繋がる心がゲイの力だ!…映画『ウェディング・バンケット2025』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本では劇場未公開:2026年に配信スルー
監督:アンドリュー・アン
性描写 恋愛描写
うぇでぃんぐばんけっと2025

『ウェディング・バンケット 2025』物語 簡単紹介
『ウェディング・バンケット 2025』感想(ネタバレなし)
あの歴史的なクィア映画を2025年にリメイク
英語圏におけるアジア系を主題にしたクィア映画は、現代においてかなり揃ってきました。
『愛をこめて、キティより』のような青春学園ドラマもあれば、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』はアカデミー賞の作品賞に輝いたし…。
もちろんまだまだ発展途上。これからも表象が増えていってくれることを願っています。
そんなアジア系を主題にしたクィア映画の道を切り開いたエポックメーキングな作品を挙げるなら、1993年の『ウェディング・バンケット』を語らないわけにはいきません。
台湾出身でアメリカでも映画制作を学んだ“アン・リー”監督が手がけたこの映画は、アメリカで暮らす台湾系のゲイ男性を主人公に、台湾&中国と西欧のアメリカの文化の交差点を描くだけでなく、セクシュアリティによる家族像の規範性の揺らぎを映し出し、高い評価を得ました。
その1993年の“アン・リー”監督の『ウェディング・バンケット』が、2025年にリメイクされたのが、本作『ウェディング・バンケット 2025』です。
リメイクするにあたって、やはり時代性というのが重要になってくる作品なので、大きく変わったとも言えます。なにせ1993年のときは、アメリカでは同性婚できませんでした(ドキュメンタリー映画『The Freedom to Marry』で説明されるように同性同士の結婚が全国的に法制化されたのは2015年です)。
2025年のアメリカは同性婚はもちろんのこと、LGBTQフレンドリーな地域では同性カップルの社会的支援が充実しつつあります(一方でトランプ政権のせいで酷い地域では後退しつつありますが…)。
その2025年に『ウェディング・バンケット』をリメイクするとどういう内容になるのか。その変化を眺めるだけでも面白いです。
『ウェディング・バンケット 2025』を監督するのは、今やクィアなアジア系監督として急上昇をみせている韓国系アメリカ人の“アンドリュー・アン”。2022年の監督作『ファイアー・アイランド』も愉快で新鮮な表象をみせてくれたばかりです。
中身のネタバレのない範囲で魅力を言えば、今回の『ウェディング・バンケット 2025』は当事者によるクリエイティブのパワーを作品自体から感じさせ、ここが最大の変化なのかもしれません。
自身もゲイの“アンドリュー・アン”監督を始め、主要出演陣もほぼみんな当事者です。
『ファイアー・アイランド』でも印象的だった中国系の“ボーウェン・ヤン”、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』や『ファンシー・ダンス』で活躍をみせたネイティブアメリカンの“リリー・グラッドストーン”、『ラーヤと龍の王国』のベトナム系の“ケリー・マリー・トラン”。この3人は性的マイノリティであることをオープンにしています。
また、BLドラマ『君の視線が止まる先に』の“ハン・ギチャン”、さらに、クィア・フレンドリーな姿勢をみせる『ミナリ』の“ユン・ヨジョン”、『タイガーテール ある家族の記憶』の“ジョアン・チェン”なども共演しています。
オリジナルの映画よりも、だいぶユーモアも増して肩の力を抜いて観られるようになった『ウェディング・バンケット 2025』。日本では劇場公開されず、目立たないままに配信されているだけにとどまっているのですが、ぜひ気づいてあげてほしい一作です。
『ウェディング・バンケット 2025』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | 妊娠の悩みが描かれるシーンがあります。 |
| キッズ | 間接的な性行為の言及があります。 |
『ウェディング・バンケット 2025』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
獅子舞の演舞とともに「第15回シアトルAPI(アジア系/太平洋諸島系)LGBTOIA+平等ガラ」の開催が宣言されます。会場は音楽で大盛り上がり。ステージでは開会宣言をしたドラァグクイーンのレディ・シューマイがノリノリです。
その参加者の中に、アンジェラ・チェンとパートナーのリーもいました。アンジェラの隣にいた母メイは、地元のPFLAG支部で賞をもらうほどに、娘のクィア・ライフを支えていますが、やや場違いに前のめりすぎなところもあります。今もレディ・シューマイと一緒に踊りまくりの母にアンジェラは顔が引きつっています。
メイは受賞のお立ち台でも娘がカミングアウトしたときに最高の母にならなければ思ったと自信たっぷりに語り、アンジェラはここでも呆れ顔で絶句しており、その背中をリーが撫でます。
アンジェラとリーの関係は深い愛で繋がっています。リーは母親になりたいと切望し、もう2回目の体外受精(IVF)をしたところ。しかし、結果に不安です。
一方、アンジェラの親友であるクリスは交際して5年の恋人であるミンと暮らしていました。そこにアンジェラとリーが戻ってきます。あんな社交の場よりもこの気楽な仲間同士のパーティのほうがくつろげます。
クリスはバードウォッチングが趣味で、ミンは韓国出身の学生アーティスト。クリスとミンもラブラブです。
クリスとミンはリーのガレージに住んでいるので、この4人は家族同然の付き合いです。
ある日、ミンは祖母から電話を受け、スーツ姿で会社へ。実は韓国では有数の大企業の家系なのです。そして、家業を継ぐために帰国する時が来たと告げられてしまいます。ビザ(グリーンカード)の期限が間もなく切れるので、従うほかない状況です。
ミンは祖母にカミングアウトはしていません。保守的な家柄なので絶対に受け入れてもらえないと思っていました。
そんな中、リーは2回目の体外受精が失敗に終わったことを知ります。落ち込むリーですが、アンジェラと妊娠をめぐって考えの違いが浮き彫りになり、ギクシャクします。
将来のことでクリスとミンも険悪になる中、ミンとリーはある計画を思いつき…。

ここから『ウェディング・バンケット 2025』のネタバレありの感想本文です。
昔よりも手を取り合える可能性を信じたい
『ウェディング・バンケット 2025』をオリジナルである1993年の“アン・リー”監督の『ウェディング・バンケット』と比較しながらみていくことにしましょう。
オリジナル映画ではマンハッタンが舞台で、「ACT UP」などHIV/AIDSアクティビズムの連帯が実績をあげ、それでもなおドキュメンタリー映画『ラスト・コール 性的マイノリティを狙う殺人鬼』で映し出されるように、気軽にセクシュアリティをオープンにできる社会の空気ではないゆえに、ヘイトクライムも蔓延していた1990年代を描いていました。ゲイ当事者は性的指向を隠しながら二重生活を送っている人も多かったです。
そんな世相なので、必然的に元の映画の主人公はセクシュアリティとアジア系という二重三重の抑圧に苦しんでおり、かなり息苦しさが濃かったです。
それに対して、この『ウェディング・バンケット 2025』は、2025年、それもアメリカで最もLGBTQフレンドリーな街とされるシアトルが舞台です。クィアであることをカミングアウトするのはそこまでハードルは高くないですし、当事者コミュニティの成熟度も社会の受容も全然違います。
じゃあ、今のアジア系のクィアはこの地では気楽に生きられるんですね?と言われると「う~ん…まあ、現実では個人レベルでいろいろあるよね」という…そんな話が本作では取り上げられます。この「LGBTQフレンドリーな地域で生きる現代社会のクィア当事者の苦労」に焦点をあてるのは、最近だと『ブラザーズ・ラブ』でもそうでしたし、ひとつの定番になってきていますね。
『ウェディング・バンケット 2025』は元の映画と異なり、主要登場人物の男女のバランスが均等になりました。ゲイ男性だけを描く作品ではなくなったことになります。
女性側に位置するアンジェラとリーのカップルですが、2人は妊娠…とくに生殖医療をめぐる経済的困難、および「子を持つ」ことの将来の不安に直面しています。カミングアウト、交際、結婚は、そのときの一時的な決意でできるかもですが、子を持つのは途中で「辞めた!」とはできませんから、自分たちが生涯にわたって子を責任もって育てていけるだろうかという不安に苛まれるのは当然です。
一方のクリスとミンのカップルは片方がクローゼット(性的マイノリティであることを家族に公表していない)ゆえの躊躇が亀裂の原因になります。今回は中国系ではなく韓国系のバックグラウンドになっていますが、テーマ的には同じです。しかし、クリスが中国系で、ミンが韓国系という、同じアジア系でも国が違うことが、少なからず家族に対する問題意識の違いにもなっていて、本作はアジア系内の多様さを上手く捉えているキャラクター模様だったと思います。
そして元の映画では父という世代間ギャップが立ちはだかりますが、今回は母になっています。具体的にはアンジェラの母、それとリーの祖母です。
アンジェラの母は「うわべだけのお調子者なアライ親」という非常に今っぽいクィア当事者にとってのウザい親を体現していて、笑えつつも、実際に傍にいたらストレスだろうなと思える存在感でした。
リーの祖母は真逆で、「表面上は保守的なクィアフォビアにみえつつ、実はある程度の受容性をみせる現実主義的な親」です。“ユン・ヨジョン”が今回も繊細な演技で絶妙に表現してみせていました。こういう年配者は現実的な妥協点を見いだすのが経験上慣れており、まだ人生経験の浅いクィア当事者たちの導き手に案外となってくれる…。
ちゃっかり共犯になってくれるアンジェラの母も合わせて、リーの祖母ら今作の親世代は元の映画よりも連帯できる存在としての頼もしさが増していました。「どうせ手を取り合えない」と最初から諦めるなという教訓が込められている感じのプロットでしたね。
小さな共同体と中の人
『ウェディング・バンケット 2025』は、クィアを取り巻く文化の豊富さも目立っていたと思います。
序盤からLGBTQコミュニティが強調されていましたが、それだけでなく、地域にはさまざまな居場所があります。もちろんクィアに対する温度差や、ときにぶしつけな発言はあれど、自分なりのちょうどいい居場所を選べる…。文化が豊富だとそういう生き方の選択肢が豊かであることを意味します。
そんな現代において、アンジェラ、リー、クリス、ミンは4人で一緒に暮らすという人生を選んでいるんですね。この小さな共同体が本作の最大の個性ではないでしょうか。
思えばこの4人は確かに相性が良さそうです。互いに趣味も個性も違っているのに(無論、性別も性的指向も異なる)、なぜ相性に親和性があるのか。なんとなくその理由は、4人の「相手を尊重し、自分の意見は言うが、全否定はしない」という姿勢なのかなという空気感が伝わってくる物語でもありました。
それにしてもこの4人が揃っている家なので、クィア密度が高いです。元の映画にもあった親が突然訪問してくる展開(今回は祖母)。今作でもクィアっぽくみえるアイテムを隠すのですが、今作は余計にアイテムがありすぎて隠すのが大変そうで、そこがまた笑えるシーンになっていましたね。
ちなみに今作では、韓国の伝統的結婚式を執り行いますが、その場の最中、新郎のミンは隣の新婦のアンジェラのメイクアップと衣装について、彼女自身に「パドメ・アミダラみたいだね」と囁きますが、これはアンジェラを演じる“ケリー・マリー・トラン”が『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』に出演していたことを意識したユーモア・セリフです。まあ、パドメも秘めた恋心を抱えていたので(お相手のアナキンはジェダイの“恋愛禁止”ルールがあるので)、その点でも似たようなものかもですが…。
また、アンジェラとクリスの酔った勢いのベッドインのせいで妊娠騒動が勃発し、ミンがクリスのもとを離れた際、傷心で自暴自棄になって家に残されたクリスが「“キングダムハーツ”シリーズを全作品プレイするんだ」とヤケクソで言い放っている場面があります。『キングダムハーツ』は日本のゲームでディズニーのさまざまな作品がクロスオーバーする内容なのですが、クリスを演じる“ボーウェン・ヤン”は大のゲーマーで、とくに『キングダムハーツ』シリーズが好きなことを公言しています。“ボーウェン・ヤン”のゲーム・トークは爆笑モノで毎度面白いです(NPR)。
これら「中の人」ネタは一見すると本作のテーマと全然関係ないのですけど、クィアな人たちはオタクも多いので、ちゃんとオタクのクィアを解像度高く描けるのは今の時代を舞台にする作品なら地味に大事なことだと思います。
1993年のオリジナル映画はまだ実現が見えぬ(叶ったらいいなという理想だった)同性同士の婚姻…それが新しい家族像に映る…その未来を前にして未知の不安とただ幸せを願う者たちのエンディングでしたが、2025年の本作はもうそのエンディングは繰り返せません。
どんなラストにするのだろうと思いましたが、ポリアモリックなファミリーを肯定する穏やかなクィアの日常で締めていました。現実は過酷な政治情勢があるのですが、こういうホっとする瞬間こそ、今のクィアが最も欲している権利だなとつくづく思いだす映画でした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
以上、『ウェディング・バンケット 2025』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)2025 HOMETOWN PRIDE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ウェディングバンケット2025
The Wedding Banquet (2025) [Japanese Review] 『ウェディング・バンケット 2025』考察・評価レビュー
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