セルジオ 世界を救うために戦った男
Netflix映画『セルジオ 世界を救うために戦った男』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Sergio
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:グレッグ・バーカー

セルジオ 世界を救うために戦った男

あらすじ

多くの人に慕われた国連大使セルジオ・ヴィエイラ・デメロ。大国に従属することなく、常に国連としての立場を見失わない。それでも立ちはだかる問題は、並大抵のことでは解決できないようなものばかり。どんなに厳しい現実に直面しても決して情熱と理想を捨てなかった彼が、イラクで絶体絶命の危機に陥る。身動きのとれない空間でセルジオは人生を振り返るが…。

『セルジオ 世界を救うために戦った男』感想(ネタバレなし)

国連の存在意義を知るために

もし世界的な大問題が起きた時、私たちはどうすればいいのでしょうか。各々の国が自分の利益だけを主張して、資源や情報を独占するかもしれません。はたまた一国だけが力を持ちすぎて小国たちが我慢を強いられるかもしれません。互いの国が疑心暗鬼になれば、それ自体が争いの火種になってしまうかもしれません。

そうならないために設立された組織が「国際連合」です。地球に存在する国々が立場を超えて英知を結集し、世界的な諸問題に対処する。協同の象徴であり、そして実行の場でもあります。今、起こっているパンデミックに関しても率先して各国の専門家が集い、対応してきたのが国連の組織である「世界保健機関(WHO)」です。

私たち庶民は普段から国連に目を向けることはほとんどありませんが、実はあらゆる生活の基盤を支えているのは国連なのです。某国の大統領が「WHOは中国びいきだ!」と臆面もなく批判していましたが、そもそも国連はそうした不公平とは最もかけ離れた組織です。少なくともどの人間や国家よりも、世界と平等に接するべく尽力してきた歴史があります

そんな陰ながらの努力にもかかわらず、普段は意識されずに「役に立っているの?」と残念な声を浴びせられることもある国連について、その存在感を教えてくれるような映画があります。それが本作『セルジオ 世界を救うために戦った男』です。

本作は「セルジオ・ヴィエイラ・デメロ」(セルジオ・ビエイラ・デ・メロとも表記)という国連に従事した有名な人物の伝記映画です。1969年から国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で働き、1996年には高等弁務官補佐に任命されて、バングラデシュ、スーダン、キプロス、モザンビーク、ペルー、レバノンなど世界各地を飛び回り、人道援助・平和維持活動に関して豊富な経験を持つベテラン。国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)代表となった際もその手腕を発揮し、卓越した能力が評判となっていました。しかし、2003年に派遣先のイラクで国連本部を狙った爆弾テロによって死亡。人道支援者への攻撃に世界は衝撃を受けることになります。

フィクションではない本物のヒーローとして特定の国や宗教に頼らずに尽力したセルジオの実像に迫るのがこの『セルジオ 世界を救うために戦った男』。彼のことを知らなかった人も、本作を観ればその誠実さを垣間見ることができるでしょう。

監督はドキュメンタリー作家として有名な“グレッグ・バーカー”。実は『セルジオ テロに死す イラク復興を託された男』(原題は同じく「Sergio」)というドキュメンタリーで、もうセルジオを取り上げているんですね。今回の劇映画はそのドキュメンタリーがベースになっています。

脚本は『ダラス・バイヤーズクラブ』の“クレイグ・ボーテン”です。

主演はドラマ『ナルコス』で高い評価を得たブラジルの俳優“ヴァグネル・モウラ”。麻薬王からいきなり国連大使ですからガラッと変わったなぁ…。 でも面影がどことなくセルジオに似ているし、ちゃんと雰囲気を出して演じているのはさすがです。

そしてヒロイン的なポジションでセルジオのパートナーを演じるのは『ブレードランナー 2049』や『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』で魅了された人も多いでしょう、人気急上昇中のキューバ系女優の“アナ・デ・アルマス”です。 今回はゲロを吐きません(残念!)。


他にも“ブライアン・F・オバーン”、“クレーメンス・シック”、“ブラッドリー・ウィットフォード”など。

本作は2020年1月のサンダンス映画祭でプレミア上映され、なんとかコロナ禍の影響を受けずに済んだ一作で、ラッキーでしたね。

俳優目当てで鑑賞するのも良いですし、題材の人物のことを知るために観るのでも良し。動機は自由で結構です。でも世界が混乱しているこんなときだからこそ、セルジオのような人間が必要なんだと心に残ると思います。ほんと、彼が今も存命だったら、何か世界はまたひとつ改善されていたんじゃないかという気持ちになります。

日本では2020年4月17日からNetflixオリジナル映画として配信中です。レンタル店で映画を借りるのでは外出が発生してしまいますし、こんな時期は家で完結するネット鑑賞が一番安全ですよ。

オススメ度のチェック
ひとり◯(実在の人物を知る糸口に)
友人◯(多少重いテーマではあるが)
恋人◯(恋愛要素もあり)
キッズ△(大人のドラマです)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『セルジオ 世界を救うために戦った男』感想(ネタバレあり)

瓦礫を少しずつ取り除くように…

「何を話せばいい?」と気楽そうに聞く男。新人用に見せるビデオの撮影らしく、それでもその男の雰囲気はリラックスしています。

「人権高等弁務官になった経緯を」とリクエストされ、「34年分の仕事を3分にはまとめられない」「昔話よりも志に訴える胸をうつことを言った方がいい」と自分で思案する男。そして語りだします。

「セルジオ・ヴィエイラ・デメロです。ブラジル出身。国連の人権高等弁務官を務めています」…さらにこの映像を見ているであろう未来を担う者たちに向けてこう言います。「苦しんでいる人が皆さんを待っています」と。

2003年8月19日、午後4時28分。

バグダッド国連本部は爆発音とともに瓦礫と土埃に覆われました。聞こえるのは何かが崩れる音と悲鳴と呻き声。その建物だった場所にはセルジオもいて、今は瓦礫の中で目覚めます。一体何が起こったのか。痛みとショックで麻痺する中、セルジオは昔を思い出すことに…。

3か月前。2003年3月20日から始まったイラク戦争。大量破壊兵器保持を理由にアメリカが中心となって勃発したこの戦争はこの地を瞬く間に戦場に変えました。統治者であったサダム・フセインの像が倒れ、この国の地盤は根底から激変します。「独裁者は倒され、イラクは解放されました」とアメリカのブッシュ大統領は満足げに宣言。大量破壊兵器は見つかりませんでしたが、そんな当初の目的は今ではうやむやになり、わけのわからない高ぶりだけが国に蔓延しています。

そんな中、国連大使が大統領と面談しました。卓越した手腕で評判の高いセルジオです。「開戦した際の人的被害は甚大です」と前から警告していた彼は、イラクが根底からひっくり返った今、アメリカ主導のイラクで国連は何ができるのかという難題に向き合わなくてはいけないことに。

イラク国内ではなかなか復興が進まないことでアメリカへの不満が蓄積されています。対応は急務です。

セルジオはさっそく現地に到着後、荷物を出していきます。そこへ同僚で恋愛関係にあるカロリーナがやってきて、「まだ4か月で帰れると思っている?」と呟いてきます。一応はその予定で来たのでした。しかし、予定は予定。国の情勢は刻一刻と変わってしまいます。

国連本部の同僚みんなを集めて語るセルジオ。「外国の軍隊が自分の故郷にいたらどう思うか」「我々の目的はイラクの人々に主権を与えることだ」…セルジオには確固たる信念がありました。国連は独立した組織であり、アメリカの手先ではないし、誰かの道具や盾ではない。それはしっかり発信します。

一方、そんな信念を貫くセルジオに苛立っていたのが、アメリカ特使のポール・ブレマーです。勝手に動く国連に怒りのぼやきが止まらないブレマーは、「どうやって宗教指導者シスタニ師と会談したんだ?」と彼の行動力に驚きます。

そんなブレマーと会話したセルジオは、「アブグレイブを収容場所にすることにショックを受けています。ここはフセインの拷問部屋の象徴ですよ」と進言しますが、ブレマーは聞く耳を持ちません。

さらにはセルジオの演説に文句を言いに電話してくるブレマーは、占領の人権侵害を安全保障理事会に報告することを知って「アメリカを敵に回すと次の事務総長の椅子が遠のくぞ」と半ば脅しをかけるのでした。

そしてセルジオが記者会見の準備を指示したとき、それは起こります。轟音と暗闇。

瓦礫で埋まって動けないセルジオのもとに救助に来たのは陸軍曹長のボル・ボンゼーリ。彼も「あなたはセルジオ・デメロか?」と驚くような著名人。

全てを他国のために身を捧げてきたセルジオはなぜこんな仕打ちを受けているのか…。それはどんなに過去を遡っても、本人にもわからないことでした。

セルジオ 世界を救うために戦った男

ドキュメンタリーそのまま?

『セルジオ 世界を救うために戦った男』は伝記映画ですが、かなり史実に沿ったつくりです。というか、“グレッグ・バーカー”監督のドキュメンタリー『セルジオ テロに死す イラク復興を託された男』をそのままなぞったような構成になっています

冒頭のビデオ撮影を収録するシーンから始まるのも全く同じ(本作ラストでは本人映像が使われているので完全にドキュメンタリーに接続するような流れです)。

ドキュメンタリーは当人が死亡していますから、周囲の人間の証言でセルジオという人物像を浮き彫りにしていますが、作中で描かれるシーンは実際に撮られたものの再現になっているパターンが多いです。例えば、「おカネがなかったら盗むしかない、私が大学を卒業しているのに!」と怒る地元民の男は映りますが、あのシーンも実際におさめられています。こうなってくるとほぼほぼ再現VTRですね。

なので本作を観ると、国連の人たちの仕事の様子がかなりリアルにわかります。事務作業をしているだけではない、多種多様な“これぞ外交”という職務の連続。それでも雄弁で落ち着いた雰囲気を崩さないセルジオの姿は印象的で、彼のチャームポイントでもありますね。

例の爆弾テロで生き埋めになるシーンはそんなに描くこともないですし、オチは史実として明らかなので語りづらいというのは制作者もわかっているのか、本作のサスペンスは東ティモールでのシーンに重点を置いている感じです。

革命軍リーダーのシャナナ・グスマン将軍と会談し、その後も交渉した結果、インドネシア大統領からの謝罪と東ティモールを完全に独立させろという不可能に近い難題を押し付けられるセルジオ。あそこで狼狽する彼が映ることで、それまでの頼もしさだけが強調されていたセルジオという人間の弱さが見えて、良いシーンだなと思います。

まあ、その東ティモールでカロリーナが女性の自立を支援する事業(マイクロファイナンス)の成果を見せる場面は、若干唐突すぎた感は否めないですが…。 

その脚色は必要だったのか

比較的リアリティを維持している『セルジオ 世界を救うために戦った男』ですが、とことん脚色されまくっている部分も実はあります。

例を挙げると、セルジオの長年の友人のようなポジションで登場するギル・ロッシャー。彼は複数の人物をもとにしているとエンドクレジットで説明がありますが、実際にギルという名の人間はいます。ただ、ああいうような旧友的な関係性ではなく、あのテロの日にギルはやってきたそうです。足切断は事実で、その後も彼は存命なのですが、やっぱりこれはその痛々しいシーンを強調するための設定なのかな、と。

そもそも本作ではこの爆弾テロが、セルジオが警備を引き上げさせたせいで起きたというように読める流れになっています。そしてそれを後悔しながらやるせない気持ちになるセルジオというところで、物語の終着点を設置しているわけです。

でも、それはやや大袈裟で、実際に警備を引き下げさせる判断はセルジオの一存で決定できるわけもなく、根本的な話、厳重な警備があってもトラック爆弾であれば防ぎきれないとも言えるでしょう。彼がどこまで自責の念を持っていたのかはわかりません。

このアレンジというか、物語の与える印象は本当に正しかったのかという部分に関しては少し引っかかるかなと私も思います。

ただ個人的に一番残念だなと思ったのは、カロリーナの描写です。彼女も実在の人物で、ドキュメンタリー『セルジオ テロに死す イラク復興を託された男』でもたくさん証言している姿が映っています。カロリーナと恋の関係にあったのは事実ですし、あのランニング中に出会ったのも本当だそうです。

しかし、本作ではカロリーナとのエピソードを非常にベタなロマンスにしてしまっています。ましてや“アナ・デ・アルマス”が演じていますからね。別の彼女の演技としては何も悪くはないのですが、あの美貌であそこまで色っぽいシーンの畳みかけをするのは必要だったのか?と疑問は出てくるのもしょうがなく…。カロリーナの貢献は、決してセクシャルな愛の奉仕をしたことではないでしょうし…。

少なくともリアルの一端が映るドキュメンタリーを見る限りはそうではないのは自明です。

セルジオの人生は艶めかしいロマンスや感傷的なドラマで飾りつけしなくてもじゅうぶん見ごたえのある価値を持っていたはず。そこに安易な物語化は蛇足ではないでしょうか(なんか同じことを『コロニア』の感想でも書いた気がする)。

その欠点に目を瞑るなら、本作はとても有意義な題材なのですけどね。

インドネシア大統領官邸にてグス・ドゥル大統領と対談した際、セルジオのこんなセリフがありました。

「あなたが彼らをどう見るかで、世界があなたをどう見るかも決まります」

セルジオの生き方を象徴するような言葉です。

私は国際問題を前線で解決できないですけど、手本になれる人間にはなりないと思います。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 42% Audience 58%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)Black Rabbit Media, Netflix