未成年の犯罪は誰が裁く?…ドラマシリーズ『未成年裁判』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
監督:ホン・ジョンチャン
性暴力描写 イジメ描写 DV-家庭内暴力-描写 児童虐待描写
未成年裁判
みせいねんさいばん
『未成年裁判』あらすじ
『未成年裁判』感想(ネタバレなし)
成人年齢が変わった今だからこそ観たい
2022年4月1日、この新年度はこれまでの新年度と大きく違うことがあります。日本の社会にとって根幹に関わるデカい変化があったのです(そのわりには国民の準備が整っておらず直前であたふたしていますが…)。それが「成人年齢の引き下げ」です。成年年齢が2022年4月から現行の20歳から18歳に引き下げられ、これは約140年ぶりに成年の定義が見直しということで大転換です。
つまり、親の同意なしでクレジットカードを作ったり、ローンを組んだり、スマホを契約したり、部屋を借りたりできますし、男女ともに18歳から結婚できます。でも飲酒や喫煙などは従来どおり20歳からです。単純に全てが「20歳→18歳」に変更になったわけではないのでややこしいのですよね。
それにともない変わってくるのが「少年法」の改正。18歳と19歳は「特定少年」として引き続き少年法の保護を受けるのですが、刑事裁判の対象事件の範囲が拡大し、さらにこの18歳~19歳が起こした事件が起訴された場合は実名や顔写真などを報道することも可能となります。もう少し具体的に説明すると、これまでどおり特定少年が事件を起こした場合は全件が家庭裁判所に送られ、そこで処分が決定されるのですが、これからは一部の事件が逆送対象として追加され、そうなると20歳以上が起こした事件と同等に扱われるのです。なのでそうして逆送されて起訴された場合は18歳や19歳でも実名報道されます(要するに18歳や19歳が事件を起こせば何でもかんでも実名をだしていいわけではない)。
しかし、これには批判も多く寄せられており、特定少年の教育や更生の妨げになることが危惧されています。ただでさえ今の日本でも「私刑」のようなネット上で加害者を晒し者にして攻撃する事例が多く観察されますし、それが悪化する可能性は否めないでしょう。
そんな社会の変化を迎えた日本にとってこのドラマシリーズはタイムリーかもしれません。
それが本作『未成年裁判』です。
本作は韓国のドラマシリーズであり、タイトルでわかると思いますが、法廷モノ。リーガル・ドラマです。韓国の法廷モノはたいていは一定の面白さを保証してくれていて、これまでも『依頼人』(2011年)、『弁護人』(2013年)、『国選弁護人ユン・ジンウォン』(2015年)、『無垢なる証人』(2019年)、『8番目の男』(2019年)などたくさんの作品がありました。
今作『未成年裁判』は全10話のドラマシリーズなので濃厚に法廷モノのジャンルを味わえますが、題材になっているのは未成年が犯した事件です。韓国では2013年に成人年齢が引き下げられて現在は満19歳となっているのですが、本作では未成年の起こした事件に取り組む判事を主人公にその社会問題に切り込んでいます。
韓国における未成年犯罪の法的な扱いについてはこのドラマシリーズで詳細に説明されていくので知識がなくても鑑賞すればわかると思います。押さえておきたい特徴は、この未成年事件を扱う判事は単に処分を決定するだけでなく、その未成年の更生の面倒まで管理しなくてはいけないということ。なのでものすごく業務が多く、この『未成年裁判』も裁判シーンばかりではありません。かなり盛沢山な内容です。
本作の主人公の判事は犯罪を起こす未成年を「私は非行少年を憎んでいます」と言い切るほどに嫌っており、その主人公が逆に非行少年の更生こそ大切だと信念を持つ温和な判事を一緒に仕事することになる…そんな凸凹のバディものとしても楽しめます。
韓国の法廷モノは主人公がたいていは男性になることが多かったですが、今作では女性。演じるのは『顔のない女』『コインロッカーの女』『国家が破産する日』などのベテランである“キム・ヘス”。仕事一筋のキャラクターを熱演しており、とてもカッコいいです。
共演は、『悪人伝』の“キム・ムヨル”、『目撃者』の“イ・ソンミン”、『パラサイト 半地下の家族』であのみんな印象に残ったであろう家政婦を演じた“イ・ジョンウン”など。登場人物はかなり多いですが、基本は判事2人の視点で進行するのでそんなに混乱しないと思います。
監督は『ディア・マイ・フレンズ』『彼女の私生活』の“ホン・ジョンチャン”。
気を付けたいことがあるとすれば、このドラマ『未成年裁判』は法廷モノというジャンルには付き物ですが、題材が題材なだけにシリアスでヘビーな内容が全てです。未成年の子どもが被害者にも加害者にもなるような凄惨な事件も扱いますし、性暴力事件もピックアップされます。それが全10話ずっと続くので、なかなかにメンタル面で視聴は心削られるものがあると思いますし、そこは上手に息抜きしながら鑑賞してください。
『未成年裁判』はNetflixで独占配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :法廷モノが好きなら |
友人 | :関心ある者同士で |
恋人 | :ロマンス要素はほぼ無し |
キッズ | :犯罪描写が多め |
『未成年裁判』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):審理を始めます
クリスマスムードな夜の街並み。その喧騒の中、フードを被った人がトボトボと歩きながら、「携帯を貸してください」と通りすがりの人に呟きます。その不審な人物には血がついており、誰も近寄ろうとしません。その人物は警察署の前まで来て、たまたまそこにいた刑事の男が声をかけます。「署で話そう。まずは病院か、誰にやられたんだ」と訊ねると、「違うんです。人を殺したんです」と小さい斧を取り出し…。
韓国では少年法の厳罰化を求める世論の声が高まっていました。メディアの関心も高く、少年保護事件を担当する判事となったシム・ウンソクは取材を受けていました。
少年法の判事はたった20名しかおらず、この人数で3万人以上の少年を扱わなければならない。少年保護事件の審判に検察官は出席しないため、判事が直接罪を犯した子どもたちに尋問をし、保護処分を決定する。その処分は非行少年の処罰が目的ではなく、矯正と健全な成長である…。
そう取材に答えるシム・ウンソクは「なぜ少年保護事件を担当するのか」と率直に問われると「嫌悪。私は非行少年を憎んでいます」と鋭い眼差しで揺るぎなく語るのでした。
シム・ウンソクはヨンファ地方裁判所の少年刑事合議部に異動になり、右陪席として着任しました。少年刑事合議部の主任ウ・スミが対応し、案内を受けます。左陪席のチャ・テジュと同じ部屋です。チャ・テジュはシム・ウンソクとすれ違い、うっかり本人だと気づかず失礼な態度をとってしまい、謝ります。
シム・ウンソクの上司となるカン・ウォンジュン部長判事は、テレビ番組の出演中。「少年法を改正せよ!」というデモが巻き起こる中、部長は少年法の重要性を説きます。
着任早々、シム・ウンソクは「ヨンファ小学生殺害事件」を担当することになりました。13歳のペク・ソンウが9歳のジフの首を絞めて殺し斧で解体するという残忍な手口の事件です。ソンウは14歳以下の「触法少年」であるため処罰を受けることはなく、少年院2年程度と思われますが、世論は激化しており、扱いには慎重を要します。
部下となる参与官のジュ・ヨンシルと事務官のソ・ボムが大量の資料を持ってきます。そんな中、過去に罪を犯した少年少女たちとのご飯を一緒に食べる仕事をしないといけないと言われます。これも職務だと言われ、シム・ウンソクは渋々出席。しかし、そこにひとりの少女のソラがレストランの他の客にスリの疑いをかけられてしまい、騒ぎになります。
「私はやっていない!」とソラは主張しますが「あなたたちは前科があるんでしょ」と客も引き下がりません。シム・ウンソクは埒が明かないから警察へ連絡をしようとしますが、推定無罪を説くチャ・テジュが止めます。結局、財布は落ちていただけでした。
「盗んでないと言ったのに、謝って」とソラはシム・ウンソクに言いますが「それはできない、なぜなら全部見た」と左のポケットを指摘。実はソラは別の人のサイフを盗んでいました。
「だから私はあなたたちが嫌いなの、更生なんてできないから」
チャ・テジュは「人前で責めるのはやりすぎです。子どもにも人権があります」とシム・ウンソクの態度を問題視しますが、「窮地になると人間は本性を現す、人間は醜悪なの」とシム・ウンソクも頑なです。
こうしたこともありつつ、例の裁判が始まりを告げますが…。
法廷でも正しさを貫くのは難しい
『未成年裁判』の主人公である判事のシム・ウンソクは法律に関連する仕事をしている者としては異例の発言で開幕から驚かせます。あそこまで敵意全開だとは…普通だったら悪役とかが言いそうなセリフです。でもそれこそ本作の肝になるテーマでした。
シム・ウンソクは確かに未成年犯罪者への嫌悪感を公然と剥き出しにしています。その理由は察しがすぐにつきますが、後半で明らかになるように幼い息子を未成年の子がビル屋上から落としたレンガで失ったからでした。その犯人であるファン・インジュンとペク・ドヒョンは一時捕まるも、当時の判事であるナ・グニの数分というあっけない事務的審理であっさりたいして責任もとることなく解放されます。
そんな憎しみが芽生えて当然の過去がありつつも、シム・ウンソクは感情ありきで暴走することはしません。ここが面白いところですが、シム・ウンソクはちゃんと公正さに基づき、法律を厳守して未成年犯罪者に向き合うんですね。
というか本作に登場する法律関係者の多くはなんだかんだで真面目で実直です。法律に従わずに悪用しようとかそういう怠慢な人はいません。あくまでその真面目さの差異が違いを生みます。
自身も父から虐待を受けてその結果自らが少年院で過ごした経験もあるチャ・テジュは、非行少年は必ず更生できると常に信じ、それを最重要視します。
そのチャ・テジュをかつて面倒見たことがあった部長のカン・ウォンジュンは、手厳しい態度をとってはいましたが、少年の人権を守ることを前提に少年法の厳罰化ありきではない理想を追い求めていました。それが自身の息子シヌがやってしまった高校試験不正問題のせいで破綻し、板挟みになっていく姿は痛々しく…。「少年法のために少年を犠牲にするのですか」という言葉が突き刺さる…。
そして終盤で登場する新部長のナ・グニ。いかにも無頓着そうな嫌な奴という第一印象でしたが、ナ・グニのやっている事件の早急な処理も決して悪いわけではありません。そもそも判事の数が少ないのが問題であり、ナ・グニの責任ではないのです。
みんなが法律に従い、“正しいこと”をしようと懸命に尽力している。でもその“正しさ”を貫くのはこんなにも難しいのか…。そういう“正しさ”の重みを描くのがこの『未成年裁判』でした。
子どもの背後にいる大人を可視化させる
『未成年裁判』は序盤からあえて視聴者を煽るような構図が多用され、ここは賛否分かれるところだと思います。未成年が起こしたというショッキングな事件に対して「本当にその子がやったのか? それとも別の犯人がいるのでは?」などと、いろいろな疑心暗鬼の想像を刺激して視聴者側の心に揺さぶりをかけてきます。
プルム回復センターの事件なんかはその不安煽りが露骨でしたね。食い違う証言の中、それぞれの主張する出来事が映像として映し出されます。
でもこれも未成年犯罪ならではでしょう。私たち大人はどこか子どもを「信用しきれない存在」として見てしまっている節があります。実は大人は子どもを理解はしていない。だから過剰に純真な存在として扱ったり、逆に危険視したりしてしまう。それがモラルパニックを助長する…。
本作『未成年裁判』はそんな世相を踏まえた上で、未成年犯罪者に対しての処罰ありきではない、もっと深いところへと議論を誘導する作りです。要するに、確かに陰惨な犯罪を起こしたのは未成年かもしれないけれど、その未成年を育ててこんな状態にしてしまったのは、保護者…もっと言えば大人、その大人が中心となる社会の責任なのではないですか?…ということ。
ネグレクト、過保護、偏見、制度の不整備、学歴社会、子どもを性的搾取する男たち…。こうした子どもの背後にいる大人を可視化させるのが本作です。
本作は各2話くらいでまとめつつ個別の事件を扱いながら、こうした何食わぬ顔で佇んでいる大人社会の歪みをシム・ウンソクがグサグサと掘り起こし、看破していきます。未成年犯罪をスキャンダルに騒ぐだけではダメだし、刑罰だけで片付けるのでもダメ。大人こそその責任を痛感しないといけない…。
だから鈍重なほどの折り重なる本作のエピソード構成もこの狙いがあるからこそなのでしょうし、それはよく伝わりました。いわゆる法廷モノにありがちな人情と正義で爽快に悪人を断罪するヒーロー系とは全然違う作品でしたね。全く歯が立たないような強大な社会悪に単身で声を張り上げるようなタイプというか…。
そのシム・ウンソクの信念は最後はナ・グニの仕事への姿勢を動かしたので、ひとまずは意義を見せることができましたが、まだまだ根本的な解決には至らない。
「嫌い憎めど、冷静に対処し、偏見を持ちません」…そうあらためて言い切って仕事に向かう判事。非行少年を生み出した社会を憎む…厳格な正義の運用の重要性について考えさせられる一作でした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 88%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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法廷モノの作品の感想記事です。
・『シカゴ7裁判』
・『コリーニ事件』
・『否定と肯定』
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『未成年裁判』の感想でした。
Juvenile Justice (2022) [Japanese Review] 『未成年裁判』考察・評価レビュー