2人のローマ教皇
Netflix映画『2人のローマ教皇』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Two Popes
製作国:イギリス・イタリア・アルゼンチン・アメリカ(2019年)
日本:2019年にNetflixで配信
監督:フェルナンド・メイレレス

2人のローマ教皇

あらすじ

カトリック教会の方針に不満を抱くベルゴリオ枢機卿は、ベネディクト教皇に辞任を申し入れる。しかし、スキャンダルに直面して信頼を失っていたベネディクト教皇はそれを受け入れず、ベルゴリオをローマに呼び寄せる。考えのまったく異なる2人だったが、世界に10億人以上の信徒を擁するカトリック教会の未来のため、対話によって理解を深め…。

『2人のローマ教皇』感想(ネタバレなし)

日本でも熱烈な歓迎

2019年11月23日から26日にかけてローマ・カトリック教会の頂点に立つ「フランシスコ教皇」が日本を訪れました。教皇として38年ぶり史上2度目の訪日だそうです。ニュースでも大きく報じられたので、知っている人も多いのではないでしょうか。

なお、「ローマ教皇」の他に「ローマ法王」という呼び名も日本語訳が混在してきましたが、最近、外務省が「教皇」を使用すると発表して統一化する流れができたので、この感想ブログも「教皇」でいきます。

その報道の映像の中で「パパーー!」と呼びかける信者の声や、大人気スターに匹敵するスタジアムを埋め尽くす観衆の光景を見ると、日本国内でもその支持は凄まじいんだなと実感します。日本は無宗教だなんて語る人もいますが、それは真っ赤な嘘でキリスト教だけでもこんなに信仰者がいるんですよね。

それもそのはず、このフランシスコ教皇。データでその支持率の高さは立証できます。世界人口の2割弱に当たる13億人の信者を束ねるというポジション。Twitterのフォロワーは1800万人超。これだけでその発信力は桁違いですよ。大物YouTuberすら紙屑同然です。

日本に来られた際も長崎と広島でスピーチをし、核抑止力論を明確に否定するなど、かなり踏み込んだ発言をして世界を驚かせました(まあ、日本政府側がどこまで耳を傾けるかは微妙ですけど。信者ではないし…)。

フランシスコ教皇は82歳。アルゼンチン出身で2013年に教皇に選出されて今に至ります。正直、どういう気持ちで仕事をしているのか、ちっぽけな私には全く想像がつきません。別次元の人という感じです。

そんな中、この映画を観れば、もしかしたら教皇の心の内がわかる…かもしれない。そんな映画が本作『2人のローマ教皇』です。

本作は第266代となるフランシスコ教皇の前の代、「ベネディクト16世」を描く伝記映画。伝記とはいっても当人は亡くなっていませんし(今は「名誉教皇」という立場です)、2012年あたりの時期を描くので、本当につい最近の物語ですけど。

ベネディクト16世(ヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガー)を知っているでしょうか。映画好きならば、『スター・ウォーズ』に登場する銀河帝国皇帝パルパティーンに似ているとしてネタにされていたあの人…と言えばわかるかも。もちろん『2人のローマ教皇』はそんなことを話題にする映画ではないです。

一般的には教皇の在位期間は選出から死亡までで、自分から辞任をすることはしません。しかし、ベネディクト16世は2013年2月に辞任を表明し、世界をザワつかせました。歴史上極めて異例の出来事、それは1415年に辞任したグレゴリウス12世以来598年ぶりだそうで、びっくりするのも無理はないです。

じゃあ、一体何があったのだろうか。そんな知られざるローマ教皇の心中を思い切って映画化してしまったのが本作『2人のローマ教皇』なのです。ベネディクト16世だけでなく、その後に教皇となるホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(フランシスコ教皇)も並列して描かれ、この二人の対話がメインになってきます。だからタイトルが「2人」なんですね。

よくこんな題材でドキュメンタリーではなく映画を作れますよね。タブーとか全然気にしていません。

監督は『シティ・オブ・ゴッド』で非常に高い評価を集めたブラジル人の“フェルナンド・メイレレス”。確かにこの人ならどんな題材でも忖度はしなさそう。

主役となるベネディクト16世を演じているのは、『羊たちの沈黙』でハンニバルを怪演したことで有名な“アンソニー・ホプキンス”。最近は『マイティ・ソー』シリーズやドラマ『ウエストワールド』でも変わらない名演を披露しています。もう81歳なんですね。まだまだ演技を見たい…。

そんな“アンソニー・ホプキンス”と相対する役を任せられているのが“ジョナサン・プライス”です。『天才作家の妻 40年目の真実』での丁寧な演技も記憶に新しいですね。今回は妻ではなく教皇とバトルするのです。どっちも強敵だなぁ…。


この二人の演技合戦にも大きな注目ができる本作。あれだけ日本国内にも信者がいたのですから、きっとこの『2人のローマ教皇』もすごくたくさんの人が鑑賞してくれるに違いない。そうじゃないと信仰心が疑われますよ!(偉そうに)

はい、そんな戯言は抜きにしても、本当に素晴らしい映画のひとつなので、忙しい師走ですがゆっくり時間を見つけて鑑賞してみてはどうですか。宗教題材とは言っても非常に見やすいので安心してください。コミカルなシーンも多く、基本はホッコリするドラマですから。

Netflixオリジナル作品として2019年12月20日から配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◎(宗教関係なく興味深い)
友人◯(時間があればぜひ)
恋人◯(時間があればぜひ)
キッズ△(子どもは興味ないかも)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『2人のローマ教皇』感想(ネタバレあり)

辞めたい二人、辞めてほしくない二人

電話で飛行機の予約をする男の声。ローマからランペドゥーザ島行きの便を手配しようとし、名前を聞かれたので「ホルヘ・ベルゴリオ」と回答。「教皇と同じですね?」と言われ、言葉に詰まっていると矢継ぎ早に「郵便番号は?」と尋ねられ、「知らなくて…バチカン市国です」とポツリ。すると電話先の女性は冗談でしょうと怒り混じりで電話を切ったのでした。

時間は遡り、2005年のブエノスアイレス。「フランシスコ・ベルナルドーネ」という少年が「教会を建て直せ」という声を聞いた話。これはフランシスコ会の創設者として知られるカトリック修道士のことで、アッシジ郊外のサン・ダミアノの聖堂でのエピソード。その話題を聞き入る大衆と、演説する神父。神父の名前は「ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ」。貧しい者も多いこの街で庶民生活に密着しながら静かに暮らしていたベルゴリオ神父でしたが、そこへ「教皇が死去されました」との訃報が…。

ローマ教皇「ヨハネ・パウロ2世」の死に世界中が悲しみに包まれました。葬儀が行われると同時に世間の関心は“次の教皇は誰になるか”ということに集中。教会の改革に否定的だったと今は亡き以前の教皇の評価を語るメディア。115名の枢機卿が集まり、保守派と改革派の動向を探りながら、誰が後継者はなり、その人はどんなふうに宗教を引き継ぎ、変えるのか。

枢機卿による投票で新しいローマ教皇を選出する手続き「コンクラーベ」が始まりました。

重大な決定がなされる地に集まった枢機卿のひとりであったベルゴリオ。彼は既存の教会を改革しようとする立場の人たちに好かれていました。しかし、保守派に支持される「ヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガー」が有力候補。ラッツィンガーは真逆な立場にいるベルゴリオに冷たい態度。

いよいよ投票が開始。ヨーゼフ・ラッツィンガー;47票、ホルヘ・ベルゴリオ;10票、カルロ・マルティーニ;9票…。コンクラーベでは3分の2以上の得票がないと教皇として選出されません。選ばれなければ黒い煙、選ばれれば白い煙があげられ、外で結果を見守る大衆に知らされます。当然、今回は黒い煙があがり、また投票はやり直し。

休憩中、ベルゴリオ支持の枢機卿たちは「リーダーに必要にな資質はリーダーになりたがらないこと」だと語りつつ、「ラッツィンガーはリーダーになりたがっている」と懸念を表明。しかし、結果は動いていました。3回目の投票で白い煙があがります。

大衆の前に登場したのはラッツィンガーでした。ベネディクト16世として新教皇となった彼を大歓声が迎えます。「保守派の勝利ではない」「意見の分裂は無かった」と伝えるメディア。この祝いの日に水を差す者はいない…と思いきや、ラッツィンガーがドイツ出身で子ども時代にヒトラーユーゲントに参加もしていたこともあり、「ナチスの教皇なんて認めない」という市民の声も…。

そして月日は経って2012年。バチカンは揺れていました。教皇庁の内部告発文書が流出、資金洗浄、司祭による性的虐待、執事の逮捕…。スキャンダルの連続で、教皇&カトリック教会の権威は下がっていく一方です。

ベルゴリオはローマへ向かっていました。教皇は別荘であるガンドルフォ城にいるとのことでそこに到着。久しぶりに相対した二人は庭で語り合います。ベルゴリオは枢機卿の退職願いを出していました。しかし、教皇は「君の辞職は教会批判と世間は受け取る」とそれを聞き入れません。ピンチ続きのカトリック教会の現状に対して教皇も相当に焦っており、対立的だったベルゴリオも無下に扱えない状況でした。教皇もまたある自分の決断を心に秘めており…。

そしてベルゴリオの過去が語られます。それは1956年のブエノスアイレス。ベルゴリオは恋人と一緒になるか、司祭になるか、道に迷っていました。そして“声”を聞くことに…。

教皇でも誰でも「他者」が必要だから

世界中の関心を一挙に集める人間ですから、教皇を描く映画もたくさん存在します。ヨハネ・パウロ2世の半生を描いた『カロル 教皇になった男』(2005年)であったり。フランシスコ教皇を題材にした伝記映画も、イタリアとスペイン合作の『ローマ法王になる日まで』(2015年)、アルゼンチン映画の『Francis: Pray for Me』(2015年)など。ドキュメンタリーだったら、ヴィム・ヴェンダース監督が手がけた『ローマ法王フランシスコ Pope Francis: A Man of His Word』(2018年)とか。

私は教皇を描いた作品を全て観たわけではないですけど、『2人のローマ教皇』でも群を抜いて特徴的な一作だったのではないでしょうか。その特徴は「自己批判」

カトリック教会の宣伝映画になるどころか、かなりのその裏側の見せたくないところにまで踏み込むその姿勢。かといって組織批判をするようなジャーナリズム性ではなく、あくまで個人の人生の問い直し。まさに「告解」と同じことを映画がしています。

同質の作品と言えば、『ローマ法王の休日』(2011年)がありました。名作に便乗した安直な邦題をつけられたせいで誤解されている作品なのですが、鑑賞者を騒然とさせる衝撃エンディングで隠れた珍作扱いになっています。ネタバレになるのでその作品に関しては詳細は書きませんが、『2人のローマ教皇』と相当に似ていますよね(『ローマ法王の休日』はあの出来事が起こる前に作られた映画なのが凄いです)。

しかし、『2人のローマ教皇』はタイトルのとおり二人の教皇同士の告解のし合いという構成が巧みで、これで一発勝ちしている感じです。双方の罪との向き合いは同じでも、片やラッツィンガー(現教皇)は自分が辞任する覚悟、もう片方のベルゴリオ(未来の教皇)は辞めることを止めて前に進もうとする覚悟…やろうとすることは違います。でもそれは教会のため、世界のためになる。

宗教の本質がこれほどまでにわかりやすく提示される作品はないのではないでしょうか。宗教に興味ない人は「それってなんでも神頼みでしょ?」とつい思ってしまいがち。しかし、神に何でも頼めば解決したり、導いたりするわけじゃない。結局、それは自分との向き合い。そしてそれは宗教に関係なく、みんなが直面することであり、その達成に必要なのは“他者”なのだ、と。「君のような者には私の気持ちは理解できない」なんて言っちゃダメだ、と。

本作を観ていると教皇すらも当たり前に悩んでいるんだと思えます。その“普通の人”のような姿が私たちに自分との向き合うきっかけを与えてくれて…こうやって“他者”は連鎖していくんですね。

1976年、独裁政権下のブエノスアイレス。当時、イエズス会アルゼンチン管区長で、3万人の市民が殺されている中、マセラ海軍提督に手を貸すようなことをしてしまった若きベルゴリオ。それ以降は軍政に加担した共犯者として罵られる業を背負ってしまった彼に、私のような人間は重ねるわけにはいかないです。でも罪の大小はあれ、やっぱり罪はある。

葛藤していいんだ、罪があってもいいんだ…問題はそれから逃げないこと。罪悪感を保有していない人間なんていない社会にはまさに必要な映画でした。

2人のローマ教皇

サッカー、観よう。

『2人のローマ教皇』はこの対話型告解のテーマだけならば、下手をするとすごく説教くさい退屈な雰囲気になりかねないのですが、そこをカバーする方法を心得ているのも本作の上手さ。

基本はおじいちゃん同士の他愛もない会話スタイルなので、なんともほっこり。日本でもよくある光景です。おじいちゃん映画好きにはたまらない場面の連続ですね。ありがちな宗教臭を見事に消しています。

ABBAの「ダンシング・クイーン」をBGMに映し出されるコンクラーベのなんとも言えない、儀式的行事に“踊らされている”感が満載のおじいちゃん集団。凄い大事なイベントをこなしているはずなのに滑稽。

他にも笑いを誘うシーンの数々。でもこれらは単にウケありきではなく、ちゃんと「他者を通して自分と向き合う」というテーマに通じるものになっています。一緒に踊るタンゴは二人でやるから意味がありますし、サッカーだって対戦相手がいないとプレイにすらならない。

ラストは、サッカーを一緒にテレビ観戦。出身国同士の対決である「アルゼンチンvsドイツ」。ここでドイツが優勝するというオチもよく、全体的に後退するばかりで後ろ方向だったベネディクト16世のささやかな勝利が最後にくっつくことで、ちゃんとおあいこな感じでまろやかになってます。

やっぱり持つべきは話を聞いてくれる相手。それは神様かでも友達でもなんでもいいのです。

「歩いてください」と誰かが言っています。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 76%
IMDb
7.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

関連作品紹介

『ローマ法王の休日』
…教皇に選ばれてしまった男。しかし、土壇場で決心は揺らぎ始め…。ラストは作中の登場人物と同じく観客も“ぽか~ん”です。 作品ポスター・画像 

(C)Netflix