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『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』感想(ネタバレ)…Netflix;映像に正当は映らず

パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか

映るのは現実のみ…「Netflix」ドキュメンタリー映画『パーフェクト・ネイバー: 正当防衛法はどこへ向かうのか』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Perfect Neighbor
製作国:アメリカ(2025年)
日本では劇場未公開:2025年にNetflixで配信
監督:ジータ・ガンドビール
人種差別描写
パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか

ぱーふぇくとねいばー せいとうぼうえいほうはどこへむかうのか
『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』のポスター

『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』簡単紹介

ある住宅地で子どもの遊び場をめぐって長きにわたって起きていた近隣トラブル。それはやがて命を奪う暴力事件へと最悪のかたちで発展してしまう。そこに至るまでの過程を警察の生々しいボディカメラ映像で振り返りながら、現実や偏見、そしてこの事件によって争点となった正当防衛法の在り方を突きつける。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』の感想です。

『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』感想(ネタバレなし)

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それは正当防衛なのか

「正当防衛」という言葉があります。すっかり庶民の間でもカジュアルに使われている感じがありますが、法的にはちゃんと定義があり、判例でその範囲は明確化されています。

例えば、日本では刑法にて「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」と定められているものが正当防衛に該当します。

この法的な正当防衛は、国によって定義は違いますが、無論、なんでもかんでも「やられそうだったからやり返しました!正当防衛です!」で押し通せるわけではないです。

しかし、やはり一歩間違えれば危うい概念なのも事実であり、いくら法律でどうこう定めても「問題」が生じることはあって…。

そんな中、アメリカでは正当防衛について定めた「正当防衛法(Stand-your-ground law)」と呼ばれる法律が各州で制定されているのですが、これが深刻な社会問題となっています。

その正当防衛法が身近で最悪の事態をもたらした実際の事件を生々しく映し出したドキュメンタリー映画が今回の紹介する作品です。

それが本作『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』

本作は、2023年6月2日にフロリダ州オカラの住宅地にて、ひとりの人物が隣人に射殺された事件を主題にしています。近隣トラブルが発端でしたが、逮捕された加害者は正当防衛を主張。この銃撃事件は全国的な注目を集め、大きな議論を巻き起こしました。

しかし、本作『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』はその事件を整理して客観的に解説するタイプのドキュメンタリーではありません。いわゆる非解説型ドキュメンタリーであり、当事者インタビューや専門家の指摘などを間に挟むこともしません。

事件前から現場に何度か駆けつけていた警官のボディカメラと通報録音、または録画カメラ映像だけで、ドキュメンタリーのほぼ全てを構成させています。

ゆえにかなりショッキングで悲痛な生々しい映像もあるのですが、どうしてこんな事件が起きてしまったのか、その一部始終を連続して通して視聴者も目にすることになり、否応なしに私たちも当事者にさせる力がある作品です。

『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』を監督したのは、警察署に保管されて未検査のまま放置されている数千ものレイプキットを主題にした『I Am Evidence』、アメリカに生きるアジア系に焦点をあてた『Asian Americans』、カルト集団「シナノン」を扱った『Born in Synanon』、ハリケーン・カトリーナの被害と影響の余波をまとめた『ハリケーン・カトリーナは今もなお: 希望への道を拓くもの』など、多彩な手腕を発揮してきた“ジータ・ガンドビール”

なんでもインド系アメリカ人の“ジータ・ガンドビール”は、この今回の主題の事件の被害者と、義理の姉妹が親友だったそうで、その繋がりでドキュメンタリーを製作することになったようです。

2025年のサンダンス映画祭で「監督賞:米国ドキュメンタリー」を受賞し、高い評価を受けた本作。今年の見逃せないドキュメンタリーの一本です。

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『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』を観る前のQ&A

Q:『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2025年10月17日から配信中です。
✔『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』の見どころ
★生々しい映像によるリアルタイムな臨場感と当事者感覚。
✔『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』の欠点
☆社会問題の解説はないので注意。

鑑賞の案内チェック

基本 人種差別的な背景のある暴力が一部で映されます。
キッズ 2.0
低年齢の子どもにはわかりにくいかもしれません。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』感想/考察(ネタバレあり)

ここから『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』のネタバレありの感想本文です。

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映像を傍観するしかできない

『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』は、映像としては2022年2月25日から始まり、事件に至る2023年6月2日までを振り返るように追っていきます。およそ1年と3か月程度。なぜ最悪の結果に至ったのか、観客に考えさせるように…。

舞台はフロリダ州オカラの住宅地。アメリカによくある典型的なサブアーバンです。

地元のマリオン郡の保安官事務所の警官は、スーザン・ロリンツという白人女性の通報を受けて何度も駆けつけることになります。ロリンツいわく、自分の敷地に近所の子どもが「不法侵入」しており、親などからも「脅迫」など「加害」を受けている…とのこと。

通報者のロリンツの言う「敷地」というのは家の前の「芝生」のことです。ここでこのアメリカのサブアーバン特有の空間事情が見えてきますが、日本みたいに住宅が塀などで明確に境界で区切られていることはないです。自分の家と隣の家に芝生が漠然と広がり、そのままオープンに繋がっています。

実のところ、この芝生は家の居住者の私有資産ではなく、あくまで譲り合いの精神で分かち合う程度の感覚で運用されている、かなりふわっとしたエリアでした。

しかし、ロリンツは頑なにこの芝生は自分の所有地だと主張し、「自分の家で静かに過ごす権利がある」と言い、そもそも子どもの遊ぶ声自体が嫌なようでした。

ロリンツは独自に芝生に既製品のプラスチックの小さな看板をいくつか点々と設置し、「入るな」と自己主張していましたが、子どもたちはその看板の手前あたりまでの芝生で遊んでいる光景が、ロリンツの撮った映像に映っているのが本作でも示されます。なお、ロリンツの家の隣の人は自由に芝生で遊んでいいと言っていたようです。

そんなこんなで非常によくありがちな近隣トラブルです。駆けつけた警官の対応もとくにマズイものには見えません。

「(ロリンツの言う)敷地に入らないで」と一応は警告しつつ、「TikTokに夢中になるより外で遊ぶほうが良いと思うし、自分も子どもの頃はやんちゃしていた」と謙虚に言いながら、「言い返したりしないで」と子どもに大人の責任として諭してもいました。ロリンツ以外の近所の住人とも友好的な関係を築けていたのもわかります。

何も事件性がないのに毎度通報されるのに警官も疲れ始め、警官側もロリンツが過剰に攻撃的で神経質だと認識を固定化させてもいました。作中では「サイコ」と警官が誰も聞こえないところで呟くシーンもあったり、赤裸々な映像です。

この「どうせ子ども嫌いの年配の人だろう」という認識は近所の人たちにもすっかり共有されています。どうやら近所の子どもたちもロリンツのことを「カレン」(人種差別的な態度をとる白人女性を蔑視的に呼称する表現)と呼んでいたようですし…。

そんな「日常」が一変して「惨劇」へとなってしまいます。たったの2分の間に…。

アイザック(イジー)、イスラエル、アフリカ、タイタスの4人の子どもを抱える近隣に住むアジカ・オーウェンズという黒人女性が、ロリンツにロリンツの家の前でドア越しに撃たれて死亡するという…。

本作はほとんどの映像が揃っていますが、唯一、事件の犠牲の瞬間だけは映像に映っていません。近所の家に設置されたカメラ映像に、銃声の後、イジーが「お母さんが撃たれた!」と半狂乱で飛び込んでくる姿だけが、事件の発生を物語ります。

そこから先の事件当日の現場の映像は、本当にツラいもので…。

このドキュメンタリーは観ている者をただただ愕然とさせますね。傍観するしかできない無力さもさることながら、「この事件をどうにか防げなかったのか」と自問自答してしまう…。

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shoot first, think later

『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』でその中心の論点に据えられるのは紛れもなく「正当防衛法」ですが、あまりそれ自体の説明はないので補足をしておきます。

アメリカの各州には「正当防衛法」というのがあって、内容は州によって微妙に違いますが、おおよそ「特定の暴力犯罪から身を守るために必要であると合理的に判断した場合、致死的な武力を行使することができると規定されている」という概要は同じです。

これはいわゆる「退却義務」がないということです。逃げる必要はなく、攻撃していい…ということ。

アメリカでは38の州が退却義務なしで正当防衛が許されており、フロリダ州もそのひとつでした。

当然、事件当日に拘束されたロリンツも正当防衛法が論点になると検事もよくわかっているので、そこの確認がなされます。その様子も克明に映像に映し出されるのでこちらも別の意味で生々しいです。

ここの刑事たちの態度も非常に明解でわかりやすかったですね。ロリンツに「正当性」があったのかを、淡々と質問で問いただしていました。ロリンツは刑事が用意した紙に「撃ったのは恐怖心から」と遺族向けのメッセージを残すのですが、正直、このドキュメンタリーをずっと観ていて明らかに「恐怖」を与える存在だったのはロリンツなわけで…。

ロリンツ本人は自覚できません。事件前は警官に自分自身を「パーフェクト・ネイバー」と表現していたくらいです。

別にロリンツだけが愚かだったわけでもないでしょう。正当防衛法は何を正当化できるかを明示していても、私含め一般市民はそんな分析はできません。本作のようにこうやって映像で流れとして整理されて初めて「ああ、これは正当性はないな」と理解できます。

専門家は正当防衛法の問題点を「”shoot first, think later” culture(先に撃って後で考える文化)」の助長だと指摘します。つまり、正当防衛の原則が本来の意図から歪められ、「最後の手段というより、まず撃つべきだという信念に変容している」という懸念です。

まさに今回のロリンツそのものですね。正当防衛になるかもと期待をしながら撃つ、もしくは撃ってから期待する…。

結局、正当防衛というのは想像以上に難しい概念なのに、それが安直に世間に広まっている、そこにも問題があるように感じます。

作中では、正当防衛法がむしろ殺人事件を増加させるリスクや、人種的な不均衡が起こっていることを短く指摘していますが、このたった1件の事件を生々しく提示することで、その説得力はじゅうぶんすぎるものでした。

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銃ではなく助けを必要としていたはず

また、『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』はそこを直接的に論点にはしていませんが、やはり私が日本社会に暮らす身として無視できないのは、やっぱり「銃社会」の問題です。

この事件の舞台のフロリダ州。銃に関する規制はほとんどありません。許可証なしで銃を携帯することが可能ですし、拳銃を所持または購入するのにも州の許可は必要なし。

なので作中でロリンツが子どもたちの前で銃をチラつかせていたなんて話もありましたが、日本人感覚だと「え? それだけで危険行為だから則逮捕できるんじゃないの?」と思うじゃないですか。違うんですよ。フロリダ州ではそれは合法。というか、州民の権利なんです。人前で堂々と銃を持っていても、隠し持っていても、それを見せつけても、それは許される。それが権利として認められている…。

だから「子どもの前で銃は出さないでね」とか、そのことを警官がロリンツに咎めたりしません。逆にそんなことを言ったら警官が州民の権利を侵害したことになって違法になります。

もうアメリカ人は感覚が麻痺しているなとあらためて思いました。こんな銃が当たり前に日常に溢れている空間で、正当防衛の理念を真っ当に行使できるはずもないだろう、と。銃が手にあったら、正当防衛じゃなくて、早撃ち対決のガンマンになるのは、自明じゃないですか。

ドア越しに撃って相手を殺すなんて、西部劇みたいなことが2020年代の住宅地で起きている…その異常性に無自覚になってしまったらおしまいだと思います。

あと、今回の加害者であるスーザン・ロリンツ。映像でも明らかなとおり、地域コミュニティに溶け込めずに孤立している人にどう公的に接するべきか、もっと考えないといけないことを示唆する出来事だったなとも感じました。

きっと彼女に必要なのは、銃ではなく、ソーシャル・ケアをしてくれるソーシャルワーカーだったでしょうから。

『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

以上、『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)Netflix パーフェクトネイバー

The Perfect Neighbor (2025) [Japanese Review] 『パーフェクト・ネイバー 正当防衛法はどこへ向かうのか』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2025年 #告発ドキュメンタリー #犯罪ドキュメンタリー #黒人差別