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『社会から虐げられた女たち Le bal des folles』感想(ネタバレ)…「狂女たちの舞踏会」を実写映画化

社会から虐げられた女たち

ヴィクトリア・マスの「狂女たちの舞踏会」を実写映画化…映画『社会から虐げられた女たち』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Le bal des folles(The Mad Women’s Ball)
製作国:フランス(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にAmazonで配信
監督:メラニー・ロラン

性暴力描写

社会から虐げられた女たち

社会から虐げられた女たち

『社会から虐げられた女たち』あらすじ

裕福な家庭で暮らす若い女性のウジェニーには、死者の声を聞いたり姿を見たりできる特別な力があった。19世紀末、家族にその秘密を知られてしまった彼女は、父と弟によってサルペトリエール病院に入院させられてしまう。彼女の運命は病院の看護師であるジュヌヴィエーヴの運命と複雑に絡み合っていく。魂の声を語ることで密接に…。そして、シャルコー医師が主催する毎年恒例の「舞踏会」が近づく。

『社会から虐げられた女たち』感想(ネタバレなし)

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「狂女たちの舞踏会」を実写映画化

たまに映画の邦題を見ていると純粋に「何でこんなタイトルにしたのだろう」と思ってしまうものもあります。変な邦題というネタになるタイプではなく、素朴に疑問でしかないような…。

例えば、原作がある映画は一般的には原作が邦訳されていればそのタイトルに従うのがセオリー。その方が原作の映画化だとわかるし、原作を知っている人が映画に関心を持ちやすくなるし、映画から原作へ流れて相乗効果で売れたりもするものです。まあ、原作の邦訳タイトルがよほど酷いものだったらあれですが…基本的には良いことづくし。「ハリー・ポッター」の映画版の邦題が『魔法使い学園マジカルスクール』とかになってたら誰も観ないでしょう。

しかし、原作の邦訳タイトルから丸っきり変わってしまう映画もあるんですね。『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』とかはまだ名残があるのでマシで、中には「え? あの原作の映画化だったの!?」とびっくりするような邦題も…。宣伝でアピールしていればいいのですが、それさえもないこともあるともはや深く下調べしたファンの指摘でやっと気づく人もいる。これではなんだか可哀想です。

今回紹介する映画も原作がわかりづらいです。タイトルは『社会から虐げられた女たち』

邦題はなんとも「ああそう、虐げられてるんだね…」という説明的な感想しか湧いてこないですが、本作の原作はフランス人作家の“ヴィクトリア・マス”のデビュー長篇小説である「狂女たちの舞踏会」なのです。原題は「Le Bal des folles」、英題は「The Mad Women’s Ball」。これは絶対にタイトルだけでは把握できない…。なぜ邦題も『狂女たちの舞踏会』にしなかったのか…こっちの方がインパクトもあるし、内容どおりなのに…。原作が2019年8月に刊行されたばかりで、邦訳書籍も2021年に出たばかりだから、どうせみんな知らないと思ったのかな…。

ともあれ『社会から虐げられた女たち』は“ヴィクトリア・マス”の「狂女たちの舞踏会」の実写映画です。強調しておかないと…。

この“ヴィクトリア・マス”は1987年生まれでまだ若いですし、デビューしたての作家ですが、この「狂女たちの舞踏会」ですでに大注目の新鋭となりました。「高校生が選ぶルノードー賞」を受賞し、若い世代からの支持もあるのでしょうか。確かにそんなセンスを感じさせる内容です。

物語は19世紀末のパリを舞台に、ひとりの若い女性が「霊が見える」と言ってしまったばかりに精神病院に強制入院されてしまうという出だしで始まります。その病院内で起きる世間からは「イカレた」と見下される女性たちの人間模様が描かれています。雑に言ってしまうと『カッコーの巣の上で』の女性版みたいな…。

フィクションに思えますけど、作品の多くは歴史に基づいています(そのあたりは後半の感想で)。歴史をフェミニズム的な視点で綴る作品ですね。

『社会から虐げられた女たち』の監督は、『イングロリアス・バスターズ』でハリウッドデビューし、最近は『オキシジェン』でひとり熱演を見せたフランス人俳優で、近年は『ガルヴェストン』などで監督業も盛んにやっている“メラニー・ロラン”です。

ここにきて『社会から虐げられた女たち』は“メラニー・ロラン”監督の代表作として間違いなく刻まれたでしょう。本作では“メラニー・ロラン”自身も重要なキャラクターを演じています。

主人公を演じているのは、『世界にひとつの金メダル』(2013年)で有望な若手として注目を集め、『呼吸 友情と破壊』(2014年)でセザール賞の最優秀女優賞にノミネートされた“ルー・ドゥ・ラージュ”

他には『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』の“エマニュエル・ベルコ”、『Summer of 85』の“バンジャマン・ヴォワザン”などです。

日本では劇場公開されず、Amazonプライムビデオで配信されるのみなのですが、見逃すには惜しい名作です。「社会から虐げられた女たち」でタイトル検索して探してくださいね(「狂女たちの舞踏会」で検索しても表示されません)。

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『社会から虐げられた女たち』を観る前のQ&A

Q:『社会から虐げられた女たち』はいつどこで配信されていますか?
A:Amazonプライムビデオでオリジナル映画として2021年9月17日から配信中です。

作品を観れます!

オススメ度のチェック

ひとり5.0:必見の名作です
友人4.0:女性の歴史に関心があれば
恋人3.5:作品に共感する人と
キッズ3.5:暴力的な描写あり
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『社会から虐げられた女たち』予告動画

Le Bal des Folles (The Mad Women’s Ball) | Official Trailer | Prime Video
↓ここからネタバレが含まれます↓

『社会から虐げられた女たち』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):霊が見えたと主張する女

ひとりの黒服の女性が上品なテーブルの席に座ります。彼女の名前はウジェニー・クレリ。家族との食事ですが「遅れました」と弁解。「どこへ?」と真正面に威厳たっぷりに座っている父は詰問してきますが、ウジェニーは「ジョゼフィーヌの家に」と短く返答。

その食事では、弟のテオフィルは活動を褒められていました。「私も討論会に行ってみたい」とウジェニーは口を挟みますが、「許さん」と父はぴしゃり。

夜中に何かの気配を感じるウジェニー。「そこにいるのは誰?」…体を震わせ、何かを全身で察知します。水で顔を洗って落ち着くと、背後に祖母が立って見ていました。

祖母を寝かしつけようとすると、「ウジェニー、教えて。ヴィクトル・ユゴーのお葬式に行ったの?」と祖母に言われます。ウジェニーが食事に遅れた本当の理由を祖母は見抜いていました。

翌日、テオフィルの馬車に乗り込み、ひとり街をぶらぶらと探索、その後にカフェで読書。するとひとりの本を読む男に目がいきます。その男はこちらの視線に気づき、前に座ってきます。ウジェニーは「あなたじゃなくてその本を見ていた」と説明し、その本「静観詩集」を指します。「きみが見ていたのは僕の魂?」という言葉が響いたらしくハっとするウジェニー。本をくれました。

そんなこともありつつ、ウジェニーは口を滑らせて「社交界は雌馬の品評会のようだ」と言ってしまったことでオルタンスの機嫌を損ねてしまいます。

ある日、テオフィルと時間を過ごしていると、また何かを感じて息が荒くなり、「数日前から若い女性が見える」と告白。テオフィルは心配します。「そういう人がどうなるか」を…。

その後も、祖母の髪を整えているとまた不思議な行動に出て、引き出しの中からアクセサリを見つけ出します。祖母は「奇跡よ」と驚愕し、なんでもそれは40年前に亡くしたおじい様からの記念品だというのです。「なぜわかったの」と聞いてくる祖母に「おじい様に聞いた」と答えるウジェニー。

別の日、オルタンスに謝罪に行くというつもりで馬車に乗ります。その直後に母はなぜか涙を流していたのですが、到着したのはサルペトリエール病院という精神科病院だとわかり、すぐに察します。父とテオフィルに必死に訴えますが強引に引きずられて連れていかれ…。

全裸にされて身体チェックを受けるウジェニー。院内はどこからか悲鳴やらで騒がしく、目の前にいる看護師長のジュヌヴィエーヴも険しい顔。

共同寝室の自分のベッドの隣はルイーズという女性でした。彼女はお喋りで、「舞踏会の衣装は選んだ? あなたは美人だから引っ張りだこね」とハイテンション。この病院では年に1回外部の人を招いて舞踏会が行われるようです。

そこでの食事も騒がしいです。ルイーズは各人を紹介してくれ、「あなたは何の病気?」と質問。ルイーズは叔父さんに襲われたと言ったらここに連れてこられたそうで、自分が病気だと素直に信じていました。

ウジェニーは「霊が見えたと主張する女」として異常者扱いされ…。

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医学は女性の犠牲の上に成り立つ

前述したとおり『社会から虐げられた女たち』は歴史に基づいています。

当時、規範から少しでも外れた多くの女性は社会から「異常者」とレッテルを貼られ、医学的診断の名のもとに精神病院に閉じ込められ、自由を奪われました。

怒りを露わにしただけで、自分の主張を述べただけで、同性を愛しただけで、女性らしく振舞わなかっただけで、性的暴行を訴えただけで…。「ヒステリー」という便利な言葉が女性たちに容赦なく紐づけられてしまう、そんな時代。

それだけでなく、あの舞台となっている「サルペトリエール病院」、実はパリに実在する病院です。しかも、あの病院は異端の存在とかではない、フランスで由緒ある歴史を持つ最大規模の病院であり、当時の医学の最先端研究の場でした

その事実が何よりもゾッとすることです。医学の最新の現場であんな非道なことが行われていたのですから。女性たちを研究材料としか思っていない男たちが、催眠術で痙攣させて麻痺症状が女性に生じても、興味深い事例としか扱われない。氷水に隔離に閉じ込めたり、地下独居房で体罰を与えてもいい。臨床データが集まればそれでいいのです。

あのシャルコー先生と呼ばれる医者も実在の人物で、「ジャン=マルタン・シャルコー」と呼ばれる神経医学の最高権威のひとりでした。催眠療法が専門で本当に作中どおりのああいう催眠にかける行為を実演していたのです。医学の世界では今も称賛されている偉大な研究者となっています。あのジークムント・フロイトもこのシャルコーから学んでいます。

これが医学の現実。今日に至るまでの医学の発展は多数の女性の犠牲の上にある。あのシャルコーだって見方を変えれば女性をヒステリーという解釈に軟禁し、尊厳を侵害して蹂躙したサディストにしか思えないですし、あの医療の進歩を支えた病院もただの収容所でしかありません。

『社会から虐げられた女たち』は弱き立場の視点からこの歴史の不都合な事実に真剣に向き合った一作でした。

ちなみに2012年にはあのシャルコーと女性患者が恋愛関係を築いていく『博士と私の危険な関係』という映画も公開されており、この『社会から虐げられた女たち』を観た後だととても受け入れがたい内容ではありますね。

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今夜は誰もが正気じゃない

『社会から虐げられた女たち』はそんな現代医学の歴史の大動脈にある汚点は暴き出す、ドキュメンタリー的な作品ではありません。

そこにちょっとした仕掛けを加えており、それをもたらすのが主人公のウジェニーです。彼女はまだ若い女性で裕福ながら平凡な人柄ですが、「霊が見える」そして「霊の声が聞こえる」ということになっています。

どうしてこんなスピリチュアルな設定が飛び出すのか。それこそ非現実的ではないか。しかし、それは言い換えれば医学が立ち入れない世界であり、同時に社会に踏みにじられて声もあげられなかった迷える魂の代弁者として役割を果たすことにもなる…。つまり、ウジェニーはあのサルペトリエール病院を根城とする当時の医学男性権力に対する強烈なカウンターです。

ウジェニーは霊の声を伝えることで図らずも多くの女性をセラピーしていくことになります。初めは祖母、そしてジュヌヴィエーヴの妹の声も聞き、陰湿なジャンヌの過去にも踏み込む。本当は女性たちにはこういう存在が必要だったかのように…。

一方で男性たちはウジェニーのその能力に冷たい反応です。ジュヌヴィエーヴの父すらも結果的に自分を救ってくれたウジェニーの話を知るや否や「恥を知れ」と怒鳴り散らす。男性はなぜスピリチュアルをバカにするのか、忌み嫌うのか…それは自分たちの特権を脅かすからでしかない。科学的じゃないからという理由ではないんです。だってサルペトリエール病院の惨状を見ればわかるとおり、科学的かどうかは男社会が勝手に決めていいんですから。

そういう意味では本作『社会から虐げられた女たち』は、社会で信頼性があるとされるエビデンスさえも男社会に牛耳られていることの怖さも伝えていますね。

また、忘れてはならないのはウジェニーの文学への心酔。ヴィクトル・ユゴーの葬式から始まるのも印象深いです。彼は「レ・ミゼラブル」など偉大な作品を生んだ詩人・小説家ですが、一方で女性関係のあれこれな話題も多く、レイプで捕まったこともあります。彼の葬式で開始する本作は男性的な反体制運動の終焉というか、次は女性の番だという静かな宣戦布告のような趣も感じたり…。

本作のラストはまさに狂乱の舞踏会の中で虐げられてきた女性たちが密かに反旗を翻します。身代わりのように今度は自分が患者として捕まることになったジュヌヴィエーヴ。ウジェニーは彼女を救えるのか。

本作のエンディング以降、19世紀後半から20世紀初頭、フランスでもフェミニズムの第1波が到来します。舞踏会はここからが本番なのです。

『社会から虐げられた女たち』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 81% Audience –%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

18世紀&19世紀初頭のヨーロッパを舞台にしたフェミニズム映画の感想記事です。

・『燃ゆる女の肖像』

・『エノーラ・ホームズの事件簿』

作品ポスター・画像 (C)Légende Films

以上、『社会から虐げられた女たち』の感想でした。

Le bal des folles (2021) [Japanese Review]