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『アメリカン・アニマルズ』感想(ネタバレ)…映画は犯罪の参考になりません

アメリカン・アニマルズ

映画は犯罪の参考になりません…映画『アメリカン・アニマルズ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:American Animals
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年5月17日
監督:バート・レイトン

アメリカン・アニマルズ

あめりかんあにまるず
アメリカン・アニマルズ

『アメリカン・アニマルズ』あらすじ

ケンタッキー州で退屈な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、ある日、大学図書館に保管されている時価1200万ドルを超える画集を盗み出す計画を思いつく。FBIを目指す秀才エリック、すでに実業家として成功を収めていたチャズに声をかけ、4人は犯罪映画を参考に作戦を練るが…。

『アメリカン・アニマルズ』感想(ネタバレなし)

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盗むのは10億円超えの本

野鳥が好きな人ならおそらく誰もが知っている鳥類学者に「ジョン・ジェームズ・オーデュボン」という人物がいます。アメリカの著名な自然保護団体である「全米オーデュボン協会」の名称にも採用されているこの人は、鳥類学におけるレジェンドみたいな存在です(ちなみに映画『フォックスキャッチャー』に登場した鳥類学に精通するジョン・デュポンと名前は似ていますが全く関係ありません)。

1785年生まれ。今でいうハイチ出身のフランス人で、18歳のときに家族で偽造パスポートによってアメリカに渡り、移民として暮らします。オーデュボンは幼いころから、絵を描くのが好きで、とくに鳥の絵に夢中でした。社会人になってからも仕事そっちのけで鳥の絵を描いてばかり。そして、ある日、北アメリカの全ての種類の鳥の絵を描いて画集を作りたいと思い立ち、旅に出ます。なんでも35歳くらいの時の話だとか。それは「俺はポケモンマスターになる!」と宣言するくらい無謀な挑戦です。北アメリカに生息する鳥類は十数種とかそんなレベルではありません。大変です。しかし、オーデュボンは家計は妻に任せ、ひたすた鳥の絵に邁進するのでした。

オーデュボンの描く鳥の絵は少し特殊です。普通、同定や標本のために生物の絵を描く際は、特徴を捉えることだけに務め、ある程度のフォーマットに沿って(比較しやすいように常に動物の体を同じ向きにするとか)、質素な感じで描くものです。しかし、オーデュボンはそんなことは一切気にせず、自由気ままに描いています。その絵は鳥の特徴を粒さに描写しつつ、躍動感にあふれ、完全にアート性を持っていました。

そしてついに完成した「アメリカの鳥類(The Birds of America)」という画集シリーズは、当時のアメリカ大陸の鳥類の生き生きとした姿を記録した資料として学術的にも芸術的にも大きな価値となり、今も現存するものは数百万ドルから千数百万ドルの超高額な値打ちがつけられています。絵自体はオンラインでアーカイブされているので、ネット上で見られます。

なんでこんな話を長々としたかと言えば、本作『アメリカン・アニマルズ』はその超高価なオーデュボンの画集「アメリカの鳥類」を盗み出そうと計画した若者たちを描く映画だからです。

しかも、これは実話で、本作の特徴でもあるのですが、当人たちのインタビューも交えながら、どうやって盗み出そうとしたのか、計画から犯行までの一部始終をドキュメンタリー的な再現ドラマ風に描きだしています。

監督は“バート・レイトン”という人で、私は全然知らなかったのですけど、2012年に『The Imposter』という詐欺師を題材にしたドキュメンタリーを撮った人で、『アメリカン・アニマルズ』はこれで初めての長編劇映画デビューとのこと。

そのためか、本作は一見すると『オーシャンズ』シリーズのような華麗なケイパー映画ジャンルに思えますが、かなり独自の演出の目白押しでそこがとにかくフレッシュ。そして、その犯罪計画の転がり方はリアリティがあって、最終的にはほろ苦い青春ストーリーのような味わいにも。撮影、演出、脚本と随所に才能を感じるばかりで、“バート・レイトン”監督、今後も見逃せない人物だなと要チェックリストに加えることに即、決定。『ジェニーの記憶』のジェニファー・フォックスといい、ドキュメンタリー畑のフィルムメーカーが作る劇映画はユニークなものが多いですね。

出演は、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』で恐ろしく不気味な青年を演じた“バリー・コーガン”が、今回も何を考えているのかよくわからない感じの主人公を怪演。

他にも、最近の『X-MEN』シリーズでクイックシルバーを演じる“エヴァン・ピーターズ”、『スウィート17モンスター』で兄役で登場した“ブレイク・ジェンナー”、『Hello Destroyer』というカナダ映画で非常に高い評価を得た“ジャレッド・アブラハムソン”。この計4名が犯罪に手を染める若者たちを演じています。正直、有名な大物俳優はいませんが、そんなのどうでもよくなるくらいのひとクセもふたクセもあるキャラクターなので期待してください。

新しい独自路線を切り開いたユニークな奇抜作『アメリカン・アニマルズ』。ハラハラドキドキしながらこのアニマルたちの行動を観察してみませんか。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(じっくり楽しむも良し)
友人 ◎(ワイワイとツッコミながらも良し)
恋人 ◯(犯罪映画好きで趣味が合うなら)
キッズ ◯(ティーンに見せるのは反面教師に)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アメリカン・アニマルズ』感想(ネタバレあり)

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ベニイロフラミンゴの意味

毎回、劇場で映画を観る時、「映画泥棒」の広報映像が流れて“犯罪はダメだよ”と忠告されますが、その後に流れる映画が『オーシャンズ8』だったら全くの台無しになるわけですよ。“犯罪をかっこよく描いているじゃないか!”ってなりますから。でも『アメリカン・アニマルズ』はそういう意味では適切な作品でしたね。犯罪はやっぱりするもんじゃないな…と実感するばかり。たぶん本作を若者たちに見せたら良い教訓になるんじゃないですかね。

ではそもそもなぜあの若者4人組はあんな大胆な犯罪に手を出したのか。

主人公としてメインで描かれるスペンサーは絵を描くことを趣味にしているようでした。しかし、冒頭の大学面接のシーンで自分のことについて聞かれ、上手く返答できません。“絵を描くこと”に無心で専念しているだけだったんですね。でもこれはこの年頃の人間なら普通の話。でもそこでスペンサーは内心は焦っていたのかもしれません。大学に入学すると、周りの同級生たちは、ハシャギまくり、アルコールに溺れ、快楽的に非行に走るだけですが、そこに全く乗れないスペンサー。本人もインタビューで言ってましたが「人生の変わるような出来事」を求めているのでした。

そんなときに出会ったのがオーデュボンの画集「アメリカの鳥類」。絵が好きなのでその芸術性に惚れたのかもしれませんが、前述したオーデュボンという人物の人生史を考慮すると、また意味深いです。スペンサーもオーデュボンもがむしゃらに絵にうちこんできたのは同じ。しかし、オーデュボンはそれで大成功をおさめます。要するにスペンサーにとってオーデュボンは“理想”そのもの。こういう「好きなことだけを追求して成功を手にする」というのは学生なら憧れたくもなるものです。

司書の案内で大学図書館のツアーに参加したスペンサーはガラスケースに厳重に保管されている博物画「アメリカの鳥類」に目を奪われます。その場面で作中では鳥の鳴き声が聞こえてきて、まるで幻惑にとらわれるように見惚れているのが印象的。

冒頭の映画の始まりを含めていろいろな鳥の鳴き声や実際のオーデュボンの絵が使われていますが、とくに目立つのは「フラミンゴ(正確には“ベニイロフラミンゴ”という種)」です。スペンサーが画集強奪計画へのモチベーションが下がるあるシーンでも、夜にこのベニイロフラミンゴの幻視を見ます。このベニイロフラミンゴ、実は「アメリカの鳥類」に掲載はされていますが、アメリカでは普通の鳥ではありません。本来は、ガラパゴス諸島やキューバなどアメリカより南部に生息する鳥で、アメリカ大陸ではフロリダに限ってしか確認できません。当然、ケンタッキー州にはいません。つまり、勘ぐって考察するなら、スペンサーが内に抱える“ここではない外の世界に羽ばたきたい”という思いの表れともいえるのではないでしょうか。

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ダメなチームの典型例

スペンサーの動機はわかったとして、他の3人はどうかというと、またバラバラなんですね。

ウォーレンは簡単にいってしまえば“ゲーム感覚”です。本にはまるで興味もなく、その価値も全然わかっていないようでしたが、それをどうやって盗み出すかという計画に強い関心があるようでした。もともと窃盗はよくやっていたようですし、ちょっと難易度の高いステージに挑む気持ちだったのでしょうか。もう少しウォーレンの名誉のために立派風に表現すると、“起業感覚”ですかね。作中でもこの計画を機に地元外を飛び回り、色々な人とコネを持てるようになって、その姿はまるでビギナー・アントレプレナー(下手)みたいです。ウォーレン的にはビジネスとしての達成感が欲しいのでしょう。

続いて仲間になるのはFBIを目指して会計を学ぶエリック。彼の場合はどうやら単に友達の輪として変にハブられるのも嫌なので仲間に加わったという、相当に消極的な理由。

最後にメンバー入りするチャールズ(チャズ)にいたっては、盗むターゲットが高価で、しかも簡単に盗めると聞いたからという、ただのラクして金儲けできるかも思考の最も安易なパターン。

こんな4人が集結するわけですから当然全く噛み合いません。私は本作を観ていて、一番ダメな起業の失敗例を見ているような気分でした。チーミングとして最低のお手本。ボロボロですよ。だから『アメリカン・アニマルズ』はビジネス映画として見ても凄く興味深いです。なんかデジャブだなと思ったら、あれです、『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』だ…。

まず初期メンバーのスペンサーとウォーレンがただただ無能。スペンサーは計画の発案者であるものの“やりたい”と言っただけで他には何もできず。一応、絵は上手いので、見取り図を描いたり、変装のペインティングはノリノリですけど、正直、別に要らない要素。ウォーレンはリーダーきどりで何かと前に出たがりますが、やはり知識ゼロ。あげくに「犯罪を計画する方法(how to plan a heist)」とググりだす始末(私も鑑賞後に思わず「犯罪 方法」で検索しましたよ!)。結局、二人が頼るのは『レザボア・ドッグス』などの犯罪映画。いや、せめて史実ベースの犯罪映画を参考にしなさいよ…。これじゃあ『名探偵コナン』を見て強盗計画を練っているのと同じだよ…。

そんな無能コンビに代わって計画の主軸を考えたのはエリックです。夜ではなく昼間の方がいいとか、運転手がいるとか、スカスカの計画を一応は肉付けしてくれます。

作中でも、いかにも映画みたいにクールに盗んでいくシーンのイメージ映像が挟まれますが、まさに脳内シミュレーションは完璧(これをシミュレーションと呼んでいいのだろうか)。

逃走車両運転役のチャズが逃走ルートをに走り抜けるタイムを縮めるトレーニングしたり、明らかに不自然ですけどなぜか4人とも老人に変装したり、無駄な部分で無駄に凝る一同。

なんかこの前にニュースになったカルロス・ゴーン前会長が保釈されるとき変装していたのを思い出しますね。きっとあれを考えた弁護士の人も、スペンサーたちと同じ思考だったんだろうなぁ。なんの映画を参考にしたのかなぁ…。

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やってしまった…その後は?

いざ決行日。司書を襲うためのスタンガンを忘れましたが、まあ、いいや

吐き気をもよおす程の緊張の中、2階の展示室へ行くと司書4人でミーティング中。いきなり計画破綻。とりあえず明日に延期。この際、完全に戦意喪失したスペンサーは見張り役に降格(見張る意味はとくにない)。

今度こそ決行日。今回は老人変装はしませんが、スーツは着るのは『レザボア・ドッグス』意識なのか。2階へ上がったウォーレンは司書の女性をスタンガンで気絶させた後にエリックを呼ぶ手筈。さっそくウォーレンから連絡が来て、エリックが展示室へ向かうとそこには…普通に仕事する司書の女性。エリックも「え!?」だし、観客も「え!?」だし、ここの“どうするんだ”状態、他人事で見ているぶんには最高に楽しい。

そこからのグダグダはもう本当に酷いの一言。スタンガンで気絶なんてするわけないし、鍵はなかなか見つからないし、肝心の本はめちゃくちゃ重いし、希少な本を普通に階段から落とすし、逃走に使う非常口はなかったし、エレベーターのボタンをうっかり押し間違えて図書館利用客の大勢に見られるし、お目当ての本は置いて逃走するし…。とりあえずできるミスは全部やった感じ。パーフェクトだね!(失敗方向で)。

ここでその一部始終を見ていたスペンサーが何食わぬ顔で双眼鏡をゴミ箱に捨てて試験に戻る姿と言ったら…こいつ…。観客は見ているんだぞ…。リアル本人の無言映像も挿入されるのがまた痛々しいです。

一応、盗んだ別の本はあったのでオークションハウスで公証をとりますが、そこでスペンサーのプライベートな電話番号を使ってしまう痛恨のミス。この過ちをただの運転係としてどちらかといえば脳筋な奴と思っていたチャズがブチ切れながら指摘するのが強烈ですね。“お前ら、バカか!”っていう精一杯の言葉(&銃)を突きつけられて、初めて自分はバカかもしれないと実感し始めるスペンサーとウォーレン。最後は図書館の予約に使用したメールアドレスとオークションハウスで使ったメールアドレスが同じだとスペンサーは気づき、当然のように逮捕。あえて褒めるならスペンサーが自分でそのミスに気付いたのが進歩ですよ。成長したね。

『アメリカン・アニマルズ』はリアルベースの犯罪ドラマとして痛快に楽しんでもいいのですが、私はほろ苦さにグッとくるのが良かったです。もちろんしっかり犯罪の愚かさを突きつけます。被害を受けた司書の女性本人の言葉は重いです。

それに、本人インタビューの言葉が仲間に平気で疑いを向けるので、結局何が本当だったのかもわからず、観客としては“何を見せられたんだ”と憤慨したいような気持ちですよ。一方でセカンドチャンスというほど甘やかすことなく、でも彼らの第2の人生が“犯罪をしてしまった”という過去の影響を意図せずに下敷きにして動いている事実もあるのがまた面白いです。最後、それぞれ4人の今の現状が説明され、インタビューで座っていた当人が立ち上がり、自分の“今”の日常に消えていく。この一連のシーンからも、私たちの世界にある「虚と実」…人生の予測不可能性を示すようで。

ひとつだけ言えるのは、映画を観るのはいいけど、犯罪の参考にするのだけは絶対にやめましょう。それはニワトリ級の知能ですよ。

『アメリカン・アニマルズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 81%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018 アメリカンアニマルズ

以上、『アメリカン・アニマルズ』の感想でした。

American Animals (2018) [Japanese Review] 『アメリカン・アニマルズ』考察・評価レビュー