地球に憧れるホントの「火星の人」を描いたSF青春ドラマ…映画『キミとボクの距離』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信
監督:ピーター・チェルソム
きみとぼくのきょり
『キミとボクの距離』物語 簡単紹介
『キミとボクの距離』感想(ネタバレなし)
地球と火星は両想いのカップル
火星への憧れを胸に未来の宇宙開発者として勉強に励む子どもたちにスポットをあてたドキュメンタリー『マーズ・ジェネレーション』を以前紹介しました。顔をキラキラさせながら、火星への情熱を語る子どもたちは素敵でした。
じゃあ、人が火星に住むようになったらその逆もあるのでは?という視点で作られたSF映画が本作『キミとボクの距離』です。原題は「The Space Between Us」。日本では劇場公開にならず、Netflix配信となりました。
本作の主人公は火星生まれ火星育ちで地球を知らない少年。『オデッセイ』なんて目じゃない、リアルな“火星の人”です。地球の人が火星に憧れるなら、火星の人は地球に憧れるわけで…。
そんな少年が地球に行けることとなり、なにもかも新鮮な初めての地球で自分探しの旅をする…というジャンルとしてはSF青春ドラマとなっています。『LION ライオン 25年目のただいま』にも通じるルーツ探しがテーマの作品です。さらに地球には以前からネットで交流のあった同年代の少女がいて、その子とのロマンスも…。なんか『君の名は。』でおなじみの新海誠作品っぽい雰囲気ですね。
主演は、最近の純粋青春ティーン映画では引っ張りだこな若手俳優“エイサ・バターフィールド”。『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』といい『僕と世界の方程式』といい、何か不安定なものを内に抱えた純朴な少年役がいつも似合っています。お相手となるヒロインは、ブラッド・バード監督の『トゥモローランド』に出演した“ブリット・ロバートソン”。“エイサ・バターフィールド”とは7歳も年が離れているのですが、お似合いな感じを醸し出してます。脇には“ゲイリー・オールドマン”といったベテランが控えてます。
SF的な科学考証は全く気にしてない映画ですので、あしからず。火星から地球に移動しても『インターステラー』みたいなことにはなりませんからね。
気軽に観られる爽やか青春ドラマですので、気分が向いたときに観賞してみてはどうでしょうか。
『キミとボクの距離』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2017年6月3日から配信中です。
『キミとボクの距離』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):火星が故郷の少年
NASAとジェネシス社は合同会見をします。大勢のマスコミの前である男がスピーチします。彼はシェパード。「20時間後にマゼラン61号で宇宙飛行士6名を火星に送ります」「ただ行くのはありません。住むためにです。火星の市民として。火星の入植地、イースト・テキサスで!」
その意気揚々とした発表に沸く会場。そこに6人が登壇。主任宇宙飛行士はサラ・エリオットで、インタビューに手短に答えます。「怖くありませんか? 以前に事故もありましたよね」「恐怖の先に勇気があります」…熱狂的拍手です。
前方の格納ドアが開き、ロケットが見えてきます。さあ、カウントダウン。点火とともに6人の体は地球を離れます。愛する母星に別れを告げ、火星への移動船にドッキング。
2か月後。宇宙船内でサラは気持ち悪そうに吐いていました。ミッション管制センターのモニターには胎児の映像が映し出されます。宇宙飛行士の予期せぬ妊娠。失態だと困惑する一同。
シェパードはマスコミに公表せず、彼女の意見を聞いたうえでこのまま続けようと言い出します。
火星に到着。サラは両脇を支えられ、すぐに医療台へ直行します。サラは痛みに耐え、赤ん坊を産みます。火星で生まれた初めての子どもでした。嬉しそうに抱き上げるサラ。しかし、すぐに気を失い、痙攣。医療チームは必死に助けようとしますが、死亡を確認しました。
火星は地球よりも重力が低く、赤ん坊が通常どおり育つ環境ではありません。地球に戻せば生きられない可能性が高いです。どうするべきか社は激論。全てを公表すれば出資者が撤退し、ミッションは中止。しかし、あの子は地球に戻れない。隠蔽するのか、それとも…。シェパードは自分が次のシャトルで火星に行くと豪語。けれども病気を抱えてるのでストップをかけられます。結局、子どもの存在は機密にするしかないという苦渋の決断をします。
しかし、責任感を感じたシェパードはひとりシャトルを飛ばし、火星へ向かいたい気持ちを抑えられません。
16年後。ガードナー・エリオットは自分が設計したロボット(ケンタウロス)と会話。頭部をもぎとり、施設のファイアウォールを迂回。重要なファイルにアクセスします。そこには亡き母の映像が映っていました。
面倒見のいいケンドラは「あなたは欠かせない存在よ」と言ってくれますが、ガードナーは自分の存在が秘密なのにそんなことを言われるのは納得がいかない様子。
こっそり母の持ち物を入手し、個人の動画データを閲覧。そこには母と一緒に仲良さそうにたわむれる男の姿が…。
火星でずっと暮らしてきたガードナーは地球のタルサという女子とチャットします。もちろん自分の居場所や境遇は秘密です。ニューヨークのペントハウスにいて、病気で外出できないと説明していました。
そうやってフラストレーションを発散しているものの、ここはティーンエイジャーには退屈な世界。もっといろいろなことがしたいという気持ちは日に日に増していきます。ここにずっといることに不満を溜め込んでいく状態はガードナーを予期せぬ行動へと駆り立てることに。
そしてガードナーは大きな行動に出ることにします。それは人類史上前代未聞。どちらにせよ火星生まれなので何をしても史上初になってしまいますが…。
これは犠牲ではなくチャンスです?
『キミとボクの距離』、着想された土台のアイディアはすごく良いと思います。火星生まれ火星育ちで地球を知らない少年という主人公設定も期待高まります。そのために、宇宙飛行士がその妊娠を知られずに火星へ飛び立って火星で出産するという、かなり強引な展開も、まあ、目をつぶるとしましょう。たぶん、誰もが「気づけよ!」とツッコミたくなるでしょうが。
しかも、これは倫理的にかなりアウトな行動なわけです。妊婦を宇宙に連れてっちゃって、火星で生ませて、子どもの存在を隠蔽するなんて、あのジェネシス社は極悪企業ですよ。ちょうど今年公開されたSF映画『パッセンジャー』を思い出します。倫理的に絶対アウトな出来事が物語の肝になる点が同じ。個人的にはこういう話は大好きです。
さあ、どうやって物語を着地させるんだとワクワクで観てました(デジャヴ)。
ところがですよ(やっぱり)。後半にいくにつれどんどん甘い話になっていく…。またかと、がっかり感に襲われるのでした。
なによりも倫理的に絶対アウトな出来事に対する落とし前がないのは致命的。ジェネシス社にお咎めはないのだろうか。普通、あれが世間に公表されたら、会社倒産どころか、関連する宇宙開発事業が全てストップするぐらいの大問題ですが…結局、隠匿したままなのかな。しかも、父親があんたならもっとタチが悪いというか、罪を感じるなら早く言ってくださいよ。ケンドラがタルサの里親になるオチとかは割とどうでもいいので、肝心なところをケジメつけて。
綺麗な終わり方でしたが、宇宙開発業界の中身は汚いまま。『マーズ・ジェネレーション』の子どもたちが観たら、怒るんじゃないかな。
キレイだね?
加えて、『キミとボクの距離』は『パッセンジャー』と違って、話にまとまりがないまま突き進むので、感動ポイントがどこだかさえも曖昧。一般客層も置いてけぼりを喰らうのじゃないでしょうか。父親探し、タルサとのロマンス、逃走劇、体の問題、タルサの孤独…いろいろ詰め込み過ぎです。
やたらと唐突な恋愛シーンもあんまり乗れず。とりあえず火星環境下で育ってもキスもセックスもできるんだなぁとどうでもいいことを思っただけなのでした。
映像はすごく綺麗なのですが、センチメンタルな雰囲気ばかりで、飛行機とか車とか良さげなシチュエーションを入れました感が満載。それでいて豪快なシーンは意味もなくただただ派手で逆に面白いんじゃないかと錯覚したくなる。なんで『007』並みの飛行機大爆発シーンを入れたのだろうか…。笑っちゃうのが終盤の地球環境に耐えられず命の危機にあるガードナーを救うため、特別な宇宙船でみんな一緒に宇宙へ輸送する場面。荒療治すぎるし、他に手もあっただろうに。あそこだけ急に『ワイルド・スピード』クラスのバカ映画感がありました。ちなみにあの宇宙船は「ドリームチェイサー」といって本当に実在するものだそうです。もちろんあんな使い方はしません。
総論としては、ゴチャゴチャしてたけど、考えるのをやめれば楽しいかもしれない。『ワイルド・スピード』だと思えば全部許せる気がする。火星と地球の間は勢いまかせでつながれるのです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 16% Audience 55%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★
作品ポスター・画像 (C)Netflix ザ・スペース・ビットウィーン・アス
以上、『キミとボクの距離』の感想でした。
The Space Between Us (2017) [Japanese Review] 『キミとボクの距離』考察・評価レビュー