もこういう何かしらの開発事業とは切っても切り離せない関係。これからも何かの開発が持ち上がっては消え…を繰り返すことでしょう。

そのたびに“サイモン・ペッグ”と“ニック・フロスト”がそれを題材に映画を作る

これぞイギリス流の映画生産方式なのです。

これからも楽しませてくれるでしょう。

『スローターハウス・ルールズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 39% Audience 57%
IMDb
5.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)Stolen Picture, Sony Pictures International スローターハウスルールズ

以上、『スローターハウス・ルールズ』の感想でした。

Slaughterhouse Rulez (2018) [Japanese Review] 『スローターハウス・ルールズ』考察・評価レビュー