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『美女と野獣(2017)』感想(ネタバレ)…ディズニークラシックを実写化する功罪

美女と野獣

ディズニークラシックを実写化する功罪…映画『美女と野獣(2017)』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Beauty and the Beast
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2017年4月21日
監督:ビル・コンドン
恋愛描写
美女と野獣

びじょとやじゅう
美女と野獣

『美女と野獣』物語 簡単紹介

美しく知的な町娘ベルは、地元の町では少し浮いた存在になっていた。ある日、森を彷徨った先で、不気味な城を訪れる。そこには魔女に呪いをかけられ、醜い野獣の姿に変えられてしまった王子と個性豊かな城の住人たちが暮らしていた。その野獣の他者を寄せ付けない威圧のせいでたいていの人は恐怖する。魔女が残していった1輪のバラの花びらがすべて散るまでに「真実の愛」を見つけることができれば人間に戻れるというが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『美女と野獣』の感想です。

『美女と野獣』感想(ネタバレなし)

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ようこそ、古きディズニーの世界へ

2017年、世間で最も注目度の高かった映画のひとつが公開されました。

それが本作美女と野獣です。

PVが公開されると1億2700万回以上が再生され、‟24時間で最も再生された予告編”の記録を達成するなど、一般からの関心は群を抜いていました。

「美女と野獣」といえば、1991年に公開されてアニメ映画史上初のアカデミー賞作品賞(長編アニメーション賞ではないですよ)にノミネートされるという偉業を成し遂げたディズニーアニメーション作品が有名。本作『美女と野獣』はディズニーによるそのアニメーション作品の実写映画化作品です。

実は「美女と野獣」の実写映画化は本作が初めてではありません。そもそも「美女と野獣」の原作は1740年に書かれたフランス小説。この小説「美女と野獣」の物語は以下のようにこれまで幾度となく実写映画化されてきました。

・1946年にフランスが製作したジャン・コクトー監督作版。
・2009年にオーストラリアが製作したデヴィッド・リスター監督作版。
・2012年にドイツが製作したマーク=アンドレアス・ボーチャート監督作版。
・2014年にフランスが製作したクリストフ・ガンズ監督作版。

これら実写作品たちと今回の2017年版『美女と野獣』の明確な違いは、本作はディズニーアニメの忠実な実写化だということ。ディズニーアニメの「美女と野獣」と原作小説の「美女と野獣」はお話しが結構違うのです。もちろん、あのディズニーアニメの実写化ですから、有名なあの曲もこの曲も全部再現。ちゃんとミュージカルします。なので、楽しいに決まっているわけで。

そして、なんといってもヒロインを演じるのが“エマ・ワトソン”だというのも最大の注目ポイントでしょう。彼女は最近はコロニアなど社会派映画の出演が主で、その作品らもあまりヒットしなかったため、若干低迷しかけていましたが、本作でそんなのなかったと言わんばかりに超特大ヒット。やっぱり、エマ・ワトソンはこういうファンタジーな世界が良く似合う。素晴らしい魅力をいかんなく発揮しています。

共演は、“ダン・スティーヴンス”、“ルーク・エヴァンス”、“ジョシュ・ギャッド”など。ティーポットのポット夫人の声は“エマ・トンプソン”、燭台のルミエールの声は“ユアン・マクレガー”、時計のコグスワースの声は“イアン・マッケラン”が演じています。

監督は、『愛についてのキンゼイ・レポート』『ドリームガールズ』『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part1/Part2』など多彩な映画を手がけた“ビル・コンドン”です。

ところで、なぜディズニーは今になって「美女と野獣」を実写化するのでしょうか。ディズニーがディズニークラシックと呼ばれる往年の名作を実写化する流れは、2015年の実写映画シンデレラから続いています。

ここで私なりの実写化する理由、というか意義についてちょっとダラダラ語りたいと思います。ディズニークラシック作品は誰もが観た有名作…だと思いたいところですが、日本の場合、意外と観てない人が少なくない気がします。ディズニー作品が一時低迷した暗黒時代(詳細はモアナと伝説の海を参照)、ディズニーのアニメーションは一般層から離れてしまい、ディズニーといえばテーマパークといったイメージにすっかり変貌してしまいました。しかし、最近になって、とくに『アナと雪の女王』の大ヒットによって、ディズニーアニメーションが一般に復権。ところがディズニークラシックを知らない層には「なんでミュージカルっぽいの?」など、ディズニークラシックを理解している層からは信じられない疑問を呈する人もいるわけです。最近の新作ディズニーアニメーションは、ディズニークラシックを踏まえた上での変化球を投げた作品も多く、ディズニークラシックを知らないというのはいろいろもったいない…。ディズニークラシックあってこそのディズニーですからね。

そして同時にディズニークラシック作品の古い部分を一新したいという魂胆もあるのでしょうけど…。

ディズニークラシックを知っている人も、知らない人も、実写化によって生まれ変わった本作を観ることで、ディズニークラシックの世界に浸ってみてください。ディズニーの原点がそこにあります。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『美女と野獣』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):変わり者の女性が呪いを解く

昔々、フランスのある地域に佇む美しい城に若く麗しい王子が住んでいました。その地位ゆえに何でも思いどおりにできたので我儘で薄情で優しさのかけらもない人間でした。王子は村びとに税をかけ、贅沢に暮らし、ひたすら宴を楽しみました。

ある嵐の夜、突然城に怪しい老婆が戸を叩き、中へやってきます。雨宿りをさせてほしいとその人は頼んできます。そしてお礼に一輪のバラを差し出したのです。

王子はそのみすぼらしい老婆を見て冷たく笑い飛ばし、追い出そうとしました。

ところが願いをはねつけられた老婆の姿は一変し、美しい魔女が出現。魔女は罰として王子を恐ろしい野獣の姿に変身させ、そこに暮らす家来たちにも魔法をかけます。

歳月は流れ、王子やあの城のことは忘れ去られました。魔女は記憶を消し去ったのです。魔女は魔法のバラを渡し、その花びらが全て散るまでに王子が愛し愛されることを学べば呪いは解けると告げ…。

とある平穏な町。朝、ひとりの若い女性が退屈を感じていました。本で物語を読みふけり冒険を夢見て上の空な教養ある女性です。そんな女性はこの村にただひとり、このベルだけ。

そんな町にガストンという自信満々な男がお供のル・フウと一緒に訪れてきました。ガストンは美しいと評判のベルにひとめ惚れし、妻にしようとします。ガストンはハンサムではありましたが、がさつで独りよがりなところも…。

ベルは元絵描きのオルゴール職人である父モーリスに「私って変わってる?」と聞きます。「ここは小さな世界だから人の心も狭いのさ」と父は答えます。そして勇敢だった母親の話をしてくれます。

モーリスは市場に出発していきます。家に残るベルは女の子に文字を教えますが、周囲の人は「そんなものは女に必要ない」と言うだけ。

しつこく口説いてくるガストンにベルはうんざり。「あなたとは結婚しない」と拒絶。ベルは冒険がしたいのです。未知の世界に…。

その頃、父は森で怪しげな場所に迷い込みます。こんな時期に雪が降っている…。そしてオオカミに追われ、馬車を急がせます。しかし、馬車は横転。なんとか城まで逃げてこれました。

その城はあの呪いの主がいる根城。野獣の城で…。

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悩ましいビースト問題

当たり前といえば当たり前ですが、本家ディズニーによる映画化ということで、元アニメ映画の再現度は素晴らしいクオリティでした。

なんでもCGで作れてしまうこのご時世、街や城などの舞台をセットで組み立てて、小物まで丁寧に彩る…この職人芸はこれからも映画界で大切にしていきたいものです。

一方で、そういった精巧な実物を再現する技術とは対極にあるCGを駆使したファンタジックな表現も本作の見どころ。あのアニメーションならではのルミエールコグスワースなど城の“人”たちを表現できるのかと心配でしたが、私は結構違和感なく、リアルとファンタジーの中間に上手いこと落ち着かせたなと思います。

また、音楽については元アニメ映画も手がけたディズニー映画音楽を代表する作曲家アラン・メンケンが関わっているだけあって、もはや完全再現以上の出来。これにはファンも納得じゃないでしょうか。本作の映像的白眉である「Be Our Guest」は素直に楽しく、これだけでも観る価値ありです。

問題はビーストです。ビーストの表現は過去の実写と比べてかなり大人しめでしたね。顔つきがまず最初から割と優しい、というかハンサムにさえ見える。まあ、これは子どもを過度に怖がらせないようにしつつ、本質的な野獣感を出さなければならないというディズニー特有の課題をクリアするための、理解できなくもない妥協点かなとも思いますが。もっとコワめなビーストが見たい人はクリストフ・ガンズ監督作版とかを観ればいいのですから。それよりも、今回のビーストは原作や他の実写作、アニメと比べて、知的に描かれているのが特筆すべき点でしょう。ビーストはどうしても感情移入しづらいキャラであり、そのへんに関する配慮として観客の敷居を下げる効果はあった気がしますが…。難しいところで、より多くの観客に観てもらうために敷居を下げれば原作の「見た目に惑わされるな」というメッセージが薄れてもしまうので、悩ましいトレード・オフにディズニーは直面しているなと…個人的には同情したい気分です。

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クラシック vs 新時代的価値観

アメリカではその再現度で高い評価にて歓迎された実写映画『美女と野獣』ですが、大きな批判意見もないわけでありません。

そのひとつが「新しさが乏しい」という指摘。

これは全くもってそのとおりで、実写版『シンデレラ』のときも思いましたが、(元アニメを知っている人であれば)物語の展開は丸わかりですからハラハラしません。ただ、これについては擁護するなら、本作はクラシックを現代に再現することに意義があるのだから、毎回毎回新しいアレンジなんてしなくていいとも思います。一応、本作は新しさを出す努力はしていて、新曲追加などで上映時間が129分と、元アニメと比較して明らかに増えています(元アニメは劇場公開版は84分、IMAX版は92分)。私としてはこの新しささえもいるのか?という疑問もなくはないのですが…。

そして、もうひとつの批判意見が「(とくにジェンダー的側面で)ステレオタイプすぎる」というものです。

要するに「ベルというキャラクター設定の女性観が古い。ビーストに流されただけだ」という意見。なかには「DV(家庭内暴力)と同じだ!」なんて言う人までいます。実はこの論争、元アニメ版の公開時にもあったことで、また再燃しただけなわけです。もちろん、元アニメ版の公開時よりも現代のほうがこの話題にはよりセンシティブになっているので、あれなんですが。これも、難しいなぁと思ったり。これで設定を大幅に変えちゃったら、異類婚姻譚としての原作性さえもなくなっちゃいますからね…。

ちなみに、公開前に一部で話題になっていたガストンのお伴のル・フウがゲイとして描かれている点は、そんなに思っていたほど目立ってなかったかな…(というかあんなのわからないだろう)。まあ、それでもこの描写も、今後のディズニー史において大きなマイルストーンとして語られていくのかもしれません。

今後も続くであろうディズニークラシックの実写化。そのたびに、新時代的価値観との対立という問題が付き纏うのは宿命です。ディズニーはどう乗り越えていくのでしょうか。

『美女と野獣』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 71% Audience 80%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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関連作品紹介

ディズニーのアニメーションを実写化した映画の感想記事です。

・『リトル・マーメイド』

・『ムーラン』

・『アラジン』

作品ポスター・画像 (C)2017 Disney. All Rights Reserved.

以上、『美女と野獣』の感想でした。

Beauty and the Beast (2017) [Japanese Review] 『美女と野獣』考察・評価レビュー