続編はキャメロンの海洋保護愛で満たされている…映画『アバター2 ウェイ・オブ・ウォーター』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年12月16日
監督:ジェームズ・キャメロン
アバター ウェイ・オブ・ウォーター
あばたーうぇいおぶうぉーたー
『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』あらすじ
『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』感想(ネタバレなし)
2作目…だけでは終わらない!?
「続編か…でもどんな展開にするのか全然わからない…」
私も映画鑑賞を趣味にしてそれなりに年月が経っていますが、たくさんの続編映画を観てきました。
ただ、ここまで皆目見当がつかないシリーズは初めてかもしれません。
何の話かと言えば『アバター』のこと。あの青い人たちがいっぱいでてくる、あの映画です。
1984年に『ターミネーター』でジャンルのパラダイムシフトを鮮烈に巻き起こし、1997年の『タイタニック』で映画史の興行を前人未到の新世界へと誘った“ジェームズ・キャメロン”。その“ジェームズ・キャメロン”監督が2009年に満を持して公開したのが『アバター』でした。
『アバター』は控えめに言っても大大大成功で、興行収入世界歴代1位だった『タイタニック』の記録を上回り、“ジェームズ・キャメロン”を超えられるのは“ジェームズ・キャメロン”しかいないことを立証(『アベンジャーズ エンドゲーム』に興収はその後抜かれましたが、再公開で再度1位に返り咲いている)。こんな化け物級の監督は他にいません。異次元です。
『アバター』は当時はまだ珍しかった3Dを全面に打ち出して3Dというものを一般に浸透させた映画でもあり、映像が徹底的にこだわり抜かれてもいたのが特徴です。「青い人」とネタにもされますが、あの全身が人間と細部で異なる青い種族をモーションキャプチャーで高密度に創り上げたのが画期的でした。2009年の時点でのテクノロジーとしては限界を凌駕しており、正直、2020年代の他の映画でさえも『アバター』に劣ることさえあるくらいです。それくらいあの『アバター』の映像は突出しすぎていました。
その『アバター』の続編を作る…その話は公開直後から普通にありました。続編の動きは当然です。あれだけ業界に激震を起こしたのですし…。でもなかなか2作目の具体的なことは表にでてきません。開発難航していたのか? いいえ、“ジェームズ・キャメロン”がこだわりにこだわり抜いて、なんとイチから制作ソフトまで開発するという、とことんな姿勢で挑んでいたからです。
結果、2作目となる『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』の公開は2022年、前作から13年もかかってしまいましたが、映像を見れば「なんだこれは!」という驚愕の体験を与えてくれます。
詳細は説明するよりとにかく観ろというしかないのですけど、間違いなく現行の映画の中ではトップの映像です。というか10年以上かけないとこんな映像作れないんですよ。
そして映像だけでなく物語はどうなんだと気になる人もいると思います。というのも、この2作目の『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』だけでなく、なんと3作目、4作目、5作目の制作企画も始動しているというじゃないですか。「続編2作目どころか、5作も!?」とびっくり仰天ですが、もう“ジェームズ・キャメロン”の頭の中にはなんかあるんでしょう。とりあえず“ジェームズ・キャメロン”監督はこの「アバター」シリーズを「スター・ウォーズ」シリーズや「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのような世界観規模へと拡張したいそうで、これは映画ファンにとっては長い付き合いになりそうです。
『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』、略称は「アバターWOW」…は上映時間が192分もあって、1年の締めくくりに特大の映画がドカンとやってくることになりますが、尿意を我慢しながら観るか、素直に自分でトイレタイムを挟んで映画を2回観るか…。ともかく映像が目で追いきれないほどに情報密度があるので、何度でも鑑賞しても発見はあるでしょう。
これほど「体験」という言葉が宣伝ありきではない、映画の価値そのものを表すことは滅多にないですから。ぜひ「体験」してください。
『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』を観る前のQ&A
A:1作目の『アバター』は観ておくといいです。
オススメ度のチェック
ひとり | :目を奪われる映像を |
友人 | :誘って観に行きたい |
恋人 | :一緒に体験して思い出に |
キッズ | :長いので適度に休憩を |
『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):今度は海へ
パンドラという星ではナヴィという先住民族が独自の文化を築いて暮らしていました。そんなパンドラにある資源をめぐって、地球からRDA社(資源開発公社)が採掘にやってきて、軍隊を送り込んできたことがありました。その軍隊のひとりとして派兵された元海兵隊のジェイク・サリーは、地球人とナヴィそれぞれのDNAを掛け合わせた人造生命体「アバター」に自身の神経を接続して意識を憑依させ、ナヴィとの接触を図っているうちにこの種族に魅了され、RDA社の横暴に怒り、反旗を翻しました。
ジェイクはナヴィと協力して見事にRDA社の軍隊を追い払い、自身はこのアバターの肉体に完全に意識を移し替え、ナヴィとして生きることに決めました。
こうしてジェイクはオマティカヤ族の族長の娘ネイティリと愛で結ばれ、子どもも生まれました。長男のネテヤム、次男のロアク、それに亡きグレイス・オーガスティン博士のアバターが妊娠して生まれた養女のキリ。末っ子のトゥクもいます。さらにはスパイダーという地球人でありながら幼い頃からナヴィと暮らしたのですっかりナヴィ同然に生きている子も加わっていました。
大家族は平穏な日常を過ごしていましたが、そこに再び脅威が訪れます。地球人(スカイ・ピープル)がまた襲来したのです。今度は前回よりも圧倒的な軍隊を送り込み、ナヴィの森は焼き尽くされます。
ジェイクたちは武器を手に抵抗していましたが、敵の中にはあのかつてジェイクと敵対して倒したはずのマイルズ・クオリッチ大佐もいました。クオリッチは自身の意識をアバターに移して復活し、ジェイクに復讐しようと執念を燃やしていました。
ある日、ジェイクの子どもたちが森でクオリッチの潜入部隊と遭遇してしまい、交戦の末、スパイダーが拉致されてしまいます。実はスパイダーの父はクオリッチでした。
ジェイクはこのままでは家族が危ないと判断し、オマティカヤ族のハレルヤ・マウンテンから家族総出で離れることに決めます。ネイティリは名残惜しそうでしたが、仕方ありません。
リーダーの座を明け渡したジェイクは、家族を連れて、バンシーにまたがって空を移動し、新天地を目指します。
そして到着したのは海に暮らす部族であるメトカイナ族のコミュニティです。メトカイナ族のリーダーであるトノワリとその妻のロナルは最初はこのジェイクたちよそ者を警戒しますが、ナヴィの掟に従って受け入れることにしました。
ジェイクの子どもたちは、トノワリの子どもたち、アオヌングやレヤなどと過ごし、海での生き方を学びます。スキムウィング(ツラク)の乗り方を覚え、海中で息を長く止めて潜水する術も身に着けます。
森の種族は海の種族とは見た目も少し違うので、ネテヤムたちはアオヌングに馬鹿にされ、喧嘩沙汰になることもありました。また、ロアクは兄に劣等感を抱え、少し孤立し始めてもいました。
そんな中、執拗に敵討ちを目論むクオリッチはジェイクを探していました。そしてついに手がかりを見つけることになり…。
その前に『アバター1』の私の感想
2作目である『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』の感想に本格的に入る前に、まず私の1作目『アバター』の感想を簡単に触れておこうと思います。
『アバター』は私も公開当時に映画館で観て、目に流し込まれる映像に驚いたのですが、全体的な世界観は好みでしたが、物語面ではあまり乗れない部分も多い作品でもあったというのが正直な感想です。
第1に、俗にいうホワイト・セイバー的な白人酋長モノとして物語の主軸が設定されているという点。主人公のジェイクは白人で、その主人公が明らかに先住民族であるナヴィを救世主となって救う。典型的というか、そのまんますぎます。
しかも、先住民族の族長の娘であるネイティリとご丁寧に恋にまで落ちるんですからね。もう『ポカホンタス』と同じ構図ですよ。
第2に、ジェイクは当初は車椅子状態だったのですが、その下半身不随なジェイクがアバターになって思う存分に走れるようになって解放感を感じるという展開が序盤から目玉となっています。これもディザビリティというものに対して、アビリティがあることを優位に設定しており、「動けない」より「動ける」方がいいに決まっているという、固定的な偏見を助長しています。
最終的にはジェイクは車椅子状態の身体を捨てて、自由自在なアバターの身体を選ぶ…これは障がい者否定をテクノロジーで補強してしまっているも同然とも言えますし…。
家族の団結はベタだけど
では2作目である『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』はどうなったのか。ぶっちゃけて言えば、前作で私が感じた欠点はあまり解消されていません。
ホワイト・セイバーなのは根本的にもう変えようがないですし(それでも前作よりは救世主感は薄れているけど)、今回は「泳ぐ」という運動能力を快感として主に描いているので、やはりアビリティ賛歌であることには変わりありません。先住民のフェティッシュ化は拍車がかかっている感じさえあります。
ただ、今作ではメインテーマは「家族」です。ジェイクにも家族ができ、本作はこの家族ドラマが描かれ、困難を団結で乗り越える姿が映し出されます。長男のネテヤムの死という終盤にはかなり辛い展開もありますが、喪失という要素はこのコロナ禍以降はなおさら響くことも多いでしょう。
家族の団結なんてテーマ自体はとくに真新しいこともないのですが、今作では養子も迎えつつ、血の繋がらない家族の意義、そして繋がってしまっている血の因縁というものを問う関係性も印象的。とくにクオリッチの息子であるスパイダーの葛藤は純真では片付けられない本作の家族モノとしての複雑さを引き立たせる良い味付けになっていました。
続編の位置づけとしては、“ジェームズ・キャメロン”監督が『エイリアン2』や『ターミネーター2』でやったことを『アバター』でもやりましたという、本当にシンプルにアプローチしてきましたね。
クオリッチの悪役っぷりは磨きがかかっており、もうあれだけアバターに馴染んでいるなら第2の人生を楽しく過ごせばいいのに…。
イルカショーの施設で記者会見は…
『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』の最大の特色は「海」です。
“ジェームズ・キャメロン”監督は海が好きです。ここで言う「好き」というのは一般の「海っていいよね」という「好き」とは次元が違います。“ジェームズ・キャメロン”監督の海好きはマニアックなオタク度としては桁違いで、アカデミックな領域にすら到達しています。“ジェームズ・キャメロン”はそもそもダイビングが大好きで、海のことなら誰よりもうるさいのです。
つまり、本作は“ジェームズ・キャメロン”が完全に自身のテリトリーである趣味を全力で捧げられる題材に着手したということになります。
ということで本作の海、とくに海中シーンのクオリティは尋常じゃありません。そもそも水中でのモーションキャプチャーは極めて難しいのですが、今回はそれを実現。あのキリたちが海を縦横無尽に泳ぎ回るシーンを観ていると、これは現実なのか仮想なのかと脳がバグる音がする…。HFR(ハイ・フレーム・レート)で鑑賞するとその凄さがアップします。
単に海って気持ちいいなという映像だけでなく、『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』は海にまつわるテーマもしっかり盛り込んでいます。
前作から植民地支配のおぞましさを描いており、この『アバター』はそれをエコロジーと絡めることで独自性を出しているのですが、今作は海洋保護の視点が盛沢山でした。
完全に「反イルカ漁・反捕鯨」を打ち出していましたね。今作のヴィランはクジラ漁業者ですし、トゥルクンを銛などで狩るシーンはもろにクジラ漁で、かなり生々しくその悲劇性を映像で見せてきます。今回はトゥルクンには知性があるということを説明的に惜しげもなく語り、トゥルクンが字幕でセリフを発するシーンまで描いちゃうあたりは潔いとすら…。
でも後半の反撃シーンは気持ちよかったですね。ここは怪獣映画並みのスペクタクルで、パヤカン大暴れからの盛り上がりは本作の白眉。ああいう舐め切っている奴らが狼狽える姿は楽しいもんです。ちゃんと漁業者の腕が切断されて因果応報で仕返しが果たされるあたりもきっちりしてます。
“ジェームズ・キャメロン”は海洋生物保護にも当然熱心で、ヴィーガンでもありますし、このテーマは避けて通れない…というかずっとやりたかったのでしょう。
余談ですが、その“ジェームズ・キャメロン”が来日出席する今作の記者会見の場を「イルカショーをやっている水族館」にセッティングしちゃう日本の企画者のデリカシーの無さはどうかと思いますよ。映画のテーマとか完全無視で、雰囲気だけで考えているのがバレバレだ…(案の上、国外では批判が相次いでいるし…)。
そんなこんなで「監督のやりたいことをやったぜ」な感じの『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』でしたが、見終わった後に思うのは「まだどんな展開にするのか全然わからない…」ですよ。
ここからどう話を広げるのか全然想像がつかない…。さすがにまたクオリッチが攻めてきてそれを迎え撃つだけではワンパターンすぎるし、何か変えてくるでしょうけど…。
3作目はもう撮影中らしいので、私にできるのは待つことくらいですけどね。ちなみに私は泳げないのでメトカイナ族の仲間には入れないよ…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 95%
IMDb
8.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved. アバター ウェイオブウォーター
以上、『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』の感想でした。
Avatar: The Way of Water (2022) [Japanese Review] 『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』考察・評価レビュー