アマトノーマティヴィティ(恋愛伴侶規範)の観点から考察する…アニメ『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』『スター・ウォーズ 反乱者たち』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2008年)
日本公開日:2008年8月23日
監督:デイブ・フィローニ
製作国:アメリカ(2008年~2020年)
シーズン1~シーズン7
総監督:デイブ・フィローニ
恋愛描写
製作国:アメリカ(2014年~2018年)
シーズン1~シーズン4
総監督:デイブ・フィローニ
恋愛描写
スター・ウォーズ クローン・ウォーズ / 反乱者たち
すたーうぉーず くろーんうぉーず はんらんしゃたち
『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ / 反乱者たち』あらすじ
遠い昔、はるか彼方の銀河系で…。ジオノーシスの戦い以降、クローン大戦は日に日に激しさを増し、銀河系の各地で戦乱が勃発。歴戦のジェダイたちが戦闘に身を投じる中、若きジェダイのアソーカ・タノはアナキン・スカイウォーカーのパダワン(弟子)となる。また、その大戦が終息し、銀河が大いなる陰謀に堕ちた時代。ここでもまだ自分の力を知らぬ若きジェダイのエズラ・ブリッジャーが運命と邂逅することに…。
『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ / 反乱者たち』感想(ネタバレなし)
私の好きなジェダイを語る
好きな「ジェダイ」は誰ですか?
いきなりの「スター・ウォーズ」オタク・トーク。一応、ジェダイが何なのかわからない人のためにざっくり説明すると、あれです、光る剣をブンブン振り回している人たちです。
これはもう「スター・ウォーズ」ファンにとっては最も熱くなるテーマのひとつ。いろいろなジェダイがシリーズ全体を通して登場していますからね。
ルーク・スカイウォーカー、アナキン・スカイウォーカー、オビ=ワン・ケノービ、クワイ=ガン・ジン、ヨーダ、レイ、メイス・ウィンドゥ…他にもジェダイ・オーダーに属する者たち、サイド・キャラクターを含めれば凄い数です。
みんなライトセーバーを持っているだけの同質な存在というわけでなく、ひとりひとり個性があり、信念があり、葛藤があり、知れば知るほど面白いジェダイ。自分のお気に入りを見つけるのは「スター・ウォーズ」の醍醐味です。
で、私の一番好きなジェダイなのですが、それは「アソーカ・タノ」です。
知っているでしょうか、アソーカ・タノ。「スター・ウォーズ」を代表するメイン・サーガとなる映画(エピソード1からエピソード9)には基本的に登場していないので、ややマイナーかもしれません。
このアソーカ・タノが初めて登場したのが2008年に公開された『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』というアニメ映画でした。そしてアニメシリーズとして同タイトルで作品の物語は続き、アソーカ・タノは準主役のようなポジションで活躍します。あのアナキン・スカイウォーカー(後のダース・ベイダー)のパダワン(弟子)という立ち位置であり、そこもファン的には面白い部分です。さらにアソーカ・タノは『スター・ウォーズ 反乱者たち』という別のアニメシリーズでも少し年齢を重ねた姿で再登場します。
映画は鑑賞していても、あまりこれらアニメシリーズをチェックしている人は多くないでしょう。でも『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』はスピンオフ的な立ち位置に見えつつ、映画以上にワクワクする展開のオンパレードで、個人的にはこっちがメインじゃないかと思うほどです。見逃すのはもったいないです。
話を戻すと、なぜアソーカ・タノが私は好きなのか。それはジェダイの中でもひときわ先駆的な存在感を放っているからです。批評家の中には、アソーカ・タノを「スター・ウォーズの女性キャラクターの中で最も成長を示したフェミニスト・アイコンである」と論じる人もいるほどです。
そういった評価があるにもかかわらず、日本語ではあまりアソーカ・タノをフェミニズム的視点で語ったものが少ないです。キャラクターの認知さえ低いですからね。
そこでここではアニメ『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』と『スター・ウォーズ 反乱者たち』の感想という土台のもと、アソーカ・タノを中心とした先駆的なキャラクターについて私なりに掘り下げてみたいと思います。
とくに私が「セクシュアル/アロマンティック」当事者であるという立場も活かしつつ、アソーカ・タノを「恋愛伴侶規範(Amatonormativity;アマトノーマティヴィティ)」を乗り越えた存在として分析していっています。
気になる方は以下の後半の感想をどうぞ。
なお、『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』と『スター・ウォーズ 反乱者たち』だけでなく、他のメイン・サーガの映画作品のネタバレも多少はしているので、そこはご了承ください。
『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ / 反乱者たち』を観る前のQ&A
A:Disney+で全シリーズが配信中で、ここが一番見やすいです。
A:少なくとも『スター・ウォーズ エピソード2 クローンの攻撃』と『スター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐』の鑑賞は必須かなと思います。時間軸的には『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』はエピソード2の終わりからエピソード3の裏ストーリーが描かれます。『反乱者たち』はエピソード3の後の物語(エピソード4の前)が展開されます。
A:正史です。最新のドラマ『マンダロリアン』や他の新作でもキャラクターが登場したりしています。
オススメ度のチェック
ひとり | :映画鑑賞者はこちらも |
友人 | :マニアで語り合おう |
恋人 | :同じファン仲間なら |
キッズ | :SWファンになろう |
『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ / 反乱者たち』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):新時代の架け橋に
銀河共和国は暗躍する分離主義勢力との戦いに直面していました。ジェダイ騎士のオビ=ワン・ケノービ、その弟子である若きジェダイのアナキン・スカイウォーカー、銀河共和国元老院議員のパドメ・アミダラ、そしてメイス・ウィンドゥ率いる大勢のジェダイ騎士たちは、分離主義者が密かに製造していたバトル・ドロイド軍と激突し、遂に戦いの火蓋が切られました。結果、ジェダイのグランド・マスターのヨーダが率いる20万人のクローン・トルーパーの援軍が到着し、この戦いはひとまず共和国側が勝利をおさめます。
しかし、この「ジオノーシスの戦い」以降、分離主義勢力のドロイド軍vs共和国のクローン軍の戦いが各地で激化。通称「クローン大戦」が始まったのです。
共和国のパルパティーン最高議長の期待に応えるべく、そしてジェダイの使命を果たすべく、オビ=ワンとアナキンの2人は各地で第501大隊のクローン兵とともに任務にあたる日々。
ある日、惑星クリストフシスで戦闘を指揮していた2人。そこに1機の共和国シャトルが派遣され、降りてきたのはアソーカ・タノという小柄な少女でした。彼女はヨーダからの伝言を伝えると、自分はアナキンのパダワンだと名乗ります。フォースの素質があると見なされた子どもたちはジェダイになるためにジェダイ・オーダーで訓練を積みます。その新米の子どもたちはパダワンと呼ばれ、特定の年齢に達すると第1線で活躍するジェダイに師事して指導を受けることになるのが習わしです。
最初、アナキンはパダワンの存在を嫌がりますが、しだいにアソーカ・タノとの師弟関係を深め、ときには口論しつつも抜群のコンビネーションを発揮するようになります。
そんな順調にジェダイとして成長をするアソーカ・タノに思わぬ苦難が…。そしてその弟子の不幸な苦難がアナキンの心を揺れ動かし、それは暗黒面への隙となっていき…。
やがて銀河共和国は銀河帝国へと変貌し、宇宙は恐怖と混沌に支配されます。そんなある日、帝国の支配が蔓延する惑星ロザルでコソ泥として独り暮らしていた少年のエズラ・ブリッジャー。彼はケイナン・ジャラスとヘラ・シンドゥーラが率いる小さな反乱組織と偶然に出会い、運命をともにすることになります。
実はエズラにはフォースの力が…。そんな才能を秘めるエズラに元ジェダイのケイナンは指導するべきか悩みます。そこに現れたのは反乱組織の主要メンバーで「フルクラム」というコードネームを持つ存在。その人物はかつてジェダイのパダワンとして戦っていたアソーカ・タノでした。
新しい希望の道筋を作る、架け橋となりうる新時代の存在。その運命は…。
なぜSWには「脱・恋愛伴侶規範」が必要なのか
まず「恋愛伴侶規範(Amatonormativity;アマトノーマティヴィティ)」とは何ぞや?という話からしましょう。これはすごく簡単に言ってしまえば「恋愛や結婚こそが全てです」という規範的な押し付けのこと。そこまで極端でなくとも「やっぱり恋愛したり、結婚して子どもを持つのが当然の人生の流れだよね~」という考えは世の中に“当たり前”という顔で蔓延しています。それが恋愛伴侶規範です。
恋愛伴侶規範は「アセクシュアル/アロマンティック」界隈ではよく批判されます。他者に性的に惹かれない、恋愛的に惹かれない…そういうセクシュアル・マイノリティの人たちにとって、恋愛伴侶規範は最も有害な圧力です。戦うべき相手です。
ではその恋愛伴侶規範と「スター・ウォーズ」はどう関係があるのか。
私は「スター・ウォーズ」は恋愛伴侶規範と常に向き合わせてどう対処するかを問うストーリーだと解釈できると思っています。
そもそも「スター・ウォーズ」の始まりであるルーク・スカイウォーカーの物語である3部作。ここではルークは流れで出会ったレイア・オーガナと恋に落ちかけますが、実は双子の兄妹だったと発覚し、「あぶなかったあぶなかった、ちゃんちゃん」みたいなオチになります。これ、いわゆる映画の主人公とヒロインは結ばれるという定番へのカウンターになっています。
一方で、旧3部作より前の時代を描く新3部作ではアナキンは恋人のパドメへの愛が暴走した結果、暗黒面へと堕ち、ダース・ベイダーになってします(DV男みたいで私はこの過程はあんまり好きじゃないんだけど…)。つまり、恋愛伴侶規範のせいでバッド・ルートに突き進んでしまうわけです。
生みの親である“ジョージ・ルーカス”はどこまで意識しているかわからないですが、「スター・ウォーズ」は恋愛伴侶規範と向き合う構成になっているんですね。
ジェダイ・オーダーという組織はジェダイに「恋愛禁止」のルールを定めています(恋愛禁止規範と表現しましょうか)。ただ、これは恋愛伴侶規範に反対する者にとっての都合のいい世界ではないと思います。恋愛禁止規範もまた恋愛伴侶規範と同じく保守的で抑圧的で恐ろしいものです。その極端な二面性を描くというのは、光と闇の対立を描く「スター・ウォーズ」の本質と同じではないでしょうか。どちらかに偏ってはいけない、バランスが大事なんだ、と。
私がSWの新作で不満を感じる理由
そうやって「スター・ウォーズ」という作品を捉えると、昨今の新作映画が一部でイマイチな評価を受けている理由も推察できるかもしれません。
私としては昨今の新作「スター・ウォーズ」映画はこの恋愛伴侶規範に結局は従ってしまっているところが大問題だと思います。
例えば、『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』におけるフィンとローズ、『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』におけるレイとカイロ・レン、『ローグ・ワン』におけるジンとキャシアン、『ハン・ソロ』におけるハン・ソロとキーラ…。いずれも恋愛伴侶規範っぽい絵を締めに入れるという、いかにもハリウッドがしそうなことをしてしまっています。
これらは私の考える「スター・ウォーズ」の世界観法則ではバッド・エンドにしかならないのです。恋愛伴侶規範から脱することこそ「スター・ウォーズ」なのですから。
レイなんて『フォースの覚醒』の初登場時はいかにも恋愛伴侶規範に染まらないキャラクターっぽい存在感を放っており、期待できたものでした。なのにシリーズが進むにつれ、恋愛伴侶規範にズブズブ染まり、ありきたりになってしまったな、と。
規範に従わぬアソーカ・タノ
そんな中で『クローン・ウォーズ』『反乱者たち』のアソーカ・タノは恋愛伴侶規範に従わないキャラクターとして貫き通しており、非常に私は好感が持てました。
アソーカ・タノは『クローン・ウォーズ』での任務中で敵を誤魔化すために他の男と一瞬だけ恋仲のふりを装ったこともあります。その際、相手の男にキスされたりもしています。しかし、そこで恋が芽生える展開にはなりません。アソーカ・タノは恋愛に関しては常に一定の距離を置いており、サバサバしています。恋に疎いというよりは、誰よりも達観していて大人な対応をとりがちです。
もちろんジェダイ・オーダーの恋愛禁止の掟に従っていると言えます。でもそれ以上のアソーカ・タノの個人的なスタンスとして「恋愛には興味ない」とも受け取れると私は思います。
他のジェダイはオビ・ワンもケイナンも恋愛をしています。でもアソーカ・タノはしない。かといって無頓着というわけではなく、アナキンのパドメへの恋心にも気づいてあげている。
ジェダイ・オーダーを自ら抜けるという選択も保守的な価値観からの脱却と捉えられますし、恋愛禁止規範と恋愛伴侶規範の双方から距離をとる。これはとてもクィア的な決断です。
以後の姿を描く『反乱者たち』でもとくに恋愛相手を見い出している様子もありません。
私はアソーカ・タノは「アセクシュアル/アロマンティック」と解釈しても全然OKなくらいだと思います。
また、『反乱者たち』の主人公であるエズラも最初は仲間のサビーヌ・レンに一瞬色目を使うそぶりを見せますが、以降は恋愛要素は欠片もありません。ちなみにサビーヌも若い女性なら設定されがちな恋愛要素がこちらもないのですが、彼女の場合はちょっとレズビアンな解釈も匂わす描かれ方をしていましたし、それはそれで別かな…。
SWの未来(私の願望)
『クローン・ウォーズ』『反乱者たち』が恋愛伴侶規範からの脱却に成功して、さらにアソーカ・タノという次の時代を担えるような存在の創造すらも達成できている。
これは間違いなくこれら作品の統括クリエイターの“デイブ・フィローニ”の功績です。
“デイブ・フィローニ”はどこまで明確に意図してそうしているのかはわかりません(単に恋愛を描くのが苦手で避けているだけかもですし)。でもとにかく恋愛伴侶規範に従わない私の考える理想の「スター・ウォーズ」を生み出してくれています。
それはその2作がたまたまというわけではなく、“デイブ・フィローニ”が最近手がけた『マンダロリアン』も同様でした。この主人公も恋愛要素は1ミリもありません。恋愛という脇道(あえてそう言わせてもらいましょう)に逸れないことで、ちゃんと「男らしさ規範からの解放」という新しいテーマ性に向き合えており、作品をテーマ的にもさらに拡張させています。
“デイブ・フィローニ”は今後もさらに「スター・ウォーズ」の世界を拡張させる作品を手がけることが決定済みで、その中にはアソーカ・タノを主人公にした実写ドラマシリーズ『Ahsoka』も予定されています。どういうドラマを描くのか、こちらも楽しみです。
私としては「スター・ウォーズ」の未来はいかに恋愛伴侶規範を吹き飛ばして次に行けるかにかかっていると思っています。今後に企画されている映画でもそれがクリアできているといいのですが…。
ROTTEN TOMATOES
シーズンの数が多すぎるのでスコアは省略。
IMDb
シーズンの数が多すぎるのでスコアは省略。
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
「スター・ウォーズ」の関連作品の感想記事の一覧です。
・『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』
・『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』
・『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』
・『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』
作品ポスター・画像 (C)Lucasfilm Ltd.
以上、『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』『スター・ウォーズ 反乱者たち』の感想でした。
Star Wars: The Clone Wars (2008) [Japanese Review] Star Wars Rebels (2014) [Japanese Review] 『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』『スター・ウォーズ 反乱者たち』考察・評価レビュー
#スターウォーズ