3部作の見本となる完成度…映画『ヒックとドラゴン3 聖地への冒険』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年12月20日
監督:ディーン・デュボア
ヒックとドラゴン 聖地への冒険
ひっくとどらごん せいちへのぼうけん
『ヒックとドラゴン3』あらすじ
かつてドラゴンは人間の敵だったが、弱虫なバイキングの少年ヒックと傷ついたドラゴンのトゥースの活躍によって両者は共存する道を選び、バーク島で平和に暮らしていた。ところが、島は困難に直面していた。亡き父の跡を継いで若きリーダーとなったヒックは、皆と島を出て新天地を探し求めることを決意するが、そこにかつてない敵が現れる…。
『ヒックとドラゴン3』感想(ネタバレなし)
アツい想いに応えて劇場に舞い戻った
『ヒックとドラゴン』というアニメーション映画シリーズをご存知でしょうか。正直、あまり日本国内の知名度は高くありません。
このシリーズは「ドリームワークス・アニメーション」制作の作品群なのですが、そもそもドリームワークス・アニメーション作品自体の露出が日本ではここ最近残念な状況でした。全然劇場で一般公開されなかったのです。ドリームワークス・アニメーションと言えば『シュレック』で世界的大ヒットを記録するなどピクサーが開墾した3DCGアニメーション時代の前線で創作をしてきたスタジオです。当然、今日に至るまでずっと作品を作り続けています。なのになぜ…。
その消極姿勢が顕著になったのは2013年の『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』からでしばらくずっとビデオスルー状態がお決まりになってしまいます。その原因は『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』の芳しくない興行でスタジオが赤字を抱えてしまい(大規模リストラした)、おそらく海外向けの劇場公開まで予算が回らなくなってしまったものと思われます。少なくとも当時ドリームワークス・アニメーションと連携にあった20世紀フォックスは日本での劇場公開を考える気が無かったようです。
その代償は大きく、すっかり日本の一般観客の中では「ドリームワークス・アニメ? なにそれ?」という“知りませんけど”ムードが常態化してしまいました。スタジオのネームバリューをあげる継続性って大事ですね…。
状況に変化の兆しが訪れたのは2018年。日本で『ボス・ベイビー』がドリームワークス・アニメーション作品としては久々に劇場公開され、しかもそれなりの良い興収を記録したこと。本当、良かった、コケなくて…。『ボス・ベイビー』が劇場公開されたのは20世紀フォックスからユニバーサルに配給がバトンタッチしたためであり、とりあえず幸先の良いリスタートをきれました。
それでも日本のドリームワークス・アニメーション沈黙時代の傷跡は深く、その時期に公開されていたシリーズ化されるほどの話題作も日本では「なにそれ?」状態になっていることも。その影響をダイレクトに受けてしまったのが『ヒックとドラゴン』シリーズなんですね。
『ヒックとドラゴン』の1作目は2010年に公開され、世界的に非常に高く評価されました。「Rotten Tomatoes」によればドリームワークス・アニメーション史上でも最高評価です。日本でも劇場公開されたのですが、イマイチ評判を呼ぶことなく…。たぶん今のSNS時代全盛期だったらもっとバズってたと思います。
その後、2014年に続編となる『ヒックとドラゴン2』が公開。2作目は1作目を凌ぐ熱烈な高評価を記録し、ゴールデングローブ賞の長編アニメ映画賞やアニー賞の作品賞を受賞するなど、完璧な栄光を掴んだ…わけですが…。しかし、日本では暗黒時代。劇場公開されなかったんですね。当時は劇場公開を求めるファンの署名運動も行われたのですが、実りがある成果は生まれず…。無念…。
そしてついに3作目となる本作『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』です。シリーズ完結作を謳う本作ですから、無論ファンの劇場公開を求める熱意も高まりますとも。今回も劇場公開を求める署名運動が行われ、「東宝東和&ギャガ」という異色の配給体制でスクリーンへと再び羽ばたけることに。
このリアル・エピソードだけでドラマがあるじゃないですか。愛されている映画ですよ、ほんとに。
もちろん劇場公開されたとはいえ、かなり不利です。この『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』は1作目・2作目と見続けたからこその感動がある大団円な一作ですから。できれば過去作を鑑賞したうえで観に行ってほしいものです。
ということでこの『ヒックとドラゴン』シリーズの魅力を手短に3つのポイントで語ります。
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- ① 王道のドラマがいい!
物語は人間とドラゴンの友情。これ一筋です。それだけを徹底して突き詰めた一作で、ストーリーや音楽のシンクロで感情を高めてくれます。やっぱり王道は最強ですね…。
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- ② ドラゴンが可愛い!
主人公の相棒となるドラゴンの「トゥース(英語ではToothless)」が尋常じゃなく可愛いです。犬と猫の愛らしさを合体したような存在感。これは反則ですよね…。
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- ③ 大人もグッとくる童話!
子ども向けかと思いきや、大人もハマる深さもあります。世代を超えた家族の繋がりがテーマにあり、社会のメタファーもあり、そして予想外の“痛み”をともなう展開も…。
そんなこんなで観るしかない『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』。クリスマスプレゼントだと思ってください。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(ファン感涙のフィナーレ) |
友人 | ◯(ドラゴン好き同士で) |
恋人 | ◯(王道ファンタジーを満喫) |
キッズ | ◎(ドラゴンを飼いたくなる) |
『ヒックとドラゴン3』感想(ネタバレあり)
ドラゴンとの共存の模索のすえに
バーク島に暮らすバイキングたちにとってドラゴンは人間の敵「害獣」でした。多種多様なドラゴンが島にやってきてはバイキングたちは武器で追い払うという争いの歴史が続いていました。
しかし、それは過去の話。バイキングのリーダーであるストイックの息子で“ひ弱な”ヒックが、「ナイト・フューリー」と呼ばれるドラゴン(トゥースと命名)と出会い、親交を深めたことで、ドラゴンは「人間の友」に様変わりしました。それ以来、バーク島はバイキングと大勢のドラゴンが仲良く暮らす賑やかな場所になりました。
めでたしめでたし…。
…とはいかないよ、というのが本作『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』の物語。
バーク島はドラゴンの数が増えに増え、過密状態に。今日もトゥースに乗ったヒックとその仲間たち(ヒックのガールフレンドであるアスティ、ドラゴンオタクなフィッシュ、双子の兄妹で口が悪いタフ&ラフ、自惚れ体質が治らないスノット)が遠くの場所で檻で鎖につながれたドラゴンたちを救出してきて、またドラゴンが増えました。これでは共存したいのもやまやまですが、色々なものが足りません。亡き父ストイックの跡を継いで族長となったヒックは解決策を迫られます。
そういえば父が昔、この世界のどこかにドラゴンの楽園が存在すると言っていた気がする…と過去の記憶を思いだすヒック。また、周囲からはアスティとの結婚を期待され、族長としてのプレッシャーは高まるばかり。
一方でトゥースは何かの気配を感じてひとり森に向かうと、自分と同じ種族っぽい白いドラゴンを発見します。アスティによって「ライト・フューリー」と名付けられたそのドラゴンに夢中になってしまったナイト・フューリー。
そんな双方ともに難しい問題に直面していたヒックとトゥースでしたが、島に悪名高きドラゴン・ハンターであるグリメルとその一味が襲来。最後の一匹であるナイト・フューリーを渡せと迫ってきて、「ドラゴンと共存なんてできない」とヒックたちの生き方も否定してきます。
ひとまずなんとか撃退したものの、またいつ襲ってくるかもわかりません。みんなで議論することになり、ヒックは自分たちは数が多すぎて隙が多いし、この土地にはいられないので、「聖地を探そう」と提案します。世界の果てのどこかにあるはずだという理想の地。バイキングたちは消極的な反応を見せますが、「バーク島は土地じゃない。私たちがバーク島だ」という声に賛同。
島の必要最低限の資源を持って、ドラゴンに乗って全員で大移動を開始します。
海を渡るいつまで続くかもわからない空の旅。ずっとは跳べないので休憩することになり、大地を見つけてさっそく村を作ろうとする一同。「ここは聖域じゃない」と釘を刺すも、一時的な拠点にすることに。
そんな中、トゥースはライト・フューリーとまた遭遇。ここぞとばかりにあらゆるパフォーマンスを試して気を引こうとするも、飛んでいってしまったライト・フューリーに、ひとりでは飛べないトゥースはついていけません。
その一部始終を見ていたヒックは、鉄製の新しい尾翼を製作し、装着してあげることに。ヒックの力を借りずにひとりで飛翔できるようになったトゥースは、ライト・フューリーと一緒に飛行し、ある場所にたどり着きます。
ところかわって、敵の様子を探っていたヒックの母ヴァルカは、グリメルが向かって来ていると報告し、ヒックはこっちから攻める作戦を実行。いつものチームで敵地へ潜入すると、逆に捕まってしまい、袋のネズミ状態に。なんとか命からがら脱出するも、ラフを置いてきてしまい…。
イマイチ本調子ではない感じもするヒックを心配してアスティはトゥースを探しに行こうと提案。二人は海のど真ん中にある謎の場所で、不思議な世界を見るのでした。
この世界に人間とドラゴンの共生ができる世界は存在するのか…。
トゥースはやっぱり可愛い
『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』は何度も言ったように3作目。本作はシリーズを重なるごとにかなり月日が経過するので、キャラクターも当然グッと成長しています。1作目から約6年は経っているんですね。
一番の成長を感じるのは主役のヒックを含む子どもたち。いや、もう3作目だと子どもとは呼べません。青年です。各キャラとも顔立ちがすっかり大人っぽくなりました。でも性格は全然変わっていないのが安心する。スノットがヴァルカに惚れていたり、ちょっと「え!?」となる関係性もあるけど。
こういう長い年月と共に成長する子どもたちを見守っていると、親戚の人になった気分がしみじみしますね…。
グングン成長する人間たちの一方で、ドラゴンはあまり変わり映えしません。まあ、ドラゴンはきっと人間よりはるかに寿命が長いのでしょうし、目に見える成長具合も違うのでしょう。この成長の不一致、というかズレのようなものが本作のエンディングへの展開と薄っすら重なってきます。
それはさておき、今回もドラゴン、とくにトゥースは可愛い。デザイン勝ちなんだと思いますが、普通はドラゴンの顔は目がそれぞれ左右についており、いかにも爬虫類系のそれです。だから映画に出てくると横顔の絵が頻出します。その方が映えますからね。
しかし、このトゥースは目が前方に寄った作りで、人間とまではいかないにせよ、犬や猫に近いんですね。だから正面顔がよく描かれ、表情もクルクル変わる。ここが可愛いの秘訣です。それでいて犬っぽい仕草や猫っぽい挙動をするのですから、たまらないもの。監督の“ディーン・デュボア”は以前に『リロ・アンド・スティッチ』も手がけており、確かにスティッチっぽさがトゥースにありますね。
また『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』はこれまで以上に多数のドラゴンが登場し、さながらドラゴン版『ズートピア』状態です。
とくに新登場するライト・フューリー。素人考えだとトゥースの白いバージョンだから簡単に作れそうですけど、これが製作陣いわく難題だったとか。全身が白いキャラというのは通常とは違う光の反射をするため、特別な対処が必要になり、CGアーティスト泣かせだったそうです。
さらに壮大な世界観をダイナミックに構築するために、実写の撮影のテクニックを導入しようと、あのオスカーの常連でもある撮影の天才“ロジャー・ディーキンス”をビジュアルのコンサルタントに起用して、あれこれと指導をもらったのだとか。
こうした制作の裏事情を知ると、映画の隅々を一時停止しながらじっくりもう一度鑑賞したくなりますね。
共生の実現は観客に託されて…
『ヒックとドラゴン』シリーズは原作があります。
原作者は“クレシッダ・コーウェル”というイギリスの作家で、彼女の父親が環境保護主義者で野鳥観察の趣味があったそうで、幼い頃には休日を家族と共に無人島で過ごした経験があるのだとか。その作者の実体験が反映されて生まれたのがこの「ヒックとドラゴン」シリーズの児童文学。だからファンタジーものにありがちなドラゴンをモンスターとしてみなすのではなく、自然に生きる野生動物として扱っている作風なんですね。
その原作はなんと全12巻のボリュームであり、当然、映画化するとなるとどこをどう拝借するかという、脚色の難しさが生じます。
しかし、この『ヒックとドラゴン』シリーズの映画をずっと監督し続け、脚本にも関わった“ディーン・デュボア”はその手腕がお見事でした。
ちゃんとシリーズの根幹となる軸はぶれることなく3部作としてまとめあげているのですから(なお、映画以外にもアニメシリーズとして『ヒックとドラゴン 新たな世界へ!』などが製作されており、物語自体は他にも描かれています)。
一番大事なのはヒックとトゥースの関係性。1作目ではトゥースはヒックのせいで尾翼を失い飛べなくなり、ヒックがトゥースと絆を深めることで飛べるようになりますが、ラストでヒックは片足を失う…そういう“欠損”による単純化された図式で、異なる生物同士の共生のかたちを簡潔に示しました。
2作目では群れをまとめる「ボス」の存在がキーワードとなり、ヒックとトゥースという2つでひとつの存在は、ヒックの父の死というボスの喪失を経験し、ついに自らボスへと昇格します。2作目なんかはかなり動物の生態的に準じた流れです。
では3作目にどうなるか。ずっと仲良く暮らしてもいいはずです。それを望んだ観客だっていたでしょう。でも違う。別れが描かれる。でもそれは今度は「親」としての異なる使命が与えられるからという必然の別れであって、これまた自然の摂理なんですね。
新しい尾翼を作ったことでトゥースは自立して飛べるようになり、一抹の寂しさを感じる。このあたりはジュブナイルとの決別のようでもあり、互いの「大人になった」という成長の証拠でもある。このへんのアイテムの使い方が実に上手いです。
『トイ・ストーリー4』も似たようなエンディングでしたが、あちらはオモチャの世界という非現実的ルールに則っているので掴みづらい解釈しないといけないものがありました。でもこの『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』は自然界のルールなので、そこはストンと腑に落ちやすいです。
そして、ラストこそ原作と映画が「ヒックの少年時代の自伝」という体裁をとっている真骨頂。本当に人間とドラゴンが共生できる世界を作る責任を担うのはこの物語を知ったあなただよ…という投げかけ。まさに児童文学としても完璧。こんな着地のいい3部作がありますか。「The Hidden World」という副題もバッシリと決まってます。
ドラゴンが過剰に増えて、もしくは敵対感情が増加して、共生ができないなんていう本作の話は、私たちリアル社会における人間と野生動物の関係でも実際に起こっていることです。そんな状況に直面したとき、私たちにはどんな知恵と手段があるのか。
地球環境を破壊していて、その問題を訴える若者すらも嘲笑う大人がいるこの世界。『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』はそんな私たちに「悪しき大人を気にするな、羽ばたきなさい」と背中を押すような映画でした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 87%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
以上、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』の感想でした。
How to Train Your Dragon: The Hidden World (2019) [Japanese Review] 『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』考察・評価レビュー