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『光(2017・河瀬直美監督)』感想(ネタバレ)…映画を“伝える”ことの難しさと愛しさ

光

映画を“伝える”ことの難しさと愛しさ…映画『光(2017・河瀬直美監督)』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:光
製作国:日本・フランス・ドイツ(2017年)
日本公開日:2017年5月27日
監督:河瀬直美

ひかり
光

『光』物語 簡単紹介

視覚障がい者のための「映画の音声ガイド」の制作に従事している美佐子は、弱視のカメラマンの雅哉と出会う。雅哉が認識できる光は乏しい。しかし、それは世界が見えないということにはならない。雅哉の無愛想な態度に反感を覚える美佐子だったが、彼との交流をゆっくり重ね、彼が撮影した写真を見ていくうちに彼の認識ている世界とその内面を知っていく。そして、美佐子の中の何かが変わり始める。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『光』の感想です。

『光』感想(ネタバレなし)

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光をあててほしい存在

映画館と障がい者の関わりといって真っ先に思いつくのは「障がい者割引」くらいしかない軽薄な私ですが、調べると他にもハンディキャップを抱えた人を助ける多様なサポートが存在するのを知りました。

とくに情報化社会の現代らしいのが「UDCast」というサービス。これは、スマホなどに専用アプリをダウンロードすると、端末のマイクが音声を拾って、専用メガネに「日本語字幕」「外国語字幕」を付けて表示してくれたり、「音声ガイド」が流れたり、「手話映像」を表示したりする優れもの。

技術が芸術をより多くの人に届ける…まさに“光をあてる”…良いことだと思います。シアターで上映中にスマホを操作している人を嫌がる人もいますが、もしかしたらそういう補助サービスを利用しているかもしれないので心にとめておいてください。

そんな映画と障がい者の関係性について考えさせてくれる作品が本作『光』です。

監督は“河瀬直美”。この人はカンヌによって育てられた人です。劇映画デビュー作となる『萌の朱雀』(1997年)という原石を見い出したのはカンヌ国際映画祭であり、カメラドール(新人監督賞)を受賞。そして、才能は着実に開花していき、ついに2007年に『殯の森』がグランプリに輝きました。その後は、審査員をつとめ、育てる側にも回っています。

そんな“河瀬直美”監督の最新作『光』は、今年のカンヌ国際映画祭に出品され、惜しくもパルム・ドールは逃しましたが、プロテスタントとカトリック教会の国際映画組織「SIGNIS and INTERFILM」が選ぶエキュメニカル審査員賞を受賞しました

しかし。カンヌでの絶賛とは対照的に、誠に遺憾ながら日本国内では注目度が悲しいくらい低いのです。どうしても邦画界は芸術的視点よりも商業的視点で評価してしまう傾向が根強く、良い作品ほど逆境にさらされています。それでいいのか、邦画界。去年日本公開された『淵に立つ』もカンヌ国際映画祭の“ある視点”部門で審査員賞を受賞したのに小規模公開で終わりましたが、ほんと公開数をもうちょっと増やして宣伝もしてほしいですよ。“河瀬直美”監督にももっと“光をあてる”べきでしょう。

本作は、視覚障がい者のための「映画の音声ガイド」にまつわる話です。こう聞くと「ああ、障がい者ものか」と安易にジャンル分けする人もいるかもですが、本作はその枠を超えた深みをみせます。強調したいのは「ブログやSNSで映画に関する感想や批評などの文章を発信している人」ほど観るべきだということ。グサッと突き刺さります。観賞中も鑑賞後も否応なしに考えさせられますね。

個人的には現時点で邦画ベストの作品です。今年、最も見逃してほしくない邦画のひとつ。劇場で観る観ないでは伝わり方が全然違う演出もあるので、ぜひ劇場へ。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『光』感想(ネタバレあり)

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全てが眩しいくらい素晴らしい

小難しい話はひとまず置いておいて、本作は「業界の裏側を描く」ジャンル映画として普通にめちゃくちゃ面白いです。視覚障がい者のための「映画の音声ガイド」がああいうものだとさえ知らなかったし、あんなふうに制作しているのか!と驚き。中学生みたいな感想になっちゃいますが、勉強になります、本当に

そんな地味な題材にもかかわらず、映像は非常にダイナミック。とくにタイトルにもある光の演出。どう文章で表現すればいいのかわからない…この映画の音声ガイドではどう表現しているんだ…。

そして、本作において観客に“伝える”ことを担う役者陣の圧倒的演技力。視力を失っていく中森雅哉を主演した“永瀬正敏”は何なんだ…。あの佇まいだけで一気にやられます。視覚障がい者としての演技も本物にしか見えないし、無表情のなかにちらつく感情の機微を完璧に体現していました。劇中で尾崎美佐子が「あなたは表情がない。想像力がないのではないですか」と問題発言するわけですが、こっちとしては「いや、この男の演技力、凄すぎるよ!溢れるオーラがわからないのか!」とメタ的にツッコミたくなるほど。その若き音声ガイド制作者の尾崎美佐子を演じた“水崎綾女”も、“永瀬正敏”に呼応するかのように魅力的になっていくのがまた…。互いが互いの光になって双方を輝かせていく感じが最高でした。

他の役者陣も素晴らしく、子役も含めて、“河瀬直美”監督らしい自然に見せる腕がいかんなく発揮されており、さすがです。

個人的にひとつ苦言をあげるなら、“樹木希林”を使うのはズルいですよ、“河瀬直美”監督。ラストの試写で音声ガイドを“樹木希林”が担当していましたが、あれでは音声ガイドの凄さを感じるべきところを、“樹木希林”パワーに上書きされてしまう副作用が…。まあ、“樹木希林”は劇薬なんです(失礼な文章)。

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宣伝、SNS、ブログ…“伝える”人たち

本作は、視覚障がい者のための「映画の音声ガイド」の制作を通じて、映画を“伝える”ことの難しさが描かれます。これが障がい者という枠に収まらない、もっと普遍的で根源的な問いかけに発展していくわけです。

ここから先は、テーマがテーマだけに語りが長くなりますが、勘弁を。

そもそも映画は、作品が撮りおわって完成しても、観客に届くまでにさまざまな“伝える”工程があります。吹き替えを付ける、字幕を付ける、キャッチコピーを考える、予告動画を作成する、ウェブサイトやポスターで宣伝をする…。この過程では必ず映画を“伝える”ことの難しさに直面しているはずです。これが上手くいかず問題化している事例も最近は散見されますよね。「このポスターの宣伝はオカシイ!」とか「この人が吹き替えするのは変だろ!」とか「この邦題はオリジナルを舐めている!」とか、怒りの声がSNSなどで聞こえてこない日はないです。

こういう場合、私たちのような映画ファンは「商業的な大衆受けを優先しているから…」「観客をバカにしている」と“伝える”工程に携わった人をやじるのが定番。でも、実際はそんなわけはありません。例えば、邦題の件。オリジナルと邦題を変更するときは、もちろんテキトーなんてことはなく、意図があります。また、日本側で勝手に変えるなんてするはずなく、普通は製作者側に許可をとるものです。その結果、どれほどの理解度なのかは定かではありませんが、その意図を製作者側も許容してできたのが私たちに届けられる邦題です。

“伝える”工程に携わった人をやじるのは「あなたの想像力が足りない」と言うのも同じですが、ちゃんとその人なりの想像がある。逆に“伝える”工程に携わった人をやじる人にもその人なりの想像がある。それってなかなかわかりにくいことですよね。

“伝える”工程には取捨選択が生じるのです。騒ぐような人は捨てられた部分に怒る人であり、逆に拾われて強化された部分で恩恵を受ける人もいるはずです。

本作も「珠玉のラブストーリー」と宣伝されてますが、これが宣伝側で考えたものなのか、“河瀬直美”監督の意思がどこまで反映されたものなのかわかりません。少なくとも受け手の私は本作を観て「珠玉のラブストーリー」という言葉は合っていないと思ってます。でも、このキャッチコピーで劇場に来る人もいるでしょう。

これは宣伝だけの話ではありません。近年は映画の感想や批評を個人がSNSやブログで発信して拡散するのが主流です。まさにこのブログがそうです。そして、このブログを読んで映画を見た人が「全然書いてあることと違うじゃないか!」と激怒することもあるでしょう。そのとき、私は「いや、これは私の感想だから」と簡単に“逃げ”られる立場にありますが、宣伝や音声ガイドとなるとそうもいきません。

しかし、宣伝や音声ガイドにさえ正解はないのが厄介なところ。劇中でも尾崎美佐子が監督へインタビューするシーンでそれが表れていますが、作り手も何を伝えたいのか曖昧なんですね。よく「この映画は何を伝えたいのですか」と聞かれるのを嫌がる監督もいますが、まさにそのとおり。あなたで考えてってことです。

“伝える”方法は、劇中でも顔に触れるとかキスするとかあったように、星の数だけあるわけで、なおさら“伝える”ことは難しい。『メッセージ』でも同じ議題ではありましたが、“伝える”ことは奥が深い。「UDCast」のような技術革新があっても、この“伝える”ことの難しさは未来永劫変わらないでしょう。

でもやっぱり“伝える”ことは難しいけど、愛しくもあります。伝わった瞬間の嬉しさは格別なのはみんな知っていること。

ちょっとでも伝わったらいいなと思いながら、これからもブログを書き続けたいと思ったのでした。

『光』
ROTTEN TOMATOES
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作品ポスター・画像 (C)2017 “RADIANCE”FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、Kumie

以上、『光』の感想でした。

『光』考察・評価レビュー