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『アヴァ Ava(2017)』感想(ネタバレ)…少女の成長が眩しいフランス映画

アヴァ

少女の成長が眩しいフランス映画…映画『アヴァ/Ava』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Ava
製作国:フランス(2017年)
日本では劇場未公開:2018年にオンラインで配信
監督:レア・ミシウス

アヴァ

あば
アヴァ

『アヴァ』あらすじ

海辺でバカンスを過ごす13歳の少女アヴァ。視力の低下が思いのほか早く進行していること、失明する日も近いことを、医師から宣告されている。母親は、人生でいちばん美しい夏を過ごそうと、まるで何事もなかったかのように振る舞う。アヴァは自分なりのやり方で運命に向き合う。そして、浜辺で見かけた若い男が飼っていた大きな黒い犬を連れ去る…。

『アヴァ』感想(ネタバレなし)

エキセントリックな少女青春物語

2018年1月19日~2月19日の期間限定で「マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル(myFFF)」が開催されています。開催地は…ありません。これは、最新のフランス映画(正確にはフランス語圏の映画)がオンラインで誰でも鑑賞できる映画祭です。日本国内では、長編12作品、短編11作品が配信されており、最安だと長編12作品まとめ買いで1000円程度で観ることができるので、非常にお得です。ちなみに、短編作品すべて無料配信です。

なんか宣伝みたいになってしまいましたが、こういうマイナーなインディペンデント映画は最近はNetflixなどで配信されたりするようになってきましたが、それでも巡り合う機会はまだまだ希少。このチャンスに乗らない手はないです。邦画やハリウッドでは絶対に見られない個性を持った作品がたくさんあります。

そのmyFFF作品の中でも、ひときわ個性的な一作が本作『アヴァ』です。

とりあえずポスターを見てください。もうエキセントリックすぎて意味不明です。どんな内容か絶対に予想付かないでしょう。これで内容を言い当てられる人間は何かのエスパーですよ。

実は本作、『スウィート17モンスター』や『シング・ストリート 未来へのうた』のような、思春期特有の鬱屈を抱えたティーンが初々しさ満載で成長していくジュブナイル・ドラマなのです。大人気のジャンルですね。

といってもただのジュブナイルの枠には収まらない斬新な映像表現と演出の連続で、とにかく凄いものを見ているという感覚だけが最初は頭を埋め尽くすと思います。でも最終的にはちゃんと物語は青春映画らしい着地をしますから、安心してください。

監督の“レア・ミシウス”はまだ28歳の超若手で、本作は初長編監督作。次世代女性監督の1人として非常に注目されています。これは今後もとてつもない未知数の作品を生み出す予感。

ぜひその才能を目撃してみてはどうでしょうか。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『アヴァ』感想(ネタバレあり)

失明の恐怖を示す斬新な演出

『アヴァ』は単なるジュブナイルというだけでなく、いわゆる「障がい者・難病」モノでもあります。こういうカテゴリ分け自体があまりよろしくないのですが、あくまで便宜的にそういうことにしておきましょう。

主人公である13歳の少女アヴァは、序盤で医者に「このままでは暗所では目が視えなくなって、やがて全く視えない状態になる」と診断されます。病名までは劇中で言及されていなかったと思いましたが、アヴァは「網膜色素変性症」のような中途失明ということなのでしょう。

この“目が視えなくなる恐怖”を映像的に斬新に演出しているのが本作の特徴です。

まず、冒頭で砂浜で遊ぶたくさんの人たちを固定カメラでとらえている中、場違いなほど異質な真っ黒な犬が通り抜けていき、寝そべるアヴァのお腹にあった食べ物を盗み食いして去っていきます。それを追いかけると、今度はこれまた真っ黒な服の青年が他の人と揉めており、そこへまたまた真っ黒な馬に乗った警察がやってきます。

まさに失明が近づくアヴァを暗示するような不吉さ。この黒の連続はこれで終わらず、さらに母親とちょっと良い関係になっていく男も黒人で、アヴァにしてみれば最悪も最悪です。そのアヴァの心情が究極までに追い込まれたときに本作が見せる、目のない赤ん坊、その赤ん坊が例の警察に撃たれる姿など、ドラッグ的な幻覚描写の数々がまたインパクト大。赤ん坊に関しては完全にホラーです。

犬は普通に可愛いのですけどね。

失明したら新しい自分になれる

一方で「障がい者・難病」モノといっても、いわゆる感動を狙ったようなエモい描写は本作にはありません。むしろアヴァがどんどん自由奔放になっていく姿が爽快でさえあります。

そもそも犬が欲しいと言って、あの真っ黒な犬を盗むことから始まりますが、この行為は一種の失明への抵抗ともとれます。“黒”をコントロールしようとするわけです。それを補強するかのようにアヴァは目隠しをして昼間から目の視えなくなった未来の自分の予行練習に励みます。

人のいない砂浜で全裸になったりと、もはやヤケクソの域に達した彼女ですが、そこで黒い犬の飼い主の青年と出会い、やがて恋におちていきます。

その過程でアヴァは、失明することは絶望ではなく“新しい自分”になるチャンスだとポジティブになれたような意識の変化があったのか。先住民みたいな全身グレーな泥と奇抜な飾りで装って、ほぼ全裸で砂浜の人の荷物も水着も銃で脅して強奪していく予想外の行動に出るアヴァと青年。こんなイメチェン始めて見ましたよ。以前まで「死にたくなる」とか言っていた少女には見えません。

警察に追われた二人はここから逃走劇に突入。つかの間のロードムービーが始まります。

その先に出会った結婚を祝福されるカップルと、次はあなたの番よと言われているかのようなラストのバトンタッチ演出。真っ黒な夜なのに、車内で愛する人の隣にいるアヴァは今までにない笑顔を見せて、物語は終わります。

前向きになっていく姿にこちらまで元気がもらえる、暗闇でも眩しい一作でした。

『アヴァ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 84% Audience 71%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

以上、『アヴァ』の感想でした。

Ava (2017) [Japanese Review] 『アヴァ』考察・評価レビュー