洗骨
映画『洗骨』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:Senkotsu(Born Bone Born)
製作国:日本(2018年)
日本公開日:2019年2月9日
監督:照屋年之

洗骨

あらすじ

新城家の長男と長女が故郷の粟国島に帰ってきた。その目的は大切な儀式のためだった。母がいなくなった実家にひとりで暮らす父の信綱の生活は荒れ果てていた。さらに長女の変化に家族一同驚きを隠せない。そして実は長男も問題を抱えていた。久しぶりに顔を合わせ、一見バラバラになったかにも思えた新城家の人々をよそに、儀式の日は迫っていた。

『洗骨』感想(ネタバレなし)

照屋年之という監督の名を覚えよう

世界にはいろいろな風習があるものです。衣食住はもちろんのこと広範にわたる物事に、その国や地域特有の文化に根差した風習があって、それを学んでみるだけでも刺激的で興味深い知識が身につきます。自分の知っている風習が当たり前ではないことを自覚することは、相互異文化交流的であると同時に漠然としていた「多様性」というものへの具体的な理解にもつながりますし、本当に良い体験ですよね。

今は世界旅行をわざわざしなくても、インターネットという最強のアイテムによって家にいながら知識の探求ができるわけですから、世界の風習を知るのも容易いはずです。

でも世の中には今まさに消えかけている風習もあります。それが詳細に記録されることなく消滅してしまえば、ネットや図書館で調べることすらできません。そうなってしまってまるで存在しなかったのと同じです。

それを食い止めるためにも何かのかたちで残したい。そんなとき、やはり映画という媒体も大きな貢献ができるのでした。

今回紹介する映画もそういう消えかけている風習を映像に残してくれる作品でしょう。それが本作『洗骨』です。

タイトルからどことなく察知できると思いますが、本作はとある地域にかろうじて残る葬送の文化を題材にしています。亡くなった人をどう弔うかということは、その地域文化の死生観が強く反映されるここともあって特色が強く出ます。日本は一般的に「火葬」の国とされ、欧米の「土葬」の国々との大きな違いとして取り上げられることもあります。もちろんそれ以外の方法も世界中にあって、水葬、鳥葬、樹木葬、冷凍葬なんてものまで…。

でも実は日本は火葬一択な国ではありません。地域によっては非常に変わった葬送の文化が伝わっている場所もあるのです。

本作『洗骨』は琉球諸島の一部の離島には細々と受け継がれる「洗骨」という風習が題材になっています。詳細は実際に映画を観てほしいのですけど、これは「風葬」であり、要するに自然な腐敗に任せて遺体が骨になるのを待ち、しばらく後に遺族らによってその骨が洗われて、この世と別れを告げる…というかなり衝撃的な方法です。

まずこんな葬送の文化が日本にあったのか!ということに驚きます。文化遺産になっていてもおかしくないのに話題にすらもならないのは、やっぱり死者を弔う儀式としての遠慮があるからなのか…。

その貴重な文化を知れるというだけでもこの『洗骨』は観る価値があります。似たような作品に河瀬直美監督の『2つ目の窓』(こちらは奄美大島の死生観や文化が題材)がありましたが、私は日本人だけどろくに日本のことを知らないなと痛感するばかり…。

そんな『洗骨』という未知な領域に創作で挑んだ監督が“照屋年之”です。誰?って言われそうですが、芸人の「ガレッジセールのゴリ」と言えばわかる人は多いはず。私も全然知らなかったのですが、実は彼は2006年あたりから短編を監督したりしており、2009年に『南の島のフリムン』で長編監督デビューしていたんですね。『洗骨』は2016年の『born、bone、墓音。』という短編をベースにしているそうです。

2017年の『沖縄を変えた男』で俳優として名演を見せていたのは知っていたのですが(ちょうど私は沖縄に旅行していてそこで観ました。現地のテレビとか見ているかぎりだと地元ではかなり創作活動面でも有名みたいですね)、ここに来て監督としてこんなにも素晴らしい一作を生み出すとは…。

芸人の人が映画監督になるのは日本では珍しくないですが、“照屋年之”監督の場合、完全に地元愛を土台にした作風であり、唯一無二の個性を放っています。沖縄県那覇市出身である“照屋年之”監督自身もこの「洗骨」という文化を知らなかったそうなのですが、それでもそれを取り上げようと思うあたりが紛れもなく“愛”ではないですか。

俳優陣は、『64 ロクヨン』の“奥田瑛二”が何とも言えない人間の弱さを見せる演技で魅了してきますし、『聖の青春』の“筒井道隆”の別の面での弱さが垣間見える名演も味わい深いところ。河瀬直美監督の『光』でも称賛の演技を見せた“水崎綾女”は今回も素晴らしいの一言。


『よこがお』で怪演を発揮した“筒井真理子”もちょっとだけ出ています(でも大事な役)。あの映画を観た後に本作を観てしまうとなんか引きずられますけどね…。

しかし、観客の印象は“大島蓉子”“鈴木Q太郎”に持っていかれるかもしれません。笑いの方向で…。

そう、この『洗骨』、まさかの笑える映画なのです。題材が題材なだけに滅茶苦茶重たいのかなと私も観る前は身構えたのですが、蓋を開ければどうですか、ほぼコメディです。でも死に向き合った作品としても両立している。このバランス感覚は“照屋年之”監督ならではですね。

すでに多くの映画ファンに愛され、2019年のベスト10に挙げている人も多かった一作。観ていない人は見逃してしまうのはもったいないですよ。

オススメ度のチェック
ひとり◎(大切な人の死に直面した時に)
友人◯(知らない人にオススメしよう)
恋人◎(絆を確認できる家族ドラマ)
キッズ◯(子どもでも笑えるユーモア)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『洗骨』感想(ネタバレあり)

洗骨は壊れた家族を洗い流す

「この度はご愁傷さまでした」

沖縄の離島、粟国島の粟国村に住む新城家。この家では今日、葬儀が行われました。亡くなったのは新城家の妻である新城美恵子。長男である新城剛と親戚の高安信子は最後の来客が帰るのを見届け(若干、追い出しましたが)、この後について語ります。長女の新城優子は母の遺体を見つめながら目に焼き付けています。そして、夫の新城信綱は頑なにそこにいるだけ。

普通であれば後は火葬をする工程に進むものです。亡骸に最後に会える瞬間、そして別れの瞬間をみんなで惜しむはず。しかし、火葬場に移動することはなく、家族以外の人は帰ってしまいました。

それはなぜか。実はここ粟国島では独自の風習があったのでした。

最愛の人を亡くすのは誰しもが悲しい。しかし、最愛の人にもう一度会うことができる。その風習が粟国島には残っている…。

脚を折りたたむように狭い木の棺に入れられた亡き母。彼女の棺の蓋が閉じられ、それは4年後にまた開かれることになるのです。

4年後。

この粟国島に新城家の面々が戻ってきました。新城家には家主の信綱がひとりで住んでいますが、今がまるで人がいないかのような暗い部屋で、酒を流し込む信綱の惨めな姿がありました。村の人からは酒は飲まなくなったと思われていますが、実は裏では飲酒をしています。

そこへ優子が帰ってきます。家の暗さにすかさず窓を開ける優子と、慌てて酒をしまう父。「掃除とかしてる?」と言いながら、布団が2枚ひかれているのに気づく優子でしたが、信綱はもっと凄いことに気づいてしまいました。優子のお腹が…大きい。

「優子、優子…優子、そのお腹どうした」「太った」「そんな太り方、見たことないよ」

埃をかぶった遺影をなでる優子。「相手は誰なの?」という父の言葉に後でみんなに説明すると言って、外にブラブラと出ていきました。

新城家では新城剛と高安信子も合流。「剛、なおこと子どもはなんで一緒に来ない?」と聞かれ、答えを濁す剛。

食事の準備ができて一同は座りますが、優子は来ません。しょうがないので食べ始めた矢先、優子が登場。その妊婦姿に一同が驚愕。

「ただいま。こういうことになりました」「1回しか言わないから、お店の店長とセックスした」

あまりにも唐突な態度に兄の剛はキツイ言葉を浴びせます。「みんなに迷惑かけないからじゃなくてもう迷惑かけてるんだよ」「遊びで作った子どもだろう」と口論に。「そんな姿で母に会いに来て恥ずかしいと思わないのか」「もう死んだからわからないよ」…優子は怒って出てしまい、高安信子に言われて父が後を追いますが、おどおどするばかり。「だからおかあは…」と優子は言いかけて…。

少し落ち着いた後、高安マキは「やっぱり納得いかないんだけど、男が悪くない妊娠ってないよ」と優子に語りますが、優子いわく「店長が優しくしてくれて、そしたら好きになるさ」と。

本人以外、いまいち納得はいかない中、新城家の今の空気に馴染まない男が出現します。例の店長、神山亮司です。「僕は本当に情けない男です、40になって逃げ続けていました」「優子ちゃんの笑顔を見ていきていきたいんです。お父さん、優子さんを僕にください」…いろいろな意味で歪が増したような増していないような新城家。

その夜、父は泥酔して倒れて血まみれに。その帰りに父と長男は向き合えない言い合いになります。

「お前が死ねば良かったんだよ!」という剛に、「本当に死んだのか!」と無様に泣き崩れる信綱。

洗骨の日が近づきます。

洗骨

マタニティ・ブルーです

『洗骨』は観た人ならわかりやすすぎるくらいにわかるのですが、全編にわたってユーモアが漂っています。というか、ワンシーンごとにギャグがあるようなものです。

この高頻度なギャグが体に合わない人は本作もとことん受け付けないと思いますし、それは単純に相性の問題ですが、ハマらない人の気持ちもわかります。このギャグがまたナチュラルにどこでもポンっと投げ入れられるのがクセであり、そういう意味では全く空気を読んでいないんですね。

そのギャグの中心にいるのが、“大島蓉子”演じる高安信子や“鈴木Q太郎”演じる神山亮司の二人。

私はおばちゃんが活き活きしている映画がたいてい大好きだし、地域や職場の価値を測る指標は「おばちゃんたちがどれだけ元気か」で決まると思っているくらいなのですが、そういう視点ではこの『洗骨』は最高の一本でした。

家主は信綱だと言いながら完全に最後まで取り仕切っているのはこの高安信子。ドスを利かせる態度もイチイチ面白く、店シーンでの「どこいく、急ぐほど大きな島じゃないだろ」に始まり、「お前たちも信綱の世話になった身だろ、工場がつぶれたら手のひら返してその態度か」「他人の不幸は蜜の味、蜜は甘くて美味しいけど周りを確認して食べないと一瞬で毒に変わるんだよ!ばかやろう」という謎の正論(?)に圧倒される。

終盤の見せ場である野外出産シーンでの、ぎっくり腰で地面に寝っ転がりながらの指揮。「本当の痛みなんてこんなもんじゃないよ」の説得力があるんだがないんだか…。

一方の部外者ポジションである神山亮司。優子の妊娠は当初は下手すればこれこそシリアスな問題なのかという空気を漂わすのですが、あの神山亮司が画面に登場した瞬間の…なんというか、「あ…」みたいな感じ。バカップルじゃないか!っていう…。思ったよりラブラブじゃないか!っていう…。

そんな神山亮司は部外者なので何もわかっておらず、それなのにウザ絡みしてくるという、面倒臭さ(実際にウザがられていましたけど)。「お母さんです」のギャグとか、ほんと「そういうのやめて」ですからね。

この高安信子と神山亮司が実質タッグを組んでしまう終盤の野外出産シーンはタガが外れて面白くなるのも当然。

他にも信綱も笑いを誘うシーンが多いですし(「優子ごめん、見ちゃうよ」「見た!」とか)、「セックスって何?」「バカヤローみたいな汚い言葉だよ」という子どもの、絶対にこれは後に「セックス」って言うなとわかっちゃうんだけど面白いお約束展開といい、シリアスを全てギャグで塗りつぶす勢いでした。

それが風習ってやつさ」

ではこの『洗骨』の過剰なギャグは自己満足な蛇足なのかと言えば、私はそうは思わなくて非常に欠かせない必須要素だとも思いました。

まずよく見ていると、一連のギャグが実はミスディレクション(観客の注意をそらすこと)の効果を与えているんですね。例えば、冒頭の刺身や果物を持って帰ろうとする男。クドイくらい続くのですが、ここは本来は違和感のあるシーンです。なぜなら本来ならこの後に火葬するなら来訪者を返すはずがないのですから。ギャグでその「あれ?」という部分をカモフラージュさせています。

また序盤の船でやってきた優子。船で「ああーーーーーー!」と絶叫するシーンがあり、察して立ち去る甲板の人たちがこそこそ映るというギャグです。あれも笑いばかり目立ちますが、結果それで優子が妊娠しているという事実を観客に気づかせないようにしています。

店で高安信子が揉めるシーンも後の出産でのドタバタの助け舟としての伏線になりますし、“照屋年之”監督のさりげない脚本センスが上手いなと舌を巻きます。

そして何よりも題材の重さ、いやほぼ残酷さと言い換えてもいい、極端なシリアスに対抗するにはこれくらいするしかないとも言えます。この「洗骨」、作中でも映像で生々しく映りますが、実際はあれ以上にビジュアルとしてもショッキングだそうで、場合によってはまだ肉がついた状態の骨を相手にしないといけないこともあるみたいです。それほどに残酷だからという理由も、きっとこの「洗骨」が廃れた遠因になっているのだろうなと思います。

もともと「愛する人の死」だってツラいし、それにプラスしてよりキツイかたちでまたも「愛する人の死」に時間を経って向き合わないといけない。そういうとき、人を救うのは笑いしかない。それが騙し騙しでもいい…そんな優しさを本作からは感じます。

高安信子と神山亮司のバカ正直でストレートな言葉にすら救われます。「美恵子さんもこうやって生んだんだよ、命は女が繋ぐんだよ」「赤ちゃんはそんなにやわじゃない!」という高安信子の𠮟咤激励。「ここ、本当に日本なの」という神山亮司のアホっぽい感想。

あの世とこの世は絶対的に離れた世界ではないのかもしれない。笑いながら歩いて行ける。そう思えたら少しだけ気持ちがラクになる。そんな映画でした。

ROTTEN TOMATOES
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IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)「洗骨」製作委員会 せんこつ