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『さがす』感想(ネタバレ)…片山慎三監督は日本社会の黙殺点を探す

さがす

迫真の佐藤二朗主演作…映画『さがす』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Missing
製作国:日本・韓国(2022年)
日本公開日:2022年1月21日
監督:片山慎三
性暴力描写 自死・自傷描写

さがす

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『さがす』あらすじ

大阪の下町で貧しいながらだらしなく暮らす原田智とその娘である中学生の楓。「指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」と呟く智の言葉を、楓はいつもの冗談だと聞き流していた。しかし、その翌朝、智が忽然と姿を消す。警察からも相手にされない中、必死に父親の行方を捜す楓。やがて、とある日雇い現場の作業員に父の名前を見つけた楓だったが、そこで思わぬ事態に遭遇してしまう。

『さがす』感想(ネタバレなし)

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片山慎三監督の長編第2作目

人間という生き物は、“探したいもの”“探したくないもの”がハッキリ分かれます。

町が誤ってひとりの庶民の口座に振り込んでしまった4630万円はなんとしても“探しだしたいもの”であり、一方で政府の新型コロナウイルス対策の予備費の90%にあたる11兆円が使途不明でわからずじまいですが、それは“探したくないもの”のようです。

海外の映画業界の性暴力のネタはノリノリで探しだして批判できる人でも、日本の映画業界の知り合いの起こした性暴力の話題は探したくないどころか、見なかったことにしたいと考えているようですし。

まあ、そんな社会問題でなくても、個人レベルでもありますよね。SNS内での検索による探す行為は気楽にできるのに、散らかった自分の部屋の探し物は見つける気力もない…とか。

こうやって自分の中で“探したいもの”と“探したくないもの”を恣意的に分けてしまうのは、そうやって自分の都合がいい世界を守りたいからであり、いわば無意識にやってしまう自己防衛なのかもしれません。自分自身が今、何を探したくて、何を探そうとしていないのか、この2つを自覚すると思わぬ自己分析ができたりするかも。

今回紹介する映画も「探す」という行動がさまざまな人間の内心を浮かび上がらせ、それがスリリングなサスペンスになっていく、そんな作品です。

それがタイトルもそのまんまな本作『さがす』

この映画『さがす』は、ひとりの女子高校生が突然失踪してしまった自分の父親を探すところから始まります。一体なぜ失踪してしまったのか。どこへ消えてしまったのか。全く事情がわからないまま、物語は予期せぬ真実を明らかにし始める…というミステリアスなサスペンス映画です。あまり事前にネタバレをしてしまうと一気に面白さも失せてしまうタイプですし、物語面への言及はこれくらいで…。

本作『さがす』は監督が特筆されます。“片山慎三”という人物です。

日本の映画業界ではそこまで名の知れた監督ではまだないのですが、そのキャリアの経歴から一部では注目を集めていました。もともとテレビ業界の人で、助監督経験もありましたが、キャリアの転機になったのがあの韓国の奇才“ポン・ジュノ”監督のもとで働くようになったこと。“ポン・ジュノ”監督作の『TOKYO!』『母なる証明』で助監督経験を経て、その腕を磨いていきます。そして2019年の『岬の兄妹』で監督デビューしました。

“片山慎三”監督の作家性はかなり明確で、日本映画的な文脈よりも、韓国映画的な文脈を感じさせます。物語の展開のさせ方、キャラクターの描き方、善悪のバランス…全てがそれこそ“ポン・ジュノ”監督作品と同質の空気を漂わせており、独特です。自身が監督・製作・プロデューサー・編集・脚本を手がけてやりきったであろう『岬の兄妹』もかなりショッキングで人を選ぶ内容なのですが、その作品の立ち方は際立っており、他の監督にはマネできないものでした。

“片山慎三”監督は2021年にはWOWOWのドラマ『さまよう刃』を手がけ、さらに今後は「Disney+」でドラマ『ガンニバル』を監督することが決定済み。日本よりも世界での評価や関心が高いので、あまり日本の業界体質に引っ張られずにワールドワイドで仕事する方がいいタイプの監督かもですね。

その“片山慎三”監督の長編2作目で初の商業映画監督作となった『さがす』。こちらも“片山慎三”監督の濃度がたっぷりです。『岬の兄妹』が気に入った人は『さがす』も気に入るでしょうし、『岬の兄妹』が気に入らなかった人は『さがす』も気に入らないでしょうし…反応は両極端に分かれます。

“片山慎三”監督と言えば、前作映画でも俳優の魅せ方が異常なまでに上手かったのですが、今作でもその才能が光っています。

何と言っても今回の『さがす』の主演である“佐藤二朗”。これまでの映画ではどうしてもシュールなコミカルさを見せるのが定番であり、お約束な起用のされ方で片付けられることも多かったのですが、この『さがす』の“佐藤二朗”はそういう安易なコメディ起用での配置ではなく、それでいて“佐藤二朗”の持つ俳優としての絶妙な匙加減が最大に活かされてもいて…こんな素質のあった俳優だったのか!と驚く名演です。

共演は、『湯を沸かすほどの熱い愛』でも注目を集めた“伊東蒼”、『ホットギミック ガールミーツボーイ』の“清水尋也”など。この物語上で重要な役割を果たす2名の演技も素晴らしいです。

ただ、少し話が作品から逸れますけど、この『さがす』のレーティング、おかしくないか?と思うということは伝えておきたい…。本作は劇場公開時の映倫のレーティングは「PG12」なのですが、動画配信サービスなどで扱われる際の海外基準のレーティングは「R18+」なのです。この明らかな食い違い。実際の映画の中身を見ると、生々しく残虐な殺害シーンやポルノ映像が流れる場面があるので、普通に考えても「R18+」が妥当だと私も思います。他の作品でもたびたび思うことなのですけど、なんか日本のレーティングだけ世界基準からかけ離れすぎてないですか? これ、もうレーティングとして機能してないですよ。

ということで子どもには見せるのはちょっと遠慮した方がいいと思いますが、『さがす』で“片山慎三”監督を知るにはちょうどいい初めの一作です。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:サスペンス映画好きなら
友人 3.5:俳優ファン同士で
恋人 3.5:ロマンスはほぼ無し
キッズ 1.5:残酷な描写が多め
↓ここからネタバレが含まれます↓

『さがす』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):お父ちゃん、どこや?

夜の大阪市西成区の街。息を切らして走るひとりの少女。辿り着いたのはスーパーで、その裏の部屋で惨めそうに座っていたのは父です。

原田楓は「ちょっとなにやってんの」と言いますが、父の原田智は「20円足りひんかった…」と子どものようにすねた口調。万引きをして捕まった父に呆れるしかなく、楓は店長と警察に「うちの父ちょっと抜けているところあるんです」と謝り、そう言って不足分の20円を差し出して許しを乞います。店長は「そういう問題ちゃうんちゃう?」と言いますが、「ケチくさい男やな」と小声で呟く父に反省の色は無し。

なんとか許してもらって店を出た2人。道端で座り込んでくちゃくちゃいわせながら食べ物を食べる父を前に、機嫌が悪い楓。

歩きながら「父ちゃんな、今日アイツみたんや、名無しや。指名手配犯。山内照巳。電車の中で見た」と父は呑気に語ります。「別人やて」と楓は相手にしません。マスクを外して爪を噛んでたときに一瞬顔が見えたと言い、「捕まえて警察に突き出したら300万やで」と父はしつこいです。「アホなこと考えてないで働きぃや」と楓は家でも小言。家で呑気に指を舐めながら語る父を見つめる楓。互いに見つめ合い、笑ってしまいます。

「楓、卓球、いこうか」「また今度な、おやすみ」

翌朝。楓が目を覚ますと、父がどこにもいません。学校の休み中も父に電話するも繋がらず、苛立つ楓。

そこに男子の花山豊がやってきて「お前さ、好きな男とかおるん? 俺のことどう思う?」と一方的に言ってきます。今はそれどころではないので立ち去る楓。

日雇い労働の現場に出勤していることが判明し、資料を撮影し、向かってみることに。花山もついてきています。その作業場で「原田智」の名を出して聞いてみると、該当する人物がいました。

「お父ちゃん」と楓が呼びかけたその人物は、明らかに父ではありません。若くて、背が高く、痩せていて、黒い眼鏡を掛けた男。爪を噛んでいます。人違いか、同姓同名だっただけか。

学校の先生に相談し、先生と警察に。しかし、事件性がないと動けないから自分で捜索チラシを作ってと言われてしまいます。

チラシを配っていると、楓の携帯にメール。その内容は「探さないでください。父は元気で暮らしています」という父からの短い文章で、これに楓は「本当の父親ではなかったんだ」とぶちキレます。

怒りも収まらず、ふとチラシを外していると気づきます。工事現場にいたあの男は指名手配犯の山内照巳ではないか…。

工事現場に再び向かうと、あの男はいませんでした。作業員の人から「あまりアイツと関わらない方がいいんじゃないかな、何かに憑りつかれている」と怖い話を聞きます。

それでも父を探すのも諦められない楓は…。

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どっからそんなエネルギーが湧いているんだ!?

『さがす』は3つのパートに分かれており、構成はわかりやすいです。混乱の中で手探りで走り回る原田楓の視点の「父親を捜索する」パート。その3カ月前の自殺希望者を殺す山内照巳の視点の「逃げ隠れる」パート。さらにその13カ月前の死を希望する妻を山内照巳に殺害してもらう原田智の視点の「真相が明かされる」パート

まずひとつ目のパート。ここで起きるのは原田楓がひたすらに父を探すということ。正直、ここまでこのまだ女子高校生である楓が全てを背負い込む必要性はないのですが、楓はまるでそれしか頭にないように父を探すことにこだわります。

“片山慎三”監督は『岬の兄妹』でもそうでしたし、インタビューなんかを見てもそうなのだろうと思いますが、社会の片隅で孤立無援でかろうじて生き延びている人に焦点をあてるのが好きなようです。黙殺されている人たち。かといって社会問題として真面目に解説的に描こうというわけでもなく、一方でそういう人たちを悪ノリで誇張して描こうというのでもない。“片山慎三”監督としてはメッセージ性はどうでもよく、あくまでそんな境遇にいる人の有様を生っぽく描くことに創作の面白さを見い出しているタイプなのかな、と。

原田父娘の描き方も同様でした。可哀想ではあるのですが、本人たちは可哀想という評価を受け入れるつもりはないし、周囲の助けも期待もしていない。だから、楓は妙に我が道を突っ走ります。典型的な家庭を持つ先生の助けも拒否し、教会の善意の助け舟にも唾を吐きかける。警察だってあからさまに役に立ちそうにないです。あのクラスメイトの花山豊も早々に空気の読めないプロポーズに始まり、「おっぱいみせてくれたらいいよ」なんて言い放ち、下心ありきでしか動いていないことが丸わかり。楓を救う誠実な王子様ではないことを提示します(“片山慎三”監督は男のクズさをこういうあまりにも無自覚に放たれる性的なデリカシーの無さで表現するのがクセなんですかね)。

楓のキャラクターも面白いです。邦画は女子高校生を妙にピュアに描く傾向があって、私も正直うんざりですが、本作にはそういうステレオタイプは無いです。楓も父に似ていないと自分では言いますが、ぞんざいな態度など似通っている部分が多くて、そこは自覚していない。連続殺人犯の山内照巳を自転車で猛追する場面とか、あのどっからそんなエネルギーが湧いているんだ!?というパワフルさは“片山慎三”監督作っぽさです。

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ムクドリのキャラが本作に良い味を与えている

『さがす』の後半の2つのパートで明らかになるのは、今回の父の行方不明の裏にあった真相。山内照巳が行っていた自殺希望者をSNSで呼び寄せて殺すという一連の行為、その山内に妻を殺してもらったことで山内の殺し事業に関与することになった原田智、そして山内の指名手配後に原田智が思いついた300万円を強奪する計画が背景に存在していました。

そこで浮かび上がる本作の主題は「安楽死」です。日本は世界の諸国と比べると安楽死の議論はかなり遅れており、安楽死は法制化されておらず、本人の意思による積極的安楽死でさえも刑法上の嘱託殺人罪等の対象になってしまいます。要するに、事情があって死を望む人については法律は考慮もせず、その一方で生きやすいような支援制度が充実しているわけでもなく、完全に個人に丸投げしています。だから山内照巳みたいな人間が社会の裏で蠢き、一定の需要に応えることができてしまっています。

本作の山内は嗜虐欲求を抱えるサイコパスに見えますが(果凛島に住むみかん農家で束縛系ポルノを紹介されるくだりの妙な振り切ったアホっぽいシーンはさすが“片山慎三”監督)、「人間はそもそも生きるべきではない」と反出生主義的な思想を明確に口にもしており、サイコパスではない人物像としても描かれています。2016年の相模原障害者施設殺傷事件なんかも想起させるような…。

対する原田智は言うなれば当事者の周囲側であり、筋萎縮性側索硬化症の妻が希死念慮を露わにする中で、葛藤で心が潰されていきます(演出も嫌な部分を突くものが多い中、“佐藤二朗”の演技、あらためて素晴らしかったです)。彼が最終的に山内を殺すという選択をするのは自責の念があったからなのでしょう。

そして当事者側として登場するのが「ムクドリ」というハンドルネームの人物。このキャラがまた“片山慎三”監督らしくて、普通だったらいかにも自殺を考えてそうな地味で無感情なキャラにしそうなところを、本作ではびっくりするくらいにエネルギッシュな人物像にしています。「ハゲ!」とかの罵倒(原田智はハゲてないのに)や、電動車椅子でのあの自由粗雑な振る舞いの姿はちょっと笑ってしまうくらいです。

私はやっぱりこのムクドリのキャラが本作に良い味を与えているなと思います。このテーマはシリアスにならざるを得ない部分もあるでしょうけど、当事者の中にはこれだけのエネルギーがあるんだというひとつの事実。それを勝手に第三者が過小評価することの虚しさ。

『さがす』で気になる点があるとすれば、やっぱり物語全体が最終局面に近づけば近づくほど小奇麗に集約されて畳まれすぎかな…。

ラストは父娘の卓球の長めのシーン。300万なんて手に入らなかった智。でも智はあの事業を続ける機会を手にしてしまう。けれども、ついに楓は父の真実を探しあててしまいました。それでもこの卓球のラリーのように続くであろう人生。終わりはみえない。

人間は何かを探しているかぎりはとりあえず“生きていられる”。そういうことかな。

『さがす』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer ??% Audience ??%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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電話相談 – 厚生労働省
自殺に関する相談窓口・支援団体 – NHK

作品ポスター・画像 (C)2022「さがす」製作委員会

以上、『さがす』の感想でした。

Missing (2022) [Japanese Review] 『さがす』考察・評価レビュー