どの世界も危うい?…「Disney+」ドラマシリーズ『パラダイス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン1:2025年にDisney+で配信
原案:ダン・フォーゲルマン
児童虐待描写 自然災害描写(津波) 性描写 恋愛描写
ぱらだいす
『パラダイス』物語 簡単紹介
『パラダイス』感想(ネタバレなし)
ネタバレ注意のパラダイス
有力な保守系活動家の暗殺事件で全米がまだ騒然とする中の2025年9月14日、第77回プライムタイム・エミー賞の授賞式が行われました。2024年6月1日から2025年5月31日までのアメリカの放送作品を対象とするもので、いつもながらノミネート作品は定番の顔ぶれや有名作ばかりです。
ドラマシリーズで最優秀作品賞を受賞したのは『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室』でしたが、ノミネート作の中にやや意外な一作が紛れていました。
一応、アメリカ本国では配信視聴者数も好調だったらしいですし、それなりの話題作だったのかもですが、賞ステージに食い込むほどになるとは…。それくらい前評判は期待値皆無だったような気がするのに…。
それが本作『パラダイス』です。
なお、同名のタイトルの作品がいくつかあって紛らわしいのですけども、“ダン・フォーゲルマン”企画の『パラダイス』だと覚えて区別してください。
“ダン・フォーゲルマン”は、『カーズ』や『塔の上のラプンツェル』など、ピクサー&ディズニーで脚本家として活躍し、その後に『Dearダニー 君へのうた』(2015年)や『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』(2018年)で実写映画の監督もしました。ドラマシリーズでは『THIS IS US/ディス・イズ・アス』での成功が実績に挙げられるでしょう。
そのわりと何でも手がける器用なベテランの“ダン・フォーゲルマン”の最新作となった『パラダイス』。今回は…仕掛けてきましたね。
何がって…う~ん…。この『パラダイス』、ネタバレ厳禁なタイプの一作なのです…。だから…言えない…。
とにかく第1話を観れば「ああ!そういうやつね!」ってなるのですけどね。
ジャンルは、まあ、ポリティカル・スリラーです。アメリカ合衆国大統領を警護するシークレットサービスの主任エージェントが主人公なのですが、それはもう大変なことになっていきます。漠然としか書けないけど…。
本当は「この要素があります!」って明言するほうが絶対に興味が湧く人も増えると思います。どうしても気になるときは、後半の感想の「ネタバレしますよ」と重ねて前置きしている文章まで読み進めてください。
“ダン・フォーゲルマン”は、以前に手がけたものだと、エイリアンが暮らす地球の住宅地で生活することになった人間の家族を描く『The Neighbors』とか、そういう奇抜なこともやってのけるクリエイターですから。今回はコメディは封印して、シリアスなスリラーで挑んでくるのが新鮮です。
『パラダイス』で主演を務めるのは、『THIS IS US/ディス・イズ・アス』でも“ダン・フォーゲルマン”と共にやってきた”スターリング・K・ブラウン”。2025年は『ワシントン・ブラック』にも出演していたり、ドラマで大忙しの様子。
共演は、『アマチュア』の“ジュリアンヌ・ニコルソン”、『ソニック・ザ・ムービー』シリーズの“ジェームズ・マースデン”、『ブラックアダム』の“サラ・シャヒ”、ドラマ『私たちは幸運だった』の“ニコール・ブライドン・ブルーム”、『ハニー・ガールズ 夢への扉』の“アリーヤ・マスティン”など。
『パラダイス』はアメリカ本国では「Hulu」配信ですが、日本では毎度ながら「Disney+(ディズニープラス)」独占配信です。シーズン1は全8話。また繰り返しますが、とにかくまずは第1話を観てね。
『パラダイス』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | 児童虐待を描くシーンが少しあります。 |
キッズ | 性行為の描写が一部にあり、大人のドラマです。 |
『パラダイス』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
ザビエル・コリンズは隣に誰もいないベッドに横たわりながら、静かに起床します。傷の残る体を動かし、動きやすい服に着替え、子どもたちにメッセージを残して、ひとりで日課のジョギングに出かけます。
向かいの家のカールに挨拶。ここは閑静な住宅街です。馴染みの近所の人と触れ合いつつ、軽快に走っていきます。
ザビエルの仕事はアメリカ合衆国のシークレットサービス。すでに任務中の同業のビリーと出会って立ち話。ビリーとは家族ぐるみの仲です。自分もすぐに仕事に向かわないといけません。
家に帰ってきて、スーツに着替え直すと、キッチンで子どもたちが朝食をとっています。プレスリーとジェームズの2人です。
ザビエルの役目はブラッドフォード大統領の警護。主任として重要な仕事を任命されています。大統領とも親しく、信頼され、以前に暗殺未遂事件があった際は身をていしてかばって被弾したこともありました。
同じエージェントのジェーンが玄関に待機している大統領の邸宅へ到着。室内の奥へ進み、上階へ上がり、ドアをノック。「大統領」と声をかけるも返事はないです。
ドアを開けると、床で大統領が血だまりを作って倒れていました。寝間着姿で死亡しています。
窓のほうに血痕があり、金庫が空になっています。ザビエルは頭を働かせ、状況を整理。落ち着いて行動しないといけません。
邸宅の地下のセキュリティ・ルームで担当のマイクと防犯カメラの映像を確認。どうやら前夜にザビエルが部屋でブラッドフォード大統領と相対してから数時間、映像が停止していたようです。また、ブラッドフォード大統領と捜査官のニコール・ロビンソンはどうやら愛人関係にあったことも推察できました。
ゆっくりと対処しつつ、大統領の死を関係者に通知。すぐさま緊急事態として現場は騒然とします。
まだこのコミュニティは大統領の死を知りません。いつもの日常を過ごしています。
住人たちは手首の機器で支払ってモノをやりとりし、職人が偽のカモを水辺に浮かべ、定期メンテナンスのために夜明けが2時間遅れることを示すデジタル掲示板が表示され…。
シーズン1:世界の秘密

ここから『パラダイス』のネタバレありの感想本文です。
ネタバレしますよ。いいですか?
作品における世界の秘密というのは、大まかに2種類に分かれるものです。ひとつは「観客だけが知らない世界の秘密(登場人物の大半は知っている)」。もうひとつは「観客だけでなく主人公も知らない世界の秘密(ほんの一握りの登場人物だけが知っている)」。
ドラマ『パラダイス』の「観客だけが知らない世界の秘密」は第1話のラストで映像で示されるとおり。
あの大統領の邸宅がある住宅街のコミュニティ一帯全ては、超巨大な人工的な地下空間の中にあるのでした。これはコロラド州の山脈に築かれたバンカーであり、太陽は人工照明で、空はデジタル。そのうえ、完全に隔絶された世界です。
伏線は冒頭からたっぷりありました。なにせ大統領がホワイトハウスに住んでいない時点でおかしいですから。
はい、ここからはさらにネタバレ。もう知りたくない人は、今すぐこのページを閉じて、ドラマの再生をしてください。
なぜこんな世界を築き、暮らしているのかは、第7話でハッキリ描かれます。万が一に備えて事前に作られていた緊急避難用のプロジェクト。皮肉なことに、南極での超巨大噴火で大津波が発生し、世界が壊滅する中、ほんの一部の人だけがこのバンカーへの避難を許されたのでした。
第7話は壮絶なジレンマの中、大量の人間を置き去りにして犠牲にした避難が映し出されます。ここはディザスターパニックのジャンルです。
つまり、ブラッドフォード大統領を憎んでいる人は実は大勢いるんですね。それを知ってしまうと、冒頭の大統領の死に対する心境も変わってきます。そりゃあ、何とも言えない空気にはなりますよ…。
そしてザビエルも当然ながら大統領を殺したのはあの避難における恨みがある人間ではないかと推察しながら調査することになります。でもサマンサ・レドモンドは違う推察をしているわけで…。
はい、ここで「観客だけでなく主人公も知らない世界の秘密」の登場です。
実は外の世界では生存者がいるらしいことが示唆されます。大災害だけでも大変なのに核戦争まで勃発しかけ、ブラッドフォード大統領の最後のわがままでEMPを発動。そのおかげで核汚染は免れた地域がある様子。
おまけに、ザビエルの妻で避難させることができなかったテリも生きているなんて話まで飛び出す始末。
となるとこの作品は「バンカーの中」vs「バンカーの外」という2つのコミュニティの対立へと展開していくのでしょうか。この手のジャンルとしては恒例ではありますが…。
ともかく、シーズン1は世界観の種明かしのために丸ごと使い切るという贅沢な構成でした。
ドラマ『サイロ』なんかと同じで、ポストアポカリプスの世界で外の現状を知らされずに隔離世界で生きることを余儀なくされているコミュニティを描くタイプの作品です。

ただ、この『パラダイス』は思いっきりアメリカを大前提にした作りになっており、政治風刺が増しています。自然災害にまるで太刀打ちできない大国主義の脆さを痛烈に浮き彫りにし、かろうじて築き上げたコミュニティは民主主義でも何でもない選民思想の成れの果てになっている現実…。
大統領の殺害に手を染めてしまうのが、このバンカーの掘削労働者でプロジェクトマネージャーだったトレントであり、公害を訴えるもクビにされたという、あからさまな労働者階級の軽視があるのも、社会格差として突き刺さります。
ちなみにトレントは職場内の同僚のアダムと親密な関係が第8話でさりげなく描かれており、おそらく同性愛関係だったということなのでしょうね。
シーズン1:先の展開がわからないからこそ
ドラマ『パラダイス』のシーズン1は、世界観をもったいぶりながらじっくり見せることに主眼を置いているので、ややまどろっこしいところは感じました。
前半のわざとらしいミスリードも振り返ってみると蛇足かなと思うことも…。ニコール・ロビンソンとの大統領の浮気とか、ビリーとジェーンのスパイ上の恋愛関係とか、ベタなサスペンスをそこまで入れずとも、この作品ならもっと面白い部分を描けたのではないか、と。
例えば、個人的にはあのバンカーの維持システムをじっくり見たいところです。たぶんあれだけの大規模な人口システムを維持するのには相当な労働者の数が必要のはずですし…。
そもそもこのドラマのタイムラインってどうなっているのかな。ブラッドフォード大統領のバンカーでの政治生命は事実上の3期目(2期目の延長?)の大統領キャリアになっているはずで、死亡の3年前に世界壊滅事件があって…。なんかそこまで技術が発展しているようにも思えないし、比較的現代的なテクノロジーを想定してあのバンカーを設定しているのか。
そもそもこのあたりの設定はわざと曖昧にしていて、別の秘密でもあるのか…。
シーズン1だけの情報だと本当に何もわからないので考えてもしょうがないのですけどね。なにせこの『パラダイス』という作品は原作がないオリジナルなのでこの先にどんな展開が待っているか誰にもわかりません。
本作がポリティカル・スリラーというのも最初のミスリードで終わり、ここからは本格的なポストアポカリプス的な雰囲気に様変わりするかもしれません。
ワシントンD.C.は150m近くも海の底らしいですし、他の場所もどうなっていて、どんなふうに生存者が暮らしているのか。まさか『ウォーターワールド』(1995年)みたいな世界になってるの…?
どうせやるなら思いっきり大胆に挑戦してほしいですけどね。このまま中途半端にポリティカル・スリラーを続けても沈没していくだけのような気もします。
あのバンカーのコミュニティも政権中枢の人間と富裕層たちという特権階級の奴らのためにこしらえたような住処ですし、観客側にしたら何の同情もない世界です。最終的にあのバンカーも水没させてやりました!というやり返しの展開とか、起きそうだな…。
ザビエルの娘プレスリーと親交を深める大統領の息子のジェレミーや、しぶといシナトラの愛称のサマンサ・レドモンド、そして生きているのか不明なザビエルの妻のテリ…まだまだ世界を左右するキーパーソンは健在です。
次のシーズンがこのドラマの真価が試されるときですかね。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
?(匂わせ/一瞬)
作品ポスター・画像 (C)20th Television
以上、『パラダイス』の感想でした。
Paradise (2025) [Japanese Review] 『パラダイス』考察・評価レビュー
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