イエティと旅に出よう!…映画『スノーベイビー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ・中国(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にDVDスルー
監督:ジル・カルトン
スノーベイビー
すのーべいびー
『スノーベイビー』あらすじ
自宅の屋上でイエティの子どもを見つけた少女イー。すぐにイエティの子どもと仲良くなり、イーはヒマラヤのエベレストまで送り届けることにする。上海からヒマラヤまでの遠い道のりを彼女は送り届けることができるのか。さらに謎の追っ手が迫ってきて、トラブルが連続する中、このイエティには不思議な力があることも判明。少女の冒険の旅が始まる。
『スノーベイビー』感想(ネタバレなし)
今度はイエティです!
ある日、突然に未知の生物と出会い、交流を深めて固い絆を育み、最高のパートナーになる…という展開は誰しもが一度は憧れたくなると思うのですけど(あれ?違う?)、残念なことに不思議な生物に遭遇する確率はほぼないもので…。
私がそれに近い経験をしたのは、映画鑑賞の帰り道に街中で歩道を歩いているとキツネが横を並行して歩いてくれて、まるでキツネと散歩をしている変な人に傍から見ると思えるシチュエーションになったことですね。でも十数メートル一緒に歩いたらそそくさと離れてしまってどこかへ消えました。あれはきっとキツネに変身した別の生命体だったに違いない…。そう思うことにする…。
未知の生物とフレンドリーになる交流映画は山のようにありますが、今回紹介する作品もそのひとつに加わるでしょう。それが本作『スノーベイビー』というCGアニメーション映画です。
本作で友達になる生き物は「イエティ」。別名「雪男」。ヒマラヤ山脈に住むといわれ、誰もが知る代表的なUMA(未確認動物)のひとつですね。日本も昔はイエティを探すためだけに探検隊をエベレスト山麓に派遣したりしたものですけど、すっかりブームは終わり、話題性も冷え切った感じ。まあ、今のエベレストは国推進のもとすっかり観光地になって登山者だらけなので、イエティが潜む未開の地という雰囲気がゼロになってきたというのもあるのでしょうが…。
『スノーベイビー』はそんなイエティの子どもと偶然に出会うことができた少女の物語です。
原題は「Abominable」。「忌まわしい」という意味ですが、そんなネガティブな言葉を吹き飛ばすように愛くるしいイエティの子どもがところせましと暴れまわって愛嬌をふりまく、癒しムービーです。
本作の制作は「ドリームワークス・アニメーション」。日本におけるドリームワークス・アニメーション作品の扱いがここ最近まで悲しい状況にあったという話は『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』の感想記事で書きました。ほんと、低待遇です。
しかし、ここ直近では2018年の『ボス・ベイビー』に続き、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』がファンの熱い要望にお応えする形で2019年に劇場公開され、流れが変わったな…!という確信を得られた…と思いきや。
まさかの『スノーベイビー』は劇場未公開のビデオスルーに逆戻り。あれ…。
どうしてなんだ、ドリームワークス。もともとこういうビデオスルーにする予定だったのか、例のコロナ禍のせいで劇場公開の余裕がなくなってしまったのか、それはわかりませんけど、映画ファンとしては勢いを削ぐもので残念です。
確かに『スノーベイビー』はこれまでのドリームワークス・アニメーション作品と比べて製作予算規模が中程度で、中身もそれに見合った“豪華さのない”スタイル。強烈なセールスポイントは乏しいかもしれません。でも別に評価も悪くない作品がこうも冷遇されるのも良い気分はしませんし…。
ということで、私が宣伝しようと勝手に使命感に燃え、私の考える『スノーベイビー』の魅力を手短に3つのポイントで整理しました。
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- ① 王道のドラマがいい!
物語は人間とイエティの友情。これ一筋です。それだけをギュッと徹底して突き詰めた一作で、ほぼ『ヒックとドラゴン』シリーズに通じている王道さがあります。
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- ② イエティが可愛い!
主人公の親友となるイエティは子どもなのですが、見た目も動きもひたすらに可愛いです。怖さは全くありませんし、見ているとこっちも友達になりたくなってきます。
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- ③ 世界観の珍しさ!
本作は、アメリカやヨーロッパではなく、中国が舞台になっています(イエティですからね)。そのため、アジアテイストの世界観の中で大冒険が展開されるのは新鮮です。
なお、監督は『トイ・ストーリー』などピクサー作品でストーリー・アーティストを手がけていた“ジル・カルトン”で、『スノーベイビー』では脚本も担当しています。
オリジナル版の声優には、主人公の少女の声をあてるのはドラマ『エージェント・オブ・シールド』で主役を任せられ、注目を浴びた“クロエ・ベネット”。彼女は父が中国人で母がアメリカ人(白人)なので、だからこそのキャスティングなのでしょう。
ちなみに音楽は『ホテル・ルワンダ』で高く評価された“ルパート・グレッグソン=ウィリアムズ”が手がけているのですが、作中でイエティの子どもがハミングする大事なシーンの音声も“ルパート・グレッグソン=ウィリアムズ”自身の手で生み出されているそうです。言われないとわからないですね。
家族で楽しめる一作ですので、家で映画を鑑賞する際の候補にしてみてください。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(海外アニメ好きは注目) |
友人 | △(子ども向けではあるけど) |
恋人 | ◯(可愛いアニメが好きなら) |
キッズ | ◎(子どもも安心に楽しめる) |
『スノーベイビー』感想(ネタバレあり)
ステイ、いや、Go ホーム!
それは「逃げる」ことから始まる物語。
ある施設から脱出する巨大な生物。白い毛に覆われた巨体は、警備や研究員に追い詰められるも、謎の力を発揮。ゲートを破壊して姿を消してしまいました。
その施設からそれほど遠くない夜のビル街を疾走する巨体は、車がたくさん走る道路から吹き飛ばされ、路地裏へ。ある建物の屋上に登っていき、たまたまそこから見えるエベレストの広告看板を見つけます。その生き物は大きな瞳を釘付けにして、複雑な表情を浮かべるのでした。
ここは上海。イーは、母親とナイ・ナイと共に小さなアパートで生活する10代の少女。彼女は今、頑張っていることがありました。それは小遣い稼ぎ。犬の散歩やベビーシッター、店のゴミ出し…毎日せっせと働き、子どもらしく同世代の他の子と遊ぶこともしません。働き過ぎで小汚い恰好になっているのを若干気にしながら、綺麗な友達と普通に楽しんでいる幼馴染のジンの横を通り過ぎました。
なぜそんなことをするのか。実はその答えは屋上にある秘密の部屋にあります。そこには旅行の計画を記した地図があり、おカネをためているのはそれが理由でした。イーの父はすでに亡くなっており、この旅の夢はその父の想いを引き継ぐため。亡き父のバイオリンを夜中に屋上で弾いて、自分の抑えている気持ちを表現します。
ところが突然上空から場違いなヘリコプターが接近して通過。風圧で倒れるイー。なんだったのか。とりあえず落としたバイオリンを拾おうとした瞬間、布の奥に巨大な手が転がっているのを発見。犬でも猫でもない、その大きすぎる手。警戒しながらバイオリンを回収すると音が鳴ってしまい、その手の生物が目覚めて近寄ってきます。
でも暗がりではわかりませんでしたが、どうやらヘリに怯えているようです。イーは機転をきかせて隠してあげます。ヘリは何も発見できずにまた通過していきました。
朝、屋上で警戒モードのまま目覚めるイー。その生物は怪我しているようで、そこでイーは溜めたおカネで応急手当セットを購入、ナイ・ナイの包子(パオズ;日本で言うところの中華まん)を与えます。それを一気に食べる謎の生物。怪我している手を治療してあげると、舌を出しながら気持ちよさそうに眠りこけるのでした。
その生物はまだ怯えているようで、バイオリンをきかせてあげます。するとその生物も鼻歌を歌い、何やら魔法の力でしおれていた花が復活。特別なパワーがあるのか。良いハミングを奏でるじゃないか…。
イーは、その生物がエベレストの看板をじっと見ている様子を確認。「あそこがホームなの?」と頭上に「△」の家を示すように腕で表すと、その生物もわかったようです。山に帰りたいのかと悟ったイーは、イエティに対して「エベレスト」というシンプルな名前をつけました。
しかし、屋上に来たジンとペンに見つかってしまい、さらにこの生物を追う謎の集団もヘリで襲来。エベレストはイーを背に乗せ、街の屋上から屋上へ逃走。ジンとペンは女の子のバイクを借りて後を追います。
港へ来たイーはエベレストを船に飛び移らせますが、明らかに危なっかしくあり心配です。そしてイーも一緒に行こうと決心。思い切って出発してしまった船に飛び移り、ジンとペンもついてくることに。ビル街が遠ざかっていく中、イーたちは冒険の旅に出るのでした。
アジア系アニメ映画は始まったばかり
『スノーベイビー』はとにかくシンプル・イズ・ベストを貫いたような王道の物語なので、特別な「お、これは珍しいな!」というオリジナリティはありません。
あえて言うなら中国が舞台になっているのはアメリカのCGアニメではまだまだレアかもしれません。
ただ、ドリームワークス・アニメーションと言えば、『カンフーパンダ』で大成功を収めており、この中国二大要素を合体したシリーズは中国でもとてつもない大ヒットを飛ばし、ドリームワークスの大きな支えになりました。たぶん『カンフーパンダ』の成功がなければ、『スノーベイビー』は作られなかったでしょう(本作の企画は2010年頃からあったらしい)。
しかし、『カンフーパンダ』は擬人化風にデフォルメされた動物しか登場しないのに対して、この『スノーベイビー』はリアルな人間が主人公で、それでいて上海がガッツリでてきますので、アジアを題材にするという踏み込みではさらに前に進んだことになります。
いろいろ大変だったとは思うのです。どうしてもCGアニメキャラは西欧風の顔立ちになっていることが多いなか、アジア系らしさを出してキャラをデザインしないといけません。その点、『スノーベイビー』のイーなどのメインキャラたちは、アジアらしさを醸しだしつつ、ステレオタイプには陥っていない良いバランスに落ち着いていたのではないでしょうか。
ドリームワークス・アニメーション作品で明確な“人間”女性主人公の映画というと、2009年の『モンスターVSエイリアン』まで遡らないといけないのかな?…とにかくその少ない現状の中で、『スノーベイビー』のイーはすごく今の時代の素朴な少女を体現していると思います。別にプリンセスでもないし、スーパーパワーもない、普通の街にいる普通のありふれた少女として。イーのアクティブなファッションスタイルもほどよく、ジェンダーの固定観念もないのは良いですね。
まあ、中国にも市場を想定している以上、やっぱりセクシュアリティなどへの踏み込みまではできないのですが…。
人間とイエティは交流できても…
そんな人間以上に『スノーベイビー』の顔になる存在はもちろんイエティの子ども「エベレスト」です。
ちなみに偶然ですがイエティを題材にしたCGアニメ映画は、2018年にワーナー・ブラザースのアニメ作品として『スモールフット』が公開されたばかりで、2年連続イエティになっちゃったのですが、『スノーベイビー』はそちらの作品とは完全にテーマもデザインも違っています。
エベレストは可愛さ重視。ペンと無邪気に遊ぶところなんかは見ているだけで癒されますし、人懐っこい子犬みたいなものです。イエティは人型なのでいくらでも人間的に動かしやすいのですが、あえて動物モーションにしているのはやっぱり『ヒックとドラゴン』系の交流にしたいからなのかな。このイエティは何を食っているのだろう、肉食なのではないだろうか…とかは考えてはいけない。
ラストで登場したエベレストの親が予想以上に巨大だったので、もうちょっとあの巨大さが暴れまわる一大シーンは観てみたかったのは本音。
でも魔法の力という独自要素で展開されるファンタジックな大冒険の映像は素直にワクワクしますし(ブルーベリー爆弾とかアホっぽいシーンも含めて)、極めつけは黄色い花畑を波に乗るようにサーフィンするド派手なシーン。これぞアニメーションならではのマジカルなビジュアルで、ここだけでも本作の目玉になります。アニメはこういうワンダフルが一か所はないとね。
物語自体はシンプルで、「家族」の尊さを痛感するという内容。ここにスマホに固執するジンの脱スマホまでの成長があったり(かなりシュール)、孤立してバスケットボールだけが友達だったペンの幸せがあったりと、サブエピソードが絡んできます。どれもだいたいはどこかで見たものばかり。どれも現代中国の中流階級層に合致しやすい物語です。
これも中国市場を考えるとこれ以上の突っ込んだことができないというジレンマはあるのかな…とも思ったり。大企業を悪役としてコテンパンにする展開にならないのも、視えざる壁を感じます…。バーニッシュに関しては相当に甘々な着地でしたし…。
しかし、イエティたちへの偏見をなくしていくという意味では、それは民族的な多様性を受け入れることでもありますし、一国二制度すらも排除しようとする中国へのささやかなカウンターである…と好意的に解釈しようと思えばできなくもない。かなり忖度したけど…。
なお、作中で領有権問題となっている南シナ海の九段線が描かれた地図が登場したことから、本作はマレーシアとフィリピンで上映中止になったのですよね。
現実では人間同士であってもなかなか対立をなくして交流するまですらもいかないのだなと感じつつ、本作で描かれた素の絆の尊さを大切に広めていきたいと思いました。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 81% Audience 95%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 UNIVERSAL STUDIOS AND SHANGHAI PEARL STUDIO FILM AND TELEVISION TECHNOLOGY CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED. DREAMWORKS LOGO IS A TRADEMARK OF DREAMWORKS ANIMATION LLC. アボミナブル
以上、『スノーベイビー』の感想でした。
Abominable (2019) [Japanese Review] 『スノーベイビー』考察・評価レビュー