チュパカブラは可愛い!…Netflix映画『アレックスとチュパ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:ホナス・キュアロン
イジメ描写
アレックスとチュパ
あれっくすとちゅぱ
『アレックスとチュパ』あらすじ
『アレックスとチュパ』感想(ネタバレなし)
チュパカブラと友達になりませんか?
「チュッパチャプス」という飴を食べたことはありますか?
短い棒にわりと大きめの丸い飴がデンとついているだけのシンプルな形の棒付きキャンディです。「チュッパチャプス」は私も子どもの頃によく食べましたし、日本では昔から売っています。
この「チュッパチャプス」という商品名、なんだか癖になるネーミングですが、別にちゅぱちゅぱ舐めるから「チュッパ」という名になっているわけではありません。
実はこの「チュッパチャプス」という飴はスペイン生まれの商品で、スペイン語で「chupa」は「舐める」や「吸う」といった意味です。意外に身近にあったスペイン語…。
この「chupa」という単語が同じ使われ方をしている、飴とは全然違う存在が「チュパカブラ」です。
「チュパカブラ」というのは有名な南米のUMA(未確認生物)です。1995年に最初に目撃例が報告され、以降、南米地域でちょっとした社会を賑わせる存在となりました。家畜(主にヤギ)の血を吸うとも言われ、ゆえに名称が「ヤギの血を吸う者」の意味となる「チュパカブラ」となりました。結局、その存在は謎のままで、見た目も諸説あります。
世間的には怖くておどろおどろしいイメージで語られることも多い「チュパカブラ」。最近だとドラマ『インパーフェクト』でも映像化されていましたね。
今回紹介する映画も「チュパカブラ」がメインで登場するのですが、他とはひと味違います。何よりもこの「チュパカブラ」、とにかく可愛いのです。
それが本作『アレックスとチュパ』。
この映画は、ひとりの少年が自分のルーツであるメキシコに滞在することになり、そこで「チュパカブラ」と出会うという、「子どもが不思議生物と遭遇する」系のど真ん中なジャンルです。『E.T.』とかと同列ですが、製作はあの『グレムリン』『グーニーズ』『ホーム・アローン』などでおなじみの”クリス・コロンバス”ですので、古き良きキッズ映画の空気が流れています。そういう作品が好きな人にはたまらないでしょう。
で、本作のこの「チュパカブラ」が可愛いんですね。見てもらえればわかるのですが、確かにリアルでいそうな絶妙なラインで映像化していて、野生動物の子どもっぽさがでていて愛くるしいです。動物園とかにいたら絶対に人気がでそうなタイプ…。作中ではこの「チュパカブラ」に「チュパ」という愛称がつけられるのですが、そんな名前にしたくなるのも頷けます。
ちなみにヤギを捕まえて血を吸うとか、そういう残酷な描写は基本はありません。子どもでも見られる内容になっています。
『アレックスとチュパ』のもうひとつ特筆できるポイントが、この映画を監督するのが“ホナス・キュアロン”だということです。
“ホナス・キュアロン”は、あの『ゼロ・グラビティ』(2013年)で高く評価され、2018年の『ROMA/ローマ』でも本当に素晴らしい物語と映像の融合体験を見せてくれた“アルフォンソ・キュアロン”…の息子です。“ホナス・キュアロン”も父と一緒に『ゼロ・グラビティ』の脚本に参加し、最近は2015年の『ノー・エスケープ 自由への国境』など監督業でも実績を積み上げていました。
“ホナス・キュアロン”はメキシコ人であり、当然ながらルーツもメキシコにあるということで、父と同じくメキシコを題材にした作品をよく手がけてきました。『ノー・エスケープ 自由への国境』はアメリカへの不法入国しようと国境越えを目指すメキシコ人の一団が謎の暴力に直面するというサバイバル・スリラーで、メキシコの視点から移民問題をエンターテインメントに上手く落とし込んでいました。
今回の『アレックスとチュパ』も、ジャンルはよくある「子どもが不思議生物と遭遇する」形式の定番ですが、メキシコ系の子が自分のルーツと向き合うエピソードを主軸に、そのルーツの象徴的存在として「チュパカブラ」がピックアップされているわけで、そのあたりは新鮮です。
俳優陣は子どもが主役で初々しい感じですが、大人勢としては『明日を継ぐために』『死霊館のシスター』の“デミアン・ビチル”や、『ヒーローキッズ』の“クリスチャン・スレーター”などが揃っています。
『アレックスとチュパ』はNetflix独占配信中です。ファミリームービーですので、小さな子にも見せやすいですし、「私もチュパカブラと友達になりたい」という大きな大人の皆さんも大歓迎です。
『アレックスとチュパ』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2023年4月7日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :雰囲気が好きなら |
友人 | :動物好き同士で |
恋人 | :恋愛要素無し |
キッズ | :子ども向けです |
『アレックスとチュパ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):チュパと名付けよう
1996年、メキシコのサン・ハビエル。真っ暗な洞窟の壁面に描かれた絵を照らす調査隊。ひとりが背後で何か気配を感じ、懐中電灯を向けると、小さな横穴があるだけ。しかし、異様な鳴き声が聞こえ、4人が一斉に振り向き、警戒態勢になります。近くには羽のようなものが落ちていました。
「クイン、ヤツは実在するぞ」と外にいる男に報告するひとり。一緒に中へ入ったクインは、調査隊が信じられないものを見るかのように突っ立っている場に到着。
そこにいたのは小さな生き物。体毛に覆われた4足歩行の犬くらいのサイズの動物ですが、羽のようなものもあります。普通の動物図鑑には載っていない、それどころか、まだ誰も発見していない動物。これこそ近年噂にはなっていた「チュパカブラ」ではないか…。
クインはゆっくり安心させるように手を伸ばしますが、その瞬間、その動物の親なのか、巨大な生き物が現れ、クインを吹き飛ばします。クインは発煙弾を撃ち込みますが、生き物は小さい子どもをくわえて、外へ 逃走。みんなも急いで追います。
脇の草むらに逃げ込み、車ではこれ以上追えくなり、手分けして探します。生き物は道路に飛び出し、1台の車と衝突。弱りながらもまた隠れ、それでもこのままではいずれ追い詰められるので、子どもを木の影に隠し、自分が囮になって注意を惹きつけに行ってしまいます。取り残された子どもは寂しそうに吠えるだけ…。
ところかわって、アメリカのカンザスシティの中学校。生徒たちで賑わうホールで、アレックスはひとりゲームボーイで遊んでいました。メキシコ系を揶揄う言葉を投げつけられ、耐えるしかできません。ひとりぼっちです。
帰宅すると、母からパスポートが届いたと言われます。実は春休みの間におじいちゃんのいるメキシコのサン・ハビエルに滞在するスケジュールがあったのです。母には仕事があるので行けませんが、現地にはメキシコシティからいとこたちも来る予定です。
けれどもアレックスはメキシコには興味がありませんでした。メキシコ料理も文化も嫌でした。自分が孤立する原因にしかならなかったからです。「絶対に楽しめるから」と母は説得しますが、渋々従うしかありません。
部屋で父の写真を眺めるアレックス。癌で亡くなってからというもの、その寂しさはまだ消えていません。
飛行機でメキシコの地に降り立ったアレックスの前に、おじいちゃんが陽気に迎えに来ます。現地の言葉であるスペイン語で話しかけられてもわからないアレックスは、後部座席でゲームするだけ。
祖父の家に着くと、いとこのメモという男の子が元気に駆け回っていました。この子には英語は通じません。なぜかレスラーのスタイルで、どうやら夢中のようです。
もうひとり年上のいとこの女の子がいて、ルナという名でした。こちらは英語が通じます。
メモの熱烈な推しもあって、ルチャ・リブレ(スペイン語でプロレスのこと)の映像を見せられます。なんとその映像に映っているルチャドール(スペイン語で男性のプロレスラーのこと)は昔の祖父だと言うのです。エル・チャカレという悪役と戦い、祖父は大怪我して引退したとのことで、アレックスの知らない過去でした。
外にでると、ヤギが倒れています。メモはチュパカブラに血を吸われたんだと言い張ります。そんなものは架空の存在だと他の者は真面目に受け取っていません。
夜、アレックスは外で何か動物のような気配を感じましたが、窓から覗くとヤギがいるだけでした。
ところが、朝に目覚めると自分の上に明らかに見慣れない動物がいました。一瞬で窓から逃げてしまった“それ”はもしかしたら、いや、もしかしなくてもチュパカブラなのでは…。
オタクの世界を広げる
ここから『アレックスとチュパ』のネタバレありの感想本文です。
『アレックスとチュパ』は、監督である“ホナス・キュアロン”の青春時代が反映されているのだろうなと推察できる要素で満載です。
“ホナス・キュアロン”監督は1981年生まれ。なので1990年代がちょうど多感な時期だったでしょう。本作の舞台は実際にチュパカブラの噂が広がっていった1995年の1年後である1996年に設定されており、だいたい重なるようにできています。
例えば、主人公の13歳のアレックスは当初はゲームボーイだけしかしない子です。ゲームボーイは『テトリス』でも描かれたように、1989年に発売された携帯ゲーム機なので、1996年は時期的にはやや古いかもしれませんが、アレックスにとっては現役遊びアイテムです(当時のゲーム機は今よりも息が長いですからね)。
そしてアレックスの部屋も序盤に映りますが、そこにはたくさんのエンタメ系の品々がずらり。『ジュラシック・パーク』のポスターがあるのは、展開的にアレックスが未知の生物と遭遇する暗示になっていますが、この映画『ジュラシック・パーク』は1993年公開なので、結構ハマって買ったのだろうなと推察できます。他にもアメコミなどのキャラクター・グッズがいっぱいです。
たぶんアレックスの父はこういうオタクっぽい趣味に理解ある人であり、一緒に楽しんでくれたのではないかと思います。その父を失ってアレックスは家でも孤立しました。
そしてアレックスがメキシコのサン・ハビエルで出会うことになるいとこのメモ。この子も初対面でアレックスのTシャツの「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」に反応するなど、根っからのオタクっ子であり、ベタな「国境を超えて繋がれるオタクの絆」が描かれていきます。
しかし一方でこのメモとは言葉が全然通じないというのが本作の面白いところで、しかもここにさらにアレックスの知らない「ルチャ・リブレ」の文化も入ってきます。本作、チュパカブラ映画だと思ったら、予想以上にプロレス映画でしたよね…。
要するにゲームボーイとかしかしないオタクの子の世界観を、さらに別のオタク的な趣味の広がりを提示することでこじ開けていく、そんなオタクの視野が拡大する物語でもあったのでした。
そう言えば、市場でコオロギが食品として売っていて、ここでも昆虫食の食文化が描かれていたな…。
もっと悪役は癖が強くていい
『アレックスとチュパ』の肝心のメインアイコンであるチュパカブラについては、先ほどから言ったとおりの可愛さで言うことなしです。
デザイン的にはたぶんこのメキシコにもいるコヨーテのようなイヌ科の動物を発展させてアレンジしているのだと思いますけど(実際にチュパカブラの噂の正体は、皮膚の病気にかかったイヌ科の動物ではないかという見解もある)、ボサっと無造作な粗雑な見た目がいかにも野生動物らしくて自然です。
『ファンタスティック・ビースト』シリーズにネタをとられなくて良かったな…。
このチュパにチョリソ(スペイン発祥の豚肉の腸詰のソーセージ)をあげようとしたり、いろいろと親交を深めようとするというこれまた定番のパートがありますが、あまりこのへんを掘り下げないのが少し惜しいです。
メモが飛び方を教えようとするシーンも、後にアレックスが落下したときにチュパが飛んで助けに来る展開を考えると、あそこをもっとじっくり描いていれば、カタルシスも何倍も増したのではないかな…とか。映像的にどうしても「飛ぶ」という要素を加えると、非現実的な印象が強くなるし、予算的に描くのもキツイという事情もいろいろとわかるのですが…。
あとやっぱりクインという科学者が今回の悪役ですが、悪役としてのインパクトに欠けるのがもったいなかったですね。せっかく祖父がルチャ・リブレとして現実が曖昧になりながらも再起するという展開を用意しているのであれば、悪役はもっと過剰でもいいくらいだったのに…。
子ども向けの映画にしては今作の悪役は真面目過ぎるのが難点だったのかもしれないです。キッズ作品の悪役が往々にして癖が強すぎるのにはちゃんと意味があるんですよ。
チュパカブラの大人たちが終盤に駆け付けるとか、飛行機まで空で見送ってくれるチュパとか、きっちりきたいできるシーンはクリアしてくれるところもあるだけに、この味付けの薄さは映画のジャンル的な盛り上げをやや減退させてしまったかな…。
それでも全体的にウェルメイドな「子どもが不思議生物と遭遇する」形式の作り込みでしたし、私はこういう不思議なアニマルと交流する作品が好きなので、この手のものはどんどん作ってほしいですね。チュパカブラがいけるんですから、他のUMAもいけますよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 53% Audience 76%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『アレックスとチュパ』の感想でした。
Chupa (2023) [Japanese Review] 『アレックスとチュパ』考察・評価レビュー