感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『ザ・ウェイバック』感想(ネタバレ)…ベン・アフレックはこうして再起した

ザ・ウェイバック

ベン・アフレックはこうして再起した…映画『ザ・ウェイバック』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Way Back
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にDVDスルー
監督:ギャヴィン・オコナー

ザ・ウェイバック

ざうぇいばっく
ザ・ウェイバック

『ザ・ウェイバック』あらすじ

高校ではバスケットボールの天才として鳴らし、有望とされていた。ところがなぜか突然、バスケットコートから去り、輝かしい未来を自ら棒に振ってしまう。それから数年が経った今、ジャックはやりがいのない仕事に行き詰まり、酒に溺れ、それがもとで結婚も人生への希望も失っていた。そんな折、彼は母校からバスケットボールのコーチを頼まれ、どん底から踏み出す。

『ザ・ウェイバック』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

日陰者になった監督と俳優

人気者がいれば日陰者もいる。それが世の中の真理です。

DC映画『ザ・スーサイド・スクワッド』の監督にジェームズ・ガンが抜擢されたと発表された時、多くの映画ファンは狂喜乱舞し、喜び合っていました。しかし、その陰でひとりの人物が忘れ去られていたことを気にかけた人はどれくらいいたのでしょうか。

その人とは“ギャヴィン・オコナー”。もともと彼の監督で企画が地道に進められていたのに、新しいディレクターになるや注目は一気にアップ。確かにそっちの監督の方が映画ファン受けがいいのはわかります。みんな素直な反応です。でもなんだか…人気の格差がハッキリでちゃって悲しくもあり…。

しかし、“ギャヴィン・オコナー”の不運で悲壮感ある扱いはまだ続きます。

せっかくの話題作からドロップアウトしてしまった“ギャヴィン・オコナー”監督は、めげずに次回作に乗り出し、ついに最新作『ザ・ウェイバック』を完成させます。そしていよいよ公開。アメリカでは2020年3月の始め、映画館で上映がスタートです。2020年3月…3月…そうです、コロナ禍が間髪入れずに直撃し、観客は一瞬で大幅減。渾身の一作だったにもかかわらず、映画の評価自体は最高級に上々だったにもかかわらず、客が見てくれない。辛い、辛すぎる。

しかも、日本ではさらに追い打ちが。本作『ザ・ウェイバック』は日本では劇場公開されることなく、配信スルーになってしまいました。全く宣伝されず、ひっそり配信されるだけの存在に…。なんだ、そこまで“ギャヴィン・オコナー”監督、悪いことしましたか…?

さすがにここまでの冷遇だと可哀想とか言うレベルではないので、私は精一杯応援したいです。

それにこの本作『ザ・ウェイバック』は“ギャヴィン・オコナー”監督フィルモグラフィの中でも突出した傑作で、私としては監督作の中でも『ウォーリアー』を抜いて一番好きかもしれません。そんなことも言いたくなるほど、本当に噛みしめたくなる良い映画です。

本作を語るうえでもうひとり忘れてはいけない人物がいます。それは主演の“ベン・アフレック”。本作はアルコール依存症の男がどん底の人生を再起させようともがく物語。そしてご存知の方もいるように、“ベン・アフレック”も重度のアルコール依存症です。

もともとクリント・イーストウッド再来なんてもてはやされるほどに俳優としても監督としても成功し、アカデミー賞を登りつめた彼でしたが、そこからは急激な下り坂。アルコールに溺れ、リハビリするもまたもぶり返し、そのせいで妻とも離婚し、完全に負のスパイラルに陥っていました。主演した「バットマン」関連作もボロクソだし…。あげくに弟もろともMeToo余波で立場が悪くなり、ズタズタです(自業自得な部分もあるけど)。

しかし、どうやらこの『ザ・ウェイバック』が救いになったようです。アルコール依存症にハマる主人公を演じながら、“ベン・アフレック”も自分自身と向き合い、立ち直っていけたのだとか。

“ギャヴィン・オコナー”監督とは『ザ・コンサルタント』に続いての付き合いですが、良い友を持った感じなのかな。

ともあれ“ベン・アフレック”を語るうえでも欠かせない映画です。別に“ベン・アフレック”の伝記映画というわけではないのに、彼の人生の一部を見せられているような気分になります。

他の俳優陣は“ジャニナ・ガヴァンカー”“ミカエラ・ワトキンス”などがいるのですが、ほぼほぼ“ベン・アフレック”のひとり芝居を堪能していく作品だと思った方がいいかもしれません。

あと、一応、バスケットボールを題材にしているのでバスケ映画でもありますね。あくまで高校のバスケ部の話なので、そこまで業界事情やスポーツ・テクニックが堪能できるものではないですが。ちなみにアメリカの本作の公開が3月なのも、「マーチ・マッドネス」と呼ばれる3月の全米大学体育協会バスケットボールトーナメントの開幕に合わせているらしいです。

監督&俳優ファンの人は必ず「観る映画リスト」に加えておきたい一本でしょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(じっくり堪能しよう)
友人 ◯(盛り上がるタイプではないが)
恋人 ◯(盛り上がるタイプではないが)
キッズ △(大人のドラマです)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・ウェイバック』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

その手にはいつもアルコール

とある建築現場。高層ビルを組み立てる作業員が大勢働いています。そして今日の作業が終わり、それぞれが帰路につくべく、三々五々別れていきます。

その中のひとりの男が車に乗り、仕事場を後にします。車内にはボックスに入ったアルコールの缶が常備されており、運転するのにも関わらず、平然と飲みほしていきます。

その男、ジャック・カニンガムは帰宅後、テレビを観てまどろみますが、ここでも手にはアルコールの缶。シャワーを浴びる時、やっぱりここでもアルコールの缶。どんな場所でも手放せません。

ジャックの状態は誰から見ても深刻なアルコール依存症でありましたが、当の本人は気にしていません。妻のアンジェラとは別居中で、ひとりでの生活。労働して酒を飲む…この繰り返しです。

ある日、感謝祭で出会った妹のベスにあまりにも目に見えてアルコールの依存が激しいので心配されますが、ジャックは逆上するようにキレて感情を爆発させるだけでした

翌日、ジャックはカトリック系の高校に関与するディバイン神父から電話を受けます。実はジャックは高校時代、バスケットボール選手として実力を持っており、有名でした。しかし、あるきっかけでバスケをやめてしまっていました。今回、連絡してきたのは高校のバスケ部のコーチをしてくれないかという提案。どうやら以前のコーチは病気で指導できなくなったようです。

バスケから離れて久しいジャックは最初は全く自信もなく断ろうと考えます。とにかくアルコールの缶をあける、あける、あける…。悩みに悩み抜いて、とりあえず校舎に行ってみることに。

そこで今まさに練習中のバスケ部がおり、ジャックは若者たちを眺めます。母校の教員であるダンの説明を聞き、選手のことも紹介してもらいます。みんなよく動いていますが、チームの中心であるマーカスを始め、すぐに口論を始めるなど、緊張感みたいなものは欠片もないです。すっかり弱小チームに甘んじているらしく、これはいろいろ大変そう。

とにかくジャックはコーチを引き受けることにしました。しかし、コーチに身が入ることはなく、最初の試合は大敗。ジャックはバーで酒を飲み、飲み仲間に支えられないと歩けない始末です。

次の試合。相手は優秀で、応援の勢いも強く、大観衆でした。試合が始まるとその実力差は歴然。敵におされるばかり。相手の得点がどんどん決まり、こちらはろくにシュートすら打てません。ジャックはチームを叱責し、反抗的なマーカスをベンチに戻します。試合再開。プレイをめぐって乱闘騒ぎになりつつ、結局は大敗してしまいました。

しかし、ジャックの中で何かに火がつきました。またも試合。今度はいつまにか勝たせたいという想いが高まり、戦略を熱心に説明し、指示をガンガンと飛ばします。そしてギリギリで勝てました

ここから出る試合、どんどん勝利を連発していきます。チームの雰囲気も良くなり、充実感をジャックも得られるようになっていきました。チームと折り合いが悪かったマーカスもジャックの家にわざわざ謝りに来て、チームにまた参加するようになりました。試合に勝つごとにチームは盛り上がり、ジャックの気分も高揚。もうアルコールの缶を手にしていません。

そんな中、ジャックがずっと抱えこんでいる苦しみが明らかになります。そして、再び大きな悲劇に直面した時、ジャックの手はアルコールに伸びてしまい…。

スポンサーリンク

その道はどこで終わるかもわからない

『ザ・ウェイバック』はまず冒頭から「これは良い映画だな」と思える出だしに痺れます。全くセリフもない中で、アルコールの缶を肌身離さず手にし、飲みまくっている男。建設作業中も水筒にアルコールを混ぜて持ち込んでいるのですから、観ているこっちが危なっかしくてハラハラです。

完全な孤独とアルコールの缶。この淡々とした映像だけでも、主人公のジャックのアルコール依存が重度であることは丸わかりですし、それと同時に自分ではどうすることもできない閉塞感をビシビシと感じます。

このへんの重苦しい映像センス、絶対にアルコール飲料会社のCMではお目にかかれないですよ。でもこれもまたひとつの事実。むしろこれがアルコールの本質かも。

一方で主人公が建設現場の作業員で働いているというのもいいですね。つまり、この現場はチームで成り立っているのですけど、非常に機械的で黙々とした流れ作業なわけです。スポーツみたいなアツいエネルギーはありません。あくまで歯車として働いているだけ。

そんな状態にいたジャックが再びスポーツの場に舞い戻っていく。すると今度は本当にチームとしてやっていくことになります。歯車ではない、それどころかリーダーとして指揮しないといけない。これは同時に社会復帰そのものを意味していくことにもなり…。

その再起を象徴していくのがバスケットボールの試合の勝利。ただ、本作はここでも意外なほどに冷めた立場で落ち着いています。スポーツ映画ならいかにもスポ根を全力で出し切り、エモーショナルな展開を入れまくってもよさそうなのに、この『ザ・ウェイバック』はそうしません。ここでも冒頭のシーンのように、淡々と演出していくんですね。試合終了後、スコアが映像に小さく表示され、ジャックが指導するバスケチームが勝ったかどうかが観客に示されます。その後の余韻もありません。

でも着実に勝ちを積み重ねていく興奮、自分への自信の高まりみたいなものはひしひしと伝わってくる。この抑えに抑えた演出センスが『ザ・ウェイバック』の良さです。

ジャックとその妻には癌で亡くなった息子のマイケルがいたことが明らかになる際も、とても静かで、変な大仰なインパクトを煽ることもしません。

そのため、ジャックが再びアルコールに手を付け始める展開もいつのまにか起きており、それによってアルコール依存症の再発は音もなく移り変わってやってくるという怖さも表現されていたと思います。

そして車で事故を起こし、他人の家に侵入してしまうジャック。あそこで「あ、ここで死ぬのかもしれない」と思わせる。ある意味での人生の終わりが唐突にやってくる恐怖があのシーンで凝縮されていました。

アルコール依存症はどうしても日本では軽視されがちで、少し酒癖が悪いとか、飲み過ぎちゃっている人…程度の感覚で片づけられる傾向にありますが、実際は違って本作のように一瞬の命取りで人生が終わることもあるし、他人の人生を終わらせてしまうこともある。

原題の「way back」とは「ずっと昔」とか「帰路」という意味ですが、アルコール依存症はまさしく道を外す存在に他ならないですね。

スポンサーリンク

ベン・アフレックはメンターになった

もちろん主演の“ベン・アフレック”の演技も格別に良かったです。

当然、自分自身もアルコール依存症だったわけですから、その演技が本物そのものなのも納得ですけど、それにしたってリアル。

何がリアルって、安易に酔って暴れまわるだけの映像映えする行為はほとんどしないという部分。映画である以上、酔っぱらって暴走する方が絵になるので描かれがち。でも本作ではひたすらにアルコールの缶をあけるという繰り返しの描写でその怖さが示されます。

それに加えての“ベン・アフレック”の佇まいから自然に発せられるリアリティですよ。彼は体格も大きいし、その気になればなんか強そうなはずなのに、なぜだか風が吹けば折れそうな弱々しさも持っています。デッカいのに小さいっていう…。

その彼が高校生相手に指導をするというのも、ある種の丁度よさがあって、さすがに高校生の前に立つと、あのジャックも強く見えます。で、リハビリしていくわけですね。高校生相手にそんなリハビリテーションなんてダサいと思うかもですが、つべこべ言ってられない。

そんなジャックが高校生と一緒の輪に入っていく。そこにまた自然なカタルシスがあって…。

高校生の中にもブランドンのようにバスケを辞めようかと迷う者もいて、それがまたジャックの過去に重なってきます。このさりげないオーバーラップも主張しすぎない目立たなさでそこも良かったです。

その姿を見ていると、“ベン・アフレック”もいつのまにかメンターの役をやれるようになったんだなぁとちょっと感慨深い気持ちになります。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の頃から、ほんと、大きく成長したんですね(しみじみ)。
アルコール依存症は完治と言い切るのが難しいので、ずっと付き合っていくことにはあるのでしょうけど、本作のラストのようにゴールに一本一本シュートを決めていけば、何かが上達していく。人生の終わりではないことを教えてくれる、良い映画でした。

なお、当の“ベン・アフレック”ですが、元妻ときっぱり離婚した後、今は新しい恋人アナ・デ・アルマスと実にラブラブな様子。パパラッチにも一緒に仲睦まじいペアを撮られまくっていますが、そのイチャイチャっぷりを隠すこともせず、むしろ幸せオーラを見せつけてきています。なんか周囲の人にはイチャイチャしすぎて閉口気味な空気もあるとかないとか…。

ともあれ今の“ベン・アフレック”は幸せ絶頂期に突入しているみたいですし、今後は彼のフィルモグラフィの傾向も変わるかもしれませんね。どうしますか、すっごいベタな恋愛映画とか監督しだしたら…。惚気るのはさすがに映画外でやってほしいとも思わなくも…。

“ベン・アフレック”、アルコールじゃなくて美女に酔っぱらってるね!(上手いこと言ったつもり)

『ザ・ウェイバック』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 84%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
スポンサーリンク

関連作品紹介

ベン・アフレックが主演する映画の感想記事の一覧です。

・『トリプル・フロンティア』

・『夜に生きる』

・『ザ・コンサルタント』

作品ポスター・画像 (C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved ザ・ウェイ・バック

以上、『ザ・ウェイバック』の感想でした。

The Way Back (2019) [Japanese Review] 『ザ・ウェイバック』考察・評価レビュー