ゾンビ・オリンピックは三密で開催します!…Netflix映画『アーミー・オブ・ザ・デッド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:ザック・スナイダー
アーミー・オブ・ザ・デッド
あーみーおぶざでっど
『アーミー・オブ・ザ・デッド』あらすじ
ラスベガスは人々の欲望と快楽が渦巻く街。そのはずだった。それは昔の話。今は突如として起こったゾンビの大量発生により、このきらびかな街並みは跡形もなく荒廃し、完全に隔離されてしまった。そこへ足を踏み入れた命知らずの集団が、究極の一獲千金を狙い、史上最大の強盗計画に打ってでる。しかし、そこに待ち受けていたのは想像を絶する存在だった。街が持っていた欲望と快楽はゾンビも変える…。
『アーミー・オブ・ザ・デッド』感想(ネタバレなし)
戯言を発するゾンビはぶっ倒そう
なんだか世間から戯言が聞こえてきたような気がします。「LGBTは種の保存に背く」とかうんたらかんたら。
こんな怒髪冠を衝く虚言や暴言にムシャクシャしたときは、やっぱり人がいっぱい死ぬ映画を観るに限りますね。不謹慎かもしれないって? いいんです。私だって映画の中でならあんなクソ野郎やアホどもを殺しまくれるのです。これぞ創作の自由によるエネルギー補填。私なりの種の保存ですよ。
ということで今回紹介する映画、『アーミー・オブ・ザ・デッド』です。
ざっくりとした内容を半分は嘘を交えて紹介すると…
オリンピックが開催。場所はラスベガス。ここには何が何でもオリンピックをやりたい人たち(通称:ゾンビ)が集まり、三密状態でひしめき合っています。ワクチン? 電話がつながるなら頑張れば? 全ては自己責任。まさに己の利権しか眼中にない欲望の街ならでは。ゾンビたちは何やらよくわからない呻き声をあげていますが、まあ、たいしたことは言っていません。そんなこの街は隔離状態にあり、観光客は入ってこれません。じゃあ、しょうがない。ゾンビたち自身で大運動会だ!…ということで、ゾンビが走る、飛ぶ、殴る、馬に乗る、声援を飛ばす。ゾンビ・オリンピックにルールは無用。延期もないし、中止もない。エンドレスにこの狂乱を体験し続けるのです。その暴走しまくりの街には困っている庶民には配る気もない大金が眠っています。それを狙うのは補償もなく、見捨てられた人間たち。さあ、この貪欲を満たせるのは一体誰なのか…。
…う~ん、半分どころか7割くらい嘘だったかもしれない…。でもラスベガスでゾンビってところは合ってるし、だいたいそこさえわかれば後はどうでもいい単純明快な映画です。
本作の監督はこちらも巨大権力に見捨てられたばかりの人、“ザック・スナイダー”です。DC映画の立役者でしたが、いろいろな諸事情で“ザック・スナイダー”が構想したシリーズは頓挫し、ワーナーは心機一転でリニューアルしようと進める中、“ザック・スナイダー”はそっと立ち去ったのでした。
その“ザック・スナイダー”と言えば、長編映画監督デビュー作は何を隠そう、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)というゾンビ映画でした。この作品はあのジョージ・A・ロメロ監督の1978年の『ゾンビ』のリメイクなのですが、監督“ザック・スナイダー“&脚本“ジェームズ・ガン”という、今考えると凄いタッグの映画でしたね。
つまり、“ザック・スナイダー”監督はここに来てまたも原点に立ち返ることに。フィルモグラフィーを観ると、とにかくこの監督は終末的な退廃した世界が好きなんでしょう。『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』でもそんな趣向がムンムンしていますもんね。
とにかく本作は“ザック・スナイダー”監督が『エンジェル ウォーズ』(2011年)以来ぶりとなるオリジナル脚本作。こういう作家性を出しまくれる映画の方が性に合っているんじゃないかな。
俳優陣は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で一躍有名となり、『ブレードランナー 2049』のような大作から、『マイ・スパイ』のような小規模作まで、幅広く活躍している元プロレスラーの“デイヴ・バウティスタ”が主演です。彼は父親がフィリピン人なので一応はアジア系の血筋なのかなと思うのですが、あんまりそこはフィーチャーされないですね。
共演は、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』の“エラ・パーネル”、『ブック・オブ・ライフ マノロの数奇な冒険』の“アナ・デ・ラ・レゲラ”、ドラマ『POWER/パワー』の“オマリ・ハードウィック”、『ホイールマン 逃亡者』の“ギャレット・ディラハント”、『クルスク』の“マティアス・シュヴァイクホファー”、『ルーシー・イン・ザ・スカイ』の“ティグ・ノタロ”、『幸せはシャンソニア劇場から』の“ノラ・アルネゼデール”、そして“真田広之”など。多国籍な顔ぶれになっています。
ひとつ残念なのは、劇場で観れなかったことですね。アメリカでは劇場公開もしたらしいのですけど、日本ではNetflix配信のみ。すごく派手な映像多数なので絶対にスクリーンで観れば最高だったんですが…。
そんな“ザック・スナイダー”監督成分満載の『アーミー・オブ・ザ・デッド』ですが、映画時間は148分もあるので要注意。ちなみに『アーミー・オブ・ザ・デッド 制作の舞台裏』というメイキングもあって、それも合わせると3時間です。
2~3時間ぶっとおしで嫌な奴を蹴散らしていきましょう。
『アーミー・オブ・ザ・デッド』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2021年5月21日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :嫌な奴を倒す気分で |
友人 | :暇つぶしには最適 |
恋人 | :暴力満載でもいいなら |
キッズ | :残酷描写はいっぱい |
『アーミー・オブ・ザ・デッド』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ラスベガス、ロックダウン!
ラスベガス近辺。関係者立ち入り禁止の敷地から進んでいくものものしい軍事車両の列。積み荷を厳重に運搬しており、運転する軍人も何を運んでいるのかわかっていない様子。
その車列に新婚カップルの車がよそ見運転で突っ込み爆発炎上。積み荷のコンテナは横転します。無線では「ただちにペイロードから離れなさい。とにかく今すぐ逃げて」と緊迫した指示が飛びます。そのコンテナは開き、中から出てきたのは…。
突然飛び出してきた人間らしき存在が兵士の首を噛み、あっけなく殺しました。他の武装した兵士もなすすべなく無残に殺されていき…。噛まれた兵士は唸り声をあげて、噛んだ存在に従うのみ。彼らの前に広がるのはネオンに輝くラスベガスの街…。
いつも狂乱と欲望で眠らないこの街。しかし、今日は少し違います。血と爆発と絶叫が追加でトッピングされ、それはもう賑やかなことに…。
こうしてラスベガスは封鎖されたのでした。ゾンビたちと一緒に。
それから月日が経ち、バーガー屋の店員であるスコット・ウォードを訪ねてきたのはブライ・タナカという怪しい人物。なんでも封鎖されたラスベガスの地下にある金庫に2億ドルの現金があるらしく、チームを編成して取ってきてくれというのです。元軍人であのゾンビ騒動の生き残りであるウォードの腕を高く買っているようです。悩んだウォードですが、話に乗ることにしました。
まずウォードは親しいマリアのもとに。次に豪快な力業が武器のヴァンデルローエ、ヘリ操縦はお手の物のピーターズ、SNSでゾンビ殺し配信をしているマイキー・グーズマン、金庫破りの天才であるディーターといったメンバーに声をかけます。
グーズマンはデイオンとチェンバーズという仲間を連れてきて、あらためてタナカから説明を聞きます。ベガス・ブライというビルが目的地で、32時間がタイムリミット。金庫は南タワーの「ゴモラ」の下で、終わればヘリで帰る予定。
しかし、土壇場で怖気づいたデイモンが逃げてしまい、そこにタナカの警備責任者のマーティンも同行することに。
まずラスベガス隔離地域に潜入するために、ウォードはマッカラン隔離キャンプ収容所でボランティアをしている娘のケイトのもとに行きます。関係性はゾンビ化した母をウォードが殺して以来、冷え込んでいました。
ケイトはコヨーテという案内人にコンタクトし、怪しまれずに隔離地域に入れる手はずを整えます。ところが知り合いのカネに困窮していたギータが勝手に隔離地域内に行ってしまったと知ったケイトは自分も同行すると頑なに主張。
しょうがないので連れていくことにし、あともう1人必要だというコヨーテの指示に従い、生意気な現場スタッフのカミングスも参加させることに。
こうして隔離地域を隔てるコンテナの扉が開き、目の前に広がっていたのは人ならざる者が支配する世界で…。
どこかで見た話だけどいいんです!
『アーミー・オブ・ザ・デッド』はゾンビ映画としては王道で、設定自体に真新しさはありません。軍事施設からゾンビが逃げ出すなんて最近も『リトル・モンスターズ』で観た光景。
ただ、そこは“ザック・スナイダー”印。開幕を告げるのがマイケル・ベイかな?と思うほどに無駄に派手な大爆発であり、そこからのラスベガス阿鼻叫喚の地獄絵図が映し出されるオープニングが、なんとまあ楽しいこと。正直、ここが本作のピークだったのではないか。ゾンビ映画の面白い部分がダイジェストで凝縮された贅沢な映像集でした。
で、ここからミッションの話。ゾンビ地帯から大金を強奪するなんて展開も『新感染半島 ファイナル・ステージ』で観たばかりなのですが、ともかくカネがあるなら行こうじゃないかということに。
『ジャスティス・リーグ』さながらにスコット・ウォードのチーム集めのパートがパパっと始まり、気づけば終わっています。
そしていよいよお待ちかねの廃墟化したラスベガスへ。このロケーションがまたワクワクしますね。空爆とかされてましたし、とにかくやりすぎじゃない?ってくらい破壊されている。でも主要スポットは残っている。この強引なゲーム設定みたいな感じがまたアホっぽくもあり…。
実際の街をドローンで飛行し、LiDARという光を用いたリモートセンシング技術を用いて詳細な3Dデータを入手し、コンピュータ上で街を破壊して生まれた今回のロケーション。できればTVゲームみたいに自分で操作して歩き回りたかったですね。
でも今回は“ザック・スナイダー”監督自らがカメラを持って撮影しているので、一緒に潜入している臨場感があり、かなり体感は充実していました。
ゾンビ馬は本物の馬が熱演
ゾンビ映画と言えば社会風刺要素はジャンルの伝統的定番なのですが、『アーミー・オブ・ザ・デッド』にも一応はあるにはあります。
隔離された市民の劣悪な生活などはコロナ禍と重なりますが、そこは撮影時期的に偶然のシンクロなのでしょう。
今作の特徴はゾンビ(シャンブラー)の設定で、“ザック・スナイダー”はただのザコキャラにはしたくなかったようです。アルファと呼ばれる知能と社会性を持ったゾンビがラスベガスを支配し、その中でもゼウスとクイーンが特別な尊敬を集めている様子が描かれます。しかも、妊娠までしており、実質「人間の親子愛vsゾンビの親子愛」というバトルに突入。
親子愛と言えば、“ザック・スナイダー”は娘の自死が理由で一時的に映画業界を離れたばかりですし、今回のストーリーもそんな娘への想いが投入されているのかなというラストでしたね。基本的に“ザック・スナイダー”監督は親子関係を描くのが好きらしく、『ガフールの伝説』だって子どものために作ったと言っているくらいですから。ただ、私はそんなしんみりした感想よりも、そんな悲しい死を経験したにもかかわらず、こんな死にまくりの映画を作る“ザック・スナイダー”のブレなさに驚きましたよ。好きなものにはとことん一途な人なんだろうな…。
みんなゾンビの妊娠よりも、ゾンビトラとかゾンビ馬のことしか頭に残らないんじゃないか。あのゾンビ馬、メイキングを見ると本物の馬にスーツを着せて撮っているようで、すごく真面目でバカっぽい絵面が楽しいです。ちなみにゾンビ・タイガーはフルCG、クイーンの生首はアニマトロニクスです。
ゾンビたちも生き生きしてました(死んでるけど)。昔のモーションキャプチャーは体中に変な玉みたいなのをいっぱいくっつけていましたけど、今はスーツ自体にセンサーが内蔵された「Xsensスーツ」を採用しているので、本当にアクロバティックな動きをしまくりですね。
ザック・スナイダーの休日的なお遊び
最終的にはこの『アーミー・オブ・ザ・デッド』は豪快に大味で振り切って片付けないスタンスなので、ストーリーはゾンビ並みにヨロヨロなんですけど…。
ゾンビの首が目当てなら金庫破りを前提にしたチーム編成が本当にただの無駄足で、タナカはどういう作戦の意図だったのかさっぱりですし、そもそもタナカは後半は完全にフェードアウトして放置です。
マーティンもなんであんなに無駄に挑発的なことをするのか意味不明でしたが、でもゾンビトラにお手玉にされる映像が楽しかったからいいか…。
金庫の前の殺す気まんまんの罠だらけも謎でしたし、相変わらずのハリウッド・クオリティの雑極まりない核攻撃描写のオチ。ケイトはなんであんなヘリ墜落でもピンピンしているんだよという疑問もさておき(もしかしてゾンビ以上の超人なんじゃないか)、被爆は避けられない環境でのんびり親子の会話に時間を費やさないでほしいなとか、思うこともいっぱいあります。
そうしたまとまりのなさは確かに目立つのですが、この『アーミー・オブ・ザ・デッド』に関してはもうそこはツッコんでもしょうがない(諦め)。
私は作中で「俺たちは無限ループにハマっているのかもしれない」とヴァンデルローエが身勝手に言い始めた瞬間、「あ、ザック・スナイダーは今回は遊びまくっているな」と確信しましたよ。そういう綺麗に伏線を回収するとかそんな気はサラサラありませんよという潔い宣言みたいなものです。休日的なお遊び感覚で作った感じじゃないか。
たぶんこれからも“ザック・スナイダー”監督は定期的にゾンビ映画を作ってくれるんじゃないかな。ぜひ次回はオリンピックを強行開催してパンデミック祭りになった東京を舞台にしたゾンビ映画を撮ってほしいですね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 73% Audience 79%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
スピンオフ作品の感想記事です。
・『アーミー・オブ・シーブズ』
作品ポスター・画像 (C)The Stone Quarry アーミーオブザデッド
以上、『アーミー・オブ・ザ・デッド』の感想でした。
Army of the Dead (2021) [Japanese Review] 『アーミー・オブ・ザ・デッド』考察・評価レビュー